冷たい風と繋いだ手
少し風は冷たいけれど、たった1つのことで風の冷たさなど全く気にならない物に変わった。
ファルコが俺の隣に居る。
ただそれだけだ。

今日は冬の匂いのし始めた街を、ファルコと一緒に目的もなくただぶらぶらと歩いている。
「おいフォックス…」
「ん?」
反対から歩いてくる人々を上手に交わし、ファルコの少し大きい歩幅に合わて擦れ違う。
目的なんて歩いている内に見つかるだろう。
「少し厚着してくれば良かったな」
そう言われ擦れ違う人に意識をしてみるとみんな温かそうな格好をしている。
対して俺たちは、2人仲良く色違いのノースリーブのユニホームだけという薄着中の薄着だった。
せめてスカーフでも格好良く巻いていれば少しは違ったはずだ。
「ファルコが薄着でも大丈夫だって言ったんだからな」
「覚えてねえな。それよりお前毛皮があるんだからちょっとベスト貸せよ」
「ファルコにだって温かそうな羽毛があるだろ」
ファルコを適当にあしらって、"sale"という目立つポスターが数枚貼られたショーウインドーを何気なく覗き込むと
2体のマネキンが1つのマフラーを仲良くで巻いて温かそうに寄り添っていた。
「…」
その2体のマネキンにファルコと俺を重ね合わせて想像してみた。

『マフラー買って良かったなー、ファルコー』
『おいフォックス!ちょっとあれ面白そうだな、行って見ようぜ!!』
『え?ちょ、ファルコ待て!首が…!首が締まる…っ!!ま、待て…ふぁる……』

……だ、ダメだ…!
運が良くても窒息は免れない!
ファルコのことだ、俺が窒息して倒れていても気付かないだろう。
「お前こういう女々しいの好きそうだな」
ファルコも同じショーウインドーを覗き込んで、2体のマネキンを見ていた。
「俺は無理だな。一緒に巻いてんの忘れて走り出したりして、相手の首をうっかり締めちまいそうだ」
や、やっぱりー!!
止めだ止めだ!うっかりで殺されてたまるか!
そもそもあんなマフラー、巻き方が分からない。
どうやって巻いてんだあれ。
愛か?愛の力でくっつけてんのか?
そんなの俺たちじゃ絶対無理じゃないか!
「フォックス、そろそろ腹空いて来ねえか?」
壁にかかった大きな時計を見ると、長針と短針が重なり昼を知らせる鐘が鳴り始めたところだった。
「そうだな、何か食べたいものあるか?」
その時計の下に1つのマフラーを愛の力で巻き付けているカップルが居るのが目に入ってきた。
2人は仲良く手なんか繋いじゃって、あいつらには悩みなんて何もないんだろうなって思えるくらい幸せそうな顔をしている。
…それがすごく、羨ましい。
ファルコは俺のことどう想っているんだろう。
ファルコの顔を見ると、すごく真剣な表情をしたファルコと目が合った。
「お前は好きなのか?」
「へ…?」
俺たちの間に冬を運んできたかのような冷たい風が吹き抜けていく。
時間の流れが止まった気がした。
風の冷たさも、何も感じない。
「聞いてなかったのかよ…」
その空間でファルコのクチバシだけが静かに動いた。
「麺類は好きかって言ったんだ」
「あ、あぁ…」
止まった時間の流れがすぐに動き出し、風の冷たさも諸に受けてしまった。
例えるなら冷房がガンガンにきいたお店の冷凍食品売り場くらいの冷たさだ。
「とりあえず温かい場所に行こう!」
あまりの寒さと期待はずれの虚しさで手と手をすり合わせていると
「ん」
「うん?」
人の流れを逆らい先を歩くファルコに片手だけがっしりと掴み取られた。
そのまま引っ張られる形でファルコの後を付いていく。
「な、何だよファルコ!」
「…はぐれたら、いけねえだろ」
「こんなことしなくたって、はぐれるわけないだろっ!」
その繋いだ手のひらから伝わる温かさが
何よりも温かくて、何よりも欲しい温もりだった。
俺の顔もさっきのカップルみたいに幸せな顔になっているのだろうか。
「ファルコーっ!」
「何だようるせえな!」

ファルコが俺の隣に居る。
ただそれだけで、俺の体温は風の冷たさなど全く気にならないくらいに上昇してしまうのだ。

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あきゅろす。
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