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アベミハ社会人シリーズ
4)



(オレ、どこかで 今、ホッとしてる……)



彼女が阿部を連れて行ってしまわなかったことに、喜びさえ感じている。
それは、どんなに汚い感情だろう。
阿部は何も知らないから、自分に感謝したりしているのだ。

もし、もし、自分のこんな身勝手な思いを知られてしまったら、今度こそ彼は離れてしまうだろうか。



『それと、さ』

「え? あ、はい!」

『謝っておきたいこともあるんだけど』

「な、何…?」



なんだろう。
もしかして、これからはあまり付き纏わないで欲しいとか言われるのだろうか。

今度は、別の意味で心臓が騒がしくなる。



『お前、オレに渡すものあったんだろ?』

「―!!」



いつまでも言うことを聞いてくれない心臓は、今度は口からダイブするんじゃないかと思うくらい飛び跳ねた。



(えええええぇ?!ど、どこで気付かれたんだ ろ?!!
ももももしかして、渡そうとしたモノの中身まで、バレて んじゃ……)



「あ、あああ、あれっはっっ!
ああああ、のっ、つ、つつつまり あ、ああああ」



日頃から話下手なのに、うまい言い訳なんか思いつくわけが無い。
それでも、肯定することができずに意味不明の言葉を吐いていると、阿部から切り出した。



『一日遅れちゃったけど、もらってもいいか?』



三橋は更に慌てなくてはいけなくなる。
渡すのは今更恥ずかし過ぎるし、当のプレゼントは夕方来た泉が持って行ってしまった。



「う、あ、あああ、えっと、あ、アレは、そそそその―」

『て言いながら、悪ィけど、もう勝手にもらっちまった』

「そ、それはあの、き、ききき今日、ああのっ……………へ?」


阿部の言葉に耳を疑う。



(何で、阿部君が持ってるの―?)



数時間前の泉の笑顔が、三橋の記憶に蘇る。
行く宛をなくした青い箱を大事そうにカバンに入れてくれて。
「もう少しだけ頑張れ」と言って、いつもの強い瞳で自分を見ていた。



(泉君…だ………)



どこまで自分に甘い友人なのだろう。
何一つ返すこともままならない不器用などうしようもないヤツなのに。


『お前の親友は手厳しいな』

「え…、何 て?」

『いや、優しい友達だなって言ってんだよ』



阿部でさえ羨んでくれるような友人が、自分を見守ってくれている。
また泣きたくなったが、三橋は一歩手前で踏ん張る。
自分には笑っていて欲しいと言ってくれた親友に顔向けできるように、せめて今は虚勢でも張っていたい。



『三橋?』

「阿部、君。
……もう、箱開けた?」

『ん、ついでに一つ食っちまった。
お前、ドジだけどこういうの上手いんだな』



阿部の小さな笑い声が聞こえてくる。

彼が褒めてくれたのなら、と親友がくれた小さな勇気にも支えられて、三橋は言いたかった言葉の一つを呟く。



「阿部君の為に、作ったんだ―」

『……知ってるよ、サンキュな』



二度目の「ありがとう」の言葉に、今度こそ三橋は幸福を感じることができた。

明日はきっと、泉や田島に会える。
お菓子やらご馳走やらを買い込んで、きっとやって来る。
約束なんてしていないけれど、三橋には分かる。
その時に、今夜の話を二人に報告しよう。
すごく恥ずかしいけれど、照れくさいけれど。
何も返せない代わりに、自分がとても嬉しかったことを二人に伝えよう。

そんなことを考えながら、電話越しの大好きな人の声に三橋はしばらく耳を傾けていた。





080227 up
(111122 reprinted)




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あきゅろす。
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