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〜 Remember my heart 〜
episode;01 ティアナ編
「さて、出てくれるかな? 今あいつがいるところは確か夜だよな?」


今、彼女がいるところは、ミッドとは幾分か時差があるところだ。
こんな夜中に通信するのは、ちょっと悪いけど、遠くに離れているから、通信しかできない。


「……いくら暇をもらっても、遠くにいるあいつには……会えないよな」



プリムがあれば、長距離ワープも出来るけど、今はメンテナンス中でそれも無理だ。
だから、せめて会話だけでもと思った。


「……通信に出なくても、メッセージでも残しておけばいいかな」


早速俺は、彼女にメッセージをするため、通信画面を開き通信しようとした。
その時――――――。

ピンポーン

扉からチャイムを鳴らす音が聞こえてきた。
俺が扉を開けると、そこには――――――。


「……う、嘘だろ」

「帰ってきたわよ……。フィル」


長期任務でミッドを離れていた俺の彼女のティアナ・ランスターの姿だった。



*    *    *


「お前……どうして……?」

「驚いたみたいね。実はね、予定より任務が早く終わったから、昨日ミッドに帰ってきたのよ」


任務が終わったのは本当だけど、本当の理由は別にある。
それは――――――。


「……そっか。でも、こうしてティアの顔を見るとホッとする」

「それは、あたしもよ……。で、フィル、あんたあたしに隠してることあるわよね」

「はぁ? 何のことだよ?」


やっぱりとぼけている。
あたしが任務を頑張って早く終わらせたのは、フィルの上司から緊急通信があって、最近のフィルの様子を教えてくれたからだ。

あたしは、2ヶ月前から長期任務が入ってしまって、なかなか合うことが出来なくなってしまった。
出発前に、絶対に無理しないでねって口酸っぱく言ってたんだけど――――――。


「あたしが知らないとでも思ったの……。あんた、あたしがあれほど言ったのに、全然休暇取らなかったでしょう……」

「な、なんで……お前が知ってるんだよ……?」

「……あたしの所に、あんたの上司から通信が来たのよ。あんたの無茶ぶりを説教してくれってね………」

「そうだったのか……。余計な心配をかけちゃったな……」


あのねフィル、あんたは肝心なこと忘れてる――――――。

自分の大切な人が無茶してるのに、それを見過ごせるわけ無いでしょう。
あたしはそんなに薄情じゃない!!
仕事とあんたをどちらかを選べと言ったら間違えなくあんたを選ぶわ。


「と言うわけで、あたしもあんたも休みなわけだし、せっかくだからどっかに旅行にでも行きましょう」

「そうだな……。それも良いな」


早速あたし達は、パソコンで検索をし、良い物件を探す。
フィルの休みは、最低3日と言われてるけど、場合によっては、もう少し休ませてくれとフィルの上司から事前に言われていた。


だから、あたしは遠慮無くこのばかを休ませる――――。


フィルが無茶して、あの時のようにならないように―――。


ゆりかごの時のように―――――。




「フィル、これなんか良くない?」

「んっ? ああ……温泉か」


パソコンで見つけたのは、ミッドから少し離れた温泉街。
普段なら行くのはちょっと厳しいけど、連休があれば十分に行って帰ってこれる。


「そうだな……。たまにはゆっくりするのも……悪くないな」

「んじゃ、決まりね。早速予約するわね」


早速あたしは旅館の予約を取り、限界ギリギリの3日間で取ることが出来た。


「ちょ、ちょっと待て!! 俺の休みは3日間しかないんだぞ。3日で予約を取るな!! 帰る日のことも考えろ!!」

「大丈夫よ。事前にあんたの上司から、少しくらいなら休みをオーバーしてもかまわないって言われてるから。大体、これでも休み足りてないからね。あたしだって長期任務後は1週間は休みもらえるわよ」

「……確かに、そうだが……」

「ということで、これ決定だから。文句は言わせないからね」


フィルの場合、これくらい強引にしなきゃ休んでくれないからね――――――。

まったく……。
人に無茶するなと言っておきながら、肝心のあんたが休んでないじゃない。

ということで、半ば強引にあたしは旅行の準備をし、早速出発することにした。



*    *    *


「そういえば、あたしあんたと旅行いけるのが嬉しくて、失念していたんだけど……」

「んっ? 何がだ」

「身体の傷よ……。温泉だと……あんたのその……左胸の……」

「ああ……」


――――――左胸の傷。


かつて、フィルが未来の世界でクアットロに心臓を貫かれたときの傷―――――。

今では大分傷跡も消えかけているけど、それでも、結構な跡になってしまっている。
クラナガンでは、管理局の証明書を見せれば、どこでも公共の施設を使えるけど、さすがに山奥離れたところで、一般の人と一緒は、一応大丈夫だけど、それでも、フィルのことを考えると、良い気分はしない。

