左回りの時計
時計の電池を新しい電池に入れ替えてみても
「やっぱり駄目か」
時計の秒針が少し進んだだけで、すぐに時を刻むのを止めてしまった。
「何で動かなくなったんだろう」
時を刻まず進みも戻りもせずに同じ場所で規則正しくカチカチと動く秒針を、新しく入れた電池をコロコロと回しながら眺める。
「うーん…」
その横にある時を刻まない長針を左回りに指で動かすと短針も長針を追うように付いて来た。

昨日ファルコは急にチームを脱退してここを出て行った。
気まぐれなファルコが今度はいつ戻ってくるのかも分からない。
もしかしたら、もう2度とここには戻らないつもりなのかも知れない。
「この時計みたいに、昨日に戻れたら良いのにな」
指を動かせば動かすだけ時計は昨日に戻っていく。
「そしてそのまま…」
指を離してしまえば
「止まってしまえばいいんだ」
時計は昨日のこの時間をさしたままで止まってしまう。
この時間ならファルコはまだここにいる。
あの時はこんな辛い想いをするだなんて思っても居なかった。
今ならファルコを止められる。
行くな。って、俺から離れないでくれ。って泣いてすがりつけば、優しいファルコは行かないで居てくれる。
「あ…!」
何の前触れもなくいきなり秒針が右回りに動き始めた。
俺の戻した異常な時間がカチカチと1秒ずつ正常な時間に戻されていく。
「あーぁ」
何だか一気に自分の考えていたことがバカらしく感じてきた。
きっとファルコは帰ってくる。
だって仲間じゃないか。
お騒がせな時計をキレイに壁にかけ直して、カチカチと規則正しく動いているのを再確認する。
「もう2度と止まるなよ!良いな?」

これから1秒1秒、ファルコのことを想って待つのも楽しそうじゃないか。

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