もっと甘く
お皿の上にはたくさんのさくらんぼ。
ファルコの買ってきたさくらんぼは『どうぞ私たちをお食べください』と言わんばかりに、赤く美味しそうに輝いている。
あいにくファルコは、席を外していてここには居ない。
希に見る盗み食いのチャンスだ!
右見て左見て、誰も居ないのを確認して
それではお言葉に甘えて。
1つだけさくらんぼを手に取って口に含む。
ほんのりと口内に広がる甘み。
もう1つ欲しくなって、吐き出した種と交換に、また1つだけさくらんぼを手にとって口に含む。
さっきとは違う口内に広がる酸味と
「痛っ!」
じんわりと頭部に広がる痛み。
恐る恐る見上げると、いつの間にか背後に立っていたファルコが見下ろしていた。
「ま、まだ食べてない!!」
とっさに出た言い訳に、ファルコは俺の口からはみ出したさくらんぼのヘタを弄び
「お前なぁ…」
俺の口からその茎を取り上げ、ため息をはいた。
「一緒に食おうと思ってたんだが」
お皿から1つのさくらんぼを取り出して口に含み
「我慢できなかったか?」
そのまま、俺に口付けてくる。
「ん…!?」
何度かの触れるだけの口付けの後に、まるで親鳥が雛に餌を与えるかのように
ファルコの口から俺の口にさくらんぼが移されてきて慌てて顔をはなす。
「な、何すんだよっ!」
「んー?」
ファルコは何も動じた様子もなく、新しいさくらんぼを手にとって口に含む。
「まだ欲しいんなら、いくらでもくれてやるぜ?」
そう言って、ニヤリと笑うファルコに背を向けて
「1人で食べれる」
口の中に残ったさくらんぼのヘタを舌で弄ぶ。
意味もなく口の中でヘタをもごもごさせながらファルコに身を任せる。
「確か、さくらんぼのヘタが口の中で結べたら」
「キスが上手いってヤツか?」
ファルコの答えに頷くだけで応えて、口の中でさくらんぼのヘタを結ぼうと格闘する。
何度試してみても上手く行かなくて、お皿の上から減っていくさくらんぼを黙って見つめる。
「お前には出来ないだろうなぁ?」
振り返ると、意地悪く笑ったファルコと目が合った。
ここでさくらんぼのヘタを結ぶのを諦めてしまったら、何というかキスをするのが下手だと言うことを認めてしまうような気がして、意地になってヘタを結ぼうと試みる。
「あぁ!もう!」
何度やっても結果は一緒で
「だから、お前には出来ねえって」
それは遠回しにキスが下手だって言われてるような気がして、
「そもそも、何でさくらんぼのヘタが結べたらキスが上手いんだよ!」
悔しくて口に残っていたさくらんぼの種をファルコにぶつける。
「上手いか、下手か」
そう言ったファルコの舌の上には、
「試してみるか…?」
器用に結ばれたさくらんぼのヘタが乗っていて。

俺は言葉を失うのだった。



Thanks:) 水波ちりサマ


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