A
「これ、次の練習試合の相手校のデータ。」
阿部くんが一枚の紙をオレに手渡す。
「次の所は4番が少し厄介だからな。しっかり覚えとくんだぞ。」
「…うん。」
オレはデータを覚えるのがすごく苦手だ。前に、覚えられなくて阿部くんに怒られたことがある。
阿部くんが言ったとおりに投げればいい。そう思ってたけど、バッターのデータを頭に入れとくことは大切なことだって、そう言ってた。
阿部くんが作ってくれたデータだ。ちゃんと覚えなくっちゃ!
「あ。昼飯はしっかり食ったか?」
「まだ 食べ終わってない よ。」
「わりーな、途中に呼んじまって。」
「そ、そんなことな い!」
阿部くんはやさしい。
恐いと思うこともあるけど、やさしい面もすごく多くて。
オレのことを考えてくれて、気をつかってくれて。
そんな阿部くんが大好きなんだ。
「あ 阿部くん!」
「ん?」
「阿部く んは や やさしい ね!」
「はぁ!!?」
阿部くんが突然大きな声を出した。
オレ、何か変な事言ったかな…?
「…お前はまた突然そういう事!!」
「ひぃ!! ご ご ごめっ なさ…」
「怒ってる訳じゃねーよ!」
ため息までついてる!やっぱりオレが変な事言ったんだ…。
でも、阿部くんは怒ってないって…。
「そんなこと、普通人に言わねーだろ。」
そんなこと…そんなことってなんだろう。
オレのせいで阿部くんの顔は真っ赤になっていた。
「とにかく!お前はしっかり昼飯食えよ!じゃあな!」
阿部くん、行っちゃった。
オレの事呆れたかな。嫌いになっちゃったかな。
こうやって不安になると、いつもあの時の事を思い出す。
阿部くんが好きだって言ってくれた事。
その事を思い出すと、体の中心がポカポカしてくる。
今まで冷たくなってた手も、いつの間にか温かくなっていた。
阿部くんのおかげで野球が楽しい!
毎日の学校も楽しいんだ!
今、ホントに幸せだって思う。
これは全部阿部くんのおかげなんだ。
こうやって阿部くんの事考えると、ワクワクしてドキドキして…
こんな気持ちは初めてだ。
自分自身でも分からないような気持ちに、どこか楽しい予感を感じながら、残りの弁当を食べる為に教室へと戻った。
end
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