〜 Remember my heart 〜
〜 My Fair Lady 〜
この物語は、if ending ヴィクトーリアのAfter Storyになります。
あと、この話は、ある漫画とのコラボレーションになってます。
* * *
「うーん。車ってこんなに種類があるんですのね」
「お嬢様、どうされましたか?」
「エドガー、実はね……」
フィーの車に乗ってから、私は、ずっと自分の車を持ちたいと思っていた。
エドガーが、送り迎えをしてくれる自家用車はあるけれど、自分専用の車は持っていない。
「……なるほど、お嬢様も免許をお持ちですから、自分の車を持ちたいという気持ちもわかります。ですが……」
「私が運転するのが危ないっていうのでしたら、それは受け付けませんわよ。これでも、運転技術はフィーのお墨付きなんですからね!!」
こないだだって、ちゃんと安全運転をしてたんだし。
まぁ、途中スピードの出し過ぎっていうときもあったけど……。
「いえ、そうではなく、フィル様から運転のことは聞いてますので、反対は致しません。ただ、お嬢様のご希望に合う車がクラナガンにあるかは……」
「……そう、なのよね」
実は、私が悩んでいたのはそこにあった。
いろんなパンフレットを見ても、フィーの車のような美しさを持った車は見つからなかったし、以前、フィーから聞いたフェイトさんが持っている車でも、なにかが違っていた。
「フィル様は、管理外世界から車を持ってきたとおっしゃっていましたが……」
「ええ、フィーの場合は、たまたま管理外世界の車雑誌を見て、それでピンときて、わざわざ申請を出して購入したといっていたわ」
「でしたら、お嬢様もその方法で見つけてみたらいかがでしょうか?」
「それもそうね。早速フィーに相談してみましょう!!」
私は、紅茶を飲み干すと、パンフレットを片づけて、フィーのところに行く支度をした。
* * *
「忙しいところごめんなさい。お仕事中でしたのに……」
私がフィーの家にお邪魔すると、フィーがスクリーンを出して、仕事をしている真っ最中だった。
長期任務が終わって、その報告書とかを作っているところだったのでしょうね。
「いや、大丈夫だよ。それにしても、今日はどうしたんだ? 何か悩みでもあるのか?」
「悩みというわけではないのですが、実は……」
私は、フィーに車のことで迷っていることを打ち明けると……。
「なるほどな。確かに俺の車は地球から持ってきたやつだからな。ということは、ヴィクターは、俺のと同じ車が欲しいのか?」
「同じじゃなくてもいいから、こういう美しいフォルムをした車がいいですわね。フィーの車って、すごく無駄がないというか、洗練されてるというか、そういう感じがしますわ」
「……うーん。俺の車は、こっちの規格に合うように作り変えてもらったワンオフなんだよな。まぁ、俺のセリカXXで良かったら譲ってもいいけど……」
「それじゃ、フィーに悪いですわ!! あの車は、フィーが大切にしてるのに……」
確かにフィーの車は魅力的だけど、あの車は、フィーが大切に使っているし、それを私がもらうのは違うと思う。
「そうだな。だったら、俺と一緒に地球に行くか? あっちで見てみるのもありだしな……」
「良いんですの、私が付いて行っても?」
「ヴィクターがよければだけどね。正直俺の趣味満載だから、どうかなって思っていたんだけどね……」
「是非、一緒に行かせてもらいますわ!! フィーの普段の様子が見れる絶好の機会ですし!!」
「……ははっ、俺って、普段どう思われてるんだよ。普通なんだけどな」
そういう問題じゃないんですの。
好きな人のことでしたら、女の子は知りたいと思うものですのよ。
「じゃ、さっそくショップに連絡してみるよ。向こうが休日だったら、ワープできないからな」
「……わ、忘れていましたわ。フィーがレアスキル持ちだってことを」
次元間移動は、本来次元航行船がなければ不可能。
それを自分の力でできてしまうフィーは、やっぱりおかしいですから!!
