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〜 Remember my heart 〜
Valentin Story 〜 Rainy Blue 〜
雨が降りしきる夜――――。


俺は、ミッドにある酒場にいた。
本当なら、今頃は彼女と一緒にいたはずだったが……。



「……美味しくないな。今日の酒は」



そう、俺は昼間に振られたばかりだ。
正確に言えば、二股をかけられていて、その現場を見てしまい、相手に逆ギレされたというのが正しいだろう。




「結局は、俺に魅力がなかったということだよ……な」



自分に魅力があれば、相手だって二股をすることなんて無いしな。
もう、何杯目だろう。


俺はストレートのウイスキーを一気に飲み干す。
そんなとき……。



「あれ? フィルやないか?」


店の扉が開き、そこにいた女性は……。


「はやて……さん?」



六課でお世話になった八神はやてさん、その人だった。




*    *    *




私は、今日つきあっている人に、手作りのチョコをあげようと、彼の家に行ったんだけど……。


そこで見たのは、別の女性と抱き合っていた彼の姿。
私が問い詰めても、逆ギレして――――。



『お前みたいな田舎娘は、重っくるしいんだよ!! 処女ってめんどくさいし……』



そこから後のことは、はっきりと覚えてはいない。
気がついたら、この酒場に足を踏み入れていたんだから……。


でも、まさかフィルがここにいたなんて……。



「……久しぶり…やね」

「ええ……」



いつものフィルとは違う。
瞳も輝きが無くなってしまってるし……。


何より、フィルの所に並べられているグラスの数。


明らかに飲む量が多すぎる。



「……隣……ええかな」

「……どうぞ」



私はフィルの隣に座り、一杯カクテルを注文する。



「……どうしたんや? こんなところで一人でお酒とは寂しいな〜」

「……そう……ですね」



やっぱり変や。
普段のフィルだったら、冗談には冗談で返してくれる。

いくら生真面目さんといっても、そういった所は柔軟性があるのに……。


最近のフィルのことは知っている。
一緒にいた同僚の女の子とつきあっていることも……。


でも、その女の子の噂は、はっきり言って良くないことばかりや。
金遣いが荒かったり、他の男の子ととっかえひっかえしとるとか……。


そして、その女の子は、フィルみたいな真面目な男の子をターゲットにして、金を吸い尽くすとかも聞いたことがある。


正直言って、フィルみたいな優しい男の子とは似合わない。
でも、以前あったときに、嬉しそうなフィルの笑顔を見て、そのことは言わないようにしたんや。



「……フィル、もし間違ってたらごめんな。あんた……彼女となにかあったん?」

「ッ!!」



フィルが表情を変えたのは、ほんの一瞬だけどそれを見過ごすほどバカじゃない。



「……そう……なんやね」

「……はやてさんの言うとおりですよ……。今日、振られた……ばっかりですよ」



フィルの乾いた笑みは、全てを物語っていた。
あの噂は本当のことやったというわけやな……。



「……そっか」


その後、少しだけ話をした後、私達は互いに黙ってお酒を飲み続けていた。
そして、閉店になろうと言うとき……。



「なぁ……。これから、フィルの家で飲みなおさへん?」

「……それは良いですけど、でも、はやてさん……彼氏さんは?」

「……ええんや。今日は飲み明かしたいんや……」



こんな気分で家に戻っても、ヴィータ達に心配されるだけ……。
せめて心の整理をつけたいんや……。



*    *    *



「おじゃまするで」

「ちょっと待っていてください。何かつまみ作りますから……」


そういって、フィルは台所でおつまみを作りに行った。
言ってくれれば私も手伝うのに……。



初めてあがるフィルの家。
そこそこ整理はされてるけど、何かが違うと感じた。


それに気づいたのは、机に無造作に置かれ、伏せられていた一枚の写真。
