[通常モード] [URL送信]
@スパーダと

「ディセンダーはね、記憶も何もないけれど、恐れも知らないの」


ねぇカノンノ、それって




まるで人ではないみたい




甲板から海を見下ろす。
すると水面の自分の影の隣に、もう一つの影が映る。

「なぁに」
「べっつに」

つい、と首を捻れば帽子の似合う緑髪の男の子。
いつもどこか詰まらなそうにしていて、けれど何か面白いものを探しているのが印象的。

「お前こそ、何かあんの?」
「ん…」

テテオはピクッと肩を揺らす。
何に対しても無関心そうに見えて何かと鋭いこの少年が、どうにも苦手。
特にテテオが考え事を始めると、いの一番に気付くのも彼。
そうして言葉巧みに、洗いざらい吐かされてしまうのだった。
テテオは渋い顔をした後、また視線を戻す。

「恐れって、何?」
「はぁ?」
「私には、分からないんだって」

ディセンダーは
恐れを知らないんだって

「それって、良いこと?」

テテオは眉尻を下げて、俯く。

「そりゃ、恐いもんがねぇってのは気が楽だよなぁ」
「どうして恐いものがないと、気が楽なの?」
スパーダは眉根を寄せてから、面倒くさそうにため息をつく。
ヒョイと自分の帽子を人差し指にひっかけて、くるりと回す。

「例えば、お前なら大抵の女が怖がるゴキブリに余裕で立ち向かえるとか」
「え」
「あ、てかむしろあれか。好奇心に負けて捕まえようとしてたのか」
「あのあとティアに見せたら悲鳴あげられて、カノンノに怒られた」
「捕まえたのかよ」

流石じゃん、とスパーダは笑い声をあげて甲板に凭れる。
ひとしきり笑って、ポスンと頭にあの帽子を乗せる。
似合うなぁとぼんやり見上げていれば、悪戯好きそうな笑みが浮かぶ。

「恐いもの知らずって、まさにお前だよな」
「それ、嬉しくない」
「そりゃそうだろうな」

ゴツンと額を額にぶつけてくる。
クスクスと至近距離で、スパーダの笑い声。

「なぁ」
「なぁに」
「…やっぱ、何でもねぇ」
「何?」
「駄目、お前」

グイッと肩に力を入れられて、額が離れる。
不思議に思って顔をあげれば、少し頬の染まった緑の似合う彼。
あの悪戯な笑顔は、どこに行ってしまったのか。
「私、駄目なの?」
「…なぁんか、な」

なんだか、怒られたような気分。
テテオは眉尻を下げて傾く。

やっぱり、
私は…


「いんだよ、別に駄目だって」

ギュッ。
背中に回された思ったより大きな腕。
肩に、小さな吐息と囁き。

「お前はお前。恐いもんがないってのがお前だ」
「皆には恐いものあるのに?」
「皆は関係ねぇっつの」


お前は、お前だろうが


その、当たり前でシンプルな言葉が
あまりにも優しすぎて


「…ありがとう」

いつもいつも、
悩み事をぶっ飛ばしてくれる君が、大好き。

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!