「オーケーだって、今から行くから、俺につかまって」
私とフィーは、ワープで地球に向かうことになりました。
* * *
「ここが、そうですの?」
「そう、チューニングショップ『メカドック』。俺の行きつけのところさ」
チューニングショップ『メカドック』
地球の東京にあるチューニングショップ「メカドック」(名前の由来は「Mechanical Doctor」の略で、車の医者という意味らしい)
「へぇ、チューニングショップって聞いてたから、もっと入りずらい雰囲気かと思ってましたけど、そんなことなさそうですわね」
「まぁね。実は女性も結構来てるみたいで、全国からここにお世話になってる人が来てるくらいだしね。じゃ、中にないって見ようか。こんにちは!! 風さんいますか?」
「んっ、フィルじゃないか。久しぶりだね、XXの調子はどう?」
「快調そのものですよ。いつも、メカドックで見てもらってますからね」
風見潤さん。
メカドックのチーフメカニックで、主にエンジンチューンを担当している。
大のレース好きで、様々なレースに参加して、優勝経験もあって、風見さんはレーシングドライバーとしても一流で、一時期はイタリアからも誘いがあったらしいが、それを断り、仲間と一緒に夢をかなえるために頑張っている。
常連客や仲間からは『風さん』と呼ばれていて、俺も風さんと呼んでいる。
「それはよかった。話はいっつぁんから聞いてるよ。新しい車、探してるんだって?」
「はい、俺の彼女がなんですけど、XXのフォルムが気に入って、それに近い車を探したいってことでここに来たんですよ」
「まぁ、ミッドの車は見させてもらったことあるけど、衝突安全を優先しすぎて、デザインが今一つなのが多いよね」
それが、俺がミッドで車を買わなかった理由。
ファミリーカーには良いけど、趣味として使うには少し物足りなく感じていたから、だから、無理を言ってここにお願いした。
「フィー、ちょっと質問いいかしら? さっきからミッドのことを話してるけど、こっちの世界のことをこちらの方は知っているの?」
「ああ、風さん達にはミッドのことや魔法のことは一通り話してるよ」
「魔法のことは、基本、管理外世界の方には言わないことになってますのに……」
「地球はなのはさん達の例もあったし、実は、なのはさんの友人と知り合いということで外部協力者という形で許可を取ったんだ」
なのはさんの友人であるアリサさん達と知り合いだってことは聞いてびっくりしたけど、そのおかげで話もスムーズにできたし、本当、なのはさん達に感謝だよ。
「そういうことだから、安心してください。うちのショップはお客様の情報は守りますし、できるだけの要望も応えますよ」
「それなら安心ですわね。えっと、自己紹介が遅れました、私はヴィクトーリア・ダールグリュンと言います」
「俺は風見潤。ここのメカニックをしてます。とにかく、ここじゃなんだから、事務所でゆっくり話を聞くよ」
俺たちは、風さんに事務所に案内され、中で話を聞くことになった。
* * *
「やあ、フィルいらっしゃい!!」
中村一路さん。
通称「いっつぁん」。メカドックの経理担当。
一見、融通が利かないように見えるけど、実は友人との人間関係や友人の将来を広い視野で思いやれる思慮深い面を持つ人。
俺も、時々話を聞いてもらったりしていて、話してみると、気さくな一面もいっぱいある人だ。
「車の調子はどないでっか?」
野呂清さん。
メカドックでは板金を担当。その技術は確かなもので、どんなボロボロの廃車でも見違えるようにきれいに仕上げることから、風さんからは「鈑金の天才」と呼ばれている。関西出身とのこと。
「車の調子は絶好調ですよ。実は、電話でもお話ししましたが、俺の彼女の車を探してるんですよ」
「ほほぅ、あのお堅いフィルが彼女を連れて、うちに車を買いに来るなんてな」
「いっつぁん、あんまりからかうものやないで!! 今日はお客はんとして来てくだはってるんやし」
「そうだったな。すまないな、いつもの調子で言っちまって。で、どんな車がいいんだい?」
「実は……」
俺は、いっつぁんと野呂さんに、さっき風さんに話した話をもう一度する。
「なるほどな……。だけどよ。XXはもう生産されてないし。廃車から見つけるのも一苦労だぞ」
「そうなんですよね。俺の時でも相当苦労しましたからね……」
実は、俺が乗ってるXXは、風さん達が『キャノンボール・トライアル』というレースに出た時の車で、その時にエンジンブローをさせてしまい、倉庫に眠っていたものを時間をかけて修理・チューニングをしたものだ。
元々、デモカーだから性能は抜群だし、普段使いも比較的使いやすくしたから、ヴィクターでも運転できる。
「フィー、無理でしたら、良いんですのよ。元々、私のわがままですし……」
「いや、せっかく女性のお客さんがこんなに車に興味を持ってくれてるんだ。フィル、電話でも聞いたけど、彼女はXXは乗りこなせてるんだよね?」
