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〜 Remember my heart 〜
SPECIAL PROGRAM vol.4 if ending ハヅキ

「ねぇ、ハヤト。今日はクラナガンに遊びに行く?」

「それは良いけどよ。今日はヴァイス陸曹だってバイク使ってるぞ」


いつもなら、ヴァイス陸曹からバイクを借りるのだが、今日はあの人も使う用があって借りることが出来ない。


「そうね……」

「それだったら、俺のサンダーを使うといい」

「「フィル!!」」

「あんた、いつの間に!?」

「いつの間には無いだろ。ハヤトとお前がロビーでいちゃいちゃしていて、俺がいたのに気がつかなかっただけだろうが……」



フィルがため息をつきながら、そう答える。
そう言えば、あれだけいたスタッフがいつの間にかあたし達だけになっていた。



「あれ? いつの間にいなくなってたんだ?」

「いつの間にじゃないだろう。ったく……ハヤト、お前らが付き合っているのは良いけど、その周りにいる奴らはいつも砂糖吐いてるんだぞ……」

「ま、マジで……?」

「大マジだ……。これ以上お前らがいちゃついてるのを見てるのは、こっちも辛いんだ。せっかくの休みだ。サンダー貸してやるから、二人でどっかに行ってこい!!」


そう言ってフィルは、サンダーのキーをあたしに投げてよこしてくれた。


「おっと……」

「ティア、ロードサンダーはお前なら動かすことが出来るから、後は好きにしろ」

「ありがとう、フィル♪」

「ちょっと待て!! なんで俺じゃ駄目なんだ!!」


ハヤトがフィルにロードサンダーを自分にも運転させろっていってるけど、それは無理だ。
その理由はいたって簡単。

ロードサンダーは、戦闘用バイクのため高性能のAIが搭載されている。

そのAIが自分で認めた人でないと、エンジンすらかけることが出来ない。
今のところ、フィル以外だとあたししか認められていない。



*    *    *



「まったく、以前も言ったろうが、サンダーは俺かティア以外は認めていないから、運転するのはあきらめろって……」

「いやだぁぁぁぁ!! 俺も運転したい!! 運転したい!!」



ハヤトがあんまりにも駄々をこねているから、少しきついお説教をしようとしたとき……。
ドキュンと、俺とハヤトの間を音速の魔力弾が通過していった。

いまのって、どう見てもインビジブル・シューターだよな……。



「……え、えっと……」

「テ、ティア……ナ?」

「あんまり駄々こねてるんじゃないわよ。ハヤト……」


振り返ると、そこにはクロスミラージュを構え、とっても良い笑顔をしたティアの姿だった。
でも、目は全く笑っていない。


「は、はい!! すんませんでした!!」


ハヤトもティアの目が笑っていないのが分かったのだろう。
すぐに直立不動の状態になり、敬礼までかましている。


「まったく……時間がないんだから、早く行きましょう」


そう言って、ティアはハヤトの腕に抱きつき……。


「うおっ!! こ、これは……ティアナの胸が……もろに!!」

「ば、馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ!! ほらさっさと行く!!」


ああは言ってるが、ティアはハヤトから離れようとはしなかった。
むしろ、さらに抱きついて自分の胸を押しつけているみたいだった。

ハヤトとティアは、腕を組んだまま格納庫に行ってしまった。


「まったく……ティアもハヤトも本当にバカップルだよな……」

《マスター、羨ましいんですか?》

「いや……あの二人は未来では結ばれなかったからな」

《そう……でしたね》


ハヤトは何とかディレトを倒したんだけど、その時の傷が深く結局ティアの胸の中で死んでいったんだ。
ティアのあの悲しみは今でも忘れない。

決戦前せっかく二人の気持ちがつながったのに、あんな形で大切な人を失ってしまったんだから……。

そして、この時代では二人が幸せになってくれた。
それだけでも俺が頑張った甲斐はあった。


《……これで後は、マスターにも素敵な人が出来てくれたら、何も言うことは何も言うことはないですね》

「俺か? それは無いだろう。何より俺を好きになってくれる人がいないだろうし……」

《はぁ……駄目ですね。これは……》


プリムはため息をつき声になってしまった。
俺、何かおかしいことを言ったのか?



