小説
【勘違い誘拐事件C】
「姐さん」
「どうだった?」
不良達のリーダーに首尾を聞くと、リーダーは首を横にふった。
「ダメです。道を聞かれた奴ら以外、誰も目撃してません」
「…透明人間か何かかい」
「ここまでくると異常っすね。一応“門番”にも確認したんすけど、誰も見てません」
南区には“門番”という特殊な職業がある。上級市民街への連絡通路、他区へ出る道、隠し通路、非常避難路、とにかく南区から外へと繋がる道の全てを見張るのが仕事だ。
「じゃあどっから出たってのさ」
「わかんないっす」
「…ったく」
元とは言えど一流の密偵が誘拐とは洒落にならない。
「範囲広げてみます。他区に顔きくやついるんで」
「悪いね」
「姐さんと兄貴のダチなら、俺らにだって事件すよ」
☆…☆…☆
月雅は考え込んでいた。
「…仙は、二日前家を留守にしていた」
なんでも、納品先にどうしても挨拶に行く必要があったのだという。
突然だったので誰にも言っていかなかったというから、蜂も当然知らなかったろう。
「…だからこそ間違われたわけだけど」
「月雅!」
「宴。目撃情報は?」
「ダメかもしんない。霧氷が範囲広げてくれてるけど…」
八方塞がり。足取りがつかめなければ居場所もわからない。
「どうやって逃げたんだろ」
「鞄につめたとしても大荷物だし」
「そうだね。…ん?」
「どしたのさ」
月雅の目が、火を阻む防御壁にひきよせられた。
都市は大きな楕円を描き、そしてその回りを防御壁を挟んで紫の火が取り囲む。
その、防御壁。
「伏せて宴!」
「へ?」
宴を引き寄せて地面に伏せる。その頭上を紫色が通過した。
「は?」
「防御壁が崩れた」
「はぁ!?」
「まだここだけだけど、ほっといたら全部崩れるね」
「落ち着いて言うな!」
透明な防御壁は都市の要。そもそも防御壁がないと都市は維持できない。
「手持ちで応急措置しないと!」
「んー…充電式に防御系の魔術入ってなかったり」
「なんで!?」
「だって攻撃は最大の防御なりって」
「体現するな! ああもう、どきな!!」
宴が充電式魔術具を取り出そうとしたとき。
『大地の赤 大空の青 紫炎退け壁となれ』
赤と青の突風が紫の火に激突し、押し返してそのまま壁になった。
「おー」
「さすが…」
旧式魔術具をおろした仙は、自分の家を見上げて溜息をついた。
「…焦げた」
「こんくらいでよかったじゃないか」
「そうだよ。前回は崩壊したんでしょ?」
「気持ちの問題だ」
同業者に聞いてきたと、仙は話を変えた。
「魔術の効果を打ち消す装置の設計図を見せられて、俺なら作れると言ったやつがいた」
「じゃあそれが?」
「多分な。…それの小規模版で、防御壁に穴をあけた」
「今の!」
「じゃあ、蜂を連れてこっから出ていったの?」
防御壁のすく向こうは、火の海だ。通常の火とは違うが、生身の人間が堪えられるものではない。
「自警団に連絡して、二日前に都市近くを航海していた船を調べてもらえばいい」
「なんか…大事になってきてない?」
もしかして氷山の一角なんじゃあと宴が呟くと、月雅があっさりと返した。
「蜂だけ返してもらって、あとは放っておけばいいんだよ」
「確かに。関われば関わるほど面倒そうだ」
「……あんたら絶対に正義の味方にゃなれないね」
「「興味ない」」
☆…☆…☆
続く
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