ちゃんと考えれば良かった―――――。

せっかくの休みを、嫌な気分にさせちゃう。


「……どうやら、その心配はないようだぞ」

「えっ?」


フィルに言われて、これから行く旅館のパンフレットを見ると―――――。


「ちょっと見せて……。へぇ、あたし達が取った部屋って、内風呂あるんだね。しかも露天なんだ……」

「ということだから、ティア。あんまり気にするな。今回の旅行……俺のことを思って取ってくれたんだろ。その思いはちゃんと伝わってるから……」

「……ありがとうね、フィル」


本当、フィルは普段はぶっきらぼうでも、あたしが落ち込んでいるときや泣いているときには、本当に欲しい言葉や態度を示してくれる。

そんなあんただから、あたしは好きになったんだよ。
だから―――――。


「……ティア?」

「……しばらく……こうさせて。あんたのこと……感じてたいから」


電車の中だったけど、あたしはフィルの肩に自分の頭を預けた。
フィルは何も言わずに、あたしのことをそっと自分の方へ抱き寄せてくれた。

しばらくすると、目的地の駅が近づいてきているアナウンスが流れ、あたし達は電車を降り、旅館へ向かうことになった。
旅館は緑が多い、地球で言うところの和風式で、一目であたし達は気に入った。
でも、旅館に入って、仲居さんに―――――。

「あらあら、お二人はご夫婦ですか? とてもお似合いですよ」

そんなことを言われてしまい、あたしもフィルも顔が真っ赤になってしまった。
でも、そう言われるのは照れくさいけど、嬉しいかな♪


その後、あたし達は、夕食の名物料理を楽しみ、少しのんびりした後―――――。


「せっかくだから……一緒に入りましょう」

「……本気か」

「たまには……良いじゃない。あんたあたしが一緒に入ろうって言っても、中々入ってくれないし……」

「……察しろ。色々と……やばいんだよ」

「分かってるけどね♪ でも、今日くらいは良いでしょう。……ねっ」


あたしは躊躇しているフィルは半ば強引に引っ張って、露天風呂に向かうことにした。


「へぇ……結構凄いわね」

「だな……」


内風呂なので、決してそこまで大きいとは言えないが、二人で使うには十分な広さだった。
外から覗かれないために、岩を積んだような壁の向こう側に見える山の景色。さらに上を見上げれば、満天の星空が広がっている。

これは、露天風呂の醍醐味よね。


「それじゃ、身体を洗って、ゆっくりと温泉を楽しもうか」

「そうね。せっかくのお風呂だものね」


あたし達は、とりあえず掛け湯をし、その後身体を洗ってからゆっくりと温泉につかった。温泉は、少し熱いくらいだったけど、浸かるうちに段々暑さにも慣れ、身体の芯から温まった。

フィルも最初は混浴に緊張していたけど、あたしが一緒と言うこともあって、次第に緊張もほぐれ、表情もリラックスしている。


「気持ちいいわね……」

「そうだな……。温泉はルーテシアの所で入ったことはあるけど、こうして入るのは初めてだな」


ふと、フィルの方を見ると、どこか遠くを見ている表情になっていた。
その笑みは、少し寂しそうな笑み―――――。

普段とそんな大差ない感じだから、わかりにくかったけど、いつもと違う笑み。
それをあたしは見過ごさなかった。


「なに……思い出してたの」

「何でもない……といっても無理だろうな」

「……さっきのあんたの笑みは、どこか寂しそうだった。なにか悲しいことを思い出しているときの笑み。そんな感じだった……」

「そっか……」


そうつぶやいた後、フィルは夜空の星空を見ていた―――――。


「聞いても……いい?」

「……ああ」


何となく分かっている。多分フィルが思い出していたのは―――――。


「未来での……ことね」


フィルは予想を当てられて、苦笑しながらも話してくれた。


「こういう星空を見ていると……昔あったことを思い出すんだ。みんなで笑いあっていた……あの頃を」


きっとフィルは、昔あった思い出を沢山思い出している。


それは、なのはさん達を一緒に訓練した日々。

それは、あたしとスバルと3人で一緒にいた思い出。

それは、時には六課メンバーと馬鹿騒ぎした一時。


そう言ったことを思い出しているのだろう―――――。



「確かに過去に戻ってきて、全て元通りにはなった。だけど、俺が経験してきたことは、決して……決して消えることはない」

「……」

「今更……こんなことを言ってるなんて、本当、俺……女々しいよな」


――――それは違う。

あんたの歩んできた辛い未来。それは人一人が背負っちゃいけない悲しみ。

それを今まで、あんたはたった一人で抱え込んできて、それをひたすら隠し通してきた。

それをあたし達に知られてしまったら、自分が甘えてしまうから、フィルはそうやって自分に戒めをしてきた。

フィルがこんな風になってしまったのは、未来でのあたし達との別れ―――――。

愛する人達を失う悲しみは、身を引き裂かれるほど辛い。あたしもたった一人の肉親である兄さんを失ったときに、それを嫌と言うほど味わったから―――――。

あたしは、思わずフィルを抱き寄せ……。

その悲しくも切ない思いを、少しでも分けて欲しかったから―――――。


「ティア……?」

「……フィル、あたしは未来での悲しみは……全部は分かってあげられないかもしれない。でも、あたしは……あんたの彼女よ。あんたのそんな悲しい顔を見てるのは……辛いわよ」

「だから、あたしはこうしていつでも、あんたの悲しみを精一杯包み込んであげる。あんたがまたちゃんと立ち上がれるようにね……」


フィルは何も言うことなく、されるがままになっていた。あたしはいつもフィルがしてくれたように、フィルの髪を優しく撫でた。

そして―――――。

あたしの胸にひとしずくの涙が伝わってくる。


今はゆっくり休んでね―――――。


その傷ついた心と身体は、あたしが癒してあげるから―――――。

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