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〜 Remember my heart 〜
Memory;05 アインハルト・ストラトス
「……う……ん……」

「!?」



確か、私はあの時道端で倒れてしまったはず……。
しかも、着ている物まで変わってる……。
ここは一体どこなんだろう?



「よう、やっと起きたか」

「……あの、ここは……?」


私は今の現状が把握できなくて、頭の中が混乱していた。
そう思っていたらさらに……。

コンコン


ドアのノックする音がして……。


「はい」

「入って良いかしら」

「ああ、いいぜ」

「お邪魔するわね」


ドアを開けて入ってきたのは、オレンジ色の長い髪をした女性。
どこか凛とした雰囲気を持った感じだ。


「おはようノーヴェ。それから……」

「自称、覇王イングヴァルト。本名はアインハルト・ストラトス。St(ザンクト)ヒルデ魔法学院中等科1年生」

「ごめんね。持っていた荷物出させてもらったの。安心して、ちゃんと全部持ってきてるから」


そう言われて指差された方を見ると、私の荷物が全部置いてあった。
そっか、そこから私の学生証をみて分かったんだ。


「制服と学生証を持ってってとは、ずいぶんとぼけた喧嘩屋だな」

「学校帰りだったんです。それにあんな所で倒れるなんて……」


私だって、まさかロッカーから荷物を取って、すぐに倒れるなんて思っていなかったんです。


「あー、みんなおはよー」

「「スバル」」


今度は青い髪の女性が部屋の中に入ってきた。
どこかノーヴェさんに近い雰囲気を持っている感じだった。


「みんなそろってるみたいだね。下でフィルが朝ご飯を作ってくれたから」

「フィルがか?」

「あいつ、もう来てたんだ。まったく、相変わらずこういったことは律儀にするのね」

「えへへ、でも、久しぶりにフィルの料理が食べられるよ♪ それと……初めましてだねアインハルト。スバル・ナカジマです」

「事情とか色々あるかと思うけど、まずは朝ご飯でも食べながら、お話聞かせて聞かせて嬉しいな」



*    *    *



「おっ、みんなやってきたな」

「フィル、おはよう。ごめんね、来てもらって早々朝ご飯を作らせて……」

「スバル、お前な。来た早々『フィル、久しぶりにフィルが作った御飯が食べたい!!』って、人をキッチンに立たせやがって……」


まぁ、只でナカジマ家に来るつもりはなかったから、一応俺が作ったマフィンは持ってきていたんだけど、その斜め上のことをさせられるとはな……。


「まったく……。スバル、あんたね。フィルは家政婦さんじゃないんだからね……」

「あたしも妹として恥ずかしいぜ。すまねえなフィル、お前も夜遅くに、あたしとこいつを抱えてバイクを走らせてくれたのに……」

「気にするなって。困ってるときは助けるのは当たり前だろ。とりあえず、冷める前に食べてくれ」



今回用意したのは、家で作ってきたマフィンと、食パン。こっちで作ったベーコンエッグと野菜スープ。



「あ、相変わらず手が込んでいるわね……」

「そうでもないぞティア。この前お前が家に来たときの方が、よっぽど作ったぞ」

「そ、それはそうだけど……」


ティアとは仕事のことで、よく家でフェイトと3人で食べたりすることが多い。
基本的に俺やフェイトが作るが、時々ティアも作ってくれたりするので、3人で食べたりするときはとても賑やかな食事になる。

