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tale
占イマス(Page3)



「―しだい…」

「へ?」

「貴方、しだい。
迷いは貴方の中、だけ存在してる」

「オレが迷う…?」



まだ口を付けられていない文貴の紅茶に視線を落とし、彼女は続けた。



「貴方が迷う、彼女 不安になる。
頼れるもの、無く て、壊れてしまう…彼女も、貴方 も……」



琥珀の瞳が揺らめいたのは、涙を浮かべているからだと気がついて、何故かオレは酷く動揺した。



「つ、つまり、オレがもっとしっかりしなきゃってこと?
頼りないってことなの?」



文貴の必死の問い掛けに、少女は頭を振った。



「え?だってそうでしょ?
オレが迷うからって、そういうことじゃないの?」



文貴はかなりセーブしているつもりのようだが、珍しく責めるような口調になっていた。



「ねぇ、はっきり言ってよ。
オレ、全部を知る覚悟できたんだからさ、ガツンと言ってくれていいんだって」

「おい、文貴。
ちょっと落ち着けよ」

「落ち着いてるよ!
だから、覚悟はできてるんだって!」



全然ダメだ。
完全に冷静さを失っている。
喧嘩になるとでも思ったのか、占い師は慌てて立ち上がりかけた。



「ち、違っ。あの、あの、」

「悪ぃけど、コイツの望み通りはっきり言ってやってよ。
こう見えて、案外頑固なとこあんだ」

「頑固って、それ自分のことだろ!」

「はぁ?人を散々振り回しといて偉そうに言うなよ」

「ま、待って、あの、」



そう言って文貴を宥めようと一歩踏み出したとき、占い師の少女はよろめいた。
野球部で鍛えられた反射神経で、どうにか倒れる直前で彼女を支えることができ、胸を撫で下ろす。



「大丈夫か?!」

「あ…ご、め…なさ−」



ここに来た時よりずいぶん顔が赤いし、目が虚ろだ。
どうにか立ち上ろうとする彼女に手を貸して、席に着かせる。
従兄弟に腹が立ったオレは、声のトーンをわずかに落として言った。



「お前さ、いい加減気づけよ。
こんなトコに来ること自体、彼女か自分、またはどっちも信じてねぇってことになんだぞ。
弱いとかそんなんじゃなくて、うまくいかなかったときの言い訳探してるだけじゃねぇか」

「べ、別に、そんなつもり−」

「もし、誰かに大丈夫って言ってほしいんなら、それは占い師じゃなくて彼女じゃなきゃ意味ないだろ」



文貴は気が優しいから、昔から女どもには受けが良かった。
けれど、それは彼女たちに深く立ち入ることをせず、表面の心地よい言葉を口にしているだけだからだ。
恋人相手にその付き合い方では、恐らく通用しない。
知らなければ疑うことになるだろうし、知ってもらえなければ不満にもなるはずだ。



「あ、あの…」



小さな声にはっとした文貴は、申し訳なさ気に占い師に謝る。



「ごめんね、ちょっと焦っちゃってさ。
………悔しいけど、コイツの言うことちょっと当たってる。
てか、君の言葉でこんなんになってるのは、図星付かれたって言ってるようなもんだよな。
なんかさ、うまく行き過ぎていることが、急に不安になっちゃったんだよね。
本当にオレでいいの?なんて怖くて彼女に聞けないし…。
だから、どっかで君が拠りどころになってくれるかもしれないって勘違いしてたのかな…」



占い師が女で良かったと思う。
そうでなきゃ、文貴がここまで簡単に冷静になれたか分からない。



「本当にごめんね」

「あのっ、」

「ん?」

「あの…カノジョ、さん は、シアワセ、だとお、思う」

「へ?」

「その、貴方 見てて、そう思う…」



余りにも必死な様子の占い師に、文貴は嬉しそうに笑った。



「本当にありがとうな。
オレ、ちゃんと頑張って彼女に話してみるよ」



それから、こんな時間に起きているかなんて分からないのに、すぐに彼女に連絡を取ってみたいと言い出した従兄弟は、一人にしてくれとオレを置いてさっさと店を飛び出していった。
もちろん、占い師には御代を払って。
少女はちゃんと占っていないからと断ったが、文貴はお礼だと言って頑として譲らなかった。



「占い終わった?あれ、君も占ってもらうの?」

「んなわけないでしょ、勝手に連れてきた奴が今度は置き去りにして飛び出したんすよ」



取り残されたオレを楽しげに見る店員に、オレは肩を竦めて答えた。



「ふうん、でも何かすっきりした顔してたから、彼は心配ないよな。
あれ?どした?具合悪いか?」



店員も占い師の様子がおかしいことに気がついたのか、近くにしゃがみこみ、額を手にあててやる。
何の躊躇いもなく彼女に触れるその光景が、オレはおもしろくなかった。



「さっき、彼女倒れかけて」

「だ、大丈夫だよ、ハマちゃん」



ずいぶん親しげに呼ぶ彼女を、店員は心配げに見つめる。



「ちょっと熱あんぞ。どーすっかなぁ、店閉めんの後数時間あるからなぁ」

「…あの、良かったらオレが送っていきましょうか?」

「え?」



占い師の驚いた顔にすぐさま後悔したが、店員は嬉しそうにオレの手を握ってきた。



「マジで?すっげー助かる!一人で帰すなって言われてたからさぁ」

「は、ハマちゃんっ」

「大丈夫だって、悪い人じゃなさそうだし」

「でも、悪い よっ」



少女は、真っ赤な顔をして慌て出す。



「オレは別に、家に帰るだけだし、ついでだから…」

「ほら、ああ言ってくれてんだし。
ちゃっちゃと着替えて来いよ」

「でも、あのっ、」

「あ、オレ先に表に出てます」

「え〜、寒いからここで待ってなよ」

「いえ、すっかり温まったから平気っす」



このままここに居たら、完全にお断りされてしまうかもしれない。
そう思って、オレは足早に店を出た。
初対面の癖に図々しい申し出だっただろうか、変に警戒されていたりはしないだろうか。
文貴と違って、女の子の扱いなんてろくに知らない。
思い返せば、野球部のマネジくらいしか、会話といえる会話を同年代の女性としたことがなかった。
今更、思い切った行動に出てしまった自分が憎らしく思えて、表通りの街灯の下で占い師を待ちながら、柄にもなく悶々としてしまう。




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