この手ぴったりの
―ピピッ

「ん?」
突然聞こえてきた電子音に飲もうと思って淹れたばかりだった紅茶の入ったカップを机の上に置いて
「何の音だろう」
手の届く範囲で電子音の正体を探してみる。

―ピピピッ

机の上も下も、雑誌の間も、クッションの下までも探してみたけれど、それらしきものは見当たらない。
「どこで鳴ってるんだ?」
聞こえてくる電子音は次第に音と音の間隔が短くなっていき

―ピピピピピピピピ

今にも
「爆発したりしないよな!?」
そんな感じだった。
ひとりごちながら、立ち上がってキョロキョロと正体を探す。
正体の分からないものを探すのは不気味な感じがするけれど、何だか宝探しをしているみたいに久しぶりにワクワクしてきた。

―ピピピピピピピピ

部屋の隅まで探して
「やっと見つけた」
ようやくベッドと壁の隙間に隠れていた電子音の正体に辿り着いた。
正体は小型の目覚まし時計で後ろの電源をONからOFFに変えると

―ピ…

今までうるさかった電子音がウソのように鳴り止んだ。
ったく、どっちのイタズラだ?
ファルコかスリッピーだろうと犯人に目星をつけながら見覚えのない時計をベッドの上に放り投げると、元気よくバウンドしてベッドの隙間に落ちそうになる。
「うわ、危なっ!!」
慌ててベッドに飛び込んでギリギリでキャッチする。
この時計どこまで迷惑かけたら気が済むんだ…!
「おい時計!俺が助けなかったら、またこのベッドの隙間に舞い戻ってたんだからな!」
恩着せがましく時計に言い聞かせているとベッドと壁の隙間、時計の置いてあった場所に中くらいの大きさの箱が置いてあることに気が付いた。
「まさか本当に宝があるだなんてな」
そーっと、手を伸ばして箱を拾い上げて、ちょっとドキドキしながら開けてみると
「!」
中には
「俺の手にぴったりだ」
ちょうど良いサイズのグローブが入っていた。
指先だけ出ているタイプで細かい作業もやりやすそうだ。
嬉しくてベッドに倒れ込んで両手をぐーぱーぐーぱー繰り返していると
『よぉ、フォックス』
通信機がノイズ混じりの声を頭に響かせてきた。
「ファルコ。お前の仕業だな?」
『…さぁな』
「直接渡してくれたら良いのに」
グローブの入っていた箱を弄んでいると中からメッセージカードがひらひらと落ちてきた。
「ファルコ」
『ん?』
「ありがとう」
シンプルなメッセージカードを拾い上げるとそこには"Merry Christmas"とだけ書かれていた。
そのメッセージだけでどこにも差出人の名前は書かれていなかったけど、その特徴のある文字は確かにファルコの物だ。
「ファルコ」
『何だよ?』
偶然でも何でもこの手ぴったりのグローブが叫びたくなるほど嬉しい。
俺の為に選んでくれた時間が、少しでも俺を考えていてくれた時間が

胸が苦しくなるほど嬉しいんだ。

「クリスマスはとっくに過ぎてるぞ」
『……ん?』

寝返りをうつと机の上にすっかり冷めきった紅茶が並々と残っているのが目に入った。
その紅茶とは反対に、俺の心は、グローブに包まれた手のひらはぽかぽかに暖まっていた。

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