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〜 Remember my heart 〜
Memory;10 望んだ強さ
「ベルカの歴史に名を残した、武勇の人にして初代の覇王。クラウス・G・S・イングヴァルト。彼の回顧録。もちろん、現物じゃなくて、後世の写本だけどね」

わたしとリオは、ルーちゃんに古代ベルカの写本、覇王のことが書かれている本を見せてもらっていた。

この本には、アインハルトさんの前世である、イングヴァルトのことが書かれている。


「ルーちゃん。アインハルトさんの事は……?」

「ノーヴェとフィルさんから、大体聞いているよ。覇王家直系の子孫で、初代覇王の記憶を伝承してるって……」



*    *    *



「記憶といっても、覇王の一生分全てというわけではないんですが、途切れ途切れの記憶をつなぎ合わせれば、彼の生涯を自分の記憶として思い出せます」

「彼にとっての思いでは、そのまま私の思い出なんです。乱世のベルカは、悲しい時代でしたから……」


雲に覆われた薄暗い空と枯れ果てた大地―――――。


人々の血が河のように流れても、終わらない戦乱の時代―――――。


誰もが苦しんで乱世を終わらせたいと願いながら―――――。


だけど、そのためには力を持って戦うしかなかった時代―――――。



「そんな時代に生きた覇王としての、短い生涯の記憶とそして……」


たくさんの心残りを―――――。



「すみません。せっかくの旅行中に暗い話で」

「いえ、そんな!!」

「その、もちろん、悲しいことばかりでもなかったんですよ」


楽しい記憶、幸せな記憶も、ちゃんと私の中に受け付いているから―――――。


「たとえば、オリヴィエ聖王女殿下との日々とか……」

「オリヴィエって、クラウス陛下と仲良しだったんですか?」

「仲良しというのは、少し違うような気もしますね……」


どちらかといえば、同じ武を歩む同士といった方が正しいかもしれません。
私の中にある記憶も、そういった感じですから―――――。



*    *    *



「オリヴィエ・セーゲブレヒト―――――。聖王家の王女にして、後の『最後のゆりかごの聖王』」

「クラウスとオリヴィエの関係は、歴史研究でも諸説あるんだよね」

「そもそも生きた時代が違うって説が主だよね」

「うん……。でも、この本ではふたりは姉弟みたいに育ったってなってる」



こればっかりは、その時代に生きた訳じゃないから、本当に正しいかは分からないんだけどね。


「オリヴィエって確か、ヴィヴィオの……複製母体(オリジナル)だね」

「まあ肖像画とか見る限りあんまり似てないし、普通に『ヴィヴィオのご先祖様』で良いと思うけど」

「だよね!!」


それにクローンとか、そんなのは今必死で生きているあの子には関係ない。
あくまでオリヴィエはオリヴィエなんだし、ヴィヴィオはヴィヴィオなんだから―――――。


「でも、なんで聖王家の王女様と、シュトゥラの王子様が仲良しだったんだろうね?」

「あ、そういえば」



コロナの疑問はもっともだ。
そのことも、一部分だけど、この本に記されているみたいね。



「オリヴィエがシュトゥラに留学って体裁だったみたい。シュトゥラと聖王家は国交があったしね。ただ、オリヴィエはゆりかご生まれの正統王女とはいえ、継承権は低かったみたいだから……」

