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tale
白昼の幻想



昼休み、屋上で花井と栄口と昼食を兼ねたミーティングを終えた後、オレは一人残って惰眠を貪っていた。
運動場や教室の喧騒とは無縁だし、今日の風があまりにも心地良かったから。
特に、給水塔の影は恰好の場所だった。
目を閉じると簡単に意識が遠のく。

本当に気分が良い―。
けれどそれも束の間、ふと意識が現実に戻ってきてしまった。
目を閉じて10分くらいは経ったのだろうか。
近くに気配を感じた。
よく知る大切な存在。

…コイツ、何しに来たんだ?


気付かれぬようにうっすらと目を開けると、オレにそろりと近付き傍で正座する。
ゆっくりと右手を伸ばしてきたから、自然と三橋の身体もオレに近くなって、鼓動が急に早くなる。
別に疚しいことを想像した訳ではないが、戸惑いの色が濃かったから何をするつもりなのか読めなくて…。

しかし、何か悩んだような素振りを見せた後、オレに伸ばしかけた手を結局引っ込めてしまった。


………そういうのがイラつく!

用事があるなら起こせ!
言いたいことがあるならさっさと言え!!!

と、胸ぐらを掴んでそう叫ばなくなっただけ、オレは進歩したのか、コイツに甘くなったのか…。

しかし、三橋はまだ何かあるのか傍から離れようとしない。
少し覗き込んだり、周囲をキョロキョロ見たりで相変わらず落ち着きがない。

…寝たふりがこんなに疲れるとは思わなかった。
もういっそ起きてしまおうかと思ったその時、頭上からあまりにも突拍子もない言葉が降ってきて、オレは動けなくなった。


「…綺麗、だ」


三橋は確かにそう言った。

………何が?
コイツ、何を見てんだ?
オレじゃなかったのかよ?!


混乱しているオレを余所に、三橋は小さく笑う。

…何がおかしいんだよ?

と思っていたら、今度はほんの少しだけ、まるで掠めるかのように三橋の指がオレの髪に触れてきたから、また心臓が跳ねた。


………狸寝入りももう限界だ。


「おい」


たったその一言で、三橋は数cm地面から浮いた。


「え…、あっ、あ 阿部、く…」

「さっきの何?」


動揺を隠そうとしたら、勝手に不機嫌な声が出てきた。


「うっ、えと あ、さっき…て…?」


三橋は本気でうろたえているが、今は問い質したい。


「さっきっつったら、さっきだよ!」

「さ、さっき……は、」


三橋はちらちらとオレを見ながら、言って良いものかと悩んでいるようだ。


「……ず っと、阿部く、ん …見て、て…」


「だーかーらー、」

そうじゃなくて!
と言いかけて、オレは止めてしまった。


ずっと?

確かに、周囲にはオレたち以外誰もいない。

空とか鳥とか見てたんじゃなくて?
ずっとオレを見てた?じゃ、さっきの言葉はオレを見て言ったのか?


「阿部、く…見て、えと」

「………三橋、もういい」


オレは左手で顔を覆い、右手で三橋を制した。

………コイツ、恥ずかしいコト言いやがって〜〜!!!
何が「綺麗」だ!
どうせなら「格好良い」とか言えよ!!!
…いや、それも恥ずかしいけど。
「綺麗」の方が、断然恥ずかしい!

くそっ………。


「三橋」

「うぁっ、はひっ!」

オレの中で、収まりそうもない別の感情が溢れてくる。
慌てる三橋の左腕を掴んで引き寄せ、オレは噛み付くようにキスをした。

接近した三橋の瞳と髪。
優しい淡い色で揺れる。

「綺麗」ってのは、こういうのを言うんだ。

言葉にするのはあまりにも恥ずかしいから、細い身体を思い切り抱き締めた。


071028 up




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あきゅろす。
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