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アベミハ社会人シリーズ
1)



「今日のコースは、上出来じゃね?」

「う、うん!オレ、楽しい!」

「70点」

「え〜っ、なんで?!」

「リサーチ済のコースだから、満足できて当然だろ。
しかも、この店は職場の前だし、シチュエーションとしては気に食わない」

「しゃあねぇだろ〜。
まさか、あの人気の店がこんな近くにできるなんて思わなかったんだからさ」

「まぁ、本店じゃねぇから待ち時間は減ったけど」



正月気分もすっかり抜け切った祝日の昼下がり。
朝一に映画を楽しんだ三橋、田島、泉の3人組は、デパートのバイキングを堪能した後に有名ケーキ店の新店舗まで足を伸ばして、各々好みのスイーツとドリンクを注文していた。



「でも、ロールケーキあってラッキーだったな三橋!」

「うん!楽しみ、だ!」



この店の一番人気であるロールケーキを三橋だけまだ食べていないことが先日の昼休み中に発覚し、今日のコースに急遽加えられたのだ。



「なぁなぁ、たこ焼きの具、何買ってく?」



田島は、ケーキを食べる前から夕飯のことが気になるらしくソワソワしている。
本日の最後のイベントは、三橋宅でのたこ焼きパーティーで、田島がもっとも楽しみにしていたのである。



「牛スジ入れたら旨いらしいぜ」

「オレ、コーンとか、チーズも入れる。
葱をたくさんかけても、美味しい よ」

「じゃ、それもやろーぜ!」

「あ、阿部だ」



泉窓ガラスの向こうを指差すと、田島は窓にくっついて確認し、三橋は自席で飛び上がる。



「おっ、ホントだ!」

「休日出勤か、ご苦労さんなこった」

「……っ!」



三橋は田島の後ろに隠れるように外を確認したのだが、偶然にも阿部がこちらに気づいて目が合ったものだから、慌てて田島の後ろに隠れた。



「あ、気がついたみたいだな」

「オレ、呼んできてやるよ」

「え、ええっ?!ちょっ、田島く―」



三橋が伸ばした手は虚しく空を掴み、田島は鉄砲玉のように外へと飛び出して阿部に声をかける。



「あ〜あ、呼んじゃったよ」



泉は少しうんざりしたような顔をしたが、三橋はそれどころではない。


(あわわわわっ、ど、どーしよー…?!)



阿部と会えるのは嬉しい。
が、三橋は心の準備ができていなかったために大げさなほどに慌てだした。
そんな三橋にお構いなく、田島は阿部をほとんど無理矢理店の中に引っ張り込んだ。



「……お前ら、休みの日まで職場の近くで何やってんだよ?」



(あ、あああ阿部君だぁ…)



心臓は暴走したままだが、溢れてくる嬉しさに三橋は顔を赤くしながらも阿部を見つめてしまう。



「ここのロールケーキ、三橋がまだ食った事ないってーから連れてきたんだよ、な?」

「へ?え、あ、…そ、そう、そう!」



三橋は急に話を振られてパニックになりかけたが、どうにか泉に合わせることができた。




「お前ら、ホント食べること好きなんだな。
職場でも有名だぜ」

「今日も仕事か?」

「まぁね」

「へぇ、大変だな」

「明日は休みだから、今週はマシだけどな」



そう言いながら、阿部は空席だった三橋の隣に腰を下ろすから、三橋はそこでまた心拍数を上げなくてはいけなくなり、遂には呼吸困難になりかけていた。
阿部はそんな三橋にはお構いなしにエスプレッソを注文する。



「あれ?ケーキは頼まねぇの?」

「嫌いじゃねぇけど、そんなに食わねぇからいいんだよ」



(そか。阿部君甘いの、あまり食べない のか)



やがてスイーツとドリンクが運ばれてきて、その時ばかりは三橋も隣の阿部を忘れて目の前のロールケーキに心を奪われる。



「ん、ここのザッハトルテもなかなかだな」

「フロマージュ、結構あっさりしてるぞ。
三橋、ロールケーキ美味いだろ?」

「う、うん!美味しい!」



満面の笑みで力いっぱい賛同してから隣の阿部を思い出し、三橋は慌てて小さくなる。
けれど阿部は特に咎めるでもなく、それどころか思いがけないことを言ってきた。




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