ごちそうさま
眠れない夜は何故か喉がかわく
そのかわきを癒すために
冷蔵庫のあるキッチンまで行こうとしたら
情けなく尻尾を垂らしたフォックスの姿が頭を横切った。
「ッたく…」
喉を潤すついでに読み慣れない料理の本を片手に持って部屋を抜け出した。

____

眠れない夜は何故か腹が減る
その空腹を満たすために
冷蔵庫のあるキッチンを目標に歩いていたら
何故かキッチンの机の上から違和感を感じた。
「ひょっとしたら!」
夕飯の時間を寝過ごしてしまい、今日はもうご飯にはありつけないだろうなと思っていた。
せめて何か即席で作れる食べ物でも無いかと黙らない腹の虫をなだめキッチンまでたどり着いたところだった。
そんななか俺の目に入ったものは、机の上に不自然に残された大好物のオムライスひとつ。
そのオムライスにはケチャップでぶっきらぼうにメッセージが残されていた。
「"Eat!"…か」
オムライスに書かれていたメッセージを小さく朗読して、横に置いてあったスプーンに手を伸ばし椅子に腰をおろす。
誰かが俺のために作っておいてくれたんだろう。
オムライスが食え!って言ってるんだから、もちろん遠慮なんてするつもりはない。
遠慮なんかしたら、食え!って言っているオムライスに失礼だ。
「いただきます!」
スプーンですくえるだけすくって、ひとくちだけ恐る恐る食べてみる。
そうしたのは、ちょっとだけオムライスの形が歪だからだ。
オムライスは作られてからだいぶ時間が経っているようで少し固かった。
このオムライスは誰が作ったものなんだろう。
とろっとしないカチカチの卵。
おおざっぱに切られた野菜。
効きすぎた塩コショウ。
「…でも、嫌いな味じゃない」
この味付けなら毎日食べても、きっと食べあきない。
これからずっと、一生でも。
そんな気になれるほど好みの味付けだった。
「これを作ってくれたのがファルコだったら良いのになー」
そう呟いて、最後のひとくちを味わってから腹にしまいこんだ。
「もうこんな時間か」
時計を見るついでに何気なく目をやったシンクに少し見覚えのある忘れ物があるのに気が付いた。
「やっぱり」
シンクに食器を置くついでに、その忘れ物を持ち上げる。
「お前が作ってくれたのか」
それは間違いなく、あいつが購入していた料理の本だ。
本を開くと折り目が付けられて開きやすくなったオムライスのページがいちばんに開いた。
他にも折り目が付けられたページはどれも俺の好きな食べ物ばかりだった。
「ごちそうさま、ファルコ」
ファルコが俺の好きな食べ物を覚えてくれていた。
それが偶然でもすごく嬉しくて。おかしくて。
…愛しくて。
あの不機嫌な顔に、直接ごちそうさまが言いたくて
深夜にも関わらずファルコの部屋に襲撃するのだった。




Thanks:) 狼虎サマ


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