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〜 Remember my heart 〜
if ending シャンテ





「……お金、もうこれしかない」



何をやってもダメなあたしは、いつも周りから比較されまくっていた。
親戚の子といつも比較されて、お前はダメな子だと罵られ……。

両親からも冷たい眼で見られる毎日だった。
そんな生活が嫌になり、両親の財布からありったけのお金を持ち出し、無我夢中で家を飛び出してもう3ヶ月以上……。

考えてみれば、盗み以外は全部やった気がする。
飢えをしのぐために、公園の水を飲んだり、食べ物も草や木の実、時には魚を釣って何とかしていた。



「もう……限界かな」



服とかもヨレヨレだし、ここ数日ろくなものを食べてない。
もうプライドとか言ってる場合じゃない。何より……。


―――――こんなあたしが今更プライドとかおかしいよね。


そう思ったら、もう怖いものはなかった。
あたしは近所のパン屋に入り、もてるだけのパンを持って力の限り逃げ出した。


「こら、待てッ!! 泥棒が!!」


パン屋の親父が、怒りの形相で追いかけてくる。
捕まれば間違いなくボコボコにされる。

あたしは逃げた。

必死になって逃げまくった。

―――――自分が生きるために。





*    *    *





「……はぁ、はぁ、ここまでくれば……」


ここは、人が来ない廃墟ビル。
住処のないあたしが雨露をしのげる唯一の場所。


「……とうとう、やっちゃったな」


生きるためとはいえ、盗みだけはしなかったのに。
これであたしも立派なクズだね。

………いや、もともとあたしはクズだったか。

そう思ったら、なんかどうでもよくなってきた。
早速かっぱらったパンを食べようとしたとき……。


「へぇ、いいもんもってるじゃん〜」

いかにもって言う雰囲気の男2人が、嫌らしい笑いをしながらこっちにやってきた。


「兄貴、こいつよく見たらなかなか可愛いっすよ」


禿でチビの男が舌を舐めずりしながらそう言い……。


「身なりはボロボロでも、ガキのくせに結構胸もあるし〜」


ロンゲで茶髪の男が、あたしを押し倒し、胸を鷲掴みにする。


「い、嫌だッ!!」

「そういうなって、こんなところ誰も来やしないって」

「そうそう、おとなしくしなよ!!」


男達は、いやらしい目つきをして、あたしの両腕を押さえつけ、上着を無理張りはぎ取ろうとしたとき……。


「あいたたたたたた!!」

「……そこまでにしとくんだな。クズどもが」


黒髪の男が、強姦魔の男達の頭を鷲掴みにして、あたしから引きはがしてくれた。



「なにしやがるんだ、てめえ!!」

「これが見えないのかよ!!」


男達は、ナイフを取り出してあたし達を脅していたが……。


「……やってみろ。だがな……」

「この子を少しでも傷つけてみろ……。そのときは……殺す、ぞ」

「「!!」」


さっきまで威勢がよかった男達は、この人がひと睨みしただけで、男達はその場から動けなくなっていた。
まるで、蛇に睨まれた蛙みたいに……。


「ち、畜生がッ!!」


破れかぶれになって、男の一人がナイフで黒髪の人を刺そうとしたが……。
あっという間に、地面にたたき伏せられてナイフを持っていた腕を逆方向にひねられ、そして……。


「い、いでえええええええええええッッッッ!!」

「あ、兄貴ッッッ!!」


男の腕がへし折られて、のたうち回っていた。


「て、てめえ!! よくも兄貴を!!」


そう言って、禿の男がナイフで刺そうと向かってきたが……。


「ん、なななななな!!」


そのナイフを、指二本でつかみ取ってしまった。
しかも、男がいくらナイフを引き抜こうとしても、ビクともしない……。

逆にナイフを奪い取り、男を蹴り飛ばして……。


「ひ、ひいいい………」


そのナイフを男の喉元に突きつけていた。


「……俺は、お前らみたいなやつが一番嫌いなんだよ。か弱い女の子を、無理矢理犯すようなクズ野郎がな……」

「た、助けてくれ!! 命だけは!!」


あまりの恐怖で男は、失禁し、その場に気絶してしまった。


「……ったく、こういう奴らってどいつもこいつも同じだな」