当初は、ティアは料理はそんなに出来る方じゃなかったけど、俺やフェイトと一緒に作ったりしていくうちに、かなりのレパートリーが出来るようになっていた。



「話は後だ。さぁ、みんな席に着いたついた!!」



*    *    *


「んじゃ、一応説明しとくぞ」

「ここはこいつ……あたしの姉貴、スバルの家」

「うん」

「で、その姉貴の親友で、本局執務官兼メカニックマイスターの……」

「フィル・グリードです。よろしくな」


そう言って、ふたりが私に自己紹介をしてくれた。


「特にフィルは、あたしとお前をここまで連れてきてくれたんだからな。感謝しろよ」

「別にたいしたことはしてない。たまたま通りかかっただけで、運が良かっただけだ」

「あんたって、いつもそう言ってるわね。たまには素直に好意を受け取りなさいよ」

「ティア、別に俺は……」


別に俺は、助けようとしてやった訳じゃない。
たまたまコンビニで買い物をしていたときに見つけて、当たり前のことをしたに過ぎないんだけどな―――――。



「はいはい、フィルに素直になれって言ったあたしがバカでした。あっ、あたしはティアナ・ランスター。よろしくね」

「あっ、それはそうとノーヴェ。ダメだよ。いくら同意の上での喧嘩だからって、こんなちっちゃい子に酷いことしちゃ」

「確かにな。ちょっとやり過ぎだぞノーヴェ」

「あのな……。こっちだって思いっきりやられて、まだ全身痛ェんだぞ」



確かにノーヴェのダメージは、かなりの物だった。
ストライクアーツ有段者であるノーヴェをあそこまでやるなんて、この子はかなり強いんだと分かる。



「格闘家相手の連続襲撃犯があなたっていうのは……本当?」


ティアの問いかけに、アインハルトはしばらく考えて―――――。


「―――――はい」

「理由、聞いてもいいかな」


アインハルトが答えるのをためらっていると、代わりにノーヴェが―――――。


「大昔のベルカの戦争が、こいつの中ではまだ終わっていないんだと。んで、自分の強さを知りたくて」

「後はなんだ。聖王と冥王をブッ飛ばしたいんだったっけ?」


すると、今までノーヴェの言葉に、ずっと俯いたままだったアインハルトが―――。


「最後のは……少し違います」

「古きベルカのどの王よりも、覇王のこの身が強くあること。それを証明できれば良いだけで……」


ぐっと左拳を握りしめて答える。


「ということは、聖王家や冥王家に恨みがある訳じゃない?」

「はい」

「そっか……」


それを聞いて安心した。
もし、恨み言で聖王家や冥王家を狙うのであれば、かなりやっかいだったけど、でも、この子は純粋に強くなりたいという心で動いていただけなんだ。


「よかった。実はな、俺たちは、そのふたりと仲良しだからな」

「そうなの」

「そういうこと」

「……あっ」


アインハルトがどこか複雑な表情をしてる。
でも、この件は何とかなりそうだな。


「さて、御飯を食べたら、後で一緒に近くの署に行くとするか。聞くところによると、被害届は出ていないそうだし、もう路上で喧嘩しないって約束してくれるなら、すぐに帰れるはずだからな……」

「そうね」

「あのさ、フィル、ティアナ。今回のことについては、先に手ェ出したのはあたしなんだ」

「あら?」

「だから、あたしも一緒に行く。喧嘩両成敗ってやつにしてもらおう」



―――――なるほどな。

もし、このまま行ったら、いくら被害届が出ていないとはいえ、怪我人も出ている事件だ。そう簡単にはすまない。
だけど、喧嘩両成敗って形なら、お互いの同意の上でやったことで、そこそこの注意ですむ。ノーヴェらしい優しさだよ。



