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〜 Remember my heart 〜
Memory;03 あたたかさと優しさ


聖王教会本部 13:45


「いよーっス。オットー、ディード♪」

「久しぶり」

「ウェンディ姉様、ディエチ姉様」

「ふたりともごぶさた」



久しぶりに対面したあたし達は、ディード達が用意してくれたクッキーと紅茶でお茶を楽しむ。


「他のみなさんは?」

「チンク姉は、騎士カリムとシスターシャッハんとこ。なんかお話だって?」

「ヴィヴィオとノーヴェはイクスのお見舞い」

「イクス元気っすか?」

「健康状態には異常なし。静かにお休みだよ」

「陛下やスバルさんも、よくお見舞いに来てくださいますし……。きっと、楽しい夢を見ておいでなのかと……」


イクスはマリアージュ事件以来、ずっと眠り続けてしまっているっす。
だけど、きっといつか目を覚ましてくれるっすよね!!



*    *    *


同時刻 協会内 カリム・グラシア執務室


「お話っていうのは……例の傷害事件の事よね?」

「ええ、我ながら、要らぬ心配かとは思ったのですが……」

「件(くだん)の格闘戦技の実力者を狙う襲撃犯。彼女を自称している『覇王』イングヴァルトと言えば……」

「ベルカ戦乱期……諸王時代の王の名ですね」

「はい」


時代は異なるけど、聖王教会で保護しているイクスヴェリア陛下や、ヴィヴィオの母体(オリジナル)である『最後のゆりかごの聖王』オリヴィエ聖王女殿下とも無縁ではない。


「ヴィヴィオやイクスに危険が及ぶ可能性が?」

「無くはないかと」


聖王家のオリヴィエ聖王女、シュトゥラの覇王イングヴァルト、ガレアの冥王イクスヴェリア―――――。

いずれも優れた『王』だったから―――――。


「ああ、もちろんかつての王達と今のふたりは別人ではあるのですが」

「ええ、それを理解しない者もいるという事ですよね」

「とはいえ、『覇王イングヴァルト』は物語にも現れる英傑です。単なる喧嘩好きが気分で名乗っているだけという可能性も大きいですよ」

「―――――ですね」



それならばいいのだが、今のところは楽観視は出来ない。


「でも、犯人が捕まるまで、イクスの警戒は強化するわ。セインについてもらいましょう」

「ヴィヴィオについては……」

「それはこちらで、私と妹達がそれとなく……」


本来なら、フィルにもして貰いたいのだが、彼に頼んでしまうと、本当に自分を蔑ろにするから下手にはお願いできない。

現役復帰まであと少しなのだから、今は少しでも休んで貰いたい……。



*    *    *


「みんなごきげんよう〜♪」

「ああ、これは陛下」


四人でお茶会をしていたウェンディ達が立ち上がって、こっちにやってきた。
さっきからこっちに来るときに、甘いにおいがしていたのは、そこにあるクッキーだったんだ。


「陛下、イクス様のお見舞いはもう?」

「うんディード。いっぱい話したよ」

「あたしらはもう戻るけど、お前らは?」

「あー、あたしも」

「私はもう少し」


ウェンディはわたしとノーヴェと一緒に帰るけど、ディエチはもうちょっとここに残るみたい。


「陛下よろしければこれを。自信作のビスケットとクッキーです」

「わ♪ ありがとオットー♪」


オットーが渡してくれたのはかわいい動物型のビスケットとクッキー。
オットーって、見た目はちょっと男の子みたいだけど、でも本当はこういったお菓子作りとか大好きなんだよね。こういうところはやっぱり女の子なんだって思うよ。



「んじゃ、あたしは3人を送ってくるなー」


わたしとノーヴェ、ウェンディはオットー達と別れて、門先にでる。
セインも買い物に行くということで、途中まで一緒に行くことになった。



「しかし良いのか? ヴィヴィオ。双子からの陛下呼ばわりは」

「えっ?」

「前は『もー陛下って呼ぶのは禁止―――!』とか言ってたろ」

「あー」



ノーヴェの言うとおり、前は陛下って呼ばれるのは嫌だったんだけど、もう慣れちゃったのと、あれはふたりなりの敬意と好意の表現だってことが、最近分かってきたから……。ちょっとずれているところもあるかなって思うけど……。


「この後はいつものアレか。ん、ウェンディもやるんだっけ?」

「ま、ふたりにお付き合いっス」



*     *     *



ミッドチルダ 中央市街地


「あ!!」

「リオ!! コロナ!! おまたせー!! って、えええっ!?」

「よっ、ヴィヴィオ」


待ち合わせ場所に行ってみると、リオとコロナだけじゃなくて、なぜかフィルさんまで一緒にいた。
一体どうなってるの!?


