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〜 Remember my heart 〜
if ending アインハルト
「……んっ」


模擬戦が終わって、身体もくたくたになって、さっきまで思いっきり眠っていたのに、今はヴィヴィオさん達の話を聞いて、まだ見ぬ強い相手がいると知って、心が沸き立つのを止められない。

そして……。


「……フィルさん」


あの模擬戦―――――。


最後の乱戦で生き残った私とヴィヴィオさん、そして、ティアナさんとフィルさん。
それぞれ、最後の気力を振り絞って戦った。

結果は両軍引き分けになって、決着付かずになってしまった。

その後も2連戦をしたんだけど、フィルさんは最初の一試合だけで、あとはサポーターに回ってしまって戦うことは出来なかった。


「……できれば……戦ってみたかったな」


皆さんが言うフィルさんの本当の強さ。
それが何なのか―――。

ふと、窓の外を見ると、そこには……。


「あれは……?」


ロッジの庭で、一人月夜を見ていたフィルさんの姿だった。
私は、なぜかその姿が凄く気になり、そっと外へ抜け出した。


*    *    *


「やれやれ……久し振りの模擬戦だったからな。完全にしてやられたよ」

《確かに現役の頃のマスターでしたら、もう少しやれてましたからね》


―――――ゆりかご事件。


あの時の傷は、まだ完全には癒えていない。
自分の限界を超えて、無茶しまくった代償は、安くはない。


「そうだな……。でも、今回の合宿は、ヴィヴィオ達にとっても良い経験になったと思う」

《ですね……。ヴィヴィオ達もそうですけど、特に》

「ああ……。今回、アインハルトを連れてくることが出来て、本当に良かった。ヴィヴィオ達に触れることによって、今じゃ……最初にあったときとは違う良い眼をしてる」


最初にあったときは、ノーヴェと一緒の時。
あの時は、只ひたすら、覇王流の強さを証明するだけに、ストリートファイトを繰り返していた。

だけど、その出会いがきっかけになって、ヴィヴィオ達とも友達になり、あいつらの純真な心がアインハルトの気持ちの変化につながった。


《でも、相変わらずマスターは、損な役割ばっかりしてますね。そう言った思いを自分の口で言ってあげれば……》

「……そういうのは、ノーヴェやヴィヴィオの役割だ。俺は、ほんの少し背中を押すくらいで良い。それに……」


あいつらの真っ直ぐな思いは、アインハルトの頑なな心を、少しずつだけど溶かして行っている。


「俺は……アインハルトに……何も教えてあげることは……ないから……」

ガサ……ガサ

「!? 誰だ!!」


俺は、物音がする方向へ行ってみると、そこには――――。


「……フィルさん」


エメラルドグリーンの長い髪、そして虹彩異色の瞳の少女。
アインハルトの姿だった。


*    *    *



「どうしたんだ? 眠れなかったのか?」

「……はい、目が覚めてしまって……。その……」


外に出た私は、フィルさんの姿を見て声をかけようとしたんだけど、あの時のフィルさんの憂いに満ちた表情――――――。

その表情を見てしまった私は、どうしても声をかけることが出来なくなってしまい、その場で立ちつくしてしまっていた。

さらにさっきプリムと話していた会話――――。
あの話を聞いてしまい、私はうれしさと、そして申し訳なさでいっぱいになってしまった。


「そっか……」


きっとフィルさんは、私が盗み聞きをしてしまったことに気がついている。
私の気配に気がつかないほど、この人は鈍感じゃない。


「聞かないんですか……。私が……その……さっきの……」

「んっ? ああ……気にするな。ここで俺が勝手に言っていたことだ。まぁ、聞かれたついでに言っておくけど……」


そう言ってフィルさんは、さっきとは違って優しい眼をして――――――。


「本当、お前は良い眼をするようになった……。純粋で……真っ直ぐな瞳にな……」

「フィルさん……」

「アインハルト、以前俺はお前に聞いたことがあったよな。『お前にとって、強さって何だ?』って……」

「はい……」


前にフィルさんに聞かれたこと。
あの時はその意味が全く分かっていなくて、答えることが出来なかった。


「改めて聞くけど……。アインハルトにとって強さって……何だ」


だけど、今なら――――。


「私にとって……強さは……」


――――――きっと、答えられる。


覇王の記憶にとらわれた私じゃなく、アインハルト・ストラトス本人の答えが!!


