鳥の人形
「フォックス…、俺人間やめるわ」
突然ファルコは服を脱ぎ捨てると青い鳥に姿を変えて窓の外へと飛び立っていった。

……う、…


「嘘だろぉおー!!?」
ファルコを止めるために伸ばした手が何も掴まずに空を切った。
「あ、あれ…」
気付いたらさっきまで居た場所とは全く違う場所に自分は来ていた。
ファルコの飛び立っていた窓もここには無い。
状況を把握ができずに周りを見渡すと、ここが自分の部屋のベッドの上だと言うことに気が付いた。
「あ…」
何てバカげた夢なんだ…っ!
飛び立っていったファルコを止めるために伸ばしたままだった手を溜め息混じりに布団の中にしまい込むと、何やら得体の知れない物に手が当たった。
その正体を確かめるべく改めてその物体を触ってみると、その物体は手のひらサイズで少し固く尖った所がある、ひんやりとしたものだった。
これは何だろう?
恐る恐る布団をめくって見ると
「っ!?」
そこには、夢で見た青い鳥
人間をやめて鳥になってしまったファルコが横たわっていた。
この鳥がすぐにファルコだと気付けたのはさっき見た夢のせいなのか、愛の力なのか。
「ファ、ファルコ…?おい!大丈夫か?!」
あまりの出来事にかけてあった布団がベッドからずり落ちた。
ファルコを両手ですくい上げて揺すってみてもファルコの目は閉じられたままだ。
ま、まさか…死んでるのか?
そう思わせたのは、ファルコから伝わる体温が人形のように冷たかったからだ。
「おい、しっかりしろよ!ファルコっ!!」
まさかとは思うが心臓止まってたりなんかしないよな?
念のためファルコの胸元に耳を近づけてみた。
「……」
…音なんてひとつも聞こえない。
ひょっとして俺が寝返りをうったときにファルコを潰してしまったのだろうか。
そもそも何で俺の布団の中に居るんだよ!
夜這いか?夜這いに来てたのか?
だったらこんな姿で来るなよ!ファルコ!!
何もデキないじゃないかっ!
どうしよう!ペッピー達には何て説明したらいいんだ?
ファルコは鳥になって俺が踏み潰してしまいました?
こんなんで通じるかっ!!
というかこれ…、良くできた人形じゃないか?
良く見ると足から爪の先までに境界線がなく不自然に樹脂で作られている。
余計状況が悪化してるじゃないか!!
人形になったファルコをどうやって元に戻せば良いんだよ!
そ、そう言えば、カエルにされた王子様がお姫様のキスで元の姿に戻れたって話をどこかで聞いたことがある。
今まさにその状況なのではないだろうか!
「よし、ファルコにキス…」
手の中でぐったりしているように見えるファルコに顔を寄せる、俺の口とファルコのクチバシが触れ合う…

「って、出きるかっ!!」
寸前で振り出しに戻った。
真っ赤になった顔を腕で隠して、言い訳を考える。
「だって、こんなの卑怯じゃないか。意識の無いファルコに無理やりキスするなんて」
手の中にすっぽりと収まる小さな鳥の人形になってしまったファルコをそっと抱き締める。
「お願いだからファルコに戻ってくれ…、俺の一番好きなファルコに」
その時、冷たい風と一緒に

「フォックス…!」
今一番聞きたかった声が俺の耳に入ってきた。
手の中からではなく、開け放たれた扉の向こうから。
「ファルコ?!」
そこには薄汚い狐のぬいぐるみを大切そうに抱えたファルコが立っていた。
え?じゃあ、この青い鳥はいったい何なんだ?!
「良かった…、ここに居やがったのか。フォックス」
珍しく泣きそうな顔したファルコに、さっきまで持っていた狐のぬいぐるみを抱えていたように大切に抱き締められた。
「あぁ、ファルコも…無事で良かった」
訳も分からずにされるがままになっていると
扉の向こうの廊下に『ドッキリ大成功!!』という看板を抱えたスリッピーが立っていることに気が付いた。
「ファルコ、もうどこにも行くなよ」
「お前もな、フォックス…」
悔しいので気付かなかったふりをするのだった。

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あきゅろす。
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