「フィル。一体どうしたんっすか?」

「ん、ウェンディ。お前も一緒だったのか? 何? ちょっと暇になってな。息抜きに外で散歩していたら、コロナに声をかけられてな。ちょっと話をしていたんだ」


実はフィルさんはコロナとは、あることがきっかけで知り合いになっている。フィルさんが忙しいから、普段はあんまり話とかはしないんだけど、何か悩みとかあったときは親身になって相談に乗ってくれる。
フィルさんは、今はお休みしてるけど、それでもハードワークには変わらない。

それでも、フィルさんはどんなに忙しくても、その人が本当に困っていると思ったら、どんなことをしても助けてくれる。

だから、コロナもすっごくフィルさんのことを好きなの。



「そうだったんですか。もう、コロナも念話で教えてよ!!」

「ごめんね。ヴィヴィオを驚かそうってフィルさんが……」

「悪いな。俺がコロナに言ったんだ。だから、あんまり言わないでやってくれ」


フィルさんは、そう言ってわたしの頭を撫でてくれる。
小さい頃からそうだけど、こうされると安心する。

でも、ちょっと子供扱いされてるって感じるのも事実だけどね。


「もう、フィルさんったら、もう良いですよ。そうそう、リオは3人とは初対面だよね」

「うん」


そしてリオはノーヴェとウェンディの方へ向いて……。


「はじめまして!! 去年の学期末にヴィヴィオさんとお友達になりましたリオ・ウェズリーです!!」


元気よくはっきりとした声で自己紹介をする。


「ああ、ノーヴェ・ナカジマと」

「その妹のウェンディっス♪」

「フィルさんはヴィヴィオが来る前に紹介したから、ウェンディさんは、ヴィヴィオのお友達で、ノーヴェさんは私達の先生!!」

「よっ、お師匠様!!」

「コロナ!! 先生じゃないっつーの!! むしろお前達の先生はフィルだろうが!!」

「おいおい、俺は普段は何もしていないただの怠け者だぞ。ふたりを一生懸命みてるのはお前だろ。ノーヴェ」

「おいっ!! 誰が怠け者だ!! 誰が!! 嘘付くなっ!!」



ノーヴェにはいろいろ教えて貰っているのは本当だけど、だけど、フィルさんにも色んな所でお世話になってるんだよ。

フィルさんが怠け者だって言うなら、うちのママ達も怠け者になっちゃうから!!


「先生だよねー?」

「教えてもらってるもん」

「先生って伺ってます!!」

「ホラ」

「なっ」

「うっせ」


ウェンディとフィルさんにも言われてしまい、ノーヴェは照れてそっぽ向いてしまった。
ノーヴェってこういったところが可愛いって思うんだ。



*    *    *



ストライクアーツ練習場(トレーニングベース)


「でも、やっぱ意外〜!! ヴィヴィオもコロナも文系のイメージだったんだけどなぁ。初めてあったのも無限書庫だし」

「文系だけど、こっちも好きなの」


確かに本を読んだりするのも大好きだけど、こうやって身体を動かしたりするのも大好きなんだ。


「わたしは全然、初心者(エクササイズ)レベルだしね」

「ほんとー?」


コロナはああ言ってるけど、ノーヴェやフィルさんに見て貰っているから、結構なレベルになっている。


「さ、いくぞー」

「「「は―――いっ!!」」」


着替えも終わったし、フィルさんやウェンディも外で待ってるもんね。
急いで行かなきゃ!!