「この力は、誇示する物じゃなく、優しい人を……自分の大切な人を護るための物……」


フィルさんやノーヴェさん、そしてヴィヴィオさん達と触れ合い、そのことがやっと分かった。
きっと、記憶の中のクラウスも、国民を、そしてオリヴィエ聖王陛下を護るために、その力を使っていたんだ。


「ああ……お前の力は、決して人を傷つける物なんかじゃない。だけど、もう一つだけ言っておくよ」

「えっ?」


一体、他に何があるって言うんだろう?
そう思っていた。だけど、次のフィルさんの言葉は、私の中にあった疑問を氷解することになる。


「……アインハルトが求めたいのは、きっと何かをする強さじゃない。己自身を高めていく強さ、どちらかと言ったらそっちだと思う。現に……」

「インターミドルの話を聞いて、高揚感が止まらないだろ」

「!!」


そうだ――――。

インターミドルの話を聞いたとき、心が沸き立つのが抑えられなくなっていた。
それは、ストリートファイトでは得られなかった満足感。


「やっぱりな……。その顔を見ればわかるさ……。よかったな……」

「……はい!!」

「インターミドルに出場するには、デバイスが必要になってくる。真性古代(エンシェント)ベルカのデバイスは、かなり難しいけど……絶対に俺が作ってみせる。デバイスマイスターの名にかけてもな」

「……ありがとう……ございます」


私は嬉しくて涙が止まらなくなっていた。
出会ったとき、あんな酷いことをしたのに……。

それでも、この人は何度も私に話しかけてくれて、ヴィヴィオさん達と友達になれるきっかけを作ってくれた。

今回だって、こうして合宿に誘ってくれて、いろんな事を学ぶチャンスをくれた。


「一つだけ……聞いても……良いですか?」

「んっ? 何だ?」

「どうして……フィルさんは、私に……こんなに優しくしてくれるんですか?」


普通だったら、見ず知らずの私にあんなにすることはない。
フィルさんにとって、何もメリットなんか無いんだから。

フィルさんは顎に手をついて、少しの間考えて―――。


「そうだな……。あえていうなら……」


さっき見せてくれたとても優しい笑みで―――――――。


「どこか……昔の俺に似ていたんだよ。あの時のおまえは……」


答えてくれた。


「似て……いたんですか? あの時の私は……フィルさんに?」

「まぁな……。無茶をしまくって、目的が見えて無くてさ……。なによりあの寂しい眼……。あのままにしたら駄目だ。そう思ってな……」


確かにそうだ――――。

もし、あのままストリートファイトを続けていたとしても、今のような答えは見つからなかった。

何より、きっと私は今でもひとりぼっちだった。


「さっきも言ったけど、むかし、俺は無茶しまくって、色んな物を失っていった。それこそ……取り返しの付かない物もな……」


フィルさんの顔を見ると、本当に悲しい眼をしている。
以前、ティアナさんが語ってくれたフィルさんの過去――――。

きっとそのことなんだ―――――。


「だからこそ……アインハルトには、俺の二の舞になって欲しくなかった。無茶したって得られる物なんか……何もないんだから……」

「フィルさん……」


フィルさんがこうして優しくしてくれるのは、本当に嬉しいです。
だけど、それは同情だけなんですか?


「あっ、それと、誤解してるかもしれないけど、決して同情なんかない。俺はそれほど甘くはない。自分でちゃんと考えられる女の子だって思ったからやったんだからな……。まぁ、あえて打算を言えば……」


フィルさんは、今度はちょっとおちゃらけた表情になって―――――――。


「とっても可愛い女の子だなって、おもったからかな」

「な、な、な、何言ってるんですか!! わ、私なんて……」


いきなり何を言い出すんですか!!
そんな風に言ってくれる人なんて、今までいなかったのに!!


