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〜 Remember my heart 〜
Memory;06 本当の気持ち

古代ベルカ諸王時代


それは天地統一を目指した諸国の王による戦いの歴史


『聖王女』オリヴィエや『覇王』イングヴァルトも―――――。


そんな時代を生きた王族の人間である。


いずれ優れた王とされる両者の関係は、現代の歴史研究においても、明確になっていない―――――。



*    *    *



「3人とも、せっかくの休暇だろ? 何もこっちに付き合わなくてもいーのに」

「「あははー」」


ティアナとスバルがそれぞれの飲み物を飲みながら、笑いで返してくれた。


「特にフィルは、執務官休職中だろ。それなのに……」


そう、ティアナ達と違って、フィルは今はデバイス関係で活動しているけど、執務官としてはまだ復帰はしていない。


「気にするなって。俺もアインハルトのことは気になったからな。あのまま放っておくわけにはいかないだろ」

「……すまねえな」


こういう時のフィルは頑固だから、何を言っても無駄だ。
はぁ……。

こうなると分かっていたから、出来るだけフィルには知らせたくなかったんだよ。


「まぁ、フィルが協力してくれるのは、本当に助かるんだけど、問題はさ……」

「なんでお前らが揃っているかってことだ!!」



あたしが呼んだのは、ティアナとスバルとフィル、それにチンク姉だけだぞ!!
どうしてディエチやディードにオットー、さらにウェンディまでいるんだよ!!


「えー別にいいじゃないッスか!!」

「時代を超えた聖王と覇王の出逢いなんて、ロマンチックだよ」

「陛下の身に危険が及ぶことがあったら困りますし」

「護衛としては当然」


こいつら、好き勝手なことばかりいいやがって!!
本当に頭が痛くなるよ。あたしは……。


「すまんなノーヴェ。姉も一応止めたのだが」

「うう」

「まっ、見学自体はかまわねーけど、余計な茶々は入れんなよ?」

「そうだな。ヴィヴィオもアインハルトも、色々繊細だからな。その辺は気をつけてくれよな」

「「「「は―――――い!!」」」」



とりあえず、フィルが言ってくれたから、変な茶々は入れないと思う。
というか、これで変なことをしたら、フィルの奴本気でウェンディ達を叩き出すだろうしな。

フィルの奴は普段は優しいけど、曲がったことをすると、例え自分の奥さんのフェイトさんや親友のティアナでさえ、本気のお説教をするからな。

そんなことを考えていたら、こっちにヴィヴィオ達がやってきた。


*    *    *



「ノーヴェ、みんな!!」

「あれれ? スバルさんとティアナさん、それにフィルさんまで!!」

「こんにちはー!!」


ナンバーズのみんながいるのは聞いていたけど、スバルさん達も一緒だったなんて思わなかったな。
リオはスバルさん達の所へ、コロナはフィルさんの所に行って一緒にお話を始めた。



「あー、やかましくて悪ィな」

「ううん、全然!!」


実はさっきノーヴェから連絡があって、紹介したい女の子がいるって聞いてやってきたんだけど―――――。


「ノーヴェ、紹介してくれる子って?」

「ああ、さっき連絡あったからもうすぐ来るよ」

「何歳くらいの子? 流派は?」


わたしは興奮して、ノーヴェの肩に手をかけ、さらに質問をしていた。


「お前の学校の中等科の1年生、流派はまぁ……。旧ベルカ式の古流武術だな」

「へー」

「あとアレだ。お前と同じ虹彩(こうさい)異色」

「ほんとー!?」


旧ベルカ式の古流武術というのも驚いたけど、わたしと同じ虹彩異色だなんて!!


「まぁ、ヴィヴィオ、座ったら?」

「そうそう」

「だな。飲み物でも飲んでちょっと落ち着け」

「あっ、そうですね」


フィルさんから、ジュースをもらうとそれを一口頂く。
あれ、ちょっと待って!?

これって、さっきまでフィルさんが飲んでいたジュースだよね――――。

うわぁ……。意識しちゃったら、顔が真っ赤になっちゃうよ!!



