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〜 Remember my heart 〜
SPECIAL PROGRAM vol.1 if ending ヒヨリ

あの日……昭人と別れてから10年の月日がたった。
あの日から、私は、昭人が戻ってくるのを信じて、ずっと待ち続けてきた。

クリスマスのあの日、私は昭人の想いを知り、そして、本当の自分の気持ちが初めて分かった。


でも……。


昭人を失い……。


そして、お母さんも失い……。


どうして、私が好きになった人は、私のそばからいなくなるの……。



「……教えてよ。お母さん……昭人」



目の前にあるのは、美月お母さんのお墓。
ここにお母さんが眠っている訳じゃないけど、それでもお母さんからもらった、たった一つの大切な物が眠っている。


ここに来ると、お母さんが何か応えてくれるような気がしてならなかった。

気のせいなのは、分かっているんだけどね。



「……ごめんね。こんな姿を見せてしまって……また、来るね」



*    *    *



「ヒヨリ……」



俺はJS事件が終わり、クアットロを倒し、ティーダさんのお墓に報告に来ていた。
そして帰ろうとしたとき、偶々、ヒヨリの姿を見つけた。


気になって、木陰で様子を伺っていたんだけど……。



「やっぱり……あの時から、ヒヨリの時間は止まったままなんだな」

《マスターが、あの時……女神の力で、一旦時間をさかのぼり、四宝院事件で彼女を助けることはできました。でも……》

「彼女の心までは……救うことは出来なかったんだよな」



ヒヨリは今まで本当に悲しみを背負ってきた。

転生前の両親のこと……。

転生後も、昭人さんとの別れ……。



「……でも、これ以上は介入してはいけない。彼女と関わったのはあれまでだからな……」

《マスター……》

「……帰ろうか。プリム」

《……はい》



*    *    *



「……ふぁ、ちょっと眠い……」



結局、私は墓参りから戻ってきて、一睡もせず、今日の訓練に参加することになってしまった。
最近、フォワードのみんなも成長してきてるから、相手をするのは大変なのは分かっているんだけど……。


そんなことを考えていると、すでに訓練場では、なのはとフェイト、そしてフィルの変則模擬戦が行われていた。

どうやら、2対1での戦闘を想定した模擬戦らしい。
でも、いくらフィルがなのは達とそこそこやれるからといって、これはやり過ぎじゃないの?



「はああああああ!!」



フェイトがバルディッシュでフィルに斬りつける。
それをフィルは、動きを見きって最小限の動きでかわす。


「隙あり!!」


でも、なのはがその隙を突いて、アクセルシューターで攻撃をした。
32ものシューターを受け止めるのは不可能だ。

だが、次の瞬間、信じられない物を見ることになった。



「……ラウンドシールド・リフレクター」



フィルは瞬時にラウンドシールド・リフレクターを作り、なのはのアクセルシューターをそのまま跳ね返した。

間一髪で、なのははそれをかわすが……。



「う、嘘!! あの一瞬であんな強力な魔法を!?」



なのはが驚くのは無理もない。
ラウンドシールド・リフレクターは、絶大な防御力を誇り、さらに相手にそのまま攻撃を跳ね返すことが出来るが、発動までの時間がかかりすぎる欠点を持つ。

だけど、さっきフィルはほんの一瞬で発動させていた。
でも、驚くのはこれで終わりではなかった。



「それじゃ、今度はこちらの番ですね!!」



そう言ってフィルは、もう一人分身を作り出した。
でも、フェイクシルエットなら、こんな事をしても意味無いのに?