*    *    *



「ハヤト……」


最近、ハヤトと話をする機会が無くてとても寂しい。
ハヤトは最近ティアナと恋仲になり、いつもティアナと一緒に行動している。

今までは「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と甘えてくれてたのに……。

でも、ハヤトが心から幸せになってくれているのなら、我慢しなくてはな。
フィルからの話は聞いている。

私も含め、本来ならスカリエッティに殺されてしまっている。
それを食い止めるために、彼は未来から来て、一緒に戦った。

そして、フィルがいた世界では結ばれなかったハヤトとティアナが一緒になった。



「頭では分かってるのだが……寂しい物だな」


でも、いつまでも落ち込んではいけない。
愛しい弟の幸せを守ることこそ、姉として出来ることなのだからな。

ハヤトの事を考えていたら、少し疲れ気味のフィルが食堂で座って食事をしていた。
フィルのことは少し前から気になっていたので、ちょっと話しかけようとしたとき……。



《マスター……お願いですから、少しは休んでくださいよ》

「休んでいるんだけどな……」



プリムとフィルが会話をしているのを聞いていると、改めてフィルが無茶ばかりしているのが分かる。
昔から彼は、自分のためよりも他人のために優先してしまう傾向がある。

今も、プリムがその事でフィルに怒鳴りつけている。



《そんなことを言って!! こないだだって、ハヤトさんとティアナさんのクロスハートとクロスミラージュのフルメンテを寝ないでぶっ通しでやっていたではありませんか!!》

「……それは」

《こんな事ばかりしていたら、本当にマスターの身体が持ちませんよ!!》



確かにプリムの言うとおりだ。
どんな人間だって、休憩も無しで持つわけがない。



「それは分かってるさ。だけど、俺が出来ることはそれくらいだし、何より……」

「俺は……みんなを守りたいから……」

《マスター……》



結局私はフィルに声をかけることが出来ず、そのままフィルが去っていくのを見つめていた。



「フィル……君の考えは確かに立派だ。だが……」


あのままにしておいたら、高町一尉の二の舞になってしまう。


「少し……話してみるとするか」



後日、私はフィルに声をかけ、訓練が終わった後、疲労回復をしてもらおうと、特製料理を振る舞うことにした。
フィルは最近食事の方も固形ブロックを食べていて、ろくな食事をしていなかった。
その証拠に、私の料理をまるで、スバルが食べる時みたいにがついている。

普段のフィルならそんなことは無いのだがな……。



「なぁ……フィル」

「何ですか?」

「最近の君は、どこか無理をしすぎていないか。高町一尉から聞いたが、訓練以外にもオーバーワークをしていると……」


これは彼女に限った事じゃない。
六課メンバー殆どに聞いても、同じような答えが返ってきた。

それだけ今の彼は無理をしすぎている。



「……そんなつもりは無いんですけどね」


こんなことを言っているが、彼の顔色は健康な状態ではない。
フェイクシルエットで誤魔化しているけれど、そんなのは私には通じない。



「……だったら、私を倒してみろ」

「ハヅキさん?」

「無理をしてないというなら、私と互角に戦えるはずだ。さぁ、ついてこい!!」


今の彼には言葉で言っても聞かないだろう。
だから、身体で分かってもらう!!





*    *    *




「はぁ……はぁ……」

「どうした。これでお終いか……」


俺はハヅキさんに無理矢理模擬戦を申し込まれ、訓練場に来て模擬戦をしたが、俺のどんな攻撃もハヅキさんに見切られてしまい、攻撃を当てることが出来ない。

ブラストシューターも、ブラストブレイザーも、そして最後の切り札である、ワープを使ってのゼロ距離スターライトブレイカーも発動地点を予測されてしまい、逆にファングバスターをたたき込まれてしまった。



「くっ……まだ……まだ、戦えます……ぐぅぅ……」

「無理だな……。普段の君なら、ゼロ距離スターライトブレイカーを決めることが出来たかもしれない。だが、今の君はワープアウトの時、ほんの僅かだが、魔力が漏れてしまってそれを隠せないでいるから、私に感知されてしまう。そんな状態では何度やっても同じだ」



確かにワープアウトの時、フェイクシルエットに回す魔力が、ほんの僅かにぶれてしまい、気配を完全に隠せないでいた。
だけど、それでもなのはさんクラスの相手でもなければ気づかないほどの物だ。