「要は人質交換だったんじゃないかな」

「戦国時代の人質って、アレだよね? 歴史小説にも良く出てくる……」

「裏切ったら人質を処刑しちゃいますって……」

「それそれ」


でも、この本を見る限りだと、そんなことは関係なかったみたいね。
この本の途中は、オリヴィエ殿下とのことばかり書かれているし―――――。



*    *    *



「オリヴィエってどんな人だったんでしょうか……?」

「私が知る記憶では、太陽のように明るくて、花のように可憐で、何より……魔導と武術が強い方でした」

「ただ、そんな彼女も乱世の最中に命を落とされました」

「ゆりかごの運命通りに……ですよね」


そう―――――。
覇王は……。クラウスはその運命を止めることが出来なかった。


「皮肉な話ですが、彼女を失って、彼は強くなりました。全てを擲って、武の道に打ち込み、一騎当千の力を手に入れて……」

「それでも、望んだ物は手に入らないまま、彼も短い生涯を終えました」

「望んだもの……?」

「本当の強さです」


守るべきものを守れない悲しみを、もう繰り返さない強さ。
大切な人を守れなかった悲しさ―――――。


「彼が作り上げ、磨き続けた覇王流は、弱くなんかないと証明すること」


それが、私が受け継いだ悲願だから―――――。



*    *    *



「……似ているんですね。クラウスも……フィルさんも……」

「えっ……?」

「フィルさんも……昔は全然強くなかったって聞いています。だけど……」


未来で、なのはママやフェイトママ、スバルさん達を失って、敵討ちをするために強さを身につけた。

わたしがストライクアーツを学ぶときに、フィルさんが昔話を混ぜて、強さの本当の意味を教えてくれた。

その時、初めて本当の意味で、フィルさんのことを知ることが出来た。

フィルさんは、色んな人の悲しみを背負っていることも―――――。




*    *    *



「それでも、目的のために、それこそ血のにじむ思いで強くなったって聞いています……」

「あの人が……ですか?」

「……はい」


正直、私はまだフィルさんのことはあまり知らない。
だけど、ティアナさんもノーヴェさんも、そしてヴィヴィオさん達も、あの人のことを悪く言う人がいない。


「良かったら、フィルさんの訓練の様子……見に行きませんか? 言葉より、実際見てもらった方が……分かると思いますから……」

「―――――はい」



そして、私達はトレーニング場に向かうことになった。
そこで私は、信じられない物を見ることになるとは、このときは全く考えもしなかった。途中で、ノーヴェさんと合流した私達は、一緒にトレーニング場に向かっていた。


「えっ? ヴィヴィオさんのお母様も模擬戦に……?」

「はい!! ガンガンやってますよー!!」

「お二人とも家庭的で、ほのぼのとしたお母様で、素敵だと思ったんですが……。魔法戦にも参加されてるなんて少し驚きました」

「えっと、参加というかですね。うちのママ、航空武装隊の戦技教導官なんですよ」




*    *    *



《Sacred cluster》

「拡散攻撃(クラスター)来るよティア、フィル!!」

「オーライ!! コンビネーションカウンター行くわよ!!」

「了解!!」


あたしはなのはさんの拡散攻撃に合わせ、シュートバレットで対応する。
このくらいの数だったら、ガンモードで十分対処できる。


「おおおおおおおおっ!!」


すかさずスバルが、ウイングロードでなのはさんの正面に出て、そのまま迎撃をする。
なのはさんにそれを読まれ、レイジングハートで止められたけど、それがあたし達の狙い!!


「っ!!」


フィルが高速移動で背後に回り、スバルがなのはさんの相手をしている内に仕留める!! これが本命よ!!


「くっ!!」


フィルがプリムのセイバーモードで上段から振り下ろし、なのはさんの背中を切りつける。
だけど、なのはさんも自動防御でフィルの攻撃を間一髪で防ぐ。


「ちぃぃ……。やっぱりダメか……」


現役のフィルだったら、間違えなく捉えていたタイミング。
やっぱり、ずっと戦っていなかったせいで、ソニックムーヴにほんの少しだけタイムロスがあって、それをなのはさんに読まれてしまったんだ。