男の人は、そう言って、あっという間に禿と茶髪の男を魔法で拘束してしまった。



「……大丈夫」


さっきの凍るような眼とは違って、すごくやさしい眼であたしのことを心配してくれた。


「……う、うん」


この人が来なかったら、あたしはこいつらに犯されまくってたから……。


「……そっか。まずは無事でよかった。だけど……」


そう言って、男の人はあたしの額に……。


「いったああああああい!!」


思いっきりデコピンをしてきた。


「な、なにすんのよ!!」

「ったく……。悪いが、途中から見ていたんだ。事情があったみたいだが、さすがに盗みは見過ごせないぞ……」

「!?」


み、見られてたんだ……。
この人に、あたしがあの店からパンをとるところを……。


「……なにか、事情がありそうだな」


えっ、この人は何言ってるんだろう?
犯罪者のあたしにこんなことを言うなんて……。


「管理局に……突き出すんじゃ、ない、の?」

「それは、君の話を聞いてからだ。それに……」


男の人は、さっきと同じやさしい眼をして……。


「君の目は……まだ、曇ってないから。だから、話を……聞かせて、くれないかな」

「あ、うぁ……」


いままで、あたしにこんな風に言ってくれる人なんていなかった。
大人はみんな、あたしのことなんて出来損ないとしか見ていなかったから……。

気がついたら、あたしは大声で泣き叫んでいた。





*     *     *




「……そういえば、名前を言っていなかったな。俺は、フィル・グリード」

「……シャンテ・アピニオン、です」


慣れない敬語なんて使うと、うまくしゃべれない。
こんな風に大人の人と話すなんて思わなかったし……。


「無理に話そうとしなくて良いよ。気軽に話してくれればいい……」

「うん……。ありがとう」


やっぱり、この人フィルさんはなんか違う。
なんか、何でも包んでくれそうな感じ、かな。


「じゃ、アピニオンで、良いのかな。話してくれるかな?」

「シャンテで良いよ。それじゃ、話すね……」


あたしは、今まであったことをすべてフィルさんに話した。
周りからは出来損ない扱いされてきたこと。

実の両親からも見捨てられてしまったこと。

すべてが嫌になって、家を飛び出し、今の生活をしていること。

そして、とうとうお金もなくなって、食うことも出来なくなって、あのパン屋で盗みをしてしまったことを……。


「……そういうことだったのか」

「うん……。あんなことしてごめんなさい。あたし……管理局にいくよ」


どんな理由があっても、あんなことは許されない。
それに何より、あたし自身が許せないから……。


「反省はしてるんだな……」

「うん……。パン屋の親父にも、ほんとに悪いこと……しちゃった」

「そっか……。だったら、俺と一緒に謝りに行こうか」

「で、でも……。それじゃフィルさんに迷惑が……」


あたしがやっちゃったことに、これ以上この人に迷惑をかけられない。
だって、この人はあたしのことを信じてくれようとしてるのに……。


「あのな……。もう一つ、シャンテに言ってなかったことがあったんだ。それは、な……」


フィルさんが、そう言ってスクリーンに出したものは……。


「う、うそ……」

「そ、一応、管理局の人間だ。ということで、事情は俺から親父さんに言ってやるから、一緒に行くぞ」

「う、うん!!」


結局、あたしは、フィルさんのおかげで一週間の店での労働を条件で許してくれることになった。
しかも、最終日にはパン屋の親父がパンとお金まで一緒に渡してくれたのだ。

あたしは、これは受け取れないと言ったけど……。


『嬢ちゃん、理由は聞いたよ。確かに嬢ちゃんがやったことは悪いことだけど、それをちゃんと罪を償おうとしたんだ。だったら、ワシからは何も言わないよ。それにワシが作ったパンをおいしく食べてた笑顔は嘘じゃないだろ。それで十分さ』


「ありがとう……。本当に、ありがとう……」





*     *     *





さらに、フィルさんは、あたしを無理に両親の元には戻さず、あたしのために住む場所まで作ってくれた。
場所は聖王教会。

最初は、シスターなんてって思っていたんだけど、教会のみんなは、あたしのことを本当に思ってくれた。
シスター・シャッハは、すごく厳しいけど、それ以上に優しい女性だった。