それを感知するなんて……。



「それだけ、君は疲れ切ってしまってるんだ。そんな状態の君に負けるほど私は弱くない!!」

「ハヅキさん……」

「フィル、君は未来であんな事があったから、何でも自分がという考えになってしまう。だけど、それでは君が潰れてしまい、結果的に周りに迷惑をかけてしまうぞ」

「!!」



ハヅキさんの言うとおりだ。
無理して倒れたりなんかしたら、その方がみんなに迷惑をかけてしまう。

俺は……そんなことを忘れてしまっていた……。



「フィル、君の性格から言って、誰かに頼るというのは難しいかもしれない。だけど、私の前くらいでは、弱さを見せても良いのだぞ」

「ハヅキさん……」

「そのくらいの度量はあるつもりだ。遠慮無く頼るが良い」



ハヅキさんの言葉に、どこか重い物が消えていく気がした。
今まではどこか全部自分でやらなくてはと思っていた。

こうやって言ってくれる人もいなかった。



「……それでは、お言葉に甘えさせてもらいます。ハヅキさん」

「うむ、遠慮は無用だぞ」



こうしてこの日を境に、俺は何か困ったことがあったら、ハヅキさんに色々相談をすることにした。



*    *    *



「ねぇ、ハヤト」

「ん? なんだ」

「最近、フィル、ピリピリした雰囲気が消えたと思わない?」



この1週間、フィルは変わったと思う。
今までは何でも自分がやっていたのだが、今のフィルは違う。

何か困ったことがあった場合は、ハヅキさんにかなりの割合で相談に行ったりしている。
こんなこと今までのフィルだったら無かったのに……。



「まあな。俺もびっくりしてる。あのフィルがだぞ。今まで俺やティアナが、散々言ってきたのに……」

「ハヅキさん、何かしたのかな? そうでなかったら、あの頑固者をああまで変えることは……」

「その可能性は大だな。フィルをあそこまで変えることが出来るのは、姉ちゃんくらいしか浮かばない」

「そうね……」



ハヅキさんなら、フィルのことをちゃんと分かってあげられると思う。
というか、フィルみたいに色々抱え込んでしまった人間には、ハヅキさんみたいな人が合うのかもしれない。



「それとな……最近の姉ちゃん、ちょっと変なんだ」

「変って?」

「あのな……俺が近くに行っても、前みたいに過剰な反応をしなくなった」

「嘘っ!!」


信じられない。あのハヤコンとも言えるくらい過剰な愛情を注いでいたハヅキさんが!!


「でも、フィルもちょっとおかしいのよね……」

「というと?」

「最近ね、ハヅキさんの名前を出すことが多いのよ……」

「おい、こりゃ……」

「かもしれないわね……」



フィルとハヅキさん、うまくいくといいわね。
特にフィルは、今まで辛い思いばかりだったから……。



*    *    *



「はぁ……。一体私はどうしたのだろう?」



最近、フィルと良く会話をするようになり、よくフィルのことを考えるようになった。
フィルと話しているときはすごく楽しいのだが、時間になり別れるときになると、すごく寂しくなってしまう。