「充分可愛いと思うけどな。将来性も十分だしな……」

「あ、ありがとう……ございます……。その……フィルさんも……充分……か、格好いい……です……よ」

「お、俺か!? 俺は……人並みだぞ。取り柄もそんなに無いし……」


こ、この人は……。

ヴィヴィオさんやなのはさん達が言ってた通りの人なんですね。
他人の悲しみとかには敏感なんですけど、自分の事は大したことがないって蔑ろにしたりする。

おまけに自己評価が恐ろしく低いとも―――――――。

あの……。

それだけの強さを持っていて、心の強さもあり、デバイスマイスターや執務官資格まで持っていて、どこが人並みなんですか!!


「フィルさん、過大評価は駄目ですけど、過小評価はもっと駄目だと思います!!」



今はっきりと分かった。

私はフィルさんに惹かれ始めている。
フィルさんは、きっと私のことは妹くらいにしか思ってないと思う。

だけど、私のことをちゃんと女の子としてみてくれたのは、フィルさんだけ。

覇王としてでなく、一人の女の子として。

フィルさん、今はあなたに追いつけていませんが、いつかきっと貴方に、ちゃんとこの思いを伝えたいです。


あなたが好きだって言う気持ちを……。


*    *    *


「はーい、ルールー、フィル、お久しぶりやな」

「八神司令、お久しぶりです」

「どうも、お久しぶりです」


翌日、俺とルーテシアは、アインハルトのデバイスを作るために、真性古代ベルカのことで協力してもらうために、はやてさんに連絡をとることにした。


「話は昨日のメールで分かってるけど、どんなのがええか決まってる?」

「あ、はい……」

「装着型とか、武器型とか、何でも相談に乗るよ!!」

「えと……その、格闘戦技だけで戦いたいので、武器型ではない方が……」


確かに、アインハルトの戦闘スタイルだったら、変に武器とかは付けない方が良いかもな―――――――。


「そーかー。格闘家さんやもんねー。ほんなら、身体の動きを阻害するような装着型も良くないかな?」

「ですから、その、この子のような補助・制御型がいいなと」

「なるほどなー。ほんならクリスの性能をベースに、真正古代(エンシェント)ベルカのシステムで組むのがええかな」

「そうですね。それでしたら、俺も協力することが出来ますからね。基礎設計は俺が担当します」


後は、はやてさん達に、ベルカ式のプログラムと調整の方をしてもらえれば何とかなる。


「そやね。ほんならアインハルト。覇王の愛機、まずは軽く取りかかってみるな。八神はやてとフィル・グリードがノリノリで組んであげるよ」

「ありがとうございます!!」

「まぁ、詳しい話も聞きたいから、合宿が終わったら、フィルと一緒に、一度、家か本局に遊びにおいで!!」

「はい」


これで、アインハルトのデバイスの問題は何とかなりそうだな。
合宿が終わったら、基礎ベースを作って、はやてさんに渡しに行かないとな――――――。


「そやけど合宿ええなー!! うちらもまた行きたいなー!!」

「またいつでもいらしてくださいー」

「そうそうフィル。こっちに来るとき、フィルの手作りケーキよろしくな♪」

「了解です。後でリクエストをメールで送ってください」


さてと、これから忙しくなるぞ――――――。

作るからには、セイクリッドハートを上回るデバイスを考えてみせる。
後は、使う本人の技量次第だ。



*    *    *



「……ちょっと早く着きすぎてしまいました」


今日は、八神司令からデバイスを頂ける日。

フィルさんと一緒に来てくれと言うことだったので、近くの駅で待ち合わせをすることになったんだけど――――――。

やっぱり30分前は早すぎたかもしれません。
私は近くの広場で時間をつぶそうとしたとき……。


「おっ、早かったな」


すでにフィルさんは、近くのロータリーで待っていてくれていた。


「い、いつから来てたんですか!?」

「えっ? 今来たばかりだけど?」


絶対にあり得ない!!