セインやオットーやディードも、あたしのことを見下したりはしないし、ちゃんとあたしのことを見てくれた。


そう言った仲間やフィルさんの周りの人たちのおかげで、あたしは立ち直ることが出来た。
そして、フィルさんはあたしに魔法の使い方を作ってくれた。

魔法は、フィルさん得意の幻術魔法。
この魔法は、あたしみたいなテクニック型は、どうしてもパワーや爆発力に欠けてしまう。
そう言った欠点を補うために、考えてくれた戦法だ。

幻術魔法は、あたしの性格にもピッタリはまったし、何より、あたしのためにフィルさんが一生懸命考えてくれた魔法だから……。

だから、フィルさん、シスター・シャッハ、あたし今度のインターミドルでいっぱい頑張って、シスター希望者を増やすんだ。


そしたら、きっと喜んでくれるよ、ね……。





*      *     *





「……はぁ」



試合の後、セインやわざわざ来てくれた騎士カリムが、いっぱいあたしのことを励ましてくれたけど、やっぱり心は晴れない。

いくら頑張ったって、勝たなきゃ何の意味もないし。

―――――負けたら何も残らないから。

何より、自分の時間を割いてまで、あたしにつきあってくれたフィルさんに合わせる顔がないよ。


正直、今は聖王教会に戻る気持ちじゃない。
というより、どんな顔をしてあったら良いの……。

ジメジメした気持ちで、クラナガン中を歩き回った後、いつの間にかあたしは町外れの海岸まで来ていた。


「……こんな所まで来ちゃったんだね」


普段なら夕日がとてもきれいなところだけど、今はそんな気持ちじゃない。
そう思いながら、海岸を歩いていると、誰かがトレーニングをしている。

あたしは、そっと近づいてそこにいたのは……。


「……フィ、ルさ……ん」


そこにいたのは、今は一番会いたくなかったフィル・グリードさんの姿だった。





*     *     *





「……こんなところで、何をしてるの?」


確か、この時期は長期出張でクラナガンにはいられないって言ってたのに……。


「ん? ああ……。少し早く戻ってくれたからな。いつもの日課って所かな。こうしてやっておかないと、身体がなまっちまうからな……」

「そう、なんだ……」


さっきから、何となく見ていたけど、はっきり言ってオーバーワークに近い量をやっている。
それでも、本人曰く、一応考えてるらしいけど……。


「そういえば、シャンテ。いったいどうしたんだ、こんな所で何やってたんだ?」

「ん……。ちょっとね」


フィルさんには、あたしの試合のことは誰もいってないはず。
だから、あたしのことなんて知らない……。


「……ヴィクターとの……試合、か」

「!?」


ど、どうして試合のこと知ってるの!?
前に、試合にはこれないから、後で結果を聞くって言ってたのに。


「さっき言ったけど、少し早く戻ってくれたから、会場に見に行ってたんだ……」

「そう、だったん……だね」


―――――最悪だ。


一番、見られたくなかった人に見られてた。


あんなみっともない結果になっちゃった試合を……。
もう、情けなくて、みっともなくて……。

気がついたらあたしは声を殺して泣いていた。
すると、あたしを包み込むように……。


「……今は、思いっきり泣きな。誰にも見えないように……こうしてるから」

「う……ああああ……」


もう、我慢の限界だった。
あたしは、フィルさんの胸の中で、思いっきり自分の気持ちをはき出すように泣きまくった。





*     *     *





「……なんか、みっともないところ見せちゃった」

「みっともなくなんかないよ。それだけ、真剣だったってことだろ」

「うん……」



それも、もちろんあるけど、一番は、ここまであたしにつきあってくれたフィルさんに合わせる顔がなかったから……。


「……敗北はそこから、学ぶことは沢山ある。失敗からもな……」

「……えっ? それって、どういうこと?」

「……すこし、昔話するな。とある愚かな男の話を……」


話の内容はこうだった。
昔、その人は、大切な人たちを失ってしまい、自分に力がなくて、ありとあらゆる無茶をしまくった。
オーバーワークもしたし、自分の身を顧みない魔法を使ったりもした。

その代表格に、試合でコロナも使っていたネフィリムフィスト。
あれは、自分の身体能力以上に能力を上げられるけど、それは無理やりしてるだけで、使いすぎれば身を滅ぼす諸刃の魔法。


