tale
depend on you(アフタ0710月号ネタバレ有)
まだ終わってねェんだ、頼むからやらせてくれ。
コイツと野球をやりたいんだ。
頼むから、頼むから。
-depend on you-
選手交代を監督が主審に知らせた。
田島が防具を急いで装備する。
多分、西広や水谷もポジションを移動しているだろう。
監督からストップをかけられた以上、もうグラウンドには入れない。
顔が上げられない。
三橋がオレの前で立ち尽くしている。
お前の球、捕りたいよ。
ちゃんとサイン出してやって、この回終わらせて逆転しなきゃ。
オレ、お前を勝たせたくて頑張ってたのに。
何やってんだろ。
マウンドに戻るよう、監督が三橋を促す。
オレの傍から離れようとする三橋。
咄嗟に右腕を掴んだ。
待ってくれ。
オレもお前と行きたい。
お前の球をキャッチしたい。
オレをおいて行くなよ―。
我ながら呆れた。
約束破ってごめんなって、先に謝罪の言葉が出るべきなのに、溢れるのは三橋に縋りつくような思いばかり。
でも、どれも口にはできない。
お前、オレがいなくても投げられるのか?
プレッシャーに克っていけるのか?
オレは、オレは…。
「す 座って阿部君
アイ アイシングしなきゃ」
いつもとは違う声に聞こえる。
オレは三橋にゆっくりと座らされた。
それでも、オレは…。
本当は放したくなくて。
事態が変わるわけでもないのに、手の力を強めてしまう。
「アウト あと二つ取ってくる よ」
相変わらずの細い声なのに。
なんだか知らない声にしか聞こえない。
不安なくせに、自信もないくせに…。
迷いのない、まっすぐな声。
コイツの中にこんな強さがあったなんて…。なのに、オレは…。
手の力を緩め、三橋を解放するしかなかった。
三橋はマウンドへ駆けていく。
自分の弱さに打ちのめされ、アイツの強さに愕然とした。
アイツの為に強くありたいと願っていたのに、気がつけばアイツが先を歩いていたのだろうか…。
情けねぇこと言ってんじゃねぇよ。
まだ、何も終わっちゃいない。
このままでは終われない。
グラウンドに立てない今。
やらなきゃいけないいけないこと、今だからできること、絶対にあるはずだ。
お前の球は受けられねぇけど、約束破っちまったけど…。
そうして、停止していた思考を再稼動させる。
オレはどうすればいい、三橋。
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