「おかえり、ファルコ」
好きか嫌いかと聞かれたら
『大っ嫌い』
本当に?と聞かれたら
『…』
そんな自分でも良く分からない感情を抱いている、
この部屋の持ち主でもあった相手は、もうこの部屋には居ない。
そして、以前そいつが使っていた家具も、雑貨も、クッションさえも既に処分済みだ。
残しておいても、その家具を必要としているそいつは もうここには帰ってはこないからだ。
それに、そいつの匂いが染み付いた物なんて残しておいても気分が悪いだけだ。
ただひとつ、このソファーを除いて。

ソファーに体を預けると、ふわっと懐かしい匂いが舞い上がった。
「ファルコ…」
どんなに意地を張っていても、どんなに忘れようとしていても途端に会いたくて会いたくて仕方がなくなる。
ソファーに鼻先をくっつけると、ファルコが良く好んで吸っていたタバコの臭いが染み付いていた。
嫌いだったはずのタバコの臭い。
それさえもが愛おしい。
会いたい、会いたい、でも会えない。
もし、もしファルコが帰ってきてくれたら。
何て言おう。
ごめんなさい?会いたかった?違う、もっと簡単な…

「…ファルコ?!」
音も立てずに目の前の扉が開かれた。
「あ、れ…?」
そこには、会いたくて会いたくて仕方がなかったファルコが困惑した表情で立っていた。
ついに幻覚までもが見えるようになってしまった様だ。
「悪ぃ、間違えた」
目を閉じて、もう一度目を開くと、そこには何もなかったかの様に扉も開いた形跡もなく、もちろんファルコの姿も無かった。
「はぁ…、何だよ…」
夢なら途中で覚めないでくれ、最後まで見せてくれたって良いじゃないか。
夢の続きが見れることを少しだけ期待して、俺はまた目を閉じた。
次に目を開いた時に、もう一度扉が開けられて、幻でも何でも良い、
そこにファルコが立っていたなら。
何て伝えよう。


Thanks:) 樹鳴サマ


あきゅろす。
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