そして、その人は、結果的に力は得られたけど、残されたのはボロボロの身体とむなしさだけだと……。


「……そいつの場合は、一人ですべてのことをしていたからこうなった。だけど、シャンテ、お前にはたくさんの友達や仲間がいるだろ。そう言う人たちがいれば、この敗北もきっと自分の糧に出来るさ……」

「……フィルさん」



―――――悲しい瞳。




フィルさんの瞳は、ほんとに悲しい色をしている。

最初にあったときから、ずっと笑顔なんだけど、どこか悲しい笑み。



『あの人はね、自分のことより、周りの人を優先しちゃうの。それが自分の大切な人なら尚更ね……』



以前、セインや騎士カリムが言ってたことが、今はっきり分かった。
さっきの話の人は、フィルさん自身のこと。



―――――そして、フィルさんは大切な人達を亡くして、無茶しまくったんだ。




「……ねぇ、フィルさん、さっきの話の人って……。救われたの?」

「……さあな」



夜空を見上げながら、答えるフィルさん。
この人は、今も後悔しながら生きてる。

いくらあたしでも、それくらいのことはわかるよ……。



―――――そんな今にも泣きそうな瞳をして、崩れそうなのに。



気づいたらあたしは……。



「……シャンテ?」


後ろから、フィルさんのことをぎゅっと抱きしめていた。



「……もう、もう……いいよ。あたしを励ましてくれるために……。つらいこと、思い出さなくて……良いよ」

「……何言ってるんだ? 俺は何も……」

「分かっちゃったから……。あの話の人、フィルさんのこと……なんでしょう」


あたしの言葉に、フィルさんが寂しい笑みをふと浮かべる。


「……昔は、ティア達もだませてたんだけどな。ポーカーフェイス、出来なくなってるのかな?」

「……そうじゃ……ないよ」


きっと、大抵の人なら騙すことは出来る。
あたしの場合は、ずっとフィルさんのことを見てきたから分かったんだから……。



「……好きな人のことだから、分かったんだよ。あたしの……大好きな人だから」

「……シャンテ」


もう、自分の気持ちに嘘つくのは止めよう。
元々、ウジウジしてるのは柄じゃないし、綺麗さっぱり伝えて、そして、思いっきり振られよう。



「あたしね……。あの日、フィルさんに助けてもらってから……。ずっと、ずっと……好きだったんだよ。こんなあたしに真正面から見てくれたフィルさんのこと、ずっと……」



もう、色んなことが混じっちゃって、うまく言葉に出来ない。
でも、あたしの気持ちは全部込めた。


―――――後悔はしないよ。



「お前って、いつもそうだよな……。悪戯好きなくせに、すごく不器用で、でも……真っ直ぐに気持ちを言ってくれる。今も、こうして、俺のことを思ってくれて……」

「……えっ?」

「年下のお前が、俺に気持ちを伝えてくれたんだもんな。俺も、ごまかさずに伝えるよ。好きだよ……。真っ直ぐな心を持った、シャンテ・アピニオンのことが大好きだ……」

「あっ……」



―――――伝わったんだ。


あたしの想い、フィルさんに伝わったんだ!!




「嘘じゃないよね……。あたしのこと、好きって……うそじゃ……ない、よね」


こういうときに嘘をつくような人じゃないってことはわかってる。
でも、これが夢なんじゃないかって思っちゃうから……。


「……だったら、証明、しようか?」

「……うん、して、欲しい……な」


あたしも、フィルさんもその言葉の意味は理解していた。


―――――星が輝く夜空の元


あたし達は、誓いのキスを交わした。


触れるだけの優しいキス。


それが、今まで大切にとっておいたあたしのファーストキス。





*     *     *





「えへへ〜♪」



あのあと、あたし達はフィルさんの家までゆっくりと歩いていた。
フィルさんも家までは少し距離があるから、バスを使おうかと言ってくれたんだけど、今は、こうやって一緒にいたかったから、時間はかかるけど、徒歩で行くことにした。