*    *    *


「へ――――!! なかなかいっちょまえっスねぇ」

「だろ?」

「ああ」



ストライクアーツはミッドチルダで、最も競技人口の多い格闘技であり、広義では「打撃による徒手格闘技術」の総称でもある。


「でもヴィヴィオ、勉強も運動もなんでも出来てすごいよねぇー」

「ぜ――――んぜん!! まだなんにもできないよ」


わたしは今、リオと組み手をしながら、会話をしている。
リオはわたしのことをすごいって言ってくれるけど、そんなことは全くない。


「自分が何をしたいのか。何が出来るのかもよくわからないし、だから今はいろいろやってみてるの」

「そっか」


だから――――。


「リオとコロナといろんな事、一緒にできたら嬉しいな」

「いいね」

「「一緒にやっていこう」」


こんな風にいつまでもリオ達とできたら本当に嬉しい。
そのためにはもっと頑張らなきゃね。


「さてヴィヴィオ、ぼちぼちやってみっか?」


ノーヴェが右腕を回しながら、こっちにやってきて


「うん!!」


わたしとスパーをしよって言った。
わたしもやりたいって思っていたんだ!!


「さー出番だクリス!! 服はトレーニングモードでね」


早速わたしはクリスにお願いして、セットアップをする。
クリスもピッって右手を挙げて応えてくれた。


「セイクリッド・ハート!! セット・アップ!!」


セットアップすると、トレーニングモードであるタンクトップTシャツ、両手にプロテクターを付けた状態になる。


「すみません。ここ使わせてもらいまーす」

「失礼しまーす」


わたしとノーヴェが中央のスペースに行くと、周りが段々ざわめき始めてきていた。


*    *    *


「な、なんかふたりとも注目されてない?」

「ふたりの組み手凄いからねー。リオもきっとちょっとびっくりするよ」

「そうだな。あのふたりはなかなかのレベルだからな」

「フィルさんもかなりの物だと思いますけど……」


フィルさんもストライクアーツではないけど、格闘技はすることが出来る。
一回ノーヴェさんとスパーしているのを見たけど、ふたりとも本気でやっていて、本当に凄いの一言だった。


「いや、俺のは我流だからね。本格的にやっている人とやったらかなわないよ」

「そんなこと無いと思いますけど……」

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」

「えへへ♪」


フィルさんは、わたしの頭をポンとして、そのまま優しく撫でてくれた。
ヴィヴィオじゃないけど、フィルさんにこうされると、とても嬉しくなる。

でも、フィルさんはもう少し自分のことをちゃんと見た方が良いと思う。
過小評価しすぎは駄目ですよ。フィルさん!!



*    *    *


「いくよノーヴェ」

「おうよ」


わたしとノーヴェはお互いに戦闘の構えに入る。
やっぱりこの瞬間は緊張する。

先に動いたのはノーヴェ。
左のハイキック!!
そして、息もつかせず、すぐに右のアッパー。


「くっ!!」


何とか上半身を反らし、それをかわすが、躱しきれず、僅かにアゴをかすめてしまう。


「はっ!!」


つかさず、わたしも右のストレートで応戦!!


「ふたりともやるもんっスなぁ!!」

「はい」

「ああ、良い動きしてる」


その後、30分ほどスパーした後、クールダウンをし、今日の練習は終了となった。



*    *    *



「今日も楽しかったね。でも、今はちょっとだけ不満です〜」

「てゆーか、びっくりの連続だよ!! でも、ジャンケンに勝ったら、もっと良かったのに!!」

「あ、あはは……。ごめんねヴィヴィオ、リオ」


練習が終わり、わたしとリオ、コロナは、フィルさん達と一緒に帰ることになった。
実は、フィルさんがバイクで来ていたので、一人だけだけど、家まで送ってくれるって事になって、3人でジャンケンしたんだけど、勝ったのはコロナだったのだ。


