〜 Remember my heart 〜
第7話 コンタクト
数日後、機動六課のメンバーは、第97番管理外世界『地球』でロストロギアがあるとの連絡があり、メンバーの殆どは地球へ向かったが、俺はミッドに残っていた。
理由も事前にマリーさんに言って、裏を合わせてもらったので問題なく通った。
なぜ残ったかというと―――――。
あることを防ぐためにこっちへ残った。
ユーノ・スクライア司書長暗殺を防ぐために!!
未来ではスクライア司書長は、機動六課のメンバーが地球へ行っている間に、戦闘機人のドゥーエに殺された。
司書長は内密にスカリエッティのことやレリックのことを調べていたのだが、それが向こうに知れてしまい、危険視され、殺された。
実際、無限書庫跡から見つかったデータは、後にゆりかごに突撃をかける時にずいぶんと役だったのだ。
もしかしたら司書長は、自分が殺されることが分かっていたのかも知れない。
それでも、なのはさん達のために―――――。
なのはさん達も司書長が死んだ時は、一時期は悲しみでどうしようもない状態だった。
しばらくすると立ち直ったが、なのはさんは表面上は立ち直っていたが、一人になったりすると泣いている姿が見られた。
ヴィヴィオを引き取ったのも、一人でいるのが辛かったからなのかも知れない。
スクライア司書長が死んでしまったことは、歴史上大きな事象になるが、でも、ここでこの人を見殺しにすることなんて俺にはできない!!
あんな悲しみはもう二度と繰り返したくない。
* * *
無限書庫、司書長室
「司書長、本局から緊急の資料の請求がありました」
「それは、クロノからじゃないだろうね?」
「いいえ、提督からのものは昨日終わらせましたので……。当分はないはずです……」
そうは言っても、あのクロノのことだ。
突発の依頼があったって不思議でも何でもない。
「そう、それじゃみんなはもう帰っていいよ。後は僕がやって置くから……」
「でも、それじゃ司書長が……」
「大丈夫。これくらいなら数時間で終わるよ。それよりクロノの依頼がない時に休んでおかないと……」
「た、確かに……」
「という訳でみんなは解散ね」
「申し訳ありません。それじゃ失礼します……」
司書のみんなは、副司書長がその旨を伝えるとみんな喜んで帰っていった。
絶対ここの環境って劣悪だよな……。
今度、上層部に文句を言ってやる。
「失礼します」
「あっ、どうしたんだいドゥーエ……」
「いえ、ちょっと忘れ物をしまして……」
彼女はドゥーエ。僕の秘書をやっている。
半年前から地上本部から送られたんだが、良くやってくれている。
「忘れ物ってなんだい」
「それはですね……」
* * *
私はドクターの命令で、このユーノ・スクライアの監視をずっと続けてきた。
なにも無ければ放置だったのだが、最近になって私達の廻りのことを調べ始めている。
このままだと最大の障害になるかも知れない。
だから私は今日司書達を追い払ってある計画を実行することにした。
―――――そう。
暗殺を!!
私が背後から首をカッ切ろうとしたその時―――――。
『忘れ物ってのは、司書長の命か。戦闘機人……』
「えっ!?」
「だ、誰ッ!?」
「ここだよ……」
「「なっ!!」」
いつの間にか私の背後に一人の男が立っていた。
―――――馬鹿な!!
