シルシ
いつもの大通りに見慣れない屋台があった。
何の屋台だ?と思う間も無く、その屋台からは殺意を感じるほどの甘い匂いがしてきた。
その匂いだけで何の屋台なのかを即座に理解し、すぐにでもこの空間から逃げ出したくて歩く速度を上げるが
「クレープだ」
同伴者のフォックスはついて来ない。
どうやら、その屋台に興味を示してしまったらしく、立ち止まっている。
「そんなもん、子どもが食べるもんだぜ?」
「分かってるけど…」
フォックスはクレープを見たり、俺を見たり、財布と相談したりを繰り返して

「行くぞ、ファルコ」
ここに立ち止まってたのはお前のせいだからなオーラを醸し出しながらようやく歩き出した。
「良かったのか?クレープ」
「あんなもん、子どもが食べるもんだ」
先を歩くフォックスのだらしなく下がった尻尾を眺めながら
「美味しそうだったのになぁ?」
散々悩んで出した答えを惑わす。
「今度来た時には、もうクレープはやってないだろうなぁー?」
「…ファルコー…」
優柔不断のあいつが、音を上げて振り返るのと同時に
「ん」
こっそり買っといたクレープを手渡す。
「いつの間に買ったんだ?!」
「良いから早く食え、アイスが溶けてきてんだ」
フォックスはそれ以上追求せずに嬉しそうにそのクレープをかじると
「コレはジェラートって言うんだ」
生意気に笑った。
「スプーンとかないのか?」
「…っ」
その生意気な顔ごとぶっ飛ばしてやろうかと思った。
「クレープ、何で?」
溶けて流れ出したアイスと闘いながらフォックスは聞いてくる。
何でって
「お前の…」
笑顔が見たかったから。
「俺の?」
「何でもねえ。早く食っちまえよ」
自分の気持ちを伝えられないもどかしさに
「ファルコー!!!」
クレープの上の赤いイチゴを取り上げる。
「取られたくなかったら、シルシでも付けとくんだったな」
文句ありげに睨んでくるフォックスを無視して、取り上げたイチゴを口に含む。
取られたくなかったら、か…。
口の周りにクリーム付けて悔しそうにクレープにかじりつくフォックスを見ながら
シルシを残せそうな場所を探すのだった。



Thanks:) (・∀・)サマ 名無しサマ


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