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tale
Boy meets futureB


三橋の顔が埋められた胸の辺りがやけに重い。

ちょっと、体重かけすぎじゃねえの?

そう思った時、急に意識が遠のくような、浮上するような感覚に囚われた。





「お!阿部、気がついたか!!」


声の五月蝿さと蛍光灯の眩しさで顔を顰める。
重いと感じた肩には、三橋が突っ伏していた。

…なるほど、それで重かったのか。
そりゃ夢だよな、あんなの。

嫌に長くて、変な疲れを感じる。


「花井―!!
阿部が目覚ましたぞ!!!」


田島が外に向かって叫ぶ。
花井の声も何となく聞こえた。

ここ…、保健室じゃねえな。

まだ、頭がぼんやりとする。
広い無機質な部屋、消毒の匂い。
おそらく、病院だろう。


「病院で大声出すなって言っただろ!」


部屋に入ってきた花井は田島の頭を殴った。


「阿部、大丈夫か?
今、看護師に声かけてきたから医者もすぐ来るぞ」


やはり、病院だ。
ふと、突っ伏したままの三橋を見る。


「ああ、三橋寝ちゃったんだよ」


花井が苦笑混じりに言う。


「大変だったんだぞ。
お前が意識失ったもんだから、三橋がずっと泣きっ放しで。
病院に着いても、検査が終わってからずっとここから離れなかったんだよ。
さすがに泣き疲れたみたいだけど」

「…だからって、怪我人の上で寝るなよ」


オレはぼやいたが、別に嫌な気はしなかった。
むしろ、照れくさかった。
三橋が起きないよう、ゆっくりと肩から外して起き上がる。
妙な開放感に笑いたくなった。

花井の話によると、検査結果に異常はなく、オレが目を覚まして特に問題がなければ今日一日安静にしていればいいと、医者は言っていたそうだ。
両親も来ていたようだが、結果に問題がなかったことと、翌日には弟の試合があるので準備をしなくてはいけないのとで、一度家に戻ったらしい。
相変わらず、弟中心の家族だ。
今更、腹も立たない。
それに、今はそんなことはどうでも良かった。


「三橋、起きろよ。
先生と看護師が来るからオレたち出ておかないと」

「いいよ」


オレの言葉に花井が驚く。


「三橋一人このままでも、診察くらいできるだろ」

「けどな―」

「いいじゃん、花井!
阿部がそう言うんだから!!」


田島に押されて、花井は渋々諦めた。
何となく、今は三橋を傍に置いておきたかった。
夢の中で、中学生のアイツを置き去りにしてしまった虚構の罪悪感があったのかもしれない。

程なく医者は訪れ、三橋を見て笑っていたが特に咎めもせず、俺の状態を見て翌朝までの入院を指示した。
両親にその旨連絡すると看護師が言うので、今日はもう来なくていいと伝言を頼んだ。

そろそろ、三人を帰さないとな。
時計は、既に8時を回っている。


「…あ、べく ん?」

「おう、三橋。
目覚めたか?」


タイミングよく目を覚ました三橋はぼんやりとオレを見ていたが、急に大きな目を最大限に開いてオレの腕を掴んできた。


「大丈夫?!どこも痛くない?!
オレ、オレ、ごめんなさ―」

「あー、もういいから。
あれはオレの落ち度もあんだよ」

「阿部君は悪くない、よ!!
オレが、オレが―」

「どうしたんだよ、三橋?」


部屋に戻ってきた花井と田島が驚く。
三橋がボロボロ泣いてパニックになっているからだ。


「三橋がどうでもいい自己嫌悪に陥ってんだよ。
三橋、悪いと思うならもう帰って休め」

「オレ、ここで一緒にいる、よ!」

「ダメだ!!」


何言い出すんだ。
明日も朝から練習があるってのに!


「でも、阿部くん…オ レのせい、で オレ、のっ」

「わりい、お前らちょっと出ててくれる?」


オレは花井と田島に席を外すよう頼んだ。
花井は察してくれたようですぐに頷き、外の待合で待っていると三橋に告げ、野次馬になりかけた田島を引きずって退室してくれた。


「さっきも医者が来てどこも悪くないっつったんだから、お前は何も気にしなくていいんだよ」


オレはできる限り優しく言った。
三橋は、まだグズグズと泣いている。


「明日の朝練は出れねえけど、午後からはまた一緒にやれるからさ」

「…ふっ、ひぐ…。
お、オレ…、」

「?」

「すご、く 怖かっ……た」

「は?」

「だ…て、あべく 、声かけても、全然起き…てくれ、なくて」


ああ…。


「阿部君、居なく なったらって、すごく怖く…て」


そこまで言ったら、また突っ伏して泣き始めた。
そんな三橋を前にして、オレはすごく変な気分になっていた。
胸が熱くて苦しくて、嬉しくて―。
それが何なのか、今のオレには分からない。
けれど。


「ごめんな三橋、怖い思いさせて。
もう絶対こんな思いさせねえから」


そう言って、気がつけば三橋の頭を撫でていた。
この行動には、正直自分が一番驚いた。
けれど、止めようとも思わなかった。


「約束したもんな。
三年間、病気も怪我もしねェって」


オレの言葉を聞いて安心したのか三橋の嗚咽と涙は段々収まってきて、ようやく顔を上げてくれた時はかなり酷い顔だったけれど。
笑ってくれたから、オレはほっとした。


「…じゃ、帰る、ね」

「おう、また明日な」


三橋はゆるゆると扉まで歩いたが、開きかけてピタリと止まってオレを振り向いた。
少し顔が赤いのは、泣いたせいだろうか。


「あ、阿部君」

「何?」

「さっき、夢…で 阿部、君…オレ、を」

「え?」


聞き返すと、三橋ははっとして首を思い切り横に振った。


「何でも、ない!デス!!」


おやすみなさい!と言うのと同時に思い切りドアを閉めて走って行ってしまった。

まさかアイツ、オレと同じ夢見てたとか?
…な訳ないな。

横になりながら、先ほどの長い奇妙な夢を思い出す。
夢の中で何を真剣に約束なんかしていたんだと、急に恥ずかしくなってきた。
オレ以外の誰も知らないのが救いのような気がした。

でも。
あの気持ちは本当なんだ。
絶対に、お前を本当のエースにする。
すごい投手なんだって、全国に知れ渡らせてやる。


オレとお前との約束だ―。



071012 up





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