ロータリーから、車やバイクの出入りは来たときからずっと見ていたけど、フィルさんが入ってきた気配は全くなかった。


《はぁ……相棒はこういってますが、アインハルトさんのことを待たせたくないって言って、実は1時間前から来ていたんですよ〜》

「ったく……。言わなくて良いことを……」

「すみません……。フィルさん、私よりも早く来ていてくれてたんですね……」

「そんなの気にするなっての。この近くに用があったんだから、少しだけ早く来ていただけだから……。それよりも、ほら!!」

「わ、わわっ!?」


そう言ってフィルさんは、私にヘルメットを投げ渡す。


「行こうか……。お前の相棒に会いに……な」

「はい!!」


フィルさんは、自分の愛車『ロードサンダー』のエンジンをかけ、何度も空ぶかしをしていた。
私もフィルさんの後ろに座って、しっかりとフィルさんに抱きつく。

前に乗せてもらったときは、何も意識していないときだったから、普通に乗れていたけど、今はその……。

男の人って意識し始めていますから、緊張してしまうんです!!


「安全運転はするつもりだけど、落ちないようにしっかり捕まってろよ」

「は、はい!!」


やっぱりフィルさんの背中って、大きいです。
大きさとかもそうなんですけど、こうしてると安心します。


しばらくバイクに乗っていると、海岸沿いに一つの大きな家が見えてきました。



*    *    *


「さて、そんなわけでー。約束の覇王の愛機が完成したんで、お披露目&お渡し会とゆーことで」

「「わー!!」」

「は、はいっ!!」

「いやーなかなか楽しいデバイス作りだったですよー」

「お任せしてもらう範囲も広がったしな!! 気に入ってもらえっと良いんだけど」


基本ベースは俺が作ったんだけど、後のことに関してはすべて八神家のみなさんにお任せした。ベルカ式に関しては、はやてさん達の方が知り尽くしているからな。

はやてさんとリインさんがAIシステムの仕上げと調整を、外装をアギトがしてくれている。


「フィル、ほんまにお疲れ様や。この短時間でベースをつくってくれたんやから……」

「いや、これは本当は俺がやらなくちゃいけなかったことですから。はやてさんの方が忙しいのに……」

「フィルには六課時代からお世話になってたからな。こんくらいはさせてもらうで。何しろ普段は人を頼ってくれへんし……」

「あ、あはは……」


そんなに俺って、一人で全部やってしまう方かな?
六課の時だって、皆さんにはお世話になりっぱなしだったのに――――。


「外見は、あたしなりにモチーフやベースを考えてさ。ヴィヴィオやルールーに連絡して、シュトゥラの歴史を調べてみて作ってみたんだ」

「そう、クラウス陛下って、豹を飼ってたって話を聞いてな」

「あ……はい。雪原豹はシュトゥラ地方では、優秀な兵士でしたから……。クラウス達も大切にしてました」


それは初耳だ。こっちはデバイス本体を作るのに精一杯で、その辺のことは全く考える時間がなかった。


「そんなわけで、シュトゥラの雪原豹をモチーフに作ってみたんだ!!」

「ちょっとまて。豹だと大きくないか?」

「そのへんはノープロブレム。リインッ!!」

「はいです!!」

「アインハルト、開けてみてー」


はやてさんに促されて、アインハルトが箱を開けてみると、そこには……。


((ね、猫?))


