伝えられない想い
部屋の明かりは窓から差し込む月明かりと、電化製品のわずかな明かりだけだった。
そんな明かりも目を閉じてしまえば、途端に闇へと消えてしまう。
今日もいつも通り目を閉じて闇に身を投げてしまおうと目を閉じた瞬間。
「ぅぐ!?」
身体が地面に押しつぶされるように上から押さえつけられ、その衝撃で肺から空気が漏れる。
胸を締め付けられるような苦しさで、声も出せないほど息苦しくなる。
自分の上に何か得体の知れない物が乗っかっている。そんな不気味な気配を感じた。
何だよ…!これが金縛りってやつなのか?!
自分の思い通りに動かせない身体が煩わしい。
待て待て待て待て。冷静になれ、俺。
俺、幽霊とかそんなの信じてねえし。
第一、怨まれる覚えもねえし。
大丈夫。大丈夫だ。気にせず寝とけば、次に目を開けた時には何事もなかったかのように朝になってるはずだ。うん。
「…ルコ!」
「あ…?」
聞き覚えのある声に、べ、別に怖くて瞑ってたわけじゃねえが、強く閉じていた目を開けると
「ファルコ!」
自分の腹の上にフォックスがのしかかり、俺を見下しているのが目に入った。
「人の上で何してんだよ」
幽霊じゃ無かったことへの安堵と、何で俺の上に乗ってんだよ。という怒りで何とも決まらない顔でフォックスを睨みつける。
「ファルコが、女に産まれていれば良かったんだ!こんなに!こんなに腰だって細いのに…!」
「はぁ?!」
はっきり言っていきなりの話の内容に全くついていけない。
俺の精一杯の調子外れの声をフォックスは気にもせず続ける。
「俺がファルコを幸せにしてあげれたのに!ファルコが辛い想いをしなくて良かったのに!!」
おいおい、何の話なんだ?!
「どうした、頭でも打ったのか?それとも怖い夢でも見たか?ん?」
両手をフォックスの顔に伸ばし、指の背で優しく頬を撫でる。
暗闇でフォックスの表情は良く見えないが、
「泣いてんのか?フォックス」
指に感じた冷たい感触は、間違いなく涙だった。
俺の手にフォックスの小さい手が絡んで来て
「泣いてるのは、ファルコの方だ」
自然な動作で顔から手を遠ざけられる…

と、思っていたのだが、がっちりとフォックスに掴まれた俺の手が勢い良くベッドに縫い付けられる。
「何しやがる、フォックス!!」
頭の上で体重をかけられた手がキシキシと痛む。
「ファルコ、腰細いのに…」
こいつ、こんなに力あったっけ…?
ってかどんだけ腰に執着してんだよ、細くて悪かったな!!
「おいフォックス、さっさと離しやがれ!!」
「俺が女に産まれて居れば、ファルコを俺のこと好きになってくれたのか…?」
暗闇では見えなかったフォックスの泣き顔が近づいてくる、近づいてきて初めて感じた違和感。
「お前、酔ってんのか?」
フォックスの涙が顎を伝って俺の頬掠めて落ちてきた。
「俺じゃ、…だめなのか?」
フォックスには似合わない酒の臭いが一段と強くなった時には、フォックスは俺の耳元で大人しくなっていた。
ッたく、飲めねえくせにこんなになるまで飲んでんじゃねえよ。
お前が男だろうと女だろうと
俺が男だろうと女だろうと
今更何も変わらねえよ。
朝になったら忘れてんだろうけど
「…お前だから好きなんだよ」
耳元で囁いといてやった。

伝えられない感情が
俺はお前を、お前は俺を
どこまで追い詰めちまってんだろうな。




Thanks:) 名無しサマ


あきゅろす。
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