さっきまで何の気配もなかったはずなのに……。
スクライアが驚いている所を見ると、彼も知らない人物のようだ。
「何者なの……あんた。私の正体も気付いているようだし?」
「どうでもいいだろ。俺が何者かどうかなんて……」
「クッ!!」
こいつが何者かは分からないけど、任務の障害になる奴という事は分かる。
少なくても私がここに入る前まではこいつはいなかった。
だとしたら、何らかの方法で後から入ったことになる。
私は距離を取り、ISを起動させ反撃をする。
* * *
「はぁぁぁぁ!!」
「ちぃぃ……ピアッシングネイルか!? プリム……モード2だ」
《了解、セイバーモード》
俺はプリムをセイバーモードに切り替え、ドゥーエのピアッシングネイルを受け止める。
「無駄だ……。お前のIS【ライアーズマスク】は変身とかは最上級だが、運動能力自体が上がる訳じゃない」
「ちぃぃ……」
俺はドゥーエの攻撃を余裕でかわしているように見せているが、実際は均衡状態。
元々ドゥーエは肉体能力は、そんなに高くないから何とかなっている。
でもちょっとしたことで均衡は崩れる………。
短期決戦で決めるしかない。
「だったら、これならどう……」
突如地面からチェーンが現れ、俺の体に巻き付いた。
「なんだこれは!? くっ、身動きがとれない!!」
「どう、スクライア用に作られた特製バインドは、魔力も吸い取られるでしょう……」
俺の体にチェーンバインドに似たバインドがかけられたが、術式はもっと複雑で簡単には解除出来ない。
「ちくしょう……」
「そうやっているうちに私は、任務を実行させてもらうわ……」
しまった。司書長もさっき、同じものがかけられてしまったのか………。
―――――まずい!!
このままじゃスクライア司書長は殺されてしまう。
司書長は総合Aランクだが、戦闘技術は殆どない………。
このままじゃ……このままじゃ……。
―――――冗談じゃない!!
みんなの―――――。
なのはさんの―――――。
あの乾いた笑顔を見るのは―――――。
もう二度とゴメンだ!!
「……ふざけるな」
* * *
「ふざけるんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
「えっ……なにこの魔力は? さっきとは比べものにならない!!」
「……プリム、今こそ解除する……。いいな……」
《……ええ、出し惜しみしている場合じゃありませんものね……。でも気をつけてください。マスターと与えられた魔力が融合していないので、無理矢理力を上げてるだけです。しかも15分が限度です………》
「それだけあれば十分だ。いくぜ……リミット……リリース!!」
「うぉおおおおおぉぉぉおおお!!」
バインドは木っ端みじんに砕け、俺はドゥーエを殺気を込めて睨み付けた。
リミットを解除した以上、もう勝手にはさせない。
覚悟しろよ、ドゥーエ。
「………な、何なのこいつは……。こんな事聞いてないわ!!」
「……ストラグルバインド」
俺はドゥーエにストラグルバインドを掛けISの機能を停止させ、変身を解除させた。
通常のストラグルバインドじゃ効果はないが、これは俺が戦闘機人用に組み替えたものだ。
「クッ!? し、しまった!!」
「これですむと思うな……。モードチェンジ、ガンモード………カートリッジロード!!」
俺はプリムをガンモードに戻し、カートリッジをロードさせ、ドゥーエに銃口を向けた。
設定は……殺傷設定だ。
「ブラスト……」
《マスター!!》
「!!」
《駄目です!! 彼女たちは操られているだけです!! クアットロのように自分の意思でやっているんじゃないんです!!》
―――――何をやってるんだ俺は。
俺は殺しをしに来たんじゃない……止めるために来たんだ。
俺はソニックムーヴでドゥーエの後ろに回り込み、手刀で意識を刈り取る。
その後スクライア司書長のバインドを解除し、ドゥーエに近づくと、戦っている時から感じていた違和感を調べた。
「プリム、こいつを全身スキャンしてくれ………」
《了解です。スキャニンク開始しますね………》
《……こ、これは!! マスター、この戦闘機人からあるパーツが関知されました。未来でも使われていた……あれです……》
「【ブレイン・コントロール・チップ】、通称BCCか」
戦闘機人でも、人間でも脳に埋め込めば思うように操ることが出来る悪魔の兵器。
未来であの女が作った最低の兵器だ!!
