こねことおおかみ/完結
こねこ懐く
・・・
「・・・・・むーくん、ご飯いこ?」
「おぅ」
学食での一件以来、凛は宗昭と昼食を共にするようになっていた。
凜が踏み潰されてしまうことをかなり真剣に心配していた宗昭が、一度凛が学食に行くのに付き添ってみることにしたのだ。
宗昭効果は絶大だ。当然彼の進む方向に見事に道が出来て、凛は全く揉みくちゃにされることなく昼食をゲットし、静かな食事時間を過ごすことができた。
それからというもの、凛は人混み除けに宗昭を連れることを決めたらしい。
人は時にこれを味を占めたともいう。
基本宗昭は凛に優しく、亮平に言わせてもらえば甘すぎて吐きそうなくらいであり、
今日も凛の誘いをしぶる様子もなく、さらには小さな手を引いて学食に向かう。
手をつなぐ男子高校生二人。
異様な光景のはずなのだが、いかんせん凛が小学生サイズな為に仲良し兄弟に見えて、違和感を感じさせないのがすごい。
「今日は何たべるの?」
「さぁ…お前と一緒でいい」
「えへへーじゃあ横綱ラーメンにしようね」
「やっぱ中華丼にするわ」
「むぅ…」
凛はすっかり宗昭に懐いていた。
そして、昼食を共にするのはこの二人だけではない。
和やかに教室を出る二人を、ゆるく見送っていた馨
彼は忘れていた。
「か〜おるちゃんっ!ご〜飯し〜ましょ〜っ」
「ひぃっ!!」
その声に、全身が氷のように固まる。
背中にのしかかられても、振り払う勇気はもちろんない。
「ほらほら〜〜そんなとこで縮こまってなぃで〜置いてかれちゃうよぉ〜?」
「い、いやオレはっ…!」
いいです、本当ここで氷でいさせてください。と、全身で拒否アピールをするが、
そもそも相手は馨の返事など聞く気がない。
「行こ行こ〜〜っ」
「ぎゃぁ…!」
容赦なく首根っこを摘まれ椅子から離された馨は、ずるずる引きずられるように連行されてしまう。
・・・
あの日、馨が最後の晩餐を覚悟した後のこと。
なぜだか馨はこの市村亮平に気に入られていた。
あのツッコミが炸裂した時、
「平凡がっ!調子に乗んじゃねぇ!」と、ボッコボコされて死ぬ
その時の馨はそう確信していた。
…正確にはまだ今もちょっとその可能性は捨てきれていないでいるのだが。
とにかくその時、じわりと出てくる涙で目が潤むのを自覚しながら「田原馨です・・・」と名前を告げたのは記憶に新しい。
結論から言えば、彼は何もしなかった。
「そっかぁ〜馨ちゃんねぇ〜…よろしく〜」
そう言ってなにやら怪しげに微笑むだけで終わられるのも、また別の意味で恐怖なのだと馨は知った。
「いえいえ、よろしくなんてしたくないです。マジで」と心の中で絶叫しながらも、
ただ渇いた笑いを浮かべるしかない。
・・・
「あ、
オレ焼き魚定食にしよーっと。かおるちゃんはー?」
「…俺も同じにします…」
「気が合うねー」
「えぇ…はい」
その日からこうして亮平が昼食に馨を連行するという光景がお馴染みとなっていた。
亮平が遠い目をする馨を隣に座らせて、4人は仲良く…今日も学食に静寂をもたらす。
3人の食事が進む中、馨は一人誓う。
もう、ツッコミはするものか…と。
こうして悪魔(亮平)にとり憑かれたのも、全て自分のこの威勢のいい右手が原因だ。
当時の自分を思い出しては、悔やんでも悔やみきれない。
「かおるちゃん静かだね〜〜どうしたの?あ、もしかして生理?」
「ってんなわけあるかぁっ!!」
…
……慣れとは怖いものである。
にゃん#>
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