「ふぅ……。あぶなかった……」

「どこがですか。完全にこっちの動きを読んでいたくせに……」

「にゃはは〜」


でも、ちょっとおかしいのよね……。

確かに現役を離れていたというのもあるけど、なんか今のあいつの動きは、制限をかけているって感じなのよね……。

まるで、自分でリミットをかけているみたいな―――――。


「スバル、とりあえず一旦退くぞ。態勢の立て直しだ!!」

「うん!!」


フィルとスバルが、なのはさんから距離を取って、陣形を整える。
スバルは、なのはさんの空域ギリギリで待機して、フィルは一旦あたしの所に戻ってきた。



「すまんな。やっぱりダメだった」

「仕方がないわよ。今日が久し振りの実戦ですもの。でも……」

「な、何だよ!?」


あたしはフィルの瞳をじっと見て、問いただす。


「フィル、あんた……。なんか制限をかけてるでしょう」

「な、何のことだ……」

「とぼけないで。あたしには分かったわよ。あの動き、いくら久し振りだからといって、あんなに制限がかかった動きになるはず無いでしょう!!」


普通にブランクがあるだけなら、ある程度動けば勘を取り戻し、普段通りになる。
ましてフィルは、執務官を休職していたとはいえ、トレーニングは欠かさなかった。

だから、実戦感が戻れば、昔のフィルに戻るはずだ。
だけど、今の動きは、明らかにおかしい。

体術も魔力も、何かに押さえつけられているって感じだった。
ソニックムーヴで何とか背後に回れたけど、それでもタイムロスが大きすぎる。



「……正解。今の俺は、リミッターを付けてる。魔力と体力を鍛えるためにな……」


そう言って見せてくれたのは、魔力鍛錬用のリストバンドと上着。
これは特殊な素材で出来ていて、重みも平均男性の約半分くらいある上着を着ている。

だから、動きも抑制されて、キレがなかったんだ。



「ったく……。その状態でよくなのはさんと戦っていたわよね」


リミッターを付けて、全力じゃないとはいえ、制限がないなのはさんと戦おうなんて無茶にもほどがある。
模擬戦とはいえ、オーバーSクラスの魔導師相手に何考えてるのよ!!



「とはいえ、さすがに明日はこのままじゃまずいよな……」

「……当たり前でしょう。明日はちゃんとリミッターを外しなさいよね……」

「分かってる。でも、出来るだけギリギリまで鍛えたいんだ。模擬戦とはいえ、戦闘はトレーニングの何倍の効果があるからな」

「……フェイトさんには内緒にしてあげるから……無理だけはするんじゃないわよ……」



フィルも、現役復帰のためにこの半年間必死で特訓をしてきた。
その甲斐があって、実はさっきまでリミッターを付けていることに気づかないほどだった。

でも、それは、それだけ過酷なリハビリと訓練をしてきたという証拠でもあるんだ。
あいつが今、どれだけの力を身につけたかは予想は出来ないけど、あたしだって力を付けたんだ。