豹とはほど遠い、かわいらしい豹柄の子猫が入っていた。


*    *    *


「えええっ? なんだ今の二人の心の声!?」

「もしかしてイメージと違ってましたか?」

「いえ、そんな……」

「はやてさん……これ……」

「いや、ぬいぐるみ外装は、ちょっとしたおちゃめやったんやけど、性能はちゃんと折り紙付きつきやで」


私が困惑していると、箱の中の子猫が、もぞもぞと動き出して――――。


《にゃあ♪》

「あっ……」

「触れてあげて、アインハルト」


私はその子猫を抱き上げると――――――。

ああ……。

温かいんだ……。

ホントに生きてるみたいだ。


「こんなかわいらしい子を、私が頂いてよろしいんでしょうか?」

「もちろん!」

「アインハルトのために生みだした子ですから!!」

「そういうことだ。受け取ってくれ、みんなの気持ちをな……」


八神家のみなさん、フィルさん、本当にありがとうございます。
このデバイス大切にします―――。


「マスター認証がまだやから……。よかったら名前つけたげてな」

「はい」

「認証は庭でやるですよ」


私は認証をするために、子猫型デバイスを抱いて外へ出ることになった。
ふと私はあることを思い出す。

オリヴィエ聖王女陛下が、特に気に入ってらしたつがいがいたっけ。気の早いオリヴィエ陛下は、いつも子が生まれる前から名前を考えてくれていて……。

クラウスとオリヴィエ陛下の最後の年―――。

生まれてくることが出来なった子がいて、あの豹の子にはなんて名を送ろうとしていたんだっけ。


――――――思い出した。

二人が好きだった物語の主人公。

勇気を胸に、諦めず進む小さな英雄の名前。


「個体名称登録――――――」

「あなたの名前は『アスティオン』。愛称(マスコットネーム)は『ティオ』」

《にゃあー♪》

「アスティオン――――――セットアップ」


私はアスティオンを起動させて、バリアジャケットを展開させ、戦闘モードに切り替えた。
うん。以前と全く変わらない変身が出来ている。


「んっ? アインハルト、お前、髪型変わっていないか?」

「あ、そう言えば」


ふと髪に触れてみると、このモードの時は髪飾りで止めていただけだったんですが、変身前と同じ髪型になっている。


「うん、そっちの方が似合ってる」

「そ、そうですか……」


あんまり意識していなかったのですが、フィルさんに褒められると、やっぱり嬉しいです。


「さて、ほんなら、ちょこちょこっと調整をしてしまおうか。フィル、お願いするで」

「了解です」


フィルさんは、空中にディスプレイをいくつも展開して、高速でプログラムを最適化していた。
あれだけの情報を即座に理解して、すぐに最適な状態に仕上げられるなんて――――。

やっぱりこの人は凄いです。


「さて、終了だけど、これは……すごいな。この相性は、10年来使ったデバイスでもそうはでないぞ」

「確かに凄いですねー。シンクロ率もバッチリです!!」

「せやな。これは大したもんやで!!」


フィルさんにディスプレイを見せてもらって、説明を受けると、かなりのシンクロ率を叩き出していた。
確かにセットアップしたとき、凄く馴染んでいるって感じたけど――――――。


「アインハルト、俺たちがやってやれるのはここまでだ。後は、アスティオンを成長させるのは、お前達しだいだ」

「はい!! 本当にありがとうございました!!」


こうして私はデバイスを頂き、ヴィヴィオさん達と一緒にインターミドルに向けて猛特訓を繰り返した。

ヴィヴィオさん達は、それぞれコーチが付いて基礎訓練の見直しから、私はフィルさんがコーチに付いてくれて、基礎訓練の他に出場経験者とのスパーを中心に行っていった。



二ヶ月後――――――。



私達は、以前とは比べものにならないくらいレベルアップすることが出来、予選会は全員突破することが出来た。

だけど、やっぱり世界の壁は厚く、次々と敗退していったチームナカジマ。
そして最後の一人だった私も、世界王者のジークリンデ・エレミアさんの前に――――――。



*    *    *



試合後 夜



「……負け……ちゃいました」

「相手は世界王者だ。今のお前達では……まだ無理だ」

「……はい」


――――――それは分かってました。


パワーもスピードも、レベルが違いすぎた。

今の私では、絶対に勝つことが出来なかったことも――――――。



「でも……でも……勝ちたかったです!! フィルさんが……私のために……あんなに……して……くれたのに」

「……私……わたし……」


―――――もう、涙が抑えきれません。
悔しくて……悲しくて……。

一人でいたとき、あの時は負けたとしても、こんな気持ちになることはなかった。
だけど、自分の大好きな人が、あんなに一生懸命に応援してくれたのに、私は何も出来なかった。

