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tale
占イマス(Page5)



「―あれで良かったんだよ」

「でもっ、」

「だって、あんた占ってなんかないだろ」

「?!」



そう、あれは占いなんかじゃない。



「あいつの話聞いて、気づいただけなんだろ」



ちゃんと文貴に向き合ってくれてたんだろ。



「オレもあんたの意見に同感。
あのままじゃ、いつ彼女に愛想尽かされてもおかしくねぇよ。
あいつには良い薬になったと思うぜ」

「…」

「だからさ、あのまま占い師のお告げって信じさせてやったら?
あいつの彼女の為ってことで、さ」

「……ん…」



コートの袖で目尻を拭い、深く白い息を吐いてから、似非占い師は真っ直ぐに顔を上げて暗闇を見つめる。
赤い頬と鼻先、熱のせいもあって潤んでいる大きな瞳。
街灯に照らされたその横顔に、また魅了されている自分がいた。
そして、少女を装っていた黒のコスチュームが何故気に入らなかったのか、ようやく合点がいく。



「家、近いのか?」

「う、ん」

「じゃ、歩くか。それともタクシー拾うか?」



オレの問いに少し笑って、歩くと彼は答えた。
特に話すこともなく、ただ二人の足音と、時折通り過ぎる車のエンジン音だけが響く。
ほんの少しの緊張感と、心地いい彼のやわらかな雰囲気に、試してみようか、とふと思い立つ。
不安はあるけど、従兄弟のような迷いは自分にないことに確信を持てた。
だから、この気持ちに賭けてみたい。
訊ねてみなくては、答えはもらえないから。



「なぁ、あんたは占い師の才能、少しは引き継いでんの?」

「へ?…う、あ…ど、かな…」



今日までやったことなかったからと、子供のように小首を傾げる姿を、可愛いと言えば彼は怒るだろうか。



「じゃ、最後に一つ占ってよ」

「えっ、でも、お、オレ、分か な、」



本当は、占いなんかじゃなくていい。
文貴の時のように、その直感で、思いのまま言葉にしてくれれば。



「今日占い師のフリをしていた男が、最後の客の連れをどう思っているのか」

「え?」

「また会いたいって思ってくれるようになるか、を」



オレを見つめ返す大きな瞳に映る自分から、今は絶対に目を逸らしてはいけない。
彼を逃すことがないよう、呼吸さえ忘れて目の前のただ一人に意識を集中させる。

似非占い師から答えをもらい、その華奢な身体を思い切り抱きしめるまで、後30秒−。



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「なあ、廉。今日は講義休みだろ?」

「う、うん」

「お父さんの代わりに店に行ってくれないか?」

「へ?え?なん、で、」

「今日は廉が行ったほうがいいんだよ」

「???よく、分かんない」

「で、お父さんの代わりに占い師をしてくるんだよ」

「えぇっ?!」

「あ、そうそう。瑠璃ちゃんに服を借りてきたほうがいいな。
できれば、黒がいいんだけど」

「な、なな何言って−」

「こんにちは〜、クッキー焼いたから御裾分け持ってきたよ〜」

「ああ、瑠璃ちゃん!ちょうどいいところに来たね」

「ちょっ、お、お父さん?!」

「どうしたの?」

「実は、廉を可愛い女の子に変身させてほしいんだ」

「や、やだ よ!!」

「何か良くわかんないけど…、おじさんが言うんだから、そうした方がいいんだよね」

「いやあ、瑠璃ちゃんは廉と違って理解が早くて助かるよ」

「イヤ、だっ!!」

「もう!レンレンもいつまでも我侭言わない!
おじさんが言うことは絶対でしょ!」

「ハマちゃんには、お父さんからちゃんと説明しておくから」

「イヤだ〜〜〜〜!!!」

「あら、お父さんどうかしたの?」

「今日は廉が大切な人に出会える日だからね、瑠璃ちゃんにスタイリングしてもらうと思って」

「え〜、廉に大切な人ぉ?本当に?」

「もちろん!君が一番良く知ってるだろ、オレの占いが絶対に当たるって」



オレがお父さんの占いの力を身を以って証明してしまうことになる出会いまで、後10時間−。





111030 up




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