まるでハヤトと一緒にいる時みたいな……。



「あれ、ハヅキちゃんじゃない?」

「シャマル女医……」

「どうしたの、今日は?」

「ああ……任務後の身体検査で少しな……」

「そっか……ハヅキちゃん。ちょっと時間あるかな?」

「別に……この後は何も予定は入っていないが?」


この後はしばらくの間、休暇になるから何も予定は入っていない。


「それじゃ、こっちの部屋で少しお話をしましょう」


私はシャマル女医に連れられて、隣の医務室に入った。
そこはシャマル女医が普段から使っている診察室だった。



「ハヅキちゃん、コーヒーが良いかしら、それとも紅茶?」

「それではコーヒーで……」


シャマル女医はコーヒーを二つ入れ、一つを私に渡してくれた。


「はい、どうぞ」

「すまぬな……」


良い香りだ。
やっぱりコーヒーは心が落ち着く。


「ねぇ、ハヅキちゃん、最近フィルと一緒にいることが多くなったわね」

「んっ? ああ、確かに……な……」


ここ最近、私はフィルと一緒にいることが多い。
以前と違って、フィルもよく相談をしてくれるようになった。

無理しなくなったせいか、フィルの顔色も比べものにならないくらい良くなっている。



「フィルね、最近本当に良く笑うようになったわ。以前はどこか危なげな状態だったんだけど、今は心に余裕が出てきたって感じだわ」

「そっか……」

「そして、それはハヅキちゃんにも言えるのよね」

「私も……か?」

「ええ、以前はハヤト君が全てだったあなただけど、今は色んな人のことを見てあげられている。その代表格がフィルのなのよね」

「あっ……」



確かに、以前の私はハヤトが私の全てだった。
ティアナと一緒になったことは、確かに嬉しいのだが、それ以上にティアナに取られてしまったという感情が多かった。

でも、今はその感情は殆ど無い。



「ねぇ、ハヅキちゃん。フィルのことをどう思っている」

「どうって……私は……」



シャマル女医に言われて、フィルのことを思ってみる。
フィルと一緒に話していると、心が落ち着く。

今までロクな男がいなかったのもそうだが、フィルはどこか違っていた。


いつも仲間のことを考え、それ以上に自分のことを蔑ろにしてしまう。
そんな彼を見ていて、最初は手のかかる弟みたいな感じだったけど……。



「……話していると、心が落ち着く相手だな」

「そして、フィルがいなくなると、寂しくなったりする」

「……そうだな。それは感じる」


するとシャマル女医は、優しい笑みをし……。


「それ……恋よ。ハヅキちゃん」

「恋……だと」

「ええ、今まで男性に関してあれだけ厳しいあなたが、フィルにだけには心を許している。そして、今の問答ではっきりしたわ」

「……恋…か」


今まで私は恋愛など関係ないと思っていたが、こんな風にハヤト以外の男性を意識するようになるとはな。



「ハヅキちゃん、一つだけいいかしら」

「何だ?」

「フィルのこと……決してふざけた答えを出して欲しくないの。あの子は、未来でフェイトちゃんを失い、恋愛に関してすごく臆病になってしまっているの。これでもしあなたにまで何かあったら……」



そうだった。フィルは未来で仲間を目の前で失ったんだった。
だから、彼は人一倍何かを失いたくはないと思うようになった。

でも……。


「シャマル女医、その心配は無用だ。私を誰だと思っている。私はハヅキ=ロックウェルだぞ。自分の大切な人くらい、私が守ってみせる。私の全力をかけてな!!」


今はっきりと分かった。
私はフィル・グリードのことを好きなんだ。


「そうだったわね。自分の気持ちに素直になったあなたは、誰よりも無敵だものね。ハヅキちゃん、フィルを……私の大切な弟をお願いね」

「ああ」


今はこの気持ちをフィルにきちんと伝えよう。
それが私が出来る誠意だからな。




*    *    *




「確か、ここだよな」


訓練が終わった夜、俺はハヅキさんに呼び出され、訓練場に来ていた。
訓練が終わり、あとは部屋で寝るだけだったとき、突然メールが来て……。



『話がある。今すぐ訓練場に来て欲しい。   ハヅキ=ロックウェル』


文は短かったが、ハヅキさんがわざわざメールをよこしたくらいだ。
大切な話があるんだろう。


そんなとき訓練室の扉が開き、ハヅキさんが入ってきた。



「済まなかったな。疲れているところを……」

「いえ……」



*    *    *




正直さっきから心臓がドキドキしてしまっている。
こんなにドキドキしたことはないだろう。

フィルに気持ちを伝えるだけだというのに、こんなに緊張してしまっている。



「その……なんだ」

「?」

「大した話では……無いのだが」



どうして言えないのだ。
たった一言好きだと伝えるだけだというのに……。

伝えるんだ。自分の気持ちを……。
覚悟を決めろ!!



「わ、私は……」

「私は、ハヅキ=ロックウェルは、フィル・グリードのことを愛している」




*    *    *




「ハヅキ……さん」



突然の告白に驚きを隠せなかった。
俺は、あの日の模擬戦からハヅキさんのことがずっと気になっていた。

自分の間違いを正してくれたこともあったけど、それ以上にこの人に惹かれていく自分がいた。
厳しくも、だがそれ以上に俺の心を包み込んでくれる、大人の魅力溢れるこの女性に……。

