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〜 Remember my heart 〜
第8話 ホテル・アグスタ


ユーノ司書長暗殺未遂事件から数日後、機動六課はホテルアグスタで行われる、オークションの警備に当たることになった。


―――――この時なんだよな。



ティアが思い詰めてしまう切欠になるのは―――――。



地球から戻ってきた時も、どことなくおかしかったからな。



ホテルの警備前にスカリエッティのことを、ここではじめて俺たちに話されるが、いくらなんでも、もう少し早く言って欲しい。
実際戦っているのは俺たちなんだし、その辺は言ってくれてもいいと思う。

少し違う話になるが、訓練も基礎が大事なのは分かるけど、なにも目標がないのと、明確な目標を持って行うのでは意味が違ってくる。

このアグスタのことだって……もうフォワード達と隊長陣がもう少しお互いに話していれば、あんな事にはならなかったはずだ。





*    *    *





−ホテル・アグスタ裏口−


俺たちはホテルの外でそれぞれ警備をしている。
ただ俺とティアはそれぞれ別の位置に配属になっている。

センターガードが同じ所に二人いてもしょうがないのは分かっている。
だけど、今のティアのことを考えると―――――。

そんな中ティアから念話が入って来た。


(そっちはどう……?)

(特に今のところは変わりなしかな……。どうしたんだ? いきなり念話なんて……)

(ちょっとね……ねぇ、フィル。あんたは八神部隊長のこととか、結構知っているわよね……)

(まぁ……それなりかな……。でもティアが知っている程度のことだ。俺たちの階級じゃレアスキルの機密事項は、そんなに知ることは出来ないからな……)

(そう……なんだけどね……)

(ティア……もし、何か悩んでいるならいってくれよ……一人で抱え込むなよ………)

(そんなんじゃないから………大丈夫よ……)


そう言ってティアからの念話は切られた。
やっぱり抱え込んでいるな……でも、今のティアには言葉は逆効果だ。
事の成り行きは流れに任せるしかない。


ティア……無茶はするなよ……。
お前は決して凡人なんかじゃないんだからな………。



*    *    *


あたしはフィルとの念話を切り少し考え事をしていた。
この六課の戦力は、はっきり言って無敵を通り越して異常だ。
八神部隊長がどんな裏技を使ったか知らないけど、隊長格全員がオーバーS。副隊長でもニアSランク。

他の隊員達だって前線から管制官まで未来のエリート達ばかり。
あの歳でもうBランクを取っているエリオと、レアで強力な竜召喚師のキャロはフェイトさんの秘蔵っ子。
危なっかしくはあっても潜在能力と可能性の塊で、優しい家族のバックアップもあるスバル。


そして―――――。


同じセンターガードだけど、あたしよりもうまく立ち回り、デバイスマイスター並みの知識のあるフィル。


六課で凡人なのは………あたしだけか………。


だけどそんなのは関係ない。あたしは立ち止まる訳にはいかないんだ………。


そんな時、山中からガジェットがホテルに向かって進行してきていた。



*    *    *


「クラールヴィントのセンサーに反応。シャーリー!!」

「はい、来ましたよ。ガジェットドローン、陸戦T型。機影30……35……」

「陸戦V型……2……3……4……」



シグナム副隊長とザフィーラといっしょに警備をしていたが、ロングアーチからの連絡を受け、僕達は副隊長の指示に従うことになった。


「エリオ、キャロお前達は上に上がれ。ティアナの指揮でホテル前に防衛ラインの設置をする」

「「はい!!」」

「ザフィーラは私と迎撃にでるぞ」

「心得た」

「えっ、ザフィーラって喋れたの……?」

「びっくり……」

「守りの要はお前達だ……。頼むぞ……」

「う、うん……」

「頑張る……」



*    *    *



「前線各員へ、状況は広域防御戦です。ロングアーチ1の総合管制と合わせて私、シャマルが現場指揮を行います」

「スターズ3、了解!!」

「ライトニングF、了解!!」

「スターズ4………了解!!」

「スターズ5、了解!! シャマル先生、状況の確認をしたいんで、前線のモニターをこっちに回してくれませんか」

「シャマル先生、こっちも前線のモニターをもらえませんか」


俺とティアはシャマル先生に、前線のモニターを回してもらうようにお願いした。
とにかく状況を知ることが先決だ。




*    *    *




「了解、クロスミラージュとプリムに直結するわ……クラールヴィント、お願いね」

《Yes》

(シグナム……ヴィータちゃん……)


シャマルは建物内で待機しているあたし達に呼びかけ、前線の情報を送ってきた。
これである程度の状況を把握出来る。



「おう、スターズ2とライトニング2……出るぞ、シャーリー!!」

「了解、グラーフアイゼン、レヴァンティン、レベル2起動、承認……」

「グラーフアイゼン!!」

「レヴァンティン!!」

《《Activating》》



あたしとシグナムは騎士甲冑を身につけ、ガジェット共の殲滅に向かった。
新人達のとこにはいかせはしねえ。あたしが全滅させてやる!!