フィルには悪いと思ったけど、その写真を取って見てしまった。


その写真には、水滴の跡が何カ所かあった。
その跡の正体は、すぐに分かった。


――――フィルの涙。


こんなに自分を馬鹿にされても、フィルは自分が悪いと思ってしまう。


そんなことはないんやで……。


バーで聞いたフィルの話。



誰がどう見たって、相手が悪いやないか!!
フィルをずっとほったらかしにして、お金が困ったときに限ってフィルの所に来て甘える。


あんまりや……。


フィルがどれだけ傷ついたと思ってるんや……。


気がついたら、私は涙を流していた。



「お待たせしま……あっ……」



フィルが私が持っていた写真に気づき、ふと寂しい笑顔になる。



「……ごめんな。勝手に見たのは謝るで……」

「良いんですよ……。こんな写真を残してる俺が……女々しいんですから……」



それは違うで。
今日の昼間に振られて、気持ちの整理をつけられる人なんていない。


私だってそうや……。


あの時フィルに会えなかったら、きっとボロボロだったから……。




「……バカです……よね。噂とかで何となく分かっていたのに……」



フィルが女の子とつきあうようになったきっかけは、ティアナの結婚。
その時にフィルは、自分も新しい道を進まなきゃと決意し、その後につきあい始めたのがフィルを二股にかけていたあの子。

口だけはうまいから、傷心状態だったフィルがだまされてしまったのも無理はない。
普段だったら、そんなことには引っかからないのに……。




「……そんなことあらへん……。私だって同じや」

「えっ?」



私は今日あったことをフィルに話した。
つきあっていた彼氏に二股かけられていたこと。

彼氏の家に行ったら、別の女の子と抱き合っていたこと。


そして――――。


自分が重たくておもしろくない女だって言われたこと。




「……確かにそうなんや。私って……好きな人には尽くしてあげたいってタイプだから。あの人には……それが重かったんやて……」



思い出してきたら、また涙があふれてきた。
振られたことが悲しいんやない。

あんな人に今まで尽くしてきた自分がばかなんや……。


そんな私をフィルは……。



「あっ……」

「……そんな男は……こっちから振ってやればいいです。はやてさんの魅力に気がつかないバカは……」

「……せやな……ありがとうな……」



あったかい……。


あの人と違って、フィルの胸はほんまにあったかい。
こうして抱きしめてもらってると、嫌なことも消えていく。



「……俺は、羨ましいですよ。はやてさんにいっぱい愛してもらってたんですから……」

「フィル……。私みたいな重たい女でも……良いと思ってくれる?」

「当たり前ですよ。むしろ……俺はこんな風に愛してもらっていませんでしたから……」




なんか胸がムカムカする。
フィルにこんなに思ってもらっていたのに、全然気がつかないで、あの子は気持ちを踏みにじった。


あの子がどんな男とつきあってるのかは知らないけど、こんな優しい人を傷つけて良いわけがないやろ!!



「私じゃ……だめか? フィルのその傷ついた心を……癒すのは……」

「はやてさん……」

「私をあの子の代わりにしてくれても良い。だから……」



私がさらに言おうとしたとき……。


「……そんな悲しいこと……言わないでください」

「……うん」



もう、言葉はいらなかった。

互いに裏切られた者同士……。
その傷のなめ合いといわれても良い。


キスまで、後数センチというところで……。

私が持っていたハンドバックが落ちて、その中身が飛び出してしまった。
そこには、今日彼にあげようとした手作りのチョコレート。



「……これ?」

「ばかやろ……。ミッドじゃバレンタインなんて風習はないのに、彼に感謝の気持ちを伝えようと思って、こんな物を作って……」



こんなんだから、重い女って言われるんやろうな。



「じゃ、これ。俺がもらっても良いですよね」

「ちょ、ちょっと!!」


そのチョコは、彼にあげようとしていた物。
他人への気持ちがこもってる物なんて!!



