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アベミハ大学生シリーズ
9)
「カノジョより厄介そう」

「は?」


間抜けなオレの反応を見て、木田は笑う。


「良いんじゃない?
周囲も見えないくらい振り回される何かがあっても」


何だよ、急に…。


「ただ、」

「?」

「今のままじゃ、気付かない内にボロボロにして失っちゃいそうね」

「はぁ?」


訳が分からない。
というか、大きなお世話だ。
あんたなんかに、何が理解できるってんだ。


「今が当然なんて思わないコトね。
念の為、センパイの忠告」

「…経験者気取りの説教ですか?」


ちょっとキツい言い方をしたかと思ったが、お節介に嫌気がさしていたのも事実だ。
しかし、彼女にはオレの悪意は通じていなかったようで、楽しげに笑い出した。


「何言ってるの。
君だって既に分かっているはずだよ」


けれど、人は喉元過ぎれば忘れちゃうからね、と少し遠い目をする。


本当にこの人は、よく分からない。
早くこの車から降りたい。

そう願って再び窓の外を見れば、駅前の交差点に差しかかっていた。
嫌だと思いながらも、それなりに時間は経っていたらしく、心底ほっとする。
この交差点を過ぎると、三橋の好きな樹々に囲まれた通りに入る。
もう少しで会える。


気が緩んだからだと思う。
木田の顔を改めて見てみた。
先程と変わらない笑みを浮かべたまま、フロントガラスの先を見ている。
暗い車内で放たれる青白い小さな光に、今更気付いた。

…この人、ピアスしていたんだ。
けれど、それが今日だけなのかいつも着けていたのかは分からない。
思い出せないのだ。
だから、その色がブルーだということに意味があるのかどうかさえも知らない。


三橋のことや野球なら、事細かに観察し分析までしているのに―。

本当に?
今の状況を考えると、自問自答してしまう。
………オレ、本当にちゃんと三橋を理解できているのかな。
三橋がオレの居ないところで何を感じ、何を思い、何をしているのかなんて本当に解るのか?

携帯電話のバイブレーションが胸をよぎる不安とシンクロして、心臓を不自然に飛び上がらせた。


三橋?!

慌てて携帯を開く。
予想通り、三橋からのメールだ。
怒っているのか、泣いているのか、拗ねているのか。
何にしても三橋の情報がその中にある。

隣の天敵の存在さえ忘れて開いたメールに、オレは唖然とした。




………空メール?!!








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あきゅろす。
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