*    *    *





「紫電……一閃」


山岳地帯に着いた私は、とりあえずV型を一機殲滅したが、ザフィーラやヴィータはどうなったか……。


「ここは通さん………てやぁぁぁぁぁ!!」


ザフィーラが鋼の頚を使い、T型のガジェットの粗方を殲滅する。
これであらかたは片付いたはずだが―――――。



*    *    *



「副隊長達とザフィーラ、すごい……」

「これで……能力リミッター付き………」

「ああ……」


俺たち3人は一旦合流して前線の様子をモニターで確認していた。
分かってはいたが、相変わらずすごいな。副隊長達……。


ティアの奴、やっぱり気にしているみたいだな……。

落ち着けよ……。

焦ったら自分の力は発揮出来ないぞ……。





*    *    *





−ホテル前、山道−



「ごきげんよう、騎士ゼスト、ルーテシア……」

「……ごきげんよう」

「何の用だ……?」

「冷たいね……。近くで状況を見ているんだろ。あのホテルにレリックはなさそうなんだけど、実験材料として興味深い骨董が一つあるんだ。少しは協力してはくれないかね……君たちなら、実に造作もないことのはずなんだが……」

「断る。レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ……」


レリックが関わらない限り、俺は余計なことに関わる気は全くない。


「ルーテシアはどうだい。頼まれてくれないかな?」

「……いいよ」

「優しいな……今度ぜひ、お茶とお菓子でも奢らせてくれ。君のデバイス『アスクレピオス』に、私が欲しい物のデータを送ったよ」

「……うん、じゃ……ごきげんようドクター……」

「ああ、ごきげんよう。吉報を待っているよ」


スカリエッティとの通信が終わった後、ルーテシアは召喚を行うためコートを脱ぐ。


「いいのか?」

「うん、ゼストやアギトはドクターを嫌うけど、私はドクターのこと、そんなに嫌いじゃないから……」

「……そうか」

「吾は乞う……」




*    *    *





「どうしたの? キャロ……」

「近くで誰かが、召喚を使っている……」


わたしはケリュケイオンの反応で、誰かが召喚を使っているのを感じた。
しかも強力な召喚魔法。


「クラールヴィントのセンサーにも反応。だけど、この魔力反応って……」

「お、大きい……」


ロングアーチのセンサーでも魔力反応をキャッチしていた。
これはかなりの大きさだ。



*    *    *



「小さき者、羽搏く者。言の葉に応え、我が命を果たせ。召喚インゼクトツーク」


私はアスクレピオスに魔力を注ぎ、召喚呪文を行いインゼクトツークを呼び、ミッションを行うことにした。


「ミッション……オブジェクトコントロール……。いってらっしゃい……気を付けてね……」


召喚虫達は、ガジェットドローンに取り憑き、ホテルの方へ飛んで進行を再開していた。



*    *    *



取り憑いたガジェットは運動能力も上がり、副隊長陣も少し苦戦をし始めた。
単体で行動していたが、私はヴィータと一旦合流することにした。


「こいつら急に動きが良くなったぞ!?」

「自動機械の動きじゃないな……」

「有人操作に切り替わった? もしかしてさっきの召喚師の魔法。シグナム、ヴィータちゃん……」

「分かっている……。ヴィータ、ラインまで下がれ。召喚師がいるなら、新人達のもとに回りこまれるかもしれない」


もし、あっちに行かれたら、フォローするのは難しくなってくる。
その前になんとかこいつらを叩かなければ!!


