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アベミハ大学生シリーズ
3P


『え………?』



バカか、オレは…。

理性の前に自制心がどこかへ行ってしまっている。
こんなことを言っても、今抱えている問題が解決できるどころか事態を悪化させるだけだ。
また、三橋を傷つけてしまう―。



『阿部君、どうしたんだ?
何か、あった?』



返された言葉が予想外で、不意に胸が締め付けられる。
三橋は意味不明な言葉に傷つく前に、オレの心配をしているのだ。
三橋はいつだってそうだ。
オレは、そんな三橋に良いように甘えてるような気がした。



「悪い…、今の忘れて」



言ってから、またもや己の至らなさに絶望する。
今のセリフじゃ、いくら三橋でも納得できる筈がない。



「今から家に帰んの?」



他に気の利いたことも思い付けず、わざとらしく話題を変えてしまう。
今日のオレは最低だ。



『うん、けど………。
まだ早いから、そっちに寄ろう かな…』



…あぁ、オレは何余計なことで三橋を煩わせているんだ。

しかし、一つだけ安堵したことがあった。
こちらに来ようと三橋が思えるということは、少なくとも三橋にオレの変化がバレてはいないということだ。
少しだけ、頭の中のもやもやが解消される。



「何言ってんだよ。
試合も近いから強化練習が決まったんだろ?
お前は控えでもベンチ入りすんだから、さっさと帰って身体をちゃんと休ませろ」

『で、でも、』

「でももだってもねぇよ。
んなこと言ってて、試合中まともに投げらんなかったらぶっ殺すぞ」

『う……』

「本当に何でもねぇから。
ちょっとヤな事あって悪酔いしちまっただけだよ。
お前の声聞けたし、もう平気だよ」



よく言うぜ。
三橋の声を聞いておいてあんなこと口走ったくせに。



『…分かった。
でも…、何かあったら 絶対に呼んでほしい』

「三橋―」

『オレは、何にも出来ない けど、オレの知らないトコロで、阿部君がツラい事抱えてるのは、嫌だ…』



それでも、言えねぇよ。

お前からのメールが来る前までは覚悟を決めていたはずなのに。
三橋に伝えようと決心していたのに、オレはまだどこかで迷っている。
お前に拒絶されることが怖くて仕方ないんだ。
なのに捨て切れない願望は、どう昇華させればいい?
お前を傷付けずに失望させずに、思いを遂げる方法なんてあるのだろうか?



「サンキュ。
そんなに思ってもらえて、オレは幸せ者だよ」

『そんなこと、ないよ』

「は?」

『オレの方が、ずっと大事にしてもらってる。
きっと、オレの方がずっと…幸せ者だ』



自分を誤魔化す為におどけるように言った筈なのに、三橋は馬鹿みたいに本気で返してくる。
しかし、今の自分にはそれも辛い。

そんだけ言ってくれんなら、オレはお前に手を伸ばしても良いのか?
お前もオレと同じことを望んでいないにしても、オレを受け入れる気でいてくれてると思って良いのか?

そんな都合の良いことばかり考えてしまう。



「…そりゃどーも。
じゃ、今度こっち来た時はオレを大事にしてもらおーかな」

『す、するよ!
オレ、阿部君を大事にする!!!』

「ばっ、声大きいよ!
お前、今どこで喋ってんだよ?!」



電話越しにでも珍しく大きいと感じた三橋の声で、急速に頭が冷やされた。
救われたような気持ちにさえなって、なんだか複雑だ。



『え?
えと、駅のホーム…』

「…なら、早く電車に乗れ。
もう切るぞ」



平常心に戻っている間に、一秒でも早く切ってしまいたかった。
また妙な気持ちになって、三橋を困らせたくはない。



『あ、阿部君』

「何?」

『おやすみなさい、また…明日』



明日も電話してくる気かよ。
そうさせているのは、オレ自身だけれど。



「ああ、冷房で身体冷やすなよ」



そう言って、ようやく電話を切ることに成功した。
一つ大きく息を吐き、携帯を放り出して畳の上に寝転ぶ。

部屋を見渡せば、三橋の名残を感じる。
ここで三橋が過ごす時間は本当に短いのに、二人で過ごす場所はほとんどがこの部屋だから、どこに目をやっても傍にいたアイツを思い起こしてしまう。
次に会う時、オレはちゃんと理性を止めたまま三橋と向き合えるだろうか。
あまり自信が無い。

畳に接した背中以外は火照ったように熱いことに、罪悪感がこみ上げる。

週末の約束がキャンセルになったのは、返って良かったかもしれない。
もっと冷静になってゆっくり考えよう。
性欲なんて満たされなくても、死ぬことはないんだ。
一時の欲望なら消滅するまで待てばいい。
そんなことで、三橋を失いたくはない。



「三橋」



好きだよ。
他の誰よりも大事に思っている。
お前がオレのことを好きだと、大切にしたいと言ってくれるその気持ちも疑ってなんかいない。

だから、今の幸せを壊すような願望なんて絶対に捨ててしまわなければいけないんだ―。





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あきゅろす。
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