寝不足の理由
部屋の扉を開けると
「あ?」
テレビ、照明、エアコンが部屋の主の帰りを出迎えてくれた。
部屋を出るときに全部消したつもりでいたのだが、激しく自己主張をする電化製品達を見るとどうやら消し忘れていたようだ。
賑やかな音を立てているテレビを消そうとリモコンに手を伸ばすと、テレビから聞き覚えのあるゲームのBGMが流れていることに気がついた。
良く見るとテレビの中でゲームの主人公が何者かに操られるように歩き回りストーリーを進めていっている。
リモコンを握りしめ、左上の電源のボタンを躊躇いもなく押すと
「うわ!」
ソファーで死角になっている位置から、間抜けな悲鳴が上がった。
「よぉ、フォックス。人の部屋で何してんだ?」
「おかえりファルコ!遅かったな!」
ソファーからひょいっと顔を覗かせたフォックスは、何事もなかったかのようにテレビの電源を入れてゲームを再開しやがった。
無言でリモコンを使いテレビの電源を消すと
フォックスも無言でテレビの電源を入れる。
再び電源を消しても、フォックスがすかさず電源を入れる。
「…」
しばらく、テレビの電源を巡っての攻防戦を繰り広げていると、ゲームよりテレビの電源を入れることに夢中になっているフォックスが口を開いた。
「ファルコ」
「ん?」
その間にもくだらない攻防戦は続けられている。
「いいかげん諦めろよ」
……!?
「ッてめェが!人の部屋に勝って上がり込んで…!?おいフォックス!それ俺のデータじゃねえか!!」
「安心しろファルコ!村人は俺が救っておいた」
「ふざけんな!勝手にストーリー進めてんじゃねえ!ッてか俺の部屋から出ていけ!」
爽やかな笑顔で親指を立てているフォックスのスカーフを勢いのまま後ろから掴むと、そのまま部屋の出口へと引きずって行く。
「ま、待て!ファルコ!」
フォックスはその途中にあった机の足を掴んで無駄な抵抗を始めた。
「早く離さねえと苦しくなるぜ」
「部屋の!俺の部屋のエアコンが壊れたんだっ!!」
スカーフから手を離すと、フォックスが苦しそうに咳き込む。
エリアによって温度差の激しい宇宙空間の中でも普通に生活出来るように、ある程度のエアーコンディショニングは母艦がしてくれてはいる。
しかし、ガタの来ている母艦のエアーコンディションシステムだけでは限界があり、急激な温度差には対応が出来ない。
そこで、各部屋ごとに簡易のエアコンが取り付けられ温度調節をしているのだが、どうやらそれが壊れてしまったらしい。
寒いのが平気なフォックスでも、流石にこればかりはお手上げだ。
「それで俺のゲームのデータを勝手に進めたって言うのか」
「そういうわけじゃ…」
さっきまでフォックスの居たソファーの裏側を覗き込むと、フォックスの持ち込んだ毛布で器用に巣作りがされていた。
フォックスを見ると、情けなく尻尾を垂れ下げてこちらの様子を机の影から伺っている。
丸まった毛布の巣を掴んでバサバサと広げて解体し、
「…ッたく、エアコンが直るまでだぜ」
自分のベッドにぶっきらぼうに投げ捨ててやる。



「もっと寄れないのか、ファルコ」
「誰のベッドだと思ってんだ?」
「誰の毛布だと思ってるんだ?」
ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。
話し相手が居るとあっという間に時間が過ぎてしまい、普段ならとっくに寝ている時間のはずなのに全く眠くならない。
「俺に毛布かかってねえよ」
いや、眠れない。
狭いベッドのせいで、落ち着き無く動くフォックスとどうしても肌が触れ合ってしまう。
普段は気にならない、時計の音、心臓の音、呼吸音、フォックスが消し忘れたビデオ画面のままのテレビ。
全てが気になって眠れない。
ッてか主にテレビが気になるんだが。
何で黒い画面なのにこんなに眩しいんだ?
「フォックス、今すぐテレビ消してこい」
さっきまで起きてたはずなのに、
「フォックス?」
先に眠ってしまったらしく、返事は返ってこない。
寝たのかどうか確かめようと寝返りをうつと、意外と近くに顔があり、フォックスの濡れた鼻が頬をかすった。
「…っ…」
その瞬間良くない衝動に駆られた。
ベッドが狭かったから、お前が落ちそうだから、寒かったから。
どんな理由を付けたら、お前を抱き締めても許されるだろうか。

お前を好きなことも、恋してることも

忘れてしまえるなら、どんなに楽になれるだろうか。

何考えてんだ俺。
自分の布団を掴んで、ソファーに移動し、ついでにテレビを消そうと起き上がると
「あ?」
フォックスの手が、俺の手を掴んできた。
寝ぼけてんのか、相変わらずの寝息で目は半開きになっている。
「どんな夢見てんだよ…」
ベッドから逃げようにも逃げれない。
諦めて大人しく布団の中に入ったが
つないだ手から伝わる体温とテレビの明かりが気になって今日は眠れそうにもなかった。



Thanks:) まるちゃん


あきゅろす。
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