「わ、わかった……」

「ザフィーラ……シグナムと合流して……」

「心得た」




*    *    *





−スカリエッティ、基地内−





「やはりすばらしい。彼女の能力は……」

「極少の召喚虫による無機物自動操作、シュテーレ・ゲネゲン……」

「それも彼女の能力の一端に過ぎないがね……」



これくらいのこと、ほんの序の口さ。
本番はこれからだよ―――――。



*    *    *



−ホテル前、山道−


「ブンターヴィヒト………オブジェクト11機、転送移動」


私はガジェットをホテル前に転送し、おとりをしてもらうことにした。
その間にホテルの中にあるドクターの頼まれたものを探した。

 
「ドクターの捜し物も見つけた。ガリューちょっとお願いしていい。じゃまな子はインゼクト達が引きつけてくれる。荷物を確保して……」

私はガリューをホテルにとばし、捜し物を回収することにした。





*    *    *





−ホテル前−


「遠隔召喚……来ます」


キャロの声と同時に、召喚魔法陣が四つ現れガジェットが数機出て来た。
こいつらは今までのガジェット違うはずだ。訓練と同じと思っていたらやられる。


「あれって、召喚魔法陣……」

「召喚ってこんな事も出来るの……」

「優れた召喚師は転送魔法のエキスパートでもあるんだ。エリオ、スバル気を抜くなよ」

「何でもいいわ。迎撃行くわよ」

「「「おう!!」」」

「まて、少し冷静になれ。闇雲に突っ込んでも倒せないぞ」


俺たちがバラバラに戦っても勝ち目がない。
チームワークでやらなきゃ勝てる物も勝てないぞ!!


「フィルは黙ってて。今はあたしの指揮に従って!!」


(今までと同じだ。証明すればいい。自分の能力と勇気を証明して、あたしはそれでいつもやってきた)


ティアはバレットを撃っているが、あれじゃ闇雲に撃っているだけで意味がない。
訓練でもあんなミスはしなかったのに、完全に頭に血がのぼっちまっている。


「防衛ライン、もう少し持ちこたえていてね。ヴィータ副隊長がすぐに戻ってくるから……」

「シャマル先生、守ってばかりじゃ行き詰まります。ちゃんと敵機を落とします」

「ちょ、ティアナ大丈夫!? 無茶しないで……」

「大丈夫です、シャーリーさん。毎日朝晩練習してきているんですから」

「エリオ、センターに下がって。あたしとスバルのツートップで行く」

「は、はい!!」

「スバル、クロスシフトA。いくわよ!!」

「おう!!」

「やめろ、今の状況でクロスシフトは危険だ。戻れ!!」


俺の制止の声も聞かず、スバルとティアは先行しクロスシフトの体勢になった。
これじゃ前の時と同じだ。スバルへの誤射が起きてしまう。

しかも今度は、ヴィータ副隊長が間に合うかは分からない。


「エリオ、済まないが、キャロといっしょにその場を守ってくれ。俺はあの二人を止める。このままじゃ取り返しの付かないことが起きる!!」

「えっ、それって何なんですか……?」

「ティアの奴、冷静さを欠いてしまっている。このままじゃ、味方のスバルを打ち落とすことも考えられる。その前に止める!!」


俺はエリオ達に防衛ラインの死守を任せ、ティア達のもとに向かった。
間に合ってくれよ……。



(証明するんだ……。特別な魔力や才能が無くたって……。一流の隊長達や部隊だって……。どんな危険な戦いだって……)

「あたしは……ランスターの弾丸は、ちゃんと敵を撃ち抜けるんだって……」


スバルがウイングロードでガジェットを引きつけてくれている。
あたしはクロスミラージュのカートリッジを四発ロードし13個の誘導弾を作った。
訓練でもやったことがないけど、やってみせる。




*    *    *




(まずいぞ、ティアの奴、限界以上の能力を使ってやがる。あの数じゃ今のティアじゃ制御はできない。シャーリーさんの注意も聞いてないみたいだし、このままじゃ……)


もう、すでに誘導弾の発射態勢になってる。
しかも、13発も一気に撃とうとしてやがる―――――。


今のティアの精神状態じゃ絶対にミスショットになる。



「待てティア!! 撃つなァァァァ!!」

「クロスファイア………シュート!!」



ティアはクロスファイアでガジェットを破壊した後もさらにバレットを乱射していた。
このままじゃスバルに当たってしまう。
まずいぞ、ヴィータ副隊長も間に合うか分からない……。