「うん、美味しいです。はやてさんが一生懸命作ったんですものね」

「フィル……」



やっと分かった……。
フィルはわざとやったんや。


このチョコがどんな意味を持っているかくらい、フィルなら私が言わなくても分かってる。
だから私が、彼のことを忘れられるようにこんな事を……。



「だったら、来年はフィルのためだけに作ったる!! こんなチョコじゃなくて、もっと私の愛情たっぷりのチョコをな!!」

「……はやてさん」


だから、フィルそんな乾いた笑顔じゃなくて、いつも私達に見せてくれてた本当の笑顔を見せてや。



「楽しみにしてますね。来年を……」

「チョコは来年やけど、今日は……」



私は強引にフィルの唇を奪い……。



「……私を……食べてや」

「……喜んで」


フィルはそのまま、私をベッドに押し倒し……。


「あっ……」


私のブラウスのボタンを取り、ブラの上から胸を触る。


「んっ……あんっ!!」



今、私がしてるのは水色の飾り気のないブラ。
こんな事なら、勝負ブラの黒をしてくるんやった。



「……ごめんな。飾り気も何もなくて」

「良いですよ。むしろ、はやてさんの素顔をみれてるんですから」

「むぅ―――。その話し方いやや。はやて、って呼んで」

「……でも」



もう、この鈍感!!
女の子が、好きな人に他人行儀の話し方をされて良い気分な訳ないやろ!!