きっと今の私の顔は涙でボロボロです――――。
大好きな人にこんな顔は見られたくなったです。


そう思っていたら――――――。


フィルさんが黙ってギュッと抱きしめてくれていた。
決して何かを言う訳じゃない。

だけど、今は黙ってフィルさんの胸を貸してくれることが、何より嬉しかった。
気がついたら、私は……。


フィルさんの胸の中で、思いっきり泣いてました。



*    *    *



「さて、そろそろ戻ろうか……」


フィルさんが時計を見て、そうつぶやく。
確かにもう21時を過ぎてしまっている。もう戻らなければ行けない時間。

だけど―――――。

ぎゅっ……。


私は、フィルさんの服の裾をつかんで引き留めていた。
本当なら帰らなきゃいけないことは分かってる。


「えっ、あっ……」


私は慌ててフィルさんの服の裾を離した。


ばかだ……。


私、何やってるんだろう……。


「……俺じゃ頼りにならないかもしれないけど、聞くことなら……できるから」


この人は、私の思いに気がついてくれていたんだ。
人の思いに敏感なフィルさん――――――。

いつもそうだった。
私が辛くなったり、悲しくなったとき、して欲しいことをいつもしてくれた。


嫌われたって良い――――――。


伝えよう――――――。


このぶっきらぼうだけど、本当に優しい人に――――――。


「……わ、私……わたし………あなたのことが……好き、です」


でも、きっとこの思いは届かない――――――。


だって、私とフィルさんは年も離れすぎているし、何より――――――。


フィルさんはティアナさんのことが――――――好きだから。


「ありがとうな……」

「えっ……?」

「俺も……お前のことが……好きだよ」


――――――う、嘘ですよね。

フィルさんが私のことを好きだなんて――――――。


「で、でも、フィルさんはティアナさんのことが……」

「ティアは……確かに大切なパートナーだよ。だけどな……」

「俺は……好きでもない女の子と……こうして一緒にいることはしないぞ」

「フィル……さん……」


―――――叶わないと思っていた。


私の思いは、フィルさんには絶対届かないと思っていた。


でも、フィルさんは私のことを見ていてくれてたんだ――――――。


「……あの……お願いが……あるんです」

「なんだ? 俺で出来ることなら……」


だから、私も一歩踏み出そう。
フィルさんと本当の恋人になるために……。


「……キス……してくれますか」

「良いのか……。俺じゃなくても……お前なら、これからもっと良い奴が……」

「それ……今更です。それとも、好きって言ってくれたのは、うそ……なんですか」


私の頬にフィルさんの手が触れる。

その温かさは、私の心を優しく包んでくれ……。

そして―――。


私とフィルさんは……。


―――誓いのキスを交わす。


*    *    *


4年後



「それにしてもアインハルト、料理がうまくなったよな」


恋人になった当初、私はお料理があまり得意ではなく、はっきり言ってヴィヴィオさんよりも出来なかった。

でも、やっぱり好きな人には美味しいものを食べてもらいたい。

私は、必死でなのはさんやフェイトさん、あとはコロナさんにもお料理を教えてもらい、やっとフィルさんに喜んでもらえるようになった。

フィルさんは、最初から美味しいよって食べてくれてましたけど、でも、私の料理を食べて笑顔になってくれるのを見ると、私も嬉しくなるんですよ。


「やっぱり、大好きな人には、美味しいものを食べて欲しいですから……。そう言ってもらえるのは嬉しいです」


私がフィルさんにしてあげられるのは、これくらいです。

いつも、フィルさんは、私のためにトレーニングメニューやティオのメンテナンスをしてもらったり、その他にも学校の勉強もお世話になってます。

本当は、もっと私がフィルさんのことを支えてあげなきゃいけないのに――――。


「本当、アインハルトは俺にはもったいない女の子だよ……」

「そんな……。私は、何も……出来てないです」

「それは違うよ。この4年、俺だって苦しいことや辛いことは沢山あったよ。でも、お前が一緒にいてくれて、一緒に考えてくれたりしてくれたから、俺はここまで頑張れたんだ……」



