@ユーリと 「んん」 おかしい 「んー…んん、」 やはり、おかしい テテオはとある人間を睨み付けんばかりに凝視していた。まさに穴が開くのではないかというほどに。それはつい先刻に始まり、視線を向けられている本人も流石に無視していられなくなるほどの眼力だった。その熱視線を贈られているのは、このギルドでは年上の部類に含まれる青年。 「…テテオ、お前さっきから何だ?」 「ん、おかまいなく」 「できるか」 ユーリがとうとう我慢ならずに振り向けば、気にしないでと手をヒラヒラさせるテテオ。しかしその瞳はユーリから離されることはなく、言動と行動の矛盾が生じる。 流石にいつも以上に様子がおかしいテテオに、ユーリもいささか不安を覚える。真剣そのもののその瞳からは残念ながら、この少女の思考を読む事は出来そうになかった。 「…なぁ、何を見てんだ?」 「ユーリだよ」 「そうじゃねぇ、理由だよ理由」 そんなに此方を凝視する理由は何だ。ユーリはそう言って、テテオの頭に手を乗せようとする。 しかし 「駄目!」 「は、」 テテオは得意の瞬発力を生かして数歩後ろへ飛び退く。その気持ち良いくらいの拒絶行動にユーリは片眉を上げて頬を痙攣させる。 この行き場を失った左手のなんと情けないこと。ユーリはその拳を握り、自分から距離をとって尚、此方を凝視する事を止めない少女を見据えた。これはどこぞの女性恐怖症の軟派な青年を思い出す。今の彼女のの姿はまるで敵を警戒し牽制するように威嚇する小動物。 「俺が何かお前の気に障る事でもした、とか?」 「違うよ」 「それとも、俺が怖い?」 「ううん」 「なら、この距離は何て説明する気だ」 ユーリが一歩近付けば、テテオもそのぶん下がる。そして何より、これ以上近付くなというテテオの無言の圧力。 わけがわからないユーリは、不信感をこめてテテオを睨み付けた。流石のユーリでも、理不尽な拒絶はそれなりのダメージだ。 「あ…、ごめん」 すると流石にそれに怯んだテテオは、途端に困ったように眉尻を下げる。どうやら本当に悪気はないようで、ユーリは小さく安堵する。 「ユーリ、怒ってる?」 「この状況がまだ続くってんなら、それもあるかもな」 腰に手をあてて覗き込んでやれば、テテオは小さく肩をすくめる。流石に、もう距離をとろうとはしなかった。 その瞳はユーリを見上げたままに反らされることはなく、彼女の身体と心が別々の対応をしていることを物語った。 テテオ自身が一番それを疑問に思っているらしく、終始喉から唸っているのだ。 「どうしたよ、お前」 「…分からない。私、おかしくなったのかな」 「もとからだろ」 「ユーリの大嫌い」 「ほらみろ、根本的にお前それだから」 「ユーリなんて馬鹿」 「お前なんてもっと馬鹿」 ユーリの馬鹿、ユーリなんて大嫌い、どうせ言いたかったのはそんなところだろう。まだまだ舌足らずなディセンダーだ。 それを鼻で笑って見せれば、気に食わなそうにテテオは顔をしかめた。そう言えばコイツ、さっきから険しい顔ばっかりしていないか。 「んな眉寄せてると皺になるぞ」 「しわ?」 「これだ、これ」 ぐりぐりと、皺を伸ばすように眉間に人差し指を押しつける。 いたいいたい、そう言ってテテオは更に力をこめた。ちょっと待て、それじゃあ逆効果じゃねぇか。それに比例して押す力を強めれば、皺も更に更に深まる。 「いたちごっこじゃねぇんだから、たく」 「いたち?」 「キリがねぇ、てこと」 ふぅ、とユーリは息をつき、テテオの額にデコピンをして腕をおろした。 しかしテテオは依然としてムスッとしたままだった。 「…お前、やっぱり怒ってんじゃねぇの?」 「怒ってないよ」 「何かあったのか?」 