「あ、あのな……。もう少しだけ、離れてくれないか」

「いやだよ。だって、やっと両思いになったんだから、今はこうしてたいな……」


絶対かなわないと思っていたあたしの想い。
それが、こうしてかなったんだよ。


―――――だから、今日くらいはこうして甘えさせてね。



「……ったく、しょうがないな」



口ではそう言っていても、あたしのことを引きはがそうとはしなかった。
フィルさんも、あたしと似ているところがあるんだよね。
素直になれない所と、好きな人にはとことん甘いって所。



「……でも、その前に教会には連絡入れておけよ。お前、黙ったまま出て行っただろ?」

「……な、なんで分かるの!?」

「さっきのことを考えればすぐに分かるっての……。ああいうときは一人になりたかった気持ちもな。俺の家に行くにしても、帰るにしても、一度連絡はしておけ」



ううっ……。こういう時のフィルさんって、すっごく厳しいんだよね。
筋だけは通さないと、絶対にダメだって所は。

セインや騎士カリム、絶対に怒ってるだろうな……。

あたしは、恐る恐る教会に通信を開いた。
すると……。



「くおらあああああああああああ!! シャンテッッッ!!」

「ひいいいい……」



通信に出たのは、むちゃくちゃ怒っていたセインだった。
やっばい……。ものすごく怒ってる。



「お前、試合が終わってから、誰にも言わずに会場を出て行って!! みんな心配して探し回ってるんだぞ!!」

「……ご、ごめん。本当に……ゴメン」

「オットーやディードもそうだけど、シスターシャッハと騎士カリムも、心配してるんだからな!! まぁ、その……あたしもな。とりあえず、みんなにはあたしから連絡入れておくから……。戻ってくるんだろ?」

「い、いや……。その……」



みんながあたしのことを心配してくれて、本当にうれしかった。
本当なら、すぐに教会に戻らなきゃいけないんだけど……。



「教会に戻るのは、ちょっと待ってもらって良いかな……」

「えっ? フィルさん、シャンテと一緒にいるんですか!?」

「まぁな。ちょっとした事情でな。セイン、責任は俺がとるから、シャンテを教会に戻すのは、明日でも良いか?」



フィルさんの言葉はとってもうれしい。
でも、そんなこと騎士カリム達が許してくれるわけ……。

すると、セインがフィルさんのことをじっと見つめて……。



「……一つだけ、聞いても良いですか? フィルさん、シャンテのこと……どう、思ってますか」

「ちょ、ちょっとセイン、あんた、何を聞いて!?」

「シャンテは黙ってて!! これは、興味本位なんかじゃない。あたしはシャンテの親友として聞いてます。答え次第では……」


セインの表情がいつもと違い、本気なのは見て分かった。
すると、フィルさんは迷いもなく……。


「……こいつは、俺にとって大切な『女性』だよ。ずっと、そばにいて欲しい大切な人……。この答えじゃ駄目か?」

「あっ……」


―――――ありがとう。
あたしのこと、ちゃんと一人の女性として見てくれてるんだね。


その答えを聞いたセインは……。


「そこまではっきりと言われるとは思わなかった。シャンテ、お前、やっと自分の気持ち伝えたんだな……」

「……う、うん」



あ、あれ? も、もしかして、セイン、あたしの気持ち気づいていたの!?