「お前もそれでいいな?」

「はい……ありがとうございます」



*    *    *



「ごめんねティア、フィル、せっかくの非番なのに」

「それはあんたも一緒でしょう」

「それに俺は今は休職中だしな。暇をもてあましてるよ」

「それにしてもスバル、あんたってばベルカの王様とよく知り合うわね」

「ねー」


確かにヴィヴィオといい、イクスといい、本当に俺たちはベルカ関係に遭遇することが多いな。しかも王族関係。


「でも、あの子。アインハルトも色々抱え込んじゃってるみたいだし。このまま放ってはおけないかも」

「そうね……。でも、その前にあんたの可愛い妹とお節介が、一肌脱いでくれそうじゃない」

「おい、こらティア。誰のことだ!! お節介って言うのは!?」

「あんたに決まってるでしょう。自分の身体を省みないで人のために動いているんだから!!」

「ティアの意見に賛成。だから身体壊して休職してるんでしょう!! 少しは自分を大事にしてよ!!」


悔しいが反論できない。
確かに、無茶しすぎて執務官を休職しなければならなくなってしまった。

ゆりかごの時に全く動けなくなって、それで分かったはずだったのにな……。



「そうだな……。今回は、サポートに徹するよ。あんまり無茶もしない」

「あんたの無茶しないと言う言葉は、いまいち信用できないけど……。いいわ、あたしが出張中のフェイトさんの代わりに、しっかりと見張ってるから!!」

「ははっ……。お手柔らかになティア」


俺はティアの迫力に、思わず引きつり笑いをしてしまった。
こういうとき本気で怒らせると、ティアもフェイトも怖いからな……。

そう思っていたら……。


「ねぇ、フィル……」

「ん? なんだ?」

「……もう、無茶はしないでね。あんな思いは二度とごめんよ。フェイトさんもあたしも……」

「ティア……」


ティアにとって、俺の怪我は心の傷になってしまった。
あの頃の俺は、フェイトやティアを守りたいという一心で、本当に無茶の繰り返しをしていた。

ゆりかごで死の淵をさまよっていたときも、フェイトとティアはずっと俺のことを支えてくれていた。


「大丈夫さ。今度はあんな過ちはしない。自分の大切な人たちを悲しませることはしないから……」

「―――――うん」

「あの……。お二人さん。なに二人だけの世界を作ってるのかな? 特にフィルは妻帯者でしょう。ティアを口説いてどうするの!?」

「あのな……。俺はそんなつもりはないし、口説いてもいない!!」

「そ、そうよ!! あたし達はそんなつもりじゃないわよ!!」


スバルのやつ、なんかおもしろいオモチャを見つけた目をしやがって……。
後で一緒にお仕置きしてやる!!


「っと、バカな話はこのくらいにしておく。ちょっとアインハルトの所に行ってくる」


さっきから、ソファーに座って、ずっと俯いたままだからな。
ノーヴェが来るまで、ちょいと元気づけてやるとしますか。



*    *    *



私はなにをやっているのだろう。
やらなきゃいけないこと沢山あるのに―――――。


「ほら」

「ひゃっ!!」

「ははっ、覇王を名乗る子も、こうしていると普通の女の子だな」


いきなり冷たい缶ジュースを、私の左頬にぴたっとつけてきた。
突然のことで、私は思わずおたおたしてしまった。


「……ひどいですよ」

「悪い。ちょっとやりすぎたかな。まぁ、これでも飲んで機嫌直してくれ」

「……いただきます」



ちょうど喉が渇いていたから、冷たい飲み物はとてもありがたい。
私はフィルさんから、飲み物を受け取りそれを口に含んだ。


「あれ? この飲み物って……?」


私が好きな飲み物の一つ、オレンジジュース。
どうしてこれが好きだって分かったんだろう?


「ん、ああ、今日の朝ご飯で、果物がいくつか出ていたのに、オレンジをよく食べていたからな。もしかしてって思ったのさ……」

「そうですか……」


驚いた―――――。
朝ご飯のあんな短い時間だったのに、本当に広範囲にわたって物事を見ている人なんだ。


「さてと、もうすぐ解放だと思うけど、学校はどうする?」

「行けるのなら、行きます」

「そっか……」


フィルさんは、ふと笑みを浮かべてそう言った。
無理に私を学校に行かせようとはしないみたいだ。


「まっ、学校のことはそれくらいにして、少し話は変わるが、ノーヴェもスバルもティアも、局員の中ではかなり優秀な連中だ。古代ベルカ系に詳しい専門家も沢山知っている……」

「アインハルトが言う「戦争」というのが何なのかは分からない。だけど……」

「俺たちで出来ることなら、いくらでも協力する」

「だから……聖王達には手を出すなってことですか……?」


そう思っていたら、フィルさんが―――――。


「ちょっと違うかな。そう言う意味で言ったんじゃない。俺は君の瞳を見ていろんな事を思ったんだ。ノーヴェとも言っていたんだけど……。アインハルト、君は」

「格闘技(ストライクアーツ)が……好きだろ?」

「えっ……?」

「これでも、まがりなりにも執務官をしてるからな。人を見る目はあるつもりだ。こうして話してみて分かった。君の目は澄んだ心を持っている。そのオッドアイを一緒で綺麗な心をね……」

「フィルさん……」


そんなこと言われたこと無かった。
自分の瞳は、人とは違って片目ずつ色が違っている。

この子とで小さいときは、周りから虐められることもあった。
それを綺麗だなんて言ってくれる人なんて、今までいなかったのに……。


「……すまない。違っていたら謝る」

「いえ、好きとか、嫌いとか、そう言う気持ちで今まで考えたことがありません」

「覇王流(カイザーアーツ)は……」

「私の存在理由の……全てですから……」


そう……。
この記憶と共に、覇王流は私の全て……。


「―――――そっか。良かったら、聞かせてくれないか。誰かに話したら、少しは胸の苦しみが軽くなるよ……」


こんなことを言ってくれる人は今までいなかった。

もしかしたら、この人たちになら、私のことを少しは話しても……。


言ったところでどうなる物じゃないのは分かっている。
だけど、今はこの人に聞いて欲しいという気持ちが強いから―――――。


「―――――私は」


話してみよう。

私の覇王の悲しい記憶を……。

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