「何かあった」 「だってね、今日のお昼にカノンノが言ってたの」 テテオは先刻の出来事、つまり事の起こりを語り出した。 それは、いつも通りにパニールの作ってくれるランチをカノンノと二人で待っている時のこと。 『ねぇテテオ』 『うん?』 『何だか最近、ぼうっとすること多くない?』 『そう?』 身に覚えのなかったテテオは、コテンと首を傾げる。そうすれば、カノンノは両手でテテオの頬を挟むように持ち上げた。 『?』 『んー』 『なぁにカノンノ』 『風邪じゃないよね』 『違う、違う違う!』 『ふふ、苦いお薬飲ませようなんて思ってないよ』 『良かった…』 『それにしても、風邪みたいな症状だよ』 どうしちゃったのかなぁ、カノンノはキッシュをパリパリと頬張りながらテテオを眺める。テテオは困ったように眉尻を下げたあと、ふと無意識に視線を横に流した。 『…?』 その様子に気付いたカノンノは、その視線の先を追う。そして、目を見開いたのだ。 『テテオ、貴女もしかしたら…』 『?』 「“もしかしたら”?」 「“恋しちゃったんじゃないの”だって」 「ぶはっ!!」 まさかそんな単語が彼女から出てくるとは思っていなかったユーリは盛大に吹いた。 勿論、テテオはまた顔をしかめることに。 「悪ぃ、謝るわ」 「ユーリなんてば「悪かったって」 更にムスッとなってしまったテテオに、これ以上は流石にマズイかと謝りをいれるユーリ。 まさかだったのだ、この少女からこんな話を聞くことになるとは思いもしなかった。 「…でもやっぱり、何か違う気がしてきた」 ユーリは未だ思案げに首をひねる少女を見る。 おや、思い直すことになったのか。まぁそれでも構わない、消す相手が減っただけ …って、おい。ちょっと待てよ俺 何か引っ掛かりを感じるユーリは、一瞬眉をひそめる。 「…なんでまた?」 「だって恋って、素敵な気分になるものだってカノンノが言ってた」 テテオはガタッと椅子から立ち上がり、部屋の出口であるドアに向かう。 その背中に目線をやれば、チラッと此方を見る彼女と目があった。 「でも、ユーリといるとなんだか変な気分になるよ」 「…は、」 「私がもっとおかしくなる感じがする。やっぱり素敵な気分なんて分かんない」 だからもう一度、カノンノに確かめてくるよ。 テテオはクルッと背を向けて部屋から飛び出していってしまう。 その揺れた髪の合間から見えた耳がほんのり赤いことに気付く。 ユーリは暫く放心してから、ガタガタッと先程のテテオより派手に音を鳴らして椅子から立ち上がる。 倒れた椅子に見向きもせずに、部屋から飛び出し、いつも甲板で物語を書いている少女のもとへ向かうであろうディセンダーを追いかけるようだ。 「サラッと言うことじゃねぇだろ…ッ」 カノンノのもとに辿り着く前に彼女を捕獲しなくては、こんな機会は二度と巡っては来ないだろう。 「感が鈍っちまったかなァ、最悪だぜこりゃ」 これも彼女の雰囲気にあてられたせいだ、誰だってあんな不意打ちくらうとは思いもしないだろう。 そうして気付いた。いつになく顔の筋肉が緩んでしまい、腹のそこから興奮してしまっている自分に。 「さて、急ぎますか」 はじめまして恋心 (うわ、ユーリ?)(さ、もう一度ゆっくり話し合おうな)(なんで?)(顔が真っ赤なお嬢さんの悩み相談だ) _____ ユーリが鈍感すぎました、話しの流れ的に気付けよ! ディセンダーは終始ムスッとしてましたが、それはユーリと一緒にいるとウズウズ(?)するから。それに違和感を感じてたわけで…つまり恋(*^^*) この後、ユーリにこてんぱんに甘やかされてしまう予定←ツンデレか というかいつ彼等は座ったんだろう(・∀・) [戻る] |