「あたしが気づいてないと思ってたの。というか、聖王教会で、あんたの気持ち気付いてない奴いないよ。知らなかったのは、当人だけじゃない……」

「ま、マジで……」

「大マジ。お前、フィルさんと一緒に魔法訓練をしてるとき、あんなに笑顔を見せてたんだよ。あれで気付かない方がおかしいから」



うわぁ……。それって、すっごく恥ずかしいんだけど。
しかも、それをフィルさんに思いっきり聞かれちゃってるし……。



「そういうことだから、一泊と言わず、2〜3日泊まってきて良いから。シャンテ、教会に帰ったらいじられるのは覚悟しておきなよ。最も……それで、済めば良いけどね」

「ちょ、ちょっと!? セイン、それ、どういう意味!!」



すると、セインがあたしにしか聞こえないように、回線を変えて……。



「お前な……。フィルさんの普段の様子、見れば分かるだろ。何人かから好かれてるのは、お前も知っての通りなんだし……」

「そ、そうだった……」



両思いになって、すっかり忘れてたけど、フィルさんって実はかなりもてるんだよね。
フィルさん自身が、一歩引いていたから恋愛には発展しなかっただけで……。

すると、セインはオープン回線に戻して……。



「そういうことだから、フィルさん、シャンテのこと……。あたしのダチのこと頼みますね」


そう言って、セインは通信を切ってしまった。



「それじゃ、教会にも連絡入れたし、あらためてフィルさんの家に行こう!!」

「……そうだな」


あたしは、さっきよりもフィルさんに密着して、胸をさらに押し当てて、フィルさんにあたしの女の部分を意識してもらった。

フィルさんは、そっぽ向いて意識してないふりしてるけど、伝わってくる心臓音や、顔に思いっきり出ているから。





*     *     *





「……ちょっと、待っててくれ。部屋、片付けてくるから」


そう言って、フィルさんがあたしの腕を解こうとし……。


「……良いよ。寝室は……大丈夫なんでしょう」

「お前……。自分が何言ってるのか、分かってるのか?」




―――――分かってるよ。



恥ずかしくて、心臓が止まりそうなんだから。


でも、こんなチャンスはそうはない。
ましてやあたしって、フィルさんの周りにいる人たちより魅力がない。




「……分かってるよ。だから、言ってるんだから。あたしを……本当の意味で、フィルさんの……彼女にして」

「……シャンテ、焦らなくたって……」

「うん……。焦ってると思う。でも、今日じゃなきゃ、フィルさん、きっとしばらくの間、あたしのこと思って、抱いてくれないよね……」



まだ、こういう事をするのは早いってことは分かってる。
でも、それを理由に大事にされるだけってのは嫌だから……。




「……良いのか? 今ならまだ……」

「それ、覚悟を決めた女の子に失礼だよ。この想いは……本当だから」




もう、あたし達に言葉はいらなかった。
フィルさんも覚悟を決めて、あたしのことを求めてくれた。


寝室に行き、舌を絡め合うキス。
何度も互いに求め合い、離れたときは空中に銀色の糸ができあがっていた。


ブラウスとスカートを脱がされ、下着姿になったとき……。



「……下着、もっと可愛いのにすればよかった」



こんな事になるなんて思わないから、いつもの純白の上下。
色気も何もあったものじゃない。



「……いや、普段のシャンテを見れて、俺は……うれしいかな」

「そういう、もの?」

「ああ……」



そう言って、フィルさんはブラを外し、あたしの胸をそっと触れ……。



「あ、ん……」

「結構、胸、大きいよな……」

「ば、ばかぁ……」



好きな人に、そう言ってもらえるのはうれしいけど、やっぱりはずかしいな……。



「でも、大丈夫か? その……。あの件で……」

「あっ……」



フィルさんが言ってるあの件というのは、あたしがあの二人組に犯されかけたときのこと。
確かに、嫌な思い出だけど、決して男の人が嫌いになった訳じゃないし……。



「大丈夫、あたし、フィルさんのおかげで、最悪なことにはならなかったんだし、それに……」



あたしは、胸に触れているフィルさんの手を取り……。



「こうして、大好きな人に触られてるのは……。すっごく、うれしいんだよ。だから、あたしのこと、好きだって思ってくれるなら……。いっぱい……さわってほしい、な」

「……じゃ、もう、遠慮しないからな」



胸だけでなく、脚やすべてをくまなく愛してくれ……。
そして、いよいよ……。


「……い、痛ぁ」



初めての痛みは、全身が引き裂かれそうなくらい痛かったけど、それ以上に好きな人を受け入れられた喜びがあった。



そして、あたしとフィルさんは、身も心もとけあって……。




快楽の海にその身をゆだねた。





*     *     *





「……もっと、してくれても良かったんだよ」


男の人が、何度もしたいってのは、そう言った本に書いてあったし……。
フィルさんがしたいって言うなら、あたしは受け止めてあげたい。



「あのな……。初めてなのに、無茶させられないだろうが。それに……」



フィルさんは、あたしを自分の方へ抱き寄せ……。



「自分が快楽を求めたいだけなら、こういう事には意味がないから……」



あたし、本当にフィルさんを好きになって良かった。
男の人って、こういってくれる人はそうはいない。

こういう行為の時って、自分本位になってしまうのが当たり前だから……。



「……本当、やさしいんだ。だから、大好きなんだよ〜♪」



あたしはフィルさんの頬に、キスをする。
少しは、あたしの気持ち伝わったかな?