「それじゃ、俺はコロナをサンダーで送るから、ノーヴェ達はヴィヴィオとリオを頼むな」

「まかせるっすよ!!」

「あっ、ウェンディ、悪い。リオ達を頼めないか?」

「あ、了解っす!! なんか用事?」

「いや、救助隊。装備調整だって」

「そっか。それじゃコロナ、後ろに乗りな」

「はい!! 失礼します」


コロナはフィルさんから予備のメットを渡されると、それをかぶり、後ろに乗り込む。
そして、フィルさんがバイクのエンジンをかけると、勢いよく吹き上がる。

あーあ、じゃんけんで勝ってたら、わたしが一緒に帰れたのに……。


「それじゃ、みんな気をつけてな」

「じゃ、またな」

「「「おつかれさまでした!!」」」


フィルさんとコロナはコロナの家へ、ノーヴェはお仕事へ、そしてわたしとリオはウェンディにそれぞれのお家に送ってもらうことになった。



*    *    *


「すみません、わざわざ送っていただいて……」

「気にするなって、元々送るつもりだったんだから、それよりも俺で良かったのか? ウェンディ達と一緒の方が楽しかったろうに?」

「良いんです。フィルさんに送ってもらうのとっても嬉しいんです!!」

「そっか……。悪いな。もう少し会話上手なら良かったんだけどな……」



会話なんて、そんなに上手くなくても良いんです。
こうしてフィルさんの背中に抱きついていると、とっても暖かいんです。
それだけで、充分なんですよ……。



「本当なら、ヴィヴィオとか可愛い子の方が良かったと思いますが……。わたしでごめんなさい」

「……それ、本気で言ってる?」

「えっ?」


さっきまでとは違い、フィルさんの口調が少し怒っている感じがする。


「コロナの美点は、自分を過大評価しないことだけど、あんまり自分を下に見るのは良くない」

「でも……」

「コロナも充分に可愛いと思うよ。そうやって人のことを思いやれる心を持っているんだ。自信を持ちな」

「フィルさん……ありがとう……ございます……。でも……」

「ん?」

「過小評価しすぎは、フィルさんには言われたくないですよ。フィルさんの方が酷いと思います!!」


わたしも自分を下に見ることが多いけど、フィルさんはそれに輪をかけている。
いろんな資格を持っていて、あれだけ気配りが出来て、すっごく優しいのに、怠け者とか、凡人とか、本当に過小評価しすぎています!!


「そ、そっか? 俺の評価は当たっていると思うが……」

「絶対に違います!! それだけははっきりと言えます!! フィルさんは、凄く素敵な人です!!」

「……コロナ」



フィルさんは、奥さんのフェイトさんだけじゃなく、いつも周りの人のことを考えてくれている。
それは、ノーヴェさん達だけじゃなく、ヴィヴィオ達もいつも言っている。

フィルさんという人は、自分よりも周りの人の幸せを考えている人だって……。
そんな優しい人が、素敵じゃないなんて絶対にないから!!



「コロナ……ありがとうな……」

「えっ?」

「そうやって言ってくれるのは、やっぱり凄く嬉しいよ。フェイトはよく言ってくれるんだけどな……」


メット越しだけど、フィルさんが照れていることは声の感じで分かる。


「ふふっ、奥さんはフィルさんの良いところがちゃんと分かっているんです。でも、わたしも分かりますから……」



確かにわたしの思いは、憧れもあるかもしれない。
でも、フィルさんが本当に素敵な人だって事は、一緒にいる人ならわかるから……。


「フィルさん、少しだけお時間ありますか?」

「ん? ああ、今夜はもう帰るだけだから、暇だけど?」

「だったら、少しだけ遠回りして帰りたいです……」



わがまま言っているのは分かっている。
でも、もうちょっとだけ、こうしてフィルさんの背中の暖かさを感じたいなぁ……。



「じゃ、ちょっとそこで止まって、暖かいコーヒーでも飲むか。バイクに乗って身体が冷えてるしな」

「はい♪」


フィルさんは、近くのコンビニでバイクを止めて、暖かい缶コーヒーを二つ買ってきてくれて、一つわたしに渡してくれた。
缶コーヒーを飲み終わった後、またバイクに乗り、フィルさんは少しだけ遠回りのコースを走ってくれた。

この辺からなら、バイクなら10分もあれば着いちゃうんだけど、30分かけてわたしの家に向かってくれた。
フィルさんは、普段はとても真面目な人なんだけど、こうやって融通も利いてくれる。


だから、ヴィヴィオも、わたしもフィルさんのことが好きになったんだと思うな。


フィルさん、今日は本当にありがとう――――。



*    *    *



「やっと仕事が終わったぜ……」


あたしはヴィヴィオ達を別れた後、救助隊で一仕事をしてたんだけど、おもったより時間がかかってしまって、今の時間になってしまった。


「ったく……、人使いが荒いっての」


あたしは少し急ぎ足で帰ろうとしたが……。


「ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマさんとお見受けします」


声がした上を見上げると、そこには――――。


「貴女にいくつか伺いたいことと……」


碧銀の長い髪の女が――――。


「確かめさせて頂きたいことが」


街灯の上に立っていた――――。

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