「それじゃ、フェイクになっていないよ!!」


フェイトが、フィルに攻撃を仕掛ける。
しかし……。



ガキイイイ……。



「そ、そんな!!」


分身体であるはずのフィルが、フェイトの攻撃をプリムの刃で受け止めたのだ。
しかも……。



「アクセルシューター!!」



もう一人が、アクセルシューターをフェイトに放ったのだ。



「きゃあああああ!!」



いきなりのことでフェイトは防御も取れず、かなりのダメージを負わされてしまった。



「フェイトちゃん!!」

「よそ見をしていて良いんですか」

「えっ……?」


次の瞬間、フィルはなのはの懐にワープで近づいていた。



「し、しまった!!」

「ブラスト……」


なのはがプロテクションを貼ろうとするが、すでに遅く……。



「ブレイザァァーー!!」


白銀の砲撃は、ゼロ距離でなのはの腹部に命中した。



「きゃああああああ!!」

「なのは!!」



ゼロ距離でまともに砲撃を受けてしまい、なのはは、吹っ飛ばされてしまったが、フィルが咄嗟に助け、事なきを得るが、これ以上なのはは、戦闘続行は無理だった。

そして、フィルは、地上になのはを降ろした後、また空に戻っていった。
フェイトは、ソニックフォームにチェンジし、高速でフィルに近づき、ライオットブレードで斬りつけたが……。


次の瞬間、フィルの姿は消えてしまい、姿を見失ってしまった。



「ど、どこなの!?」


フェイトが必死で探すが、フィルの姿はどこにも見つからない。

そして……。



「な、なに、これ!?」



さっきフィルが消えたところから、キャロのアルケミックチェーンに似たチェーンが出現し、フェイトの身体に巻き付き、身動きを封じてしまった。

しかも、発動用の魔法陣無しで……。



「くっ……解けない!! なんて強力なバインドなの!!」



あのバインドは軽く見積もっても、SSランククラスの物だ。
いくらフェイトだって、そう簡単には解除できない。



「無駄ですよ……そのバインドはそう簡単には解けませんよ」

「フィル!!」



上から声がし、見上げてみると、フィルが、魔力を集束し始めていて、プリムをブレイズモードにし、スターライトブレイカーの発射態勢に入っていた。



「行きますよ……スターライト……」



フィルの声で、魔力はさらに増大し、その大きさはなのはが放つブレイカーに匹敵するほどであった。


そして……。



「ブレイカァァァーーー!!」


フェイトはラウンドシールドで防御するが……。


その凶悪な白銀の奔流は、フェイトを飲み込み……。



「きゃああああぁぁぁ!!」


フェイトは、さっきのなのは同様、吹っ飛ばされてしまった。
地面に激突する直前、フィルがワープで助け、そこで模擬戦は終了となった。


それにしても信じられない……。

リミッター無しのあの二人を相手に勝つだなんて……。


いくらプリムが高性能デバイスだからと言っても、限度がある。
普通のデバイスでは、あんなことは不可能だ。


フィル、一体あなた、何を隠しているの……。



*    *    *



いくら何でもおかしすぎる。
私はどうしてもフィルにそれを聞きたく、夜にフィルの部屋に行くことにした。

コンコン……。


「フィル、少し話があるの……」


私はノックをするが、中からは何も反応はない。


「いないのかしら……あれ、ロックはかかっていない?」



悪いとは思ったけど、もしかしたら眠っているのかもしれないと思い、中にはいることにした。
すると、部屋には誰もいなく、そこには電源を入れっぱなしのパソコンだけがあった。



「いったい、何をやっていたのかしら……?」

「えっ……? う、嘘でしょう……」



パソコンに映っていたのは、一つのデバイスの設計図。
ただのデバイスの設計図じゃない……。


そのデバイスとは……。



『フィンアクセレイター』



「そんな……これは、あの時……あの人に渡した物なのに……?」



フィンアクセレイターは、昭人が残した唯一のデバイス。
いくらフィルがデバイスマイスター並みの知識があっても、何も無しで作る事なんて出来ない。


いったい、どういう事なの……。


私が混乱をしていると……。



「……えっ……ヒヨリさん?」

「……フィル……」



フィルが自分の部屋に戻ってきてしまった。



「何で……ヒヨリさんが俺の部屋に?」

「……ごめんなさい。用があってフィルの部屋に来たんだけど、返事がなくて、でも扉のロックがかかっていなかったから、もしかしているのかと思って入ってしまったの……」