あたしは、フィルさんに思いっきり抱きついて、自分の胸や脚を押しつけて……。



「……おまえ、絶対、俺の理性とばしたいだろ」

「あったり〜♪」

「勘弁してくれよ……」



それでも、フィルさんは、何とか理性と本能の戦いに勝利して、朝までこうして過ごした。
もう……。あたしは別にしても……良かったんだけどな。





*     *      *




次の日、あたし達は、クラナガンの繁華街にいた。
せっかく恋人同士になったから、なにか記念が欲しくなって、そこで思いついたのが、プリクラだった。

フィルさんの手帳を見せてもらったけど、はっきり言って、あたしの関係者殆どとプリクラを撮っていた。
陛下だけでなく、セイン達もそうだし……。

何より、あのヴィクトーリアとも一緒にあったのがびっくりだ。
理由を聞いてみると……。


『昔、ヴィクター達にちょっと訓練をしたことがあってな。その縁で、時々会ったりもしている……』



どうりで、あたしの幻術が効かないと思った!!
フィルさんが教えてたんなら、通じないのは当たり前だっての!!


――――――――なんか、超むかつくんだけど。

ということで、あたしはちょっとだけごねて、ここまでやってきたのだ。



「……でも、本当にありがとう。あたしのわがままなのに」

「気にするなって。これくらいなら、可愛いものだから……。さて、プリクラを撮って、他にも色んな所に行くぞ」

「うん♪」



あたしは普通にとるだけでなく、抱きついたり、キスをしながら撮ったりもした。
さらに、バリアジャケット姿にもなって……。


「……改めてみると、かなり大胆だよな。そのジャケット」

「まぁ……。確かにね」


胸の部分は、布地が短くて下乳が出ちゃってるし……。
確かにちょっと恥ずかしいかも……。



「せっかくだから、あたしの胸、触ってみる?」

「……やめとく。昨日言ったことを撤回したくない」

「ちぇっ……。残念」



ちょっと残念だけど、フィルさんがちゃんと女の子と意識してくれるのが分かっただけでも良いかな。
プリクラを終わった後、二人とも恥ずかしくなっていたけど、これも恋人同士でしかない特権ということで許してね。

その後、洋服を見たり、カラオケをしたりして一日を楽しみ、あっという間に夜になってしまった。



「……終わっちゃったね」

「そうだな……。さすがに、もう帰らないとな」



フィルさんが、聖王教会領まで送ってくれたけど、別れがつらくて中に入れなかった。



「また……。会えるよね」

「ああ……。俺も、少し仕事量を控えて、時間を作るようにするよ……」

「うん……。あたし、すっごく寂しがり屋だから、ずっと放っておかれたら、寂しくて泣いちゃうからね」



セインや教会の仲間はいてくれるけど、やっぱり恋人と離れてるのは寂しい。
最後に、あたし達はキスをする……。



「……なんか、余計、さみしくなっちゃうね」

「俺もな……。一人でいたときは、こんな事……考えなかったんだけどな……」

「良いことだよ。人は、一人じゃ生きていくなんて……。無理なんだから……」



昔、ぐれてた頃、あたしは一人でも平気だって思ってたけど、こうして大切な人が出来ちゃったら、絶対に無理。



人の心の温かさは、かけがえのないものだから……。



なんか、柄じゃないこと言ってるね、あたし……。



フィルさん、あたし、まだまだ女の子としても未熟だけど、それでも大好きって気持ちだけは誰にも負けないから……。




これからも、いっぱい頑張って、可愛い女の子になるから……。




だから、あたしのことずっと離さないでね。







P.S;実は、別れ際のキスをセインや騎士カリム達に見られていて、あっという間にフィルさんの関係者全員に、あたし達のことが知れ渡ってしまった。


陛下達からも……。


『隙あれば、奪うのって……ありだよね』


とか言われる始末。


んなわけないでしょう!!


あたし、マジで大変な人を恋人にしちゃったんだなと思ったよ。
あのとき、セインが言っていた台詞、冗談でも何でもなかった。


でも、フィルさんの恋人は、あ ・ た ・ し、なんだからね!!

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あきゅろす。
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