「どういう事……? 未来って? それに君は……」
「それは……後でお話しします……。プリム、あれは確か……」
《はい、人の脳に直接念波を送り人を自在に操るもので、ギンガさんや戦闘機人達に組み込まれていたものです。そしてこれを作ったのは……》
「クアットロ……だな……」
《……はい……》
クアットロ……。
未来でもここでもゲスなやり方は変わらないんだな……。
だが、これならドゥーエを殺さないで済むかも知れない……。
「プリム、これを壊す方法は……」
《はい、この波長と正反対の魔力をぶつければ機能は停止します。但し……》
「ただし……何だ?」
《今のマスターはリミットを無理矢理解放した反動で、身体にかなりのダメージがあります。この方法はチップが体内から完全に出るまで魔力を送り続けなくてはなりません。その間マスターが正反対の魔力を放ち続けられるかどうか……》
かつてなのはさんが、ヴィヴィオを元に戻した時と同じか―――――。
レリックを外に出さないといけないのと同じで、こいつも外に出さないとまた動き出してしまうって訳か。
「……やるしかない。いくぜプリム、カートリッジロード!!」
俺はプリムのカートリッジをロードさせ、自分の魔力を底上げし、正反対の波長の魔力を作り上げた。
これはかなりつらい―――――。
「くっ……やっぱり制御するのが難しいな………いくぜ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「頑張るんだドゥーエ」
俺はドゥーエの頭に魔力球を近づけ、魔力エネルギーを送り続けた。
あまりの痛みにドゥーエの意識が戻り、発狂していたがバインドをかけていたので暴れることはなかった。
これで元に戻ってくれればいいのだが―――――。
魔力を送り続けていると、チップが体外に出てきて、魔力に耐えきれなくなり粉々に砕けた。
チップが砕けたと同時に再び意識を失ってしまった。
そして―――――。
* * *
「……う……んっ……私は……」
「気が付いたようだな……」
「私は、今まで………何を?」
「それをこれから説明してやる……」
俺はドゥーエに今までのことを説明した。
自分はクアットロに操られていたこと。
それによってスクライア司書長を暗殺しようとしたこと。
そして、推測だが残りのナンバーズにも、同じものが埋め込まれている可能性があること。
「そ、それじゃ……。ウーノ姉さんや妹たちも……」
「十中八九間違いないだろうな……」
「何なの……。それじゃ……私はいいように操られてきたって事なの。そんな……」
「ドゥーエ……」
これではっきりした。
この世界の戦闘機人は、全てが悪というわけではない。
あのクアットロが裏から操っていたんだ。
「スクライア司書長……」
「分かっているよ……。僕からはこれ以上いうつもりはないよ……」
「すみません……感謝します……」
スクライア司書長は自分が暗殺されそうだったのに、ドゥーエを許してくれた。
やっぱり伊達にその若さで、無限書庫の司書長はしていないな。
「そのかわり、君の事を全て聞かせてもらうよ。それでいいかい……?」
「はい、元々お話しするつもりでしたので、それはかまいません。後、ハラオウン提督にも出来れば……」
「クロノには僕から連絡しておくよ。それとカリムにもね……」
「カリム・グラシアさんにもですか……」
「そうだけど、何か都合が悪い?」
「そう言うわけではないんですが……」
グラシアさんには関係ないのかも知れないけど、ヴィヴィオが生み出す切欠になったのは10年前に、聖王協会から盗み出された聖骸布なんだよな。
まぁ、あの人を恨んでもしょうがないんだけどね。
「分かりました、全てお話ししましょう。えっとこの部屋は外部からの傍受対策は……?」
「伊達に最機密を扱う所じゃないよ。そういった対策は万全だよ……」
「それでは、今から三時間後ここで対談しましょう。時間はそれでいいですか?」
「時間はそれで大丈夫だよ。二人とも今日の夜に会う予定になっていたからね……」
その後ドゥーエは逮捕はせず、あえてもう一度、スクライア司書長の秘書として過ごしてもらうことにした。