「失礼します」


ふと、後ろから声をかけれらて振り返ると……。


「ノーヴェさん、フィルさん、皆さん」

「アインハルト・ストラトス参りました」


ツインテールの碧銀の髪の女の子がそこに立っていた。



*    *    *


「すみません、遅くなりました」

「いやいや遅かねーよ」


本当はもう少し早くこれれば良かったのだが、授業が終わらなくて、この時間になってしまった。


「それで、アインハルト。こっちにいる女の子が……」

「え、えと、はじめまして!! ミッド式のストライクアーツをやってます、高町ヴィヴィオです」


この子が―――――。


「ベルカ式古流武術アインハルト・ストラトスです」


小さな手―――――。
脆そうな身体―――――。


だけど、この紅(ロート)と翠(グリューン)の鮮やかな瞳は―――――。


覇王(わたし)の記憶に焼き付いた―――――。


間違うはずもない―――――。


聖王女の証―――――。



「あの、アインハルト……さん?」


私は彼女の呼びかけでハッとする。


「―――――ああ、失礼しました」

「あ、いえ!!」

「まぁ、二人とも格闘技者同士、ごちゃごちゃ話すより、手合わせでもした方がはやいだろ?」

「場所は、俺の方で取っておいたから、行くとするか」


ノーヴェさんとフィルさんに言われ、私達は区民センター内のスポーツコートに行くことになった。
私と彼女はそれぞれウェアに着替え、ウォーミングアップをし、身体をほぐす。



「じゃ、あの、アインハルトさん!! よろしくお願いします!!」

「―――――はい」


本当にこれで分かるのだろうか……?

フィルさん達が言っていたように、彼女は覇王(わたし)の拳を受け止めてくれるのだろうか……?


*    *    *


数時間前


諸王戦乱の時代。
武技において最強を誇った一人の王女がいた。

名をオリヴィエ・セーゲブレヒト―――――。

後の『最後のゆりかごの聖王』


かつて、『覇王イングヴァルト』は彼女に勝利することが出来なかった。



「……なるほどな。それで、時代を超えて再戦……か?」

「覇王の血は歴史の中で薄れていますが、時折その血が色濃く蘇ることがあります」

「碧銀の髪や、この色彩の虹彩異色。覇王の身体資質と覇王流(カイザーアーツ)。それらと一緒に少しの記憶もこの体は受け継いでいます」


そっか……。
この世界では、覇王の記憶を持った女の子は少し事態が違うんだな。


かつて俺がいた未来の世界―――――。


最終決戦前、俺とティアは、ゆりかごの制御を止めるために、ゆりかごの駆動炉に向かっていた。

その時見た光景は―――――。


そこでは、ヴィヴィオの代わりにゆりかごのの起動鍵として、駆動炉埋め込まれていた少女がいた。
何とか、駆動炉を止めることは出来たけど、クアットロの手で完全に洗脳されてしまい、元に戻すのは不可能だった。

だから―――――。

せめて、魂だけでも救われることを願って―――――。

俺たちが彼女を眠らせたんだ――――。


だけど、そんなのは俺のエゴだけどな―――――。


そしてアインハルトの言葉はまだ続く―――――。



「私の記憶にいる『彼』の悲願なんです。天地に覇を持って和を成せるそんな『王』であること」

「弱かったせいで……強くなかったせいで」

「彼は彼女を救えなかった……守れなかったから!!」

「!!」

「そんな数百年分の後悔が……私の中にあるんです」


救えなかった……か……。
俺もあの時、なのはさん達やティアを救うことは出来なかった―――――。

女神の力で過去に戻り、やり直せたけど、それでもあの時のことは決して忘れなれない―――――。

あの時のことは、今でも俺の中で後悔しているのだから―――――。


「だけど、この世界にはぶつける相手がもういない。救うべき相手も……守るべき国も……世界も!!」


悲しみのあまり、アインハルトは声を殺しながら泣いていた。

数百年分の後悔か……。
そんな悲しい記憶は、本来こんな小さな少女が背負う物じゃない。

だけど、彼女はそれでも受け止めて、自分の一部としている。
強いけど、それはあまりにも悲しい。


「――――るよ」

「えっ……?」

「俺で良ければ受け止めてやる。君の拳も、そして、その悲しい思いも……。」

「……同情で言わないでください!! 大切な人を失ったことがないあなたに、何が分かるんです!!」


同情か……。
たしかに、そう取られても仕方がないよな……。


「はい、そこまで」


声がし、振り向くとそこにはいたのは―――――。


「フィルは決して、同情なんかで言ってないわよ」


ティアだった。
だけど、さっきまでスバルと向こうで話していたはずだが……?



