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アベミハ大学生シリーズ
2P


「………阿部君?」



先月初旬、三橋がアパートに来た日は夕方から急に大雨が降った。
傘を持ち合わせていなかった三橋はもちろんずぶ濡れで、淡い色のTシャツが細い身体に張り付いているせいで肢体を透しているようにすら見えてしまって…。
玄関先でバッグからタオルを出そうとする三橋に、しばし目を奪われていたオレは三橋の言葉で我に返る。



「……………これ使えよ」



そう言って、部屋から持ってきたバスタオルを頭から被せた。
これ以上、そんな姿を晒されたらオレが保たない。



「あ、ここで脱―」

「脱ぐな!!
靴下だけ脱いで、後は部屋で着替えろ!!!」



三橋は床を濡さないよう気遣ってくれたのだろうが、今目の前でズボンとかシャツなんかを脱がれたりしたら、理性のタガが本当に外れてしまう。



「ごっ、ごめんっ」



オレに怒鳴られた三橋は、小さくなってオレの言う通りにした。

マズい。
三橋は何にも悪くないのに、こんなことじゃいつか泣かせてしまう。
オレは三橋の機嫌取りにホットミルクを作ることにした。
レンジの中で一定の早さで回転するマグカップを見つめながら、頭の中は先程の三橋の姿が何度も浮かんでくる。
重症だ…。



「阿部君、タオルありがと…」

「おう」



振り返って三橋にホットミルクを渡そうとして、オレは卒倒しかける。
いつも、当たり前のことで何も感じていなかったのに。
オレのブラウスとズボンに着替えた三橋に、不意に煽られた。



「阿部君っ、なんかふらついてる?」



三橋は慌ててオレの肩に手を添える。
三橋の温度に反応して一気に体温が上昇するような気がして、慌てて三橋から離れた。



「〜〜〜大丈夫だから、お前は座ってコレ飲んでろ」



オレはなるべく三橋を見ないようにしてカップを渡す。
三橋は少し不審げにオレを見ていたが、ホットミルクは喜んで飲んでくれたのでひとまず安心した。


マズい。
本当にどんどんヤバい状況になっていく。
今夜、一緒に仲良く並んで寝たりなんかできんのか、オレ?

いつものことがいつものように感じられなくなってきている。



「阿部君?
もしかして、疲れてる?」



ミルクを飲み終えた三橋が心配そうにオレの顔を覗き込んできた。
たったそれだけのことなのに…。
またオレの欲望が煽られている。

オレは何も言わずに、そのまま三橋を思い切り抱きしめた。
この間までは、これだけで本当に満たされていたんだ。
高校時代はこんなことすら叶わなかったのだから、夢のようだとすら思っていた。
それなのに、三橋に触れるたびにオレの欲は深くなる。
それは純粋な愛情からなのか、男が持つ征服欲からなのか。
今のオレには、それさえ分からなくなってきている。



「………アベ、く ん。
くる じ……………」



力を入れすぎたみたいで、三橋がもがき出した。



「あ―、悪ィ」



オレは惜しむように、ゆっくりと三橋を離す。
三橋は大きく息を吸った後、オレの顔を見て少し戸惑ったような顔をしたがすぐに照れたような笑顔を見せてくれた。

その笑顔を見られるだけでいいと思っていたのに。



「あの、オレ……」

「ん?」

「阿部君に……、ギュッとされるの 好きだ」



三橋はそう言って、項まで紅く染めて恥ずかしそうに俯いてしまった。
そんな三橋を、本当に愛しいと思う。
大切にしたいと、優しくありたいと本気で思っている。

でも、そんな風に言われるとオレはその先を期待してしまう。



「三橋」

「……何?」



三橋の頬に触れ、顔を上げさせる。

自分に何度も問う。
何故、これだけでは満たされない?
何故、これ以上を望もうとする?
三橋はオレを好きだと言ってくれる。
それで充分じゃないか。
でないと―。

三橋の唇を自分のそれで塞ぐ。
三橋は何の抵抗も無く、寧ろオレの背に腕を回して応えてくれる。

どうして、これだけじゃ足りないんだ?
オレは三橋に、身体を重ねることに、何を望んでいるのだろう。

その日の夜はいつものように二人で床に就いたが、結局一睡もできなかった。





もしかしたら、あの日のオレを不審に思ったのか。
夜中に一度、三橋は目を覚ましたが特にオレに気づいたような感じはなかったけれど。
否、もっと前からオレの異変に気づいていたかもしれない。

部屋で一人晩飯を食いながら、やはり三橋のことばかり考えていた。
テレビをつけてはいるものの、ちっとも頭に入ってこない。

こんな思いをしているのは、オレだけなんだろうか。
彼女に警戒されたアイツも同じ悩みを抱えているのだろうか。

そんな自分の世界に没頭していると側に置いていた携帯電話が急に鳴り始めたので、オレはらしくもなく飛び上がった。
着信画面には三橋の名前が表示されていた。
嬉しさと後ろめたさがごちゃ混ぜになる。



「もしもし」

『あ、阿部君。
昼のメール、見てくれた?』

「おう、やっぱお前んとこはハードだよな」

『ごめんね、約束してたのに』

「しゃあねェよ、急に決まったんだろ」

『うん、でも……』



三橋は申し訳なさそうに言う。
けれど、オレが期待しているのは謝罪なんかじゃない。



「オレに会えなくてホッとしてる?」



気がつけば、募った不満が口をついてしまっていた。






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あきゅろす。
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