ヤキモチやきました
「…ファルコ?!」
店の中に足を踏み入れた瞬間に
「あ?」
俺より先に入っていたファルコに声がかけられた。
「あたしよ、あたし」
「…ここで働いてたのかよ」
ファルコの後ろから顔を覗かして、店内を覗いてみると
「ファルコったら昔と変わらないんだから、すぐに分かったわよ。久しぶりね」
ファルコに声をかけた正体がカウンターの向こう側に居た女性の店員だということが分かった。
「お前も全然変わってねえな」
ファルコが店員と話をする度に胸が苦しくなっていく。
「奥の空いてる席に座ってちょうだい。あら、そっちの可愛い坊やは初めましてかしら」
店員がファルコの後ろに居た俺に気が付くと嬉しそうに手招きしてきた。
「コイツに手ぇ出すんじゃねえぞ!!!」
「あら、こわ〜い」



「でもすごいよな、昔の知り合いに偶然会えるなんて」
「悪かったな…」
席に座ってからも胸の苦しさは無くならないままで。
「……あ、そうだ」
俺から何か喋ってないと、ファルコの口からさっきの店員の話をされそうな気がして、意味もない会話をだらだらと話し続ける。
そうしていると喋り過ぎたのと、居心地の悪さで飲み干してしまった水を
「お水いれるわね」
すかさず店員がいれに来てその度に会話が中断される。
これで3回目だ。
何という悪循環なんだろう。
「…でさ、ファルコ」
「あ、悪い…聞いてなかった」
「…え、うん」
ファルコの視線の先を追っていくと、そこにはやっぱりあの店員が居る。
店員が近付けばファルコが何か言いたそうに口を開けるが、ファルコの口から言葉が発せられる前に俺が言葉を被せる。
ファルコの口から聞きたくないけれど、ファルコとあの店員はどういう関係だったのかな。
付き合っていたり、…したのかな。
スタイルもすごく良いし…。
考えたくない事が、考えたくないと思えば思うほど頭の中をぐるぐる回って
ついには泣きそうになってしまう。
そんなことを考えてるうちに頼んでいた料理が目の前に運ばれてきた。
ほかほかと美味しそうな湯気をたてているオムライスだ。
「これ、お前に食ってもらいたかったんだよ」
「あぁ、すごく美味そうだ」
美味そうだ。と言ってひとくち食べてみたけれど
胸が苦しくて、味が分からない。
ただ温かいだけのそれを咀嚼して、嚥下して。
仮面のようにはりつけた作った笑顔で、
「あ…美味いな」
俺は絞り出すように呟いた。
「何か今日のお前おかしくねえか?」
「へ?そんなことないだろ」
ファルコがスプーンをくわえたまま、俺を見てくる。
「そうか。なら良いけど、あんまり無理すんなよ」
ファルコのせいでこうなってんだ。とは言えず。
最後の一口を押し込んだのだ。



『悪いフォックス。先に出てくれ』
そう言われてファルコより先にお店を出てから随分経つ。
「ファルコに奢ってもらってしまった…」
ドアのガラス越しにファルコと店員が見える。
「何話してるんだろう」
俺の知らない時代のファルコを知ってる店員が羨ましくて
楽しそうに会話してるファルコが悔しくて
あの空間に入れない俺が憎くて。

こんなに醜い感情を抱いている俺。
あんなに明るい場所に居るファルコ。
ドアを境に、醜い感情が溶け込んでしまうほど暗い場所に居る俺。
あまりにファルコは遠すぎる。
胸の苦しさが一層と強くなった。

「待たせて悪かったな」
「え、いや大丈夫だ!」
境目のドアが開いて、明るい場所から暗い場所にファルコが出てくる。
「帰るぞ」
背を向けて歩き出したファルコに置いて行かれないようについて歩く。
「なぁ、ファルコ。さっきの店員、すごくキレイだったけど、ファルコとは…付き合ってたのか?」
「…ッ?!」
急に立ち止まったファルコが目をまん丸にして俺を見てきた。
「おい、フォックス…。ひょっとしてあいつに気があるんじゃねえだろうな?やめとけ。あいつだけはやめとけ」
「え…、すごくキレイだし、スタイルも良いし…む、胸だって大きかった、し…」
もごもごと語尾が小さくなっていく。
思い出せば思い出すほどファルコが好きになりそうな人だった。
ファルコを見ると、大げさに額に手を当てて大きなため息を吐いていた。

「あいつは "男" だ。騙されんな!」
「…う、えぇええ?!」

「だからあいつだけはやめとけ、な?」
ファルコがポンポンと俺の肩を叩きながら言ってくる。
…え?
「…ッたく、久しぶりに会って金貸してること思い出してよ。あのまま会わなかったら踏み倒されるところだったぜ」
「………」
「な、フォックス。せっかくだからこの金でどっか飲みに行かねえか?」
「あ、あぁ!!」
ファルコが肩を組んでさっき来た道を引き返す。

「ファルコ、歩きにくい…」


好きになれば好きになるほど、自分のことが嫌いになる。
こんな醜い感情を抱く自分が嫌いになる。
こんな醜い感情を抱かせるお前を嫌いに、なれない…。
これから先、俺は何度こんな感情を抱くんだろう。

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