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アベミハ社会人シリーズ
1)



〜avant title〜



通りがかりに目にした物が自分の好物だったのでついフラリと近付いてしまったが、あまりにも場違いなそれに今更ながら水谷は困惑した。



「………何やってんの?」

「何って、飯食ってんだけど?」



当然のように答える泉。



「いや、そっちじゃなくて…」

「ん?火は使わねぇよ?」



水谷が欲しい答えを微妙に外す田島。



「何?なんかマズいことでもあんのかよ?」

「え?あ〜、いや、全然!
お邪魔しました〜…」



泉の機嫌が悪くなる前に、水谷は急いでその場を離れる。



「バカだなぁ、わざわざはぐらかされに行ったの?」



席に戻ると呆れたように言う栄口に、水谷は抗議する。



「オレじゃなくても突っ込みたいよ、アレは〜!
ほら、他の人も振り返ってんじゃん!」

「でも、昼休みだから問題はないだろ」

「…栄口って心広いよな」

「慣れただけじゃない?」



今日はXmas前のハナ金。
オフィス内も、朝から落ち着かない雰囲気だ。
しかし、その中で一番フライングしているのは例の派遣3人組だと水谷は確信した。



「じゃ、切るぞ」

「ゲンミツに4分割な!」

「お、オレ、チョコのトコが 良い!」

「じゃ、オレはサンタもらい!」

「何でも良いから、ちょっと静かにしろよ!集中できない!」



ケーキナイフを片手に持った泉に窘められ、三橋と田島は慌てて黙り込む。
泉は大きく息を吐き、改めてナイフを握り直して集中する。
泉が睨み付けているのは、チョコレートでできた小さな家とその家と大差ないサイズのサンタが苺に囲まれた純白のデコレーションケーキ。



「あの大きさ、8号以上はあるんじゃね?」

「水谷は詳しいね」

「姉貴がうるさいからね。って、突っ込むトコ間違ってるよ栄口〜。
あの大きさはおかしいよ!食後のデザート代わりって大きさじゃないから!」



外野を余所に、当の本人達は真剣にケーキに向かい合っていた。



「………あ〜っ、苺落ちた!」

「しゃーねーだろ!対角線上ギリギリに乗っかってたコイツの方が悪い!!」



田島の指摘に、泉がキレる。



「でっ、でも! きれいに切れてる よ!」



三橋か慌ててフォローに入って、とりあえず落ち着く。



「―よし、完了。
じゃ、サンタは田島、三橋はチョコ、だよな。
そのかわり、オレは苺の多いトコな」



そう言って、解体したケーキボックスを適当な大きさに切った上に、それぞれのケーキを載せていく。



「あ〜あ、シャンパン欲しかったな〜」

「開ける時にうるせぇから、お子様用でもさすがに無理だよ。
ジンジャーエールで我慢しろ」

「ま、いっか。とりあえず食おうぜ!」



3人は「メリークリスマス!」と声を合わせて言ってから、ケーキをがっつき始めた。



「…叶がいたら、あの中に交じってたかなぁ」



出張中の叶を思い出し、水谷が苦笑いする。



「ん〜、でも今日他にも何かやるんじゃないかな。
昨日からソワソワしてたよ、叶」

「え〜っ、でも今日居ないし!」

「きっと、夕方急いで帰って来るよ。
アイツの卓上カレンダーに書き込んであったし。
『18時〜』って、わざわざ赤のマーカーで丸まで付けてさ」



水谷は、斜め向かいの叶のデスクに確認に行く。



「うわ〜、ホントだ!
てことは、とうとう三橋にデートの約束を取り付けたのか?!」

「さぁ、どうだろ。
もし、そうだとしても、三橋はデートだと思ってなさそうだけど」

「確かに。鈍そうだもんな〜、そういうコトに」

「いや、そうじゃなくて…」

「何?」

「…何でもないよ」


水谷が気付くまではあまり下手なことは言いたくない。
そう考えた栄口は、ただ笑って誤魔化した。




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