だけど……。


「ハヅキさん……あなたの告白、すごく嬉しいです。俺もあなたのことが……大好きです。でも……」



俺に関わる大切な人は、みんな死んでしまう。
六課のみんなも、そしてフェイトさんも……。

だから俺は大切な人を作れない。
その人を失うのをこれ以上見るのは……辛いから……。


すると……。



「フィル」

「あっ……」


ハヅキさんは、俺を自分の方へ抱き寄せ、ギュッと抱きしめて……。


「大切な人達を失い、臆病になるのは分かる。だけど、私は死なない。自分の大切な人に悲しませたりはしない。だから……」

「せめて、私の前だけでも良いから甘えろ。私は全てを受け止める」

「俺は……人を好きになっても……良いんですか?」

「当たり前だ。誇りに思え。家族以外でこんなに男性を好きになったのは、君が初めてなのだからな」



俺は、ハヅキさんの胸の中で、声を殺して思い切り泣いた。
今までの悲しみを全部はき出すかのように……。



「ハヅキさん……ありがとうございます。こんなに甘えさせてもらったのは、初めてです」

「ふふっ、これからはもっと甘えて良いのだぞ。私だけを見続けてくれるのならばな」

「……俺は、フィル・グリードは、ハヅキ=ロックウェルさんのことを、誰よりも愛してます。これからもずっと……」


俺はハヅキさんの目をしっかりと見て、自分の気持ちを伝えた。
この人なら、全てを包み込んでくれる。

俺が最も欲しかった安らぎを与えてくれる。
そして、信じられる強さを持っている。



「フィル……」

「ハヅキさん……」



俺たちはお互いに瞳を閉じ……。


ハヅキさんの頬に触れ、自分の方へ抱き寄せ……。


その薄紅色の唇に……誓いのキスをした。


ハヅキさんはそんな俺を全て受け止めてくれ、キスが終わった後、しばらくの間ギュッと抱きしめてくれていた。



*    *    *



「あ、あの……ハヅキさん?」

「何だ」


あれから俺たちは、ハヅキさんの部屋に行き、こうやってベッドに座って一緒に会話をしている。
ハヅキさんは以前、ハヤトにしていたようにスキンシップをしている。
今俺は、抱きしめられてハヅキさんの胸に埋もれている状態だ。

あの時、初めてハヅキさんにあったときは、ハヤトに対するスキンシップがものすごいと思っていた。
それをまさか自分が受ける側になるなんて、夢にも思わなかった。


「その……俺も男でして、そんなに胸を押しつけられたら……」


正直さっきから、ハヅキさんの巨乳の感触で理性を保つのにいっぱいいっぱいだ。
これ以上されたら、マジで暴走しかねない。


「……いいのだぞ」

「えっ……?」

「遠慮なんかしなくてもいい。言ったはずだ。私はフィルの全てを受け止めると」



一旦離れると、ハヅキさんは上着を脱ぎ、ブラも取り去り、その大きな胸を包み隠さず、俺に見せてくれる。

そして俺は、ハヅキさんを押し倒し……。



「ハヅキさん……俺……」

「おいでフィル。お姉ちゃんがいっぱい甘やかしてやろう」



その言葉で俺の僅かに残っていた理性は完全に消え去った。
俺はハヅキさんにキスをし、俺のたどたどしい舌の動きを、彼女はリードしてくれ、それを何度も繰り返し、キスが終わると、お互いの唾液で作られた銀色の糸がつながっていた。

その後、俺はハヅキさんに思いっきり甘え、その大きな胸を何度も揉みし抱く。
そんな俺をハヅキさんは優しい笑みで包み込んでくれる。


そして……。


「一つになろう……フィル」


ハヅキさんは初めてなのにリードしてくれ、俺はハヅキさんを何度も求め……。


それをハヅキさんは全て受け止めてくれる。


そして俺もハヅキさんに少しでも自分の気持ちが伝わるように、何度も愛し……。


その行為は、夜が明けるまで続いた。



*    *    *



「……んっ……朝か」


結局俺は、あのままハヅキさんの部屋で朝を迎えてしまったのか。
俺は何度もハヅキさんを求めてしまい、そのまま眠ってしまったんだな。

でも、ハヅキさんは隣にいない。
すると、コーヒーの良い香りがしてきた。



「おはよう。よく眠れたか」

「おはようございます。はい……今までにないくらいぐっすりと」


こんなに安らいだ眠りは初めてだった。
きっとハヅキさんの……愛する人のそばにいたからだろう。



「そっか……」


ハヅキさんはコーヒーカップを渡してくれ、俺はそのコーヒーを口に含む。


「おいしいですね……。これ」

「ああ、クラナガンにある有名なコーヒーショップの豆だからな。味は保証するさ」

「フィル」

「はい?」

「いつでも、私に甘えてくれ。そして抱え込むな。その方が私は辛いからな」



ハヅキさんの言葉に、俺は心の底から温かくなった。
こんな風に言ってくれる女性は今までいなかったから……。


「そんなことを言ったら、遠慮なんかしませんからね」


この言葉が、後にとても後悔することになるとは、この時の俺には全く思っていなかった。





*    *    *





「フィル、ほら、お姉ちゃんが食べさせてやるぞ」


ここは六課の食堂内、今は昼時で、満員御礼だ。
ここで、こんなシチュエーションをしろっていうのか!!