これは、スカリエッティ側を騙す意味もあるが、ドゥーエの瞳を見て、こいつは大丈夫だと判断したからこその処置でもあった。
三時間後―――――。
司書長室に俺とスクライア司書長、ハラオウン提督に来てもらった。
「お忙しい所申し訳ありません。自分は機動六課所属フィル・グリード二等陸士であります」
「ああ、ユーノから話は聞いているよ。何でも戦闘機人の一人を倒したそうだね……」
「はい、その辺の話もお話し致しますので、今は……」
「そうだったな……」
少しして、カリム・グラシアさんも聖王教会からやってきて会談が始まった。
「まず、私のことからお話ししなければなりませんが………。信じられないと思いますが………。私は……この世界の人間ではありません」
「それは……どういうことなんだい?」
「はい、それは……」
俺は全員に今までのことを話した。
未来でのことを………。
ジェイル・スカリエッティのこと、ゆりかごのこと、そして管理局が負けて、その後のこと。
そして過去を変えるために、未来から戻ってきたことも。
話し終わった後は、マリーさんのときと同じく全員が驚きを隠せなかった。
「じゃ、あなたは全てを知っているんですね? これからのことを……」
「はい……グラシアさん。あなたのレアスキルのことは詳しくは知りませんが、予言の大体の内容は知っています。『旧い結晶と無限の欲望が交わる地 、死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。使者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる』でしたね………。というよりも体験してきたんですから、当然ですけれどね……」
「そうね……」
「信じがたい話だが……これを見せられてはな……」
ハラオウン提督のいうのはプリムの記録データのことだ。
これは今までの事を残してあるだけでなく、映像データとして残っているのもあったからだ。
それをみて納得してくれたらしい……。
本当は見せたくはなかったんだがな………。
ティア達の死ぬ所なんてな……。
「じゃ……きみの世界では、なのはも……」
「……率直に申し上げます、スクライア司書長。ゆりかご決戦で、機動六課のメンバーで生き残ったのは、自分とスバル・ナカジマとティアナ・ランスターの3人だけでした」
「……そう」
「……皆さんに話したのは……もうこんな悲劇を繰り返したくないからです。……お願いです。皆さんの力を貸して下さい!!」
俺は頭を下げてお願いするしかなかった。こんな話信じてくれないのが当たり前だ。
それでも一人で出来ることはたがが知れている………。
今回だって、たまたまうまくいったに過ぎない。
「頭を上げてよ……フィル」
「スクライア司書長?」
「君が嘘やデタラメを言ってないことは目を見れば分かるよ……。それに僕を命がけで助けてくれたんだしね……」
「ああ、未来がどうこうでなく、君はユーノを命を懸けて守ってくれた。それは芝居なんかで出来る事じゃない」
「ハラオウン提督……」
「私もこれからのことを知っているとかでなく、あなたの心は信じられるわ。だから私達はあなたを全面的にバックアップします」
「グラシアさん」
「皆さん……ありがとうございます」
* * *
「それで、これからどうするんだい……?」
「はい……皆さんにはそれぞれ、お願いしたいことがあります……。特にハラオウン提督には、かなり無茶なことをお願いすることになりますが……」
「まぁ……そうなると思ってたよ……。で、何をして欲しいんだい?」
「………アースラを確保して欲しいんです。あれが最後の戦いでキーになると思いますので……」
最後の決戦で、最後まで戦えたのはアースラ只一隻だった。
おそらく、今回もあの船が鍵になる。
「それはかまわないが……別にアースラでなくても、もっと強力な戦艦だってあるのに?」
「確かにクラウディアを始め、もっと強力な戦艦はあります。ましてやアースラは、廃艦寸前なものですしね………」
「それだったら、なぜ……?」
「あんまりこちらの動きを見せないようにすることと、アースラの方がミッドで戦う場合、動きやすいんです」
