アベミハ社会人シリーズ
2)
「ふぅん、そんなに美味いんだ。
それ、一口くんね?」
「へ?あ、う、うん」
三橋は、言われるままにケーキ皿とフォークを渡してから、はたと気がつく。
(―あ、ソレ、お、オレが食べた後……!)
「あ、あの―」
三橋は慌てて止めようとしたが、阿部は気付きもせずにロールケーキを口に運んだ。
「……あんま甘くねぇな、これならオレも食えるかも。
サンキュな、三橋」
「だろ!今度、他のも食ってみろよ!」
(…阿部君、食べちゃった……。
ど、どどどどーしよー!
こ、コレって、コレって……か、か、間接―)
「どした、三橋?」
「へ?な、何も!!」
泉に声をかけられ我に返ったが、顔の熱は下がるどころかどんどん上がっていくばかりだ。
このまま、返されたフォークを使っていいものか悩んでしまう。
(阿部君、ヤじゃなかった かな。
オレ、このケーキ そのまま食べちゃって、いい かな?)
「そーだ!今日たこ焼きパーティやんだけど、どうせだから来ねぇ?」
「は?たこ焼きパーティ?」
「三橋んちでやんだ、三橋がよくたこ焼き作るってからさ。
来いよ、旨いぜきっと!」
(え、えええええ〜?!)
ケーキとフォークの問題が片付く前から、田島が更にとんでもない提案をするものだから、三橋の頭はパンク状態に陥る。
「ばか、やり過ぎだ…」
泉はこっそりこぼしたが、誰もその声を拾うことはなかった。
「いや、さすがにそれは悪いだろ。
オレは予定外なんだし」
「別にいいじゃん、な、三橋!!」
三橋はもう断ればいいのか快諾すればいいのかよく分からなくなっていた。
3分の1ほどかけたロールケーキの渦に眩暈すら感じながら、母音だけの意味不明な言葉をいくつか呟いた後、頚を縦に落とした。
「ホントに?無理しなくていいんだぜ?」
阿部の気遣う声が俯く頭に落ちてきて、三橋は慌てて顔を上げて今度はしっかりと肯定した。
「き、来て下さい!」
三橋のストレートな言葉に目を丸くした阿部が目に飛び込んできて、ヘンなことを言ってしまったかと後悔した三橋を眩暈が再び襲う。
「…三橋がいいんなら、行くよ」
少ししてから聞こえた阿部の声がいつもと違うような気がして、眩暈に耐えながらそっと視線だけを上げると、三橋から顔を背けるようにしていた阿部の耳がほんのり赤い様な気がして、三橋はその色に更に緩い眩暈を感じた。
いつもは何でもなく焼いていたたこ焼きを、今日は果たしてうまく作ることができるだろうか。
そんな心配が三橋の頭を過ったが、友人達の支えがある今は、思いがけない大切な人との接近に幸せを噛みしめることを優先させることにした。
080203 up
(111107 reprinted)
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