見上げた天はどこまでも続く蒼穹。 少し暑く感じるが、時々吹いてくる風が気持ちよい。 電車に揺られ目的地に着いた三成は、すでに疲労を抱えていた。 自らの意思で遠出をするなど滅多にない。 しかも初めて行く場所に一人で、というのはどうにも心細かった。 とりあえず、三成は客待ちをしているタクシーの先頭に向かった。 近づくと、運転手は笑顔で三成に気づき、ドアを開けた。 座席へと乗り込む。 「どちらまで?」 軽い口調で振り向いた運転手は、まじまじと三成を見た。 頭の先から足の先まで、じっくりと。 無遠慮な視線を受け、三成は不機嫌を露わにして睨みつける。 「なんだ」 「ああ、いやいや……むかしむかーしの知り合いに似ていたもんでね」 ──どうも気にいらない。 対抗して、三成も運転手を観察してやった。 大柄な男だ。 長い前髪が目の上にかかっており、ちゃんと前が見えているのかと三成は疑問を抱く。 「……ここへ」 色々と言ってやりたい気持ちはあったが、降りるのも面倒で、とりあえずメモを運転手に見せる。 目的地の住所が書かれただけの素っ気ないメモは、先日、吉継から渡されたものだ。 「へぇ、ここ……ね」 メモまでじろじろと見る。 失礼な奴め、と三成は思った。 「さっさと出せ」 「はいはい、わかりましたよ、っと」 苛立つ様子を察してか、運転手はそれ以上はなにも言わずに、タクシーを発車させた。 流れゆく外の景色を、ぼんやりと窓越しに眺めながら、発つ時に吉継と交わした会話を思い出す。 「貴様は行かないのか」 訊けば吉継は、笑って返す。 「どうした三成よ、不安か」 「不安など……」 まったくない、と言えば嘘になってしまう。 一人の遠出を怖く思うほど三成は臆病でも子どもでもないが、知らない地へと赴くにあたり、案内人がいないのは少々落ち着かない。 吉継はメモにある場所を知っているのだろうし、行ったこともありそうだったが──。 「天気予報を見た限り、全国的に快晴よな。われは陽射しを好かぬゆえ」 と同伴を断った。 フードやらマスクやらを常に必要とする彼は、日光過敏症である。 それをよく理解している三成は、無理強いしなかった。 「ぬしは、行くことを決めた。繰り返しの夢と、涙のわけを真に知るために。その決意さえあれば、案ずることはない」 行けば、きっと掴めることがあろう。 われはここで見送る。 ぬしが、なにかを掴み戻ってくることを願う──。 [*前][次#] |