誰のために?
タバコの煙に誘われてきたのか、タバコに火をつけた瞬間に
「いいかファルコ、今日から全面喫煙禁止だからな!」
口うるさいフォックスが荒々しく扉を開けて現れた。
こいつのどこかにセンサーでもついているんだろうか。
「自分の部屋くらい良いじゃねえか」
そうだとしたら、んな無駄な機能は捨てちまえ。今すぐにだ。
「だめだ!お前のためを思って言ってるんだぞ!」
火をつけたばかりのタバコを取り上げられ、灰皿代わりの空き缶の中に押し込まれる。
こいつタバコ1本いくらすると思ってんだ?
「俺のためを思ってくれてるんなら喫煙禁止だなんて言わねえな」
空き缶の中から寂しく出てくる煙を横目で見ながら、不機嫌全開でライターの火を付けたり消したりしていると
「あのなぁ…どうして止められないんだ?」
俺の隣にため息と一緒にフォックスが腰を下ろしてきた。
「そうだな、吸ってないと口が…」
ちょうど横にいたフォックスの顎を掴んで上を向かせると
「寂しいから」
驚きと戸惑いで目を見開いたフォックスと目があった。
「この寂しさをお前が紛らわしてくれるんなら、止めてやっても良いぜ」
顔を近づけると、あと少しでクチバシと口が触れそうな距離になる。
意味を理解し更に目を限界まで見開いたフォックスの表情がおかしくて、喉から笑いがもれる。
さすがのフォックスもこれで俺にタバコを止めさせることを諦め怒って部屋を出て行くだろう。そう踏んでいた。
「…分かった、約束だからな?」
後頭部にフォックスの手が回されたと分かった瞬間には、俺のクチバシとフォックスの唇が触れあっていた。
「な…っ!!」
一瞬の出来事を理解できなかった。
…ひょっとして、本当にキスしたのか…?
その事実に気が付いたのは
「き…、禁煙出来たら、続きをしてやるからな!!」
フォックスが部屋に入ってきた時と同じように荒々しく扉を開けて口を拭いながら出て行った後だった。
「…続きってなんだよ」
部屋に残された俺は、灰皿代わりの空き缶から煙が消えるまで動けないで居たのだった。

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