「あの……ここは六課の食堂ですよ」

「それがどうした。誰が見てようと良いではないか。それにハヤト達もしてるのだぞ」



ハヅキさんに言われて、ティア達の方を向いてみると、顔を真っ赤にしながら、お互いにあーんをし合っているカップルの姿があった。
っていうか、あんたら何してくれてるんですか!!

これでは逃げ場がないだろうが!!



「それとも……私とこんな事をするのは……嫌か?」


ハヅキさんは上目遣いで俺を見つめている。
ええい、俺も男だ。覚悟を決めよう。



「お、お願いします……」


すると、ハヅキさんは太陽のような笑顔で、ランチをどんどん食べさせてくれた。
正直味なんて感じなかったけど、でも、ハヅキさんの笑顔を見ていると、それだけで嬉しくなる。


「おいしいか。今度また私が美味しい物をいっぱい作ってやるからな」

「はい、楽しみにしてますね。ハヅキさんの料理は美味しいですから」

「そうか。では早速今日の夜にでも作るとするか」


そう言ってハヅキさんはさらに上機嫌になり、デザートに至っては……。


「んっ……んんんっ!!」


口移しでアイスを食べさせてくれるほどだった。


「美味しいか? フィル」

「何か……甘いです。色々と……」


アイスの味より、ハヅキさんの味でいっぱいだった。
でも、これ以上ないくらい甘いデザートだな。


そんな俺たちとティア達を見ていたスタッフは、いつの間にかいなくなっている。
そして、はやてさんとフェイトさんがこっちに来て……。


「あのな……あんたらな。ええかげんにしいや!! あんたらがいちゃついていると、私らみんな砂糖と血をい吐きまくってるんやで!!」

「正直……もう少し控えてくれると助かるんだけどね」

「「「「すみません (すまん)」」」」



確かに、俺たちもハヤト達も人目を憚らずやり過ぎていた。
これでは、あの有名なFFF団が現れても不思議ではないな。





*    *    *



3年後



「あれから……色んな事があったな」



六課が解散して一年後、俺は執務官試験を受け、資格も取得し、執務官として活動していく予定だったのだが、ハヅキさんが「お前は指揮官適正があるのだから、私が直々に鍛えてやる」と言って、半ば強引に指揮官補佐をすることになった。

確かに執務官資格を持っているから、指揮官試験を受ける資格はあるけど、まさか本当にこんな事になるとは思わなかった。


そして指揮官試験も何とか合格し、今ではハヅキさんのパートナーとして活動している。



「何を、考えていたのだ?」


ハヅキさんが後ろからギュッと抱きついてくる。
こんな事は、恋人同士になってから日常茶飯事だ。

仕事場でもこんな風に抱きついてくる物だから、正直理性を保つのがきつくて仕方がない。
しかも、ハヅキさんに物言う猛者は誰もいないから、ストッパーもいない。

最初は俺も仕事場では止めようと言ったのだが、その途端に大粒の涙で泣き出してしまい、仕事が完全にストップしてしまう始末だ。

その事が分かり、今では完全に公認状態で抱きつかれている。



「今までのことを……ね」

「そっか」


ハヅキさんとこうやっているとやっぱり心が安らぐ。
こんな風に甘えられるのは、ハヅキさんだけだから……。



「愛してるぞフィル。まぁ……ハヤト、父さん、母さんに続いて4番目だがな」

「それでもいいですよ。家族以外では一番って事ですからね。いつか……俺もハヅキさんと家族になれば、一番になるんでしょう?」


ハヅキさんは一瞬驚いたが、すぐに……。


「ふふっ、生意気を言うじゃないか。そうなりたいなら、私に甘えるのはやめて貰わなければな」


ハヅキさんがそう言うので、俺も少し意地悪で返し……。


「本当に……いいんですか。それじゃ金輪際甘えないようにしますよ」

「本当に……意地悪だな。そんなことを望んでないことくらい……分かるだろ」



人に頼ることを教えてくれたハヅキさん……。


そんな彼女は、俺の心の支えになってくれている。


甘えるだけでなく、いつかは本当に彼女を支えられるようになりたい。


愛すると言うことは、お互いを支え合ってこそ、本当の愛なのだから……。



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