「ティア……お前、聞いていたのか?」

「……ごめん。あんまりにも遅かったから、少しだけ聞いちゃったの」

「そっか……」


時計を見ると、あれから結構時間がたってしまっていた。
ティアは少しだけと言っていたけど、おそらくは全部聞いていたと思う。

それでも、俺のことを信じて黙ってくれていたんだ。
こういうところは、フェイトとそっくりなんだよな。



*     *       *




(同情なんかじゃない……? でも、この人に何が分かるの)


覇王の記憶は、確かに私自身が経験している物じゃない。
だけど、その悲しみは痛いほど伝わってきて、その思いは本物なんだ。



「アインハルト」

「はい……」

「確かにあんたの悲しみは、痛いほど伝わってきたわ。だけどね……」


するとティアナさんは、私の目を真っ直ぐ見つめて……。


「こいつはね……こいつはね……」


何度も話すのを躊躇っている。
だけど、意を決したのか……。


「大切な人たちを何人も失ってきたの……。だから、フィルがあんたに言った言葉は、決して同情なんかじゃない」

「ティア……お前……」

「だから、フィルの言葉を、ちゃんと聞いて欲しいの。あたし達じゃ、あんたの思いは受け止められないけど、だけど、こいつならちゃんと受け止めてくれるから……」

「ティアナさん……」



ティアナさんの言葉は、決して冗談やその場で繕った言葉なんかじゃないってことは、ティアナさんの目を見れば分かる。



「一つだけ……聞いても良いですか?」

「ああ……」


これだけはどうしても聞きたい。
ティアナさんが言っていた大切な人を失ったって言葉……。

あの言葉を言ったとき、フィルさんは一瞬だけど、本当に泣きそうな表情をしていた。


「あなたは……本当に……大切な人たちを……?」

「………」


フィルさんは、俯いたまま答えようとはしない。
だけど、言わなくても、あの言葉が本当だってことは分かった。

フィルさんのあの辛そうな眼を見れば……。


「ごめんなさい……。さっきは無神経なことを言ってしまって……」

「いや、こっちこそ、アインハルトの気持ちを考えないで言ってしまったんだ。謝るのはこっちだよ……」



結局どっちも謝っていたため、ノーヴェさんがやってきて、どっちどっちだと言うことでこの話は終わりになった。



*    *    *


あの後、学校に戻るために、私はフィルさんのバイクで送ってもらうことになった。
最初は申し訳ないので断ったのだけど、一応警察のお世話になったので、ちゃんと事情を説明する必要があるとのことで、一緒に行ってもらうことになった。

正直、私はバイクに乗ったことがなかったので、乗るときにオロオロしてしまった。
だけど、フィルさんが乗り方を教えてくれたので、何とか乗ることが出来た。

学校までの短い距離だけど、本当に風が気持ちよくて、もやもやが消えていくようだ。



「不思議ですね……。こうしていると、いろんな事がリセットされていくみたいです」

「それが分かるなら、16歳になったら免許取ってみな。自分で運転するのはもっときもちいいからな」

「ふふっ……はい」


こんな風に気持ちの余裕が持ったのは、いつ以来だろう。
覇王の記憶が強く出てきてからは、いろんな事に余裕なんて無かったから……。


だけど、それでも……。



「本当に……」

「ん?」

「本当に……私の拳を受け止めてくれる人が……いるんですか?」


思わずぽつりと言ってしまった言葉だった。
だけど、フィルさんはそれを聞いてくれていて……。


「――――大丈夫、ちゃんといる。この世界には聖王である女の子もいるんだ。俺が駄目でも、その子なら、ちゃんと受け止めてくれるさ……」

「あっ……」


本当にこの人は、人の悲しみをちゃんと受け止めてくれる人なんだ。
警察署での言葉も、ティアナさんが言っていたように同情なんかじゃなかったんだ。



「ありがとう……ございます。今なら、その言葉を……信じられる気がします」

「そっか……じゃ、今度会って、自分の思いをぶつけると良い。私念じゃなくそのためなら、俺はいくらでも手助けするからな……」

「はい……」


そして―――――。


*    *    *



今私の目の前にフィルさんが言っていた子がいる。


この子が本当に覇王の拳を―――――。


覇王の悲願を叶えてくれる―――――?