こうなったら、スバルにあたりそうなのは、こっちが当てるしかない。


「一か八かだ!! プリム、カートリッジロード。プラストシュート、スタンバイ!!」

《了解です。マスター、今は数よりも精密射撃を優先させましょう。誘導弾の制御は私がやります。マスターは発射のタイミングをお願いします》

「わかった……頼むぞ!!」


そうしているうちに一発のバレットがスバルに向かっていた。
いかん、あれは確実にスバルに命中する。当たり所が悪ければ、落下して死ぬ可能性だってある。


「間に合ってくれ!! プラスト……シュート!!」




*    *    *





あたしはティアのクロスファイアをよけながらおとりをしていたが、一発の銃弾がこっちに向かってきた。
あたしも気付いたのが遅かったので、今からじゃ回避は無理だった。

あたしは喰らうのを覚悟したが、次の瞬間白色の魔力弾がティアの弾丸を撃ち落としていた。
白色の魔力色………もしかして……。



「どうにか間に合ったな……」

「フィル……どうして……?」


エリオ達と、後方を守っていたはずのフィルがどうしてここに?


「どうしてじゃねぇ……。ティア、何であんな無茶をした!!」

「あの……フィル……いまのもコンビネーションの内で……」

「ふざけるなスバル!! 直撃コースだ、今のは!!」




*    *    *




そう、今のは明らかに直撃コースだった。
俺が落とさなかったら、間違いなくスバルは大怪我、もしくは……。


「違うの、いまのはあたしがいけないの。ティアのせいじゃ……」

「うるせぇよ馬鹿共!!」

「「ヴィータ副隊長……」」

「さっきから黙って聞いてりゃ、フィルがいなかったら直撃だったじゃないか。それをぐだぐだ言いやがって……」

「もういい、あとはあたしがやる。二人まとめてすっこんでろ!!」


確かにヴィータ副隊長の言うとおり、いまの二人に戦わせるのは危険すぎる。
だけど―――――。


「フィル、おめえはエリオ達と合流して、防衛ラインの指揮を取れ。あの二人だけじゃ厳しい……」

「でも、ティア達は……」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。さっさといけ!!」

「……はい」


俺はエリオ達と合流するために、ホテル前に向かった。
前の時もそうだったが、隊長達も副隊長達も注意はしても、ティア達に何のアフターケアをしていない。

確かにこの誤射は大変な事故になりかけていたので、あの判断は正しいと思う。
でも、その後もほったらかしにされたんじゃ……。


前から思っていたが、ティアは隊長達みたいに、強い魔力を持っている訳じゃないんだ。
その辺を理解しない限り、なのはさん達は永遠にティアの気持ちは判らないかもしれない―――――。




*    *    *




「うん、ガリュー……ミッションクリアだよ。じゃ、そのままドクターに届けてあげて……」

「品物は何だったんだ……?」

「分かんない。オークションに出す品物でなく、密輸品みたいだけど……」

「そうか……」


ホテルの方を見ると爆炎も収まり、戦いの終わりを告げていた。


「戦いも、もう終わりだ。前線の騎士達がなかなか良い戦いをした。さて、お前の捜し物に戻るとしよう……」

「……うん」




*    *    *



ガジェットの方は増援の方はなく、副隊長達が全機撃墜をした。
召喚師の方は追い切れなかったみたいだが、いるのが分かっていれば対策は立てられる。


「そういえばティアナは……?」

「はい、裏手の警備に……」

「スバルさんも一緒に……」

「……」


ヴィータ副隊長は何か煮え切らない表情をしていたが、今はティア達のことだ。
俺はすぐにもティアの側に行きたかったが、スバルもいるし、何より今声をかけてもきっと届かないと思う。

今回のことでティアの心には、深い傷が残ってしまった―――――。

こうなるって分かっていたのに―――――。

なにやってるんだよ俺は―――――。





*    *    *



「ティア……向こう終わったみたいだよ……」

「………あたしはここを警備している。あんたはあっちに行きなさいよ……」

「あのね……ティア……」

「いいから行って……」

「ティア……全然悪くないよ。あたしがもっとちゃんと………」

「行けっていってんでしょ!!」

「っ!!……ごめんね……また……後でね……ティア」


そういってスバルは立ち去った。
正直、今は誰とも顔を合わせたくない。


「あたしは……あたしは………」


あたしはもう、いたたまれなくなり………ただ声を殺して泣きたかった。



兄さん……。


あたしは何も証明出来ないの……。


やっぱり凡人は何も出来ないの……。



教えてよ……。


―――――兄さん。





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