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こねことおおかみ/完結
馨の気持ち











「素敵な絵ですね」

「ぅお!・・・ちょっと先生、びびるじゃん・・・」

「これは失礼」


美術室は馨のお気に入りの場のひとつである。

部活時はもちろん、芸術特待である馨はこうして一般生徒が授業を受けてる間に芸術の授業があるため、週の結構な時間をここで過ごすこともある。

現在進行形でその授業中なのだが、他の生徒はそれぞれの作業や創作で出払っていたため、馨は広い美術室で静かに絵を描いていたのだ。


そんな時に耳元で声がしては驚くのも無理はない。


ドアを開ける音も足音もしなかったのだ。







・・・俺が集中してたからだと思いたい。




お気になさらず、と少し離れた場所に腰を下ろした壮一は相変わらず爽やかな笑顔を纏っているため、もう何も言わない。と馨は再び筆を手にした



のだが。





「・・・・先生、やっぱりお気になります、存分に」

「田原くんは水彩画が好きなのですか?」


「え、無視?」

「とても綺麗な青色ですね」

「・・・・・・・・」




華麗なスルースキルをいつか伝授してもらおうか


そんなことが頭を過ぎったが、続いた壮一の言葉にそれは飲み込む。



「あぁ、青色ね・・・・」

描き途中の自分の絵を見ながらくすくす笑う馨

「・・・なにか、おかしなことをいいましたか?」



「ごめん、ちょっとした思い出し笑いです」

  
  

 でもまさかそこを褒められるとはなぁー」


目の前の絵はメインが花々で、青色といえば背景の空を彩るくらいなので決して最初に目に留まるものではない。





だからこそ馨は嬉しかった。


「・・・・前にさ、海の絵を描いたんだ。

 海って青いけど、青じゃない感じがするじゃん?青緑っぽかったり、日の光できらきらと白っぽかったり。なかなか思うような色にならなくて、何十種類もいろんな青を作ってめちゃめちゃ練習したんだ。だから今では青は俺の得意色だよ」









それから作業をしつつ、壮一と時折言葉を交わす。






「油絵とか結構好きだったんだけど。

 その海の絵を描いて以来、水彩画にはまってさ。



 透き通るような色合いが好きなんだ。







 2年からは芸術の授業も増えるし。

 もっと水彩画勉強しようと思ってさ」



丁寧に筆を運びながら語る馨の表情は活き活きとしていて、聞いている壮一も穏やかに笑みを浮かべている。







「美術部の副部長にもなるんですか。凄いですね」

「多少忙しくなるくらいだけどね。でも楽しいから」


「好きなことにそれだけ打ち込めるのは素晴らしいです。夢があっていいですね」

照れたように笑う馨

「夢かぁ・・・・・



  あ!父さんの知り合いに憧れの画家がいるんですよ!」

「お知り合いに、ですか?」


「そう、うちの父親美術商とかいろいろやってんだけどさ、それでちょっと知り合ったみたいなんだけど、

 俺昔っからその人に憧れてて!本当すげぇの!
  



 だからさー、俺もいつか・・・・・・・」


ピタリ


と 筆が止まる。




同時に馨の表情も固まった。








「田原くん?」


「・・・・・いや」


言葉を濁す馨

カシャカシャと筆を洗う手は少し震えていた。












「いつか・・・・・・留学ですか?」

「っ・・・・」

静かな美術室に

その一言はひどく響いた。






どうして分かったのか と問うような馨の目に

壮一は優しく言葉を発した。




「そこまでの熱意のある君なら、・・・きっと行きたいと思ってるんじゃないかと思いまして」




<*わんにゃん#>

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あきゅろす。
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