「んじゃ、スパーリング4分1ラウンド。射砲撃と拘束(バインド)はナシの格闘オンリーな」


そして……。


「レディ」

ノーヴェさんの合図と共に―――――。


「ゴー!!」


開始となる。



開始早々、いきなり懐に飛び込まれ、下からアッパーを喰らいそうになる。
それでも何とか両腕のガードで防ぐことができた。

その後も速攻で攻撃の手を休めない―――――。


「ヴィ……ヴィヴィオって、変身前でも結構強い?」

「練習頑張っているからねー」

「確かに強いと思う。けど―――――」

「けど、何よ?」

「それは見ていればわかるさ……」



上段の蹴り―――――。

確かに早いし威力もある。

だけど……。


真っ直ぐな技―――――。


きっと、真っ直ぐな心―――――。


だからこの子は―――――。


私が戦うべき『王』ではない―――――。



私は掌底の応用で、彼女の胸に打撃を与え場外に吹き飛ばす。
勢いが強すぎて、壁に激突するかと思ったけど、フィルさんが彼女を受け止めて事なきを得た。


「す……すごい!!」


あのまぶしいくらいの笑顔―――――。


―――――私とは違う。


*    *    *


「お手合わせ……ありがとうございました」

「えっ……」


突然アインハルトさんが振り向いて、試合場から出て行こうとしていた。
何かわたしが悪いことをしてしまったのだろうか!?


「あの……あのっ!!」

「すみません。わたし何か失礼を……」

「いいえ……」

「じゃ、じゃあ……あの、わたし……弱すぎました?」

「いえ」


それじゃ、一体何がアインハルトさんの事を不愉快にさせてしまったのだろうか?


「趣味と遊びの範囲内でしたら、充分すぎるほどに」

「申し訳ありません……。私の身勝手です」



そう言って、アインハルトさんは去ろうとする。
駄目だ!! 今この人をこのまま帰してしまったら……。



「あのっ!! すみません……。今のスパーが不真面目に感じたなら謝ります!!」

「今度はもっと真剣にやります。だからもう一度やらせてもらえませんか!!」


今日じゃなくても良い―――――。
明日でも来週でも良い!!


アインハルトさんがフィルさんと目あわせをしている。
お願いフィルさん、私にもう一度だけチャンスをください!!


「……ヴィヴィオ」

「は、はい!!」

「その気持ち、嘘偽りはないな」


フィルさんの少し低めの声に、思わず声が裏返ってしまった。
この声の時は、いつもの優しいフィルさんじゃない。

本気の答えを求めているときの声だ。



「はい!!」

わたしがはっきりと自分の意志を伝えると、フィルさんは優しい笑みをして―――――。


「……良い返事だ。よし!!」


フィルさんはパンパンと手を叩き……。


「それじゃ来週、もう一回するとしよう。今度はスパーではなくて、正式な練習試合としてな」

「ああ、そりゃいいっすね!!」

「二人の試合楽しみだ」

「はい」


フィルさん達の方を見ると、ノーヴェがウェンディに絡まれて、困っている感じだった。


「―――――分かりました。時間と場所はお任せいたします」

「ありがとうございます!!」


フィルさんのお陰で、もう一度だけチャンスをもらえることが出来たんだ。
このチャンス絶対に無駄にはしない!!


結局わたし達は、あの後すぐに解散となり、アインハルトさんはフィルさん達が送っていくことになった。



*    *    *


18:48 高町家


―――――あの人からしたら、わたしはレベル低いのに不真面目で……。


がっかりさせちゃったんだ……。わたしがよわすぎて……。

わたしだってストライクアーツは『趣味と遊び』だけじゃないけど―――――。

いろんな事を考えていたら、ママから通信が入り……。



「晩ご飯だよ。ヴィヴィオ」


今はママの美味しい御飯を食べて、少しでも元気にならなきゃ!!



「ヴィヴィオ、今日はなんか元気ないね?」

「えっ?」

「そそ、そんなことないよ!! 元気元気!! ねークリス!!」



クリスと一緒にガッツポーズを取って、何とか元気だとアピールするけど……。


「そお?」


ママの目はごまかせない。
あの目は今のわたしのことが分かっている目だ。

そうだよ――――。


「えっと……。実はね?」


落ち込んでちゃ駄目――――。


「新しく知り合った人と、来週練習試合をするんだ。そのことを考えててちょっとね……」

「そっか。じゃ、しっかり食べて練習して、うんと頑張らなきゃね」

「うん!!」


あの人の――――。


アインハルトさんが求めている物は分からないけど――――。


精一杯伝えてみよう――――。


高町ヴィヴィオの本当の気持ちを!!



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