「フィル、恋愛に臆病になってるのは分かるよ。でも、こうして私と一緒にいるときは、ティアナ達と同じ様に壁……作らないでほしいんや」

「……わかったよ。はやて」

「うん」

「だったら……もう遠慮はしないよ」

「ええよ……。フィルの気持ち、全部受け止めたるよ」




そして、ブラをはぎ取り、私の胸を愛してくれ……。



「……はやての胸、本当に柔らかい。そして……あたたかい」



フィルは、私の胸に顔を埋め、優しい笑顔になっている。
さっきまでとは違う、フィルの本当の笑顔。



「せやで……。女の子の胸は、好きな人を笑顔にするためにあるんやで。私の胸は、フィルだけのものやからね……」

「……ありがとう、はやて」



フィルは、私の衣類を全部脱がし、そのまま私の全身を愛撫する。
こうしてフィルにされてると、私も満たされていく。


結局あの男は、私には全く手を出さなかったし……。
でも、今はそのことに感謝してる。

あんな男に私の初めてを奪われなかったんやから……。



「はやて……」

「ええよ……。フィルのこと全部受け止めてあげる」


そして、フィルは私の中に入ってきて……。


「い……痛…」


フィルが私の表情を見て、離れようとしたが……。


「大丈夫……やから。このまま……最後まで……」

「はやて……」


ほんまにあの男とはえらい違いや。
フィルは本当に相手のことを思ってくれる。


こういうときは男が気持ちええのは分かってるし、覚悟もしてた。
でも、フィルはそれを良しとはせず、私のことを最優先してくれてる。


そんな優しさがいっぱい伝わってくる。


だから、私もフィルを全部受け止めてあげたい。



そして、私達は身も心も一つになる――――。


全てが一つになるまで――――。



*    *    *




「ん……。もう、朝か」

「おはよう、目が覚めたんやね」

「はやて……。そのYシャツ……」



そう、今私が着てるのは、フィルが昨日着てたYシャツ。
よっぽど強い香水が使っていたせいか、これにはまだ、あの女の匂いが少しだけ残っていた。


でも、そんな物は私が全部上書きしたる。
だから、こうして私の匂いをマーキングをしてるんや。



「せやで、これで前の彼女の匂いは全部消えたで。あるのは私の匂いだけやで♪」

「ったく……。でも、はやての香りは好きだから、嬉しい……かな」

「……ばか」



ありがとうな……。
ふつうなら、こんな事したらやり過ぎって言われると思ってたのに……。



「っていうか、俺もはやての言う所の『重い』男らしいからな。覚悟……しておけよな」

「うん♪」


むしろ、望む所や。
自分だけを愛してくれるなんて、最高の幸せやないか。


フィル、これからもよろしくな。





*    *    *




数日後



「いったいどうしたんだろうね?」

「うん」


私となのはは、はやてに呼び出されて今、はやての家に来ていた。


「『二人にはどうしても言っておきたいことがあるんや』と言ってたけど……」

「なんか……嫌な予感がするんだよね」



はやてには悪いけど、今はやてがつきあってる男の人は良い噂を聞かない。
同様にフィルとつきあってる女の人も、同じ様な物だ。



「大丈夫だ。主はやてから話されることは、お前達にとってもいい話になるはずだ」


リビングで待っていた私達の前に、シグナムが入ってきた。


「シグナム!! はやてが言おうとしてること知ってるの!?」

「ああ、我らは事前に聞いてるからな」

「まぁ、おめえたちがはやてのことを心配してくれてたのは分かってる。その事も含めての話だしな」

「ヴィータちゃん……」



私達が話してると、はやてが入ってきて……。


「ごめんな〜。待たせて〜♪」

「な、なんかテンションが高いね。はやてちゃん」

「そ、そうだね……」


普段から笑顔が多いはやてだけど、今日のテンションはいつになく高い。


「どうしたの。やけにご機嫌だけど」

「ふっふっふっ。これがご機嫌でいられずにいられへんで!!」

「本当にどうしたの、はやて?」



気になってシグナム達の方を見ても、若干の呆れはあるけど、みんな笑顔でいる。



「えっとな……。改めて言うのは照れるんやけど……。不肖、八神はやて、この度……結婚することになりました!!」

「「ええっっっ!!」」



う、嘘だよね……。
はやてがあんな男と結婚するなんて……。


「あー。二人が知ってる人とではないで。あの男とは、きっぱり別れたし」

「そ、そうだったんだ……」

「だったら、誰と?」


今度はその疑問が浮かぶ。


「……ふふっ、高町、テスタロッサ。私達もあの男なら大丈夫と認めてる」

「だな。あいつなら、ぜってぇ、はやてを泣かせたりはしないしな」

「むしろ、はやてちゃんより、あの子の方が無茶しそうだけどね」

「確かにな……」

「ですね〜」

「まったくだぜ」



本当に誰のことだろう?
シグナム達があそこまで認めてる相手って……。


いや、心当たりは一人だけいる。


でも……。



「じゃ、入ってきてや〜♪」


扉が開き、そこにいたのは……。


「ど、どうも……」

「「フ、フィルッッ!?」」


まさかと思っていた人物、フィル・グリードだった。



「ま、まさか、はやてちゃんの結婚相手って……」

「はい、俺です」


待って、フィルも彼女はいるのに……。
そして、やっぱりはやてとつきあっていた男性と同じで、良い噂を聞かない女性。


「フェイトさん、多分、俺のことも知ってるかと思いますが……。俺も別れたんです……」

「そっか……」



正直、本当に良かった。
もし、あの女性だったら、悪いけどみんなで反対した。



「よかった……。わたしもフェイトちゃんも心配してたんだよ。でも、はやてちゃんの相手がフィルだったら、これ以上の相手はいないね」

「うん、はやてのこともそうだけど、フィルのことも心配してたんだからね……」

「すみません……」

「ほんまにごめんな……」



でも、これで二人は大丈夫だね。
二人がどうやってつきあうようになったかは分からないけど、きっとそこには二人にしか分からない絆があるから――――。



「ともあれ、おめでとう。はやてちゃん」

「おめでとう、はやて」

「ありがとうな〜♪」



その後も、二人は八神家のみんなと一緒に団欒を楽しんでいた。
やっと戻った、はやてとフィルの本当の笑顔。


はやて、フィル、本当に良かったね。


二人とも幸せになってね――――。




*    *    *



「でも、今更だけど、こんなにあっさりと決まるとは思わなかったよな」

「ふふっ、私はこうなるって思ってたよ。フィルだったらみんな反対はせんし」

「そういう物か?」

「そういうもんや〜♪」



フィルは自分の価値が分かってないけど、はっきり言ってこれほど結婚するのに条件がピッタリの人ってそうはいないんやで。


優しくて、思いやりがあり、社会的地位もしっかりとしていて……。


なにより――――。


私のことを精一杯愛してくれる。


「フィル、明日、早速婚姻届を出しに行こうな〜♪」

「は、早いな……。おい……」


思い立ったら吉日って言うやないか。
婚姻届の証人も、なのはちゃんとフェイトちゃんに書いてもらったしな。



「しあわせに……してや」

「それは……約束するよ。はやて」


星空の下……。


私とフィルは誓いのキスをする。



それは永遠の愛を誓うキス。



幸せになろうな、フィル♪

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