「ええ、ヴィクターがXXを運転してるとき、本当にきれいな笑顔をするんですよ。だから、俺のを渡してもいいと思ってますよ」
あんな風に車を大切に使ってくれるなら、俺も彼女に使ってほしいと思う。
そのほうがXXも喜びそうだし……。
「フィー……。それだったら、ちゃんとお金はお支払いしますわ。いくら彼氏でも、そこはけじめはつけます。足りない分は……分割になりますけど」
「やっぱり、その辺はしっかりしてるよな。そういうところが好きなんだけどな」
「……ばか。何言ってるんですの。そんなの当たり前のことでしょう」
ヴィクターは当たり前って言ってくれるけど、そう言える人は少ないと思う。
俺の知り合いは、しっかりしてる人が多いけど、世の中の人間は、もらえるのが当たり前って思う人がいるから……。
「へぇ、あんなに車・バイク命だったフィルが、彼女のためにそんなこと言うなんてな……」
「いっつぁん、俺も、もう独り者じゃないんだよ。でも、やっぱり愛車を手放すとなると少し寂しいけどね……」
「せやな。フィルは本当に車を大切にしてはったからな。XXも一緒に修理したくらいだし……」
「確かにね。フィルがミッドの技術を提供してくれたから、俺もいい勉強になったし」
「それは俺もそうですよ。車のチューニングを一から教えてもらいましたし……」
ミッドと地球では、燃料系が違うから、その辺を風さん達に言って、一緒に修理をして使えるようにした。
どちらの世界でも使えるように、ハイブリッドにするのは苦労したけどね……。
そうしたきっかけで、風さん達にメカニックで働いてみないかといわれることもあったりする。
さすがに執務官をやめるわけにはいかないから、レースイベントの時にサポーターとして参加したりするけどね。
「フィル、だったら、この間レースで使ったデモカー買わないかい?」
「この間のレースって、俺も参加した『東日本サーキットグランプリ』で使ったやつですか?」
東日本サーキットグランプリ。
チューニングショップ「夢幻」が、富士スピードウェイ・鈴鹿サーキット・筑波サーキットと3サーキットを結ぶ高速道路を舞台とした大規模なレース「東日本サーキットGP」を企画する。
(キャノンボールトライアルとは異なり、レース開催に当たり警察および関係官庁の許可を得ており、コースとなった高速道路およびサービスエリア、ならびに一般道路はレース中完全封鎖された。)
このイベントに招待されたメカドックは、助っ人として、チューニングショップ『チャンプ』の那智渡さんと一緒に組み参加。
その時、俺は、各チェックポイントでマシンのタイヤ交換や燃料補給をするサポーターとして参加。
野呂さんと一緒に風さん達を支えた。
「ああ、XXを乗りこなせてるんだったら、たぶん、彼女は使いこなせると思う」
「風さん、良いんですか? あの車は、風さんが大切に保管していた最後のデモカーなのに……」
「フィル、さっき君が言ってたじゃないか。大切に使ってくれる人に使ってもらったほうが車も喜ぶって。俺は、君たちだからこそ、あの車を託したいって思ったんだよ」
「風さん……」
「風見さん、ありがとうございます……」
「じゃ、こっちに来て見てもらおうかな。『グレーサーZ』を」
* * *
私とフィーは、風見さんに案内されて、店の裏側に来ていた。
そこには、白と青のツートンにカラーリングされた美しい車があった。
形は、XXに似ていて流線型で、リアには、ウィングが付いている。
一回り大きいその姿は、王者の風格を漂わせていた。
「きれいな車……。この車は?」
「グレーサーZ、俺が東日本サーキットグランプリで使った車だよ」
風見さんは、グレーサーZについて説明してくれた。
この車は、フルタイム4WDに改造し、エンジンのボアアップ、ツインターボ、さらに、最高時速300オーバーという素人では使いこなせないモンスターマシン。
正直、話の内容の半分も理解できないけど、少なくても私では乗りこなせないってことくらいはわかる。
「もともと、デモカーは、ある程度経ったら処分しないといけなかったから、大切にしてくれる人にわたるんだったら、それに越したことはないさ」
「風さん……」
風見さんとフィー。
この二人、いや、メカドックのスタッフとは、私の知らない大切な絆があるのですね。
「いっつぁん、野呂さん、こいつをミッド仕様にしなきゃいけないから、しばらく店のことできないからよろしく!!」
「風見!! ったく……。しゃあねえな。ただ働きじゃないから、良いけどよ……」
「いっつぁん、そんなこと言って、フィルには、店のことで助けてもらってるから、何らかの形で返したいって言ってたやないか」
「確かによ。フィルには、店の宣伝や、レースでのサポートをしてもらったから、これでも返し切れないんだけどな……」
二人に話を聞いてみると、メカドックの宣伝をしたり、先ほど話していたサポートをしていたりして、フィーは店の売り上げにかなりの貢献をしてるらしい。
この人、本当に執務官よね?