――――――苦しみや悲しみは、二人で半分に。

そして、楽しみも一緒に――――――。

それは当たり前のことだと思います。

私は、あなたにそのことを教わったんですよ――――。


「……私は、もっと……あなたのことを……愛したいです」

「アインハルト……」

「だから……」

「……私を……抱きしめて……ください」


フィルさんは、驚いていたけど、私が本気だとわかり――――。


「……そういう台詞は……本当は俺が言わなきゃいけないんだよな。女の子に言わせるなんて……本当、だめだな……」

「でしたら、いっぱい……いっぱい愛してください」


私達は、どちらからともなくキスをする。
それは、今までとは違い触れあうキスではなく、互いの存在を求め合うキス。

息が続く限り、それは幾度となく繰り返され……。
唇が離れる度に、銀色の糸が出来ている。


「んんっ……はぁ……んっ……」


私はベッドに押し倒され、そのままフィルさんに身を任せる。
ブラウスとスカートが脱がされると、フィルさんは私の胸を幾度となく触れ――――。

「あ……ん……ふぁ……」


――――――そのまま、快楽へと溺れていく。

愛する人に触れられるだけで、こんなにも心が満たされるんですね。

そして私もフィルさんも、何も纏わない姿になり……。


「……お願いです。私を……あなたのものに……してください」

「ああ……だけど、アインハルトは物なんかじゃない。俺の……愛する大切な女の子だよ」

「フィルさん……」


その言葉に、私は嬉し涙を流していた。


「私も……私も……愛してます。あなたのことを誰よりも……愛してます」


――――――この日。


私達は身も心もひとつになり――――――。


私は本当の意味で、フィルさんと愛し合いました。




*    *    *



「んっ……んんっ……」


もう朝なんですね……。

あれから、結局幾度となく、私を求めてくれて、そのたびに私もフィルさんを求めていた。

その証として――――――。


「付いちゃって……ますね」


――――――――首筋に付いたキスマーク。

他の部分はもう消えかけてるんだけど、この首筋に付いたキスマークだけはくっきりと残っている。


「……もう……ばか」


――――――なんか、私だけってのは悔しいです。

だから……。


「んっ……」


私と同じ位置に、くっきりとキスマークを付けちゃいました。
きっとこれを、ティアナさんやスバルさんが見て驚きますね。

でも、フィルさんは私の彼氏さんなんです。
これはその証です。

フィルさん、私、もっと頑張りますから、ずっと一緒にいてくださいね。



*    *    *


「ほら、到着したぞ!!」


学校に到着して、私達はヘルメットを取り、私はフィルさんにお借りしていたヘルメットを渡した。


「ありがとうございます。わざわざ学校まで……」


あの後、フィルさんが、ロードサンダーで学校まで送ってくれるって言ってくれて、最初は申し訳ないのでお断りしたんですけど、遠慮なんかしないでくれって言ってくれて、お言葉に甘えて送ってもらいました。


「気にするなって、当たり前だろ。恋人なんだし……」

「それじゃ……行ってきますね」

「ああ……行ってこい」


私は急いで門に行こうとしましたが、肝心なことを思い出し、フィルさんの元へ戻り――――――。


「どうした? 忘れ物か?」

「はい。大切なことを忘れていました」


そして――――。


「んっ……」


私はフィルさんの頬にキスをする。

本当は唇にしたかったんですけど、さすがに恥ずかしくて、人前ではこれが精一杯です。

でも、恥ずかしがりの私が頑張ったんですから――――――。


「「「ああああっ!!」」」


い、今の声って……。

明らかにヴィヴィオさん達ですよね――――――。

ど、どうしましょう!! 私、かなり大胆な行動しちゃいました!!

絶対に放課後、私達二人とも、皆さんに突っ込まれます。



―――――結局、その後。


私とフィルさんは、ヴィヴィオさん達に放課後に呼び出されて、校門前のキスのことや、さらに首筋のキスマークまで見つかってしまい、ティアナさんやスバルさんまで巻き込んでの大騒動になり、しばらくの間、皆さんに突っ込まれまくったのは言うまでもありません。


教訓:大胆なことをするときは、周りを確認しましょう。
そのことを痛感した出来事でした。

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あきゅろす。
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