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tale
First Love


君に会う度に、近くにいる程に、惹かれる想いはどんどん強くなる。
これ以上の気持ちはないと、いつも思うのに。
毎回、その想いを遥かに上回ってしまう。

それは、まるで―




First Love





渡り廊下の先。
すぐに目に飛び込んで来たのは、アーモンド形の大きな目を見開いた三橋。



「あ、阿部君っ」



オレを見つけて、真っ直ぐに駆けてくるヤツに、オレはどきりとする。
転びやしないかと、本気で心配なんかもしながら。



「…走んなよ、コケたらどうすんだよ」

「だ、大丈夫!
あの、あのね、」



たどたどしく話す声も、ふわふわ揺れる髪も、いつもと変わらない。
なのに、その一つ一つに、時折見せる笑顔や、見慣れた長く白い指にさえ、何度も胸を高鳴らせる。



「ど、したの、阿部君?」



ぼんやり見とれていると、遠慮がちにオレのシャツに触れてきた三橋の温度に、オレだけを映すその瞳に、また心拍数を上げる。

三橋も、オレのことを想ってくれているのは分かっているのに。
キスしたり、抱き締めたり、何度もしているのに。
胸が締め付けられるように、愛しさと切なさが込み上げる。
顔が、身体が熱くなる。
まるで、三橋に想いを打ち明ける前の時のように。



「三橋―」

「阿部、くん…?」



オレのシャツを掴んだままの手に、自分のそれを重ねた。















渡り廊下の先に、阿部君を見つけて。



「あっ―」



声が出るのと同時に、心臓も口から飛び出そうになる。
彼の名を呼ぼうかどうしようかと悩む間もなく、彼はオレに気付いてくれて。
オレはまた、ドキドキしてしまう。
彼の深い色の瞳に、全て吸い込まれそうになりながら。
それでも、オレに気付いてくれたことが嬉しくて。



「あ、阿部君!」



思い切って、彼の名を呼んで駆け付ける。
走り出した途端に、阿部君は慌てた顔をする。
オレが転ばないか、きっと心配しているんだ。



「…走んなよ、コケたらどうすんだよ」

「だ、大丈夫!
あの、あのね、」



授業の合間の限られた時間。
君に教えてもらった数学が、ちゃんと解けたことを伝えたくて。
なのに、うまく言葉をつなげられなくて。

だって、阿部君はとても格好良い。
凛とした顔立ちも、優しい声も、オレより高い背も。
彼を前にしたら、目眩を覚えるくらい緊張してしまう。

阿部君がくれる「好き」の言葉の数より、彼に心を奪われる回数の方が多過ぎて。
何度キスをされても、何回抱き締められても、君がオレを想ってくれているより、オレが君を想う気持ちの方が大きすぎるような気がして。
君の負担になるんじゃないかと、すごく不安になる。

ほら、今も。



「ど、したの、阿部君?」



オレをぼんやりと見たまま。
きっと、オレの話は聞いていなかった、と思う。
こんな時、呼吸ができないくらいに苦しくなる。

と、思っていると。



「三橋―」

「阿部、くん…?」



思わず阿部君のシャツを掴んでいたオレの手に、そっと重ねられた阿部君の手。
それまでも、頭と心の沸点はとうに越していたのに、再沸騰し始めて。
オレは、今度こそ本当に足がふらつきそうになる。



「あ、あの、あのっ」

「好きだよ」



よろめきそうなオレを支えるフリをして、阿部君は耳元でそっと囁いてくれた。

阿部君からもらった「好き」で、オレは満たされる。
と思ったら、「好き」と言ってくれた阿部君に、さっきよりも強く惹かれて。
阿部君への「好き」がまた大きくなってしまって。



「あ、ああ阿部、くんっ、」



オレも伝えたくなってしまう。

もう数えきれないくらい声にしてきたけれど、今でも心臓が潰れそうな勢いで早鐘を打つ。
まるで、君に初めて想いを打ち明ける日のように。









―オレは、何度君に恋をするのだろう―





080707 up




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あきゅろす。
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