あのお人好しの背中を、守ってあげるためにね―――――。



*    *    *



「すごい……」


私はさっきから、フィルさん達の模擬戦を見て驚きを隠せなかった。
魔力戦の迫力もそうだけど、何よりフィルさんのあの動き―――――。

冷静に局面を見て、すぐさまヴィヴィオさんのお母様に攻撃を仕掛けている。
これが本当に、昔は弱かった人なんだろうか―――――。


そして、横を見ると、今度はアルザスの飛竜が、エリオさんとキャロさんを乗せて飛んでいた。


「えへへ、キャロさんは竜召喚師なんです」

「エリオさんは竜騎士!!」

「で、フェイトママは空戦魔導師で、フィルさんと同じく執務官をやってるんです」


そして、フィルさんの奥さんのフェイトさん。
あの人も普段は優しい雰囲気を持っているのに、戦闘になると顔つきも変わって戦う人の顔になっていた。

もっと、見てみたい―――――。

だけど、無情にも終了のアラームが鳴らされる。



「はい、一旦終了〜」

「「「ありがとうございました!!」」」

「3人はこの後、ウォールアクトやるんだっけ?」

「はいっ」

「フェイトさんとエリオも一緒です」


そう言ってティアナさんとスバルさんは、フェイトさんとエリオさんを誘って、また別の訓練を始めた。

そしてフィルさんは―――――。


「それじゃ、なのはさん、キャロ一緒にしましょうか?」

「うん」

「お願いしまーすっ!!」


なのはさんとキャロさんと一緒にシュートコントロールの訓練を始めた。
しかし、只のシュートコントロールじゃない。

制御する魔力弾の数が半端じゃない。



「こうしてみますと、みなさんずっと、動きっぱなしですね」

「そうだな」



魔法訓練も凄いけど、あんなフィジカルトレーニングまでやっている。
それに―――――。

フィルさんはさっきから、魔力弾の数を徐々に増やしだして、今ではなのはさんと同じくらいの数を制御している。



「局の魔導師の方たちは……皆さんここまで、鍛えていらっしゃるんでしょうか」

「ま……まあな。スバルは救助隊だし、ティアナは凶悪犯罪担当の執務官。フィルだって、今でこそ現役を離れてるけど、ティアナと同じ執務官だ」

「他のみんなも頻度の差はあっても、みんな命の現場で働いてるわけだしな。力が足りなきゃ救えねーし、自分の命だって守らなきゃならねぇ」

「ノーヴェさんも、救助訓練はガッツリやってますもんねー」

「ま、まあ……な……」



体がうずく―――――。
これだけの見ちゃうと、今すぐ体を動かしたい―――――。

そう思っていたら、ヴィヴィオさんから肩をつんつんとされる。


「アインハルトさん、見学抜けますか?」

「あ、ええと……」


ヴィヴィオさんのお誘いは、とてもありがたい。
だけど、私の我が儘だけで、ヴィヴィオさんに気を遣わせるのは申し訳ない。



「こういうのを見ちゃうと、体動かしたくなりますよね。ですから、良ければ向こうで軽く一本!!」

「はい……是非」


私とヴィヴィオさんは、ノーヴェさん達に一言言って、森の中で体を動かすことにした。



*    *    *


「ヴィヴィオとアインハルトさんもやる気モードになっちゃったねぇ」

「あたしたちも頑張らないとだー!!」


なんかみんな燃えてるよね。
これはわたしも、リオやヴィヴィオに負けてられないよ!!

新たに決意をしていると、ルーちゃんから声をかけられて―――――。


「そうそう、実はねコロナ。内緒にしてたけど、例のアレもう完成してるんだ」

「ほんと!?」


アレが完成してたんだ。
ルーちゃんが作ってくれたアレが―――――。


「ほんと、あとはコロナが起動調整するだけ」

「アレってもしかして……!?」

「ルーちゃんお手製のわたしのインテリジェントデバイス!!」

「えっへん!! コロナ専用のカッコカワイイやつだよ!! と言っても、今回のはデザイン以外は、フィルさんが基礎設計から見直して、かなり高性能になってるよ!!」

「えっ……?」


そんな話は、全く聞いていない。
フィルさんはそんなこと一言も言っていなかったのに―――――。

すると、ルーちゃんは、ふぅと溜息を吐きながら……。


「やっぱり、フィルさんコロナに言っていなかったんだね。全く……あの人は相変わらず悪戯好きなところがあるね」

「フィルさんが……?」


フィルさんが、わたしにデバイスを考えてくれるきっかけになったとしたら―――――。

もしかして、あの時―――――。

むかし、フィルさんに魔法のことで相談に乗ってもらったとき、いつかデバイスが欲しいなってポツリと漏らしたのを覚えていてくれたんだ……。


「フィルさん、このデバイスを考えるとき、本当にコロナのことを思って考えてくれたんだ。最初わたしが考えたのとは、別物に仕上がってるよ」

「おいおい、それって完全にオーバースペックじゃないか!?」

「確かにノーヴェの言うとおりかもしれないね。でも、フィルさんは、コロナなら、間違った使い方はしないからって、本気で設計してくれたの」

「……フィルさん」


メカニックマイスターのフィルさんが、本気で考えたと言うことは、大人が使うデバイスと全く同じ物に作っているということだ。

以前、フェイトさんから聞いたことだけど、フィルさんは認めた相手じゃなくちゃ、どんな人にもデバイスは考えないって言っていた。

そのフィルさんがわたしのために考えてくれたって事は―――――。


「わたしも勉強のために、デバイス作成をフィルさんから教わってるけど、今回のアレは本当に凄いと思うよ」

「……うん」


フィルさん……本当にありがとうございます。
フィルさんとルーちゃんが作ってくれたデバイス、絶対に大切にします!!


「これは、あたしらも負けてられないね、ソル!!」

《Aye Rio.》

「よーし、あたしも明日の練習では、新魔法とか披露しちゃうもんね!!」

「「「おお――――っっ」」」


リオも刺激されて、すっごく燃えている。
明日はわたしも、リオやヴィヴィオに負けないように頑張らなきゃね。


何より――――。


わたしのために、本気でデバイスを考えてくれたフィルさんとルーちゃんのために――――。



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