いったいどれだけ多才なのよ。
「それじゃ、納車は1ヶ月後になると思うから、また連絡するよ」
「わかりました。それじゃよろしくお願いします、風さん!!」
「すみません、皆さん。よろしくお願いします!!」
そして、1ヶ月後、グレーサーZをフィーが地球から、持ってきてくれて、そのまま試運転に出かけることになりました。
* * *
「この車、XXより操作するのが難しいですわね。ペダルとか踏むのが重いですし……」
「XXもZも元々、デモカーだからな。だけど、それでもちゃんと乗れるんだから、大したもんだよ」
確かに、運転はできるようにはなりましたけど、この車を乗りこなすにはまだまだ時間がかかりそうですわね……。
「ゆっくり時間をかけて慣れていけばいいよ。車も、デバイスと同じで大切に使えば、ちゃんと応えてくれるしな……」
「それは言えますわね。この子は、かなりのじゃじゃ馬ですけど……」
レースカーということもあって、かなりのじゃじゃ馬なのがわかる。
でも、乗りこなせたらすごく楽しくなる素晴らしい車です。
「車も持ち主に似るっていうからな。その例えは合ってるかもな」
「それって、私がじゃじゃ馬ってこと!? フィー、あなた、私のことそんな風に思ってたんですのね!!」
「こんなレースカーを乗りこなそうとしてるんだから、じゃじゃ馬だと思うよ。まぁ……。それ以上に繊細さも持った女の子なんだけどな」
「……ばか」
まったく、そんな風に言われたら、怒るに怒れないじゃないですか。
皆さんが、ある意味、人たらしって言っていた意味がよくわかりましたわよ。
「それじゃ、試運転が終わったら、今日は私のこと……ちゃんと、かまってくれるんでしょうね」
クルマのことを話してる時のフィーはとてもいい笑顔をするんだけど、やっぱり恋人としては、私のこともちゃんと見てほしいから……。
「……ああ、今日はちゃんとエスコートしますよ。お姫様」
フィーは、そういった後、自分の言った言葉に照れてるのか、少し顔を赤くしていた。
「ふふっ、楽しみにしていますわ。私の騎士様♪」
* * *
「……いっぱい、愛してくれた、わね」
「少しは伝わったかな。好きって気持ちが……」
「たくさん伝わりましたわ。フィーの気持ちが……」
あの後、クラナガンの高級ホテルに一泊することになり、そこでフィーは私のことを何度も愛してくれた。
私もフィーのことが欲しくて、何度もフィーのことを求めた。
こうして好きな人に愛されると、やっぱりうれしくなるし、優しい気持ちにもなれる。
「コーヒーでも入れるか? ちょうど、コーヒーメーカーも備わってるみたいだし……」
「夜明けのコーヒーなんて、ちょっと洒落てますわね。一杯いただきますわ」
「エドガー君が入れてくれる、紅茶やコーヒーには負けるけどね」
確かにエドガーが入れてくれる飲み物は、最上の味を出してくれるけど、こうして、二人きりで好きな人が入れてくれるコーヒーを飲むのは、また違うんですのよ。
車に乗って、風を感じるのもいいですけど、やっぱり私は、こうして過ごす二人きりの時間が一番好き。
だって、こうしてるときは戦いのことを忘れてくれて、やさしい笑顔を私に見せてくれるのだから……。
フィー、これからもいっぱい楽しい思い出を作っていきましょう。
私の新しい相棒の『グレーサーZ』と一緒に、ね。
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