素直になれない
暗闇の中から規則正しく動く時計の針の音が聞こえてきやがる。
その音を意識すると今度ははっきりと聞こえてきて俺を更に苦しめていく。
昼間は全く聞こえないくせに、眠れない夜に限ってここぞとばかりに存在を主張してくるのは何でだ。
居心地の悪さに寝返りをうって耳まで布団を被ると、
「ん…」
横で眠るフォックスに肩と肩がぶつかった。
寝息が一瞬だけ乱れたが、また規則正しく寝息をたて始めた。
起こしてしまってはいないらしい。
気持ちよさそうに眠るフォックスの時々動く耳をくすぐるように撫でると
俺の手から逃げようと耳がピクピクと動く。
そのまま毛並みにそって鼻先まで手を滑らせると、乾いた唇に指先が触れた。
触れた手から伝わる体温が、胸を締め付けた。
どこまでなら許される?
例えば、この指先に伝わる体温にクチバシで触れることは…
「…」
もぞもぞと動いたフォックスの手が、フォックスに触れてない方の俺の手を掴み取る。
フォックスは今どんな夢を見ているんだろう。
その夢に俺は居るのだろうか。
現実が無理なら、せめて夢の中でくらい独占したい。
そんな醜い感情を抱く自分が、
そんな醜い感情を抱かせるフォックスが

「大嫌いだ」

乾いた唇を塞ぐ代わりに、絶えず温かい鼻息を出し続ける湿った鼻の穴を指で塞いでやるのだった。

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