〜 Remember my heart 〜
七夕Story 〜星に願いを〜
本日は地球で言うところの七夕という日らしい。
ミッドチルダではそう言った風習はないんだけど、今日は八神部隊長が、せっかくだから地球の文化に触れてみんかということで、ささやかながら七夕のイベントをやることになった。
急遽なので大々的なパーティは無理だったが、メインであるイベントの願いを書いて笹に飾り付けることは俺とヴァイス陸曹が、近くの竹藪から竹を取ってきて、ロビーに設置して、そこにみんなの願い事を書いてつけることにした。
「それにしても……みんないろんな願い事を書いてるよな……」
こうしてみると、願い事にも個性が出ていてとてもおもしろい。
例えば、スバルは――――。
『アイスクリームをお腹いっぱい食べてみたい』
「ははっ、あいつらしい願い事だよな。えっと、他の人のはっと……」
他にもエリオは『立派な騎士になりたい』だし、キャロは『エリオ君達とずっと仲良しでいられますように』だ。
そして、ルーテシアも『ママが元気になりますように』と書いてあった。
こうした純粋な思いは、きっと神様もかなえてくれると思うと信じたい。
でも、もう少し欲を出しても良いんじゃないかなって思うんだよな――――。
あとは、ティアは――――。
『フィルのばかが無茶しないように』
「……耳が痛いな。これは……」
《マスター、これに懲りて、少し無茶はしないようにしてくださいね》
「……善処する」
他にもみんな願い事を書いているが、あんまり人の願い事ばかり見るのは良くないな。
そんなことを考えていたら、トントンと肩を叩かれる。
俺は後ろを振り向くと――――。
「あんまり、人のお願い事を覗き見は良くないよ、フィル」
俺の彼女であるフェイトさんが立っていた。
ふと右手を見ると、短冊を持っている。どうやら、フェイトさんも短冊を付けに来たんだな。
* * *
「ねぇ、フィルはどんなお願い事を書いたの?」
「えっと……。俺はね……」
そう言って、フィルは竹の真ん中あたりを指で指す。
そこに飾られている一枚の短冊には――――。
『平和な世界を取り戻す』
「フィルらしいね。でも、これは自分のお願いと言うより、みんなの願いだよね」
「かもね。でも、これが今の俺にとって何よりのことだから……」
「……そっか」
「それじゃ俺は、勤務に戻るね」
「うん、じゃまた後でね」
フィルはそう言ってロビーから出て行った。
今日フィルは夜勤勤務。
本当なら、なのはが夜勤だったんだけど、せっかくのイベントなんだからとフィルが交代してくれた。
フィルって本当に苦労性だよね。
後で、差し入れでも持ってってあげよう。
* * *
「久しぶりに楽しかったね」
「こうやってみんなと一緒に何かをやるのは楽しいね。フィルには悪いことしちゃった」
「……仕方がないよ。全員が出席というわけにはいかないから」
緊急時に誰もいないんじゃお話にならない。
でも、今日のイベントは出来たらフィルと楽しみたかったな……。
「そうだね。でも、フィルは半夜勤だから、これから二人で楽しめばいいよね」
「……ありがとうね、なのは」
「元々わたしの夜勤だったんだから、せめてこれくらいはさせて。さぁさぁ、早く後片付けしてフェイトちゃんは行った行った!!」
なのはと一緒に後片付けをしたおかげで、思ったより早く片付けることが出来た。
最後に笹を片付けていたとき……。
ふと、一つの短冊に目にとまる。
これは、フィルが夜勤に行く前に飾っていった短冊だよね。
「本当に、自分のことを書かないんだね……」
その短冊を拾い、改めてフィルの願い事を見る。
すると……。
「あれ? この短冊、書き直してる後がある」
本当に気をつけなければ分からないほどだが、一旦書いて消した跡がこの短冊には残っていた。
なんてことはない筆跡―――。
だけど、どうしても気になってしまう。
残された文字の後を指でなぞってみると―――。
『もういちどだけ』
『みんなにあいたい フィル・グリード』
「……ぐす……ひっく……」
その書かれた紙を見て、私はその場で泣き崩れてしまった。
かなえられない願い――――。
フィルの本当の気持ち――――。
あっちの世界では、フィルは色んな人の死を看取ってきている。
六課のみんなだけでなく、最愛の人だったティアナも目の前で死なれた。
その悲しみは計り知れない――――。
「フェイトちゃん……」
「……叶えられないって……分かってるから……この願いは消したんだね」
――――ばかだ。
これじゃ、かえってフィルのことを悪戯に傷つけただけじゃない。
フィルの本当の願いは、どんなことをしたって得られないって、少し考えれば分かることだったのに……。
* * *
「みんな……楽しんでるかな?」
《食堂から笑い声もいっぱい聞こえてますから、きっとみなさん楽しんでますよ》
「そっか……。夜勤代わったのは正解だったな」
元々、俺はお祭りとかで一緒に騒ぐのは苦手な方だ。
嫌いじゃないんだけど、何となく裏方をやってる方が性に合ってる。
《……マスター、せっかくの七夕なんですから、せめて短冊には、自分の本当の思いを書いても……良かったんじゃないですか?》
「……何のことだよ。ちゃんと自分の願いは」
《誤魔化さなくても良いですよ。一回書いて、新しく書き直したのは……分かってます》
「本当、かなわないな。お前には……」
俺は、ポケットからあるものを取り出す。
白く輝くカード型デバイス。
未来でティアから託されたクロスミラージュ。
* * *
「女々しいよな……。ここは過去の世界で、向こうのみんなと同じなのにな……」
《それで良いと思いますよ。そんなに簡単には割り切れませんよ。それに……私は女々しいとは思いません。その思いがあるからこそ……今までやってこれたんですから》
「プリム……」
《あと、女性を舐めない方が良いです。きっとフェイトさんは、貴方の本当の思いに気がついてると思いますよ》
こっちの世界で、たった一人マスターのことを見ていてくれた女性。
あの人なら、きっと気がついてくれる。
「……そっか」
そうですよ、マスター。
ほら、こっちに走ってくる足音が聞こえてきます。
貴方は一人じゃない。
フェイトさんが、ずっとそばにいるんですからね。
だから、もう少しだけ愛する人に甘えても良いんじゃないですか?
―――貴女もそう思いますよね。
『未来』のティアナさん。
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