XV級戦艦は火力はあるが、小回りがきかないので機動六課のメンツで使うには、あのくらいで丁度いい。それと強力な戦艦を表沙汰で用意して、あまりこっちの動きを知られたくない。
それにアルカンシェルは積んだままなので改修すれば、まだまだ戦えるしな―――――。
「あと、XV級をこちらに廻してもらうより、そのほかの補給物資を充実させたいんです……。例えば……」
他にも輸送用のヘリじゃなく、戦闘用のを一機でもいいので回して欲しいし、前から考えていたアースラの大改造をすれば少しは優位に戦える。
「なるほどな……。それならXV級を回すより安くすむし、効果的だ……。しかし、良く戦えたよな。輸送用のヘリで……」
「ええ、未来でスバル達が生き残ったのも、正直奇跡ですよ……」
武装も無しで、ガジェットの群れの中に突撃するなんて自殺行為に等しい。
せめて自衛が出来る程度の武装は欲しい。
「この件に関してはまかせてくれ……。全部で何時までに間に合わせればいいんだ?」
「今が5月ですから……遅くても8月末までにはアースラの改修も終わらせないと……。改修のプランはマリーさんと俺が中心となってやります」
「分かった、欲しいものがあったら言ってくれ……。あと僕のことはクロノでいい……」
「ありがとうございます、クロノ提督……」
クロノ提督の方はこれで充分だ。
後はスクライア司書長には聖王のことと、ゆりかごのことを調べてもらわないとな。
「それでスクライア司書長には……」
「分かってるよ……。ゆりかごのことと、聖王のことについてだね……」
「はい、ゆりかごの能力は一部しか知りません。もしかすると無限書庫に、弱点が書かれたものがあるかも知れませんので……現にスカリエッティも、それを恐れていたんですから……」
未来でも、クアットロとスカリエッティが恐れていたのはゆりかごに関する情報だ。
だからこそ無限書庫を真っ先に狙ってきたんだから―――――。
「任せてよ……。なのは達は絶対死なせないから……僕に出来ることは全力でサポートするよ……それと僕もユーノでいいよ」
「はい、ユーノ司書長」
「フィルさん、一つ聞いてもいいかしら?」
「はい、グラシアさん……何でしょうか?」
「それだけ分かっているのなら、スカリエッティの基地に乗り込むなりすればいいのでは……」
それは真っ先に考えたのだが、調べてみたら基地の位置が前回と違うのだ。
おそらく、これは世界の修正力が働いているのだろう。
それに相手はあのスカリエッティとクアットロだ。二重三重の策は用意してあると思う。
「確かにそれは考えましたが、調べてみましたら基地の位置が以前とは違うのです………」
「それですと、かえってこちらから動くのは危険ですね……」
「はい……残念ながら……」
「ごめんなさい……。すでにやれることはやっていたんですね……」
「ですから、グラシアさんには教会騎士団の戦力アップを図って欲しいんです。正直、戦闘機人に対抗出来るのが、シスターシャッハだけというのは心持ちません………」
聖王教会にもそれなりに強い人たちはいるんだけど、一対一の戦いになれている騎士には多人数に対する戦闘経験が少なすぎる。
「わかりました……。それと私もカリムでかまいませんよ」
「えっ……? で、ですが……」
「あら、お二人は名前で呼んで、私は駄目なんですか?」
「そうじゃないんですが……女性を名前で呼ぶのは慣れて無くて……」
元々俺は、女性に対して話をするのが下手な性格だ。
まして名前で呼べるのは、ティア達くらいだし―――――。
「でも、機動六課の皆さんは名前で呼んでますよね……。それとも私は仲間ではありませんか?」
「……分かりました……俺の負けです……カ、カリム……さん……」
「少しずつ慣れて下さればいいですよ、フィルさん……」
カリムさんは笑顔で言っているが、どうにも年上の女性には頭が上がらないんだよな。
なのはさんといい、フェイトさんといい……。
「あと、申し訳ありませんが、機動六課にはまだ内密にしてもらえませんか……」
「………なるほどな」
どうやらクロノ提督は分かってくれたみたいだ。
「どういう事ですか、クロノ提督?」
「いくつか理由があるが、フォワード陣が君に頼りすぎないようにすることが主な目的かな」
「そう……ですね」
それも一つの理由だけど、何より―――――。
俺自身がまだみんなに話す勇気がないから―――――。
「分かった……。こちらからは何も言わないよ」
「すみません……」
それからしばらくして会談は終了となり、俺はマリーさんの所へ向かった。
* * *
「というわけで、機動六課の後見人の方々には全てを話しました」
「これでアースラは確保出来るね……。でも、この改修プランは殆ど作り直しに近いよ……」
アースラの改修プランは―――――。
まず前後左右に対空砲撃用の砲門の追加。
これは前にしかない砲門では対応が仕切れないからだ。
エンジンの強化は速度アップがねらいで、内部コンピュータの独立化は本局と地上本部が機能停止しても戦えるようにするためだ。
装甲板の総取替は劣化してしまっている部分を直す意味がある。
だが、何よりも必要なのは―――――。
「アルカンシェルの出力アップ………。これが一番きついかな……。正直、予定の期間で間に合うかどうかよ……」
「でもやるしかないんです……。最悪アースラだけで、戦うかも知れない状況も、充分考えられるので……」
「そうね……少しずつ変わってきているしね……。スクライア司書長が殺されなかったことが、どう変わってくるか……よね」
これが良い方向に変わるのか。それとも―――――。
いや、例え悪い方向に向かうとしても、ユーノさんの命が救えたんだ。
それだけでも充分だ。
「そうですね……」
「あっ、フィル君。ロードサンダーは置いてってね。改造するから……」
「……えっ……今……何と……?」
「だから改造するって言ったのよ」
「ちょっと待って下さい!! どうやって六課まで帰ればいいんですか」
マリーさん、あんた何軽いノリで言ってるんですか!!
ロードサンダーは、俺の大切な相棒だってのに!!
「大丈夫、代わりのバイクは用意してあるよ。それに、この改造は必要になってくると思うの。これを見て……」
マリーさんはスクリーンにロードサンダーの改造プランを映し出した。
そこにはAMF下での行動に対応するための、さまざまな強化プランが記されていた。
なんか物騒な大砲が付いてるのは気になる。
でもこのプランは、どこかで見たことがあるが……?
「こ、これって……もしかして!?」
「そう、プリムの中にあった改造プランをもとに、私が作ったものよ。基本は出来ていたけど、変形機構と転送システムが未完成だったから、私が考えてみたの」
ロードサンダーの改造プランはある程度はあったのだが、変形システムと部品転送システムが、どうしても駄目だったので諦めていた。
「変形機構のプログラムは、プリムかクロスミラージュのAIを使うことで解決したわ。作動させる時にデバイスを使えばシステムは動くわ。変形後のオプションは、六課のコンピュータかアースラのを使えば転送可能になるよ」
「この手があったか……」
「でも、ロードサンダー本体もAIを組み込む必要があるので、約一月ぐらい掛かるの……」
「分かりました。ロードサンダーのこと、よろしくお願いします……」
「任せてね……。君の大切な相棒は完璧に仕上げるから……」
サンダー、お前がより強くなって戻ってくるのを待ってるからな―――――。
「それじゃ、そろそろ六課に戻りますね……。みんな帰って来る頃ですし……」
「フィル君!!」
帰ろうとしたとき、マリーさんに呼び止められ―――――。
「戦いが終わったら……メカニックマイスターの資格、本気で考えてみない………」
「………そうですね。平和になったら……色々と考えてもいいかも知れませんね……」
そんな時が来るのを、心から願う。
みんなが笑顔でいられる世界を―――――。
「その時は、私がみっちりと仕込んであげるから!!」
「ははっ……お手柔らかにお願いします……」
本当に平和になり、そんなことを考えられるようになったらいいな……。
何としてもこの戦い勝たないとな。
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