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こねことおおかみ/完結
こねこの決意
「明日かぁ・・・・」


廊下を一人とぼとぼ歩く足取りは重い。


腕の中でころころと甘える愛猫がちょっと憎らしいくらいに


凛の心はあの日からもやもやと晴れることがないままである。





「みゃーこさん。そんなに浮かれて、タケちゃんせんせのせいでおなかぽっこりのくせに」

「にゃーぁ」


「僕がこうして助けに行った時も食べてたでしょ?だめだよ。せんせはみゃーこさんには甘甘なんだからね」

「みゃ」


「よしよし・・・・・ひどい事言ってごめんね・・・・」









窓から見える夕日

あれが沈んで朝が来るまでには答えを出さないといけないのに



明日の終業式までに・・・・





今しがた武下にその旨を告げられた凛は、

もどかしさと焦りからなのか、とりあえず都を奪還することで武下に一矢報いた。(気分的に)











恋人も






愛猫も






なんだか遠くに感じて






















ジンと目の奥が熱くなる。



「・・・・・ぼく、どうしちゃったんだろ・・・・」

















ぎゅっと目を瞑った小さな頭を、




ぽんぽんと優しく撫でる大きな手















「涼宮くん」



「壮にぃ、せんせ・・・・・」























「・・・悲しい顔ですね」

「え・・・・?」

「眉がこんなに下がって、寂しそうな目をしてますよ」


労わるように微笑む壮一。

二人は廊下の隅で壁を背に、並んで腰を下ろしていた。





「辛い事でもあったんですか?」

「・・・・・・」フルフル

「喧嘩をしてしまったとか」

「・・・・・・」フルフル




心配そうに問いかけられてもただ首を振って答える凛。
壮一は そうですか。とそれだけ言って、またぽんぽんと頭を撫でてくれた。









「むーくんを見るとね・・・」


夕日が少しずつ姿を消し始めた頃





「むーくんを見ると、ここがね、ぎゅーっとなって。そしてずくずくってして、なんだかまっくろになるの」



「・・・・・・」





「ぎゅーって、なるのは前からだけど、それとは違うくて、それはもっとぎゅーってしたあとにぽかぽかってなるんだけど、

これはなんか、治らない傷口みたいに、ずっとずきずきする感じがするんだ」









せんせ、ぼくどうしちゃったんだろうね・・・・




都に顔を埋めながらしゃべる声は、誰もいない廊下では小さくともきちんと壮一の耳に届いた。









「この時期は・・・・自分の将来を考えるこの時期は、なんだか自分だけ取り残されているような気になります」

「・・・・・・・・」

「周りがみんな大人に見えて、自分もちゃんとしなきゃって不安に駆られる。・・・・そんなことはありませんか?」

「・・・・・うん、あるかもしれない。あのね、むーくんは、むーくんは大学に行くって。・・・・俺は大学に行くって言われて、なんか・・・なんだか・・・・」


「裏切られたように感じた?」






「っ・・・分からない・・・・ただ、僕の知らないむーくんが頭に浮かんで」








怖くなったんだ







震える声を絞り出し、凛はまた都に顔を埋める。










そんな凛を見て壮一は静かに言葉を選ぶ

「涼宮くんだけではないと思います」

「・・・・?」

「みんな、同じように悩んでいるんですよ、きっと。選んだ道が正しいかなんて誰にも分からない。私だってこうやって教師という道を選んだことが正解なのか、未だに分かっていませんよ?」

「そうなの?壮にぃせんせも・・・?」

「えぇ」

おどけた笑顔を向ける壮一に、凛の曇った顔も少し影を潜める。



「将来への漠然とした不安は10代の若者にはむしろ必要なことだと思います。そうやって悩んだ分だけ、きっと納得のいく結果につながると思います」


なんて、教師っぽいこと言ってみました。と、いたずらした時のような無邪気さを含んだ顔の壮一に、凛の顔にも明るさが戻る。




「ふふっ。壮にぃせんせは、せんせだよ」

「そうでした」







「涼宮くん」

「なんですか?」

「不安ならそう言えばいいと思います」

「・・・・・・」

「例えば君の大切な人がとても悩んでいて。ずっと一人で抱え込んでいます。どうしたのか尋ねても、なんでもない と悲しそうに笑われたら、君はどう思います?」

「・・・・・・寂しい」

「今、君の大切な人はそう思っていると思いますよ」



「僕は


  ・・・むーくんを悲しませたくないよ」




「ふふ、そうですね。ではもうやるべきことは分かっていますね」




「ちゃんと、思ったことを言う?」


「そうです。うまく言おうとしなくてもいいんですよ。彼ならきっと涼宮くんよりもっと君の事を理解していると思いますから」






それを聞いて、

立ち上がった凛の顔からはすっかり迷いは消えていた











「壮にぃせんせ、なんだかせんせって感じだね」

「私は教師です」

「そうでしたー」






ちゃんと言おう



むーくんに聞いてもらおう








だって





僕は















むーくんと一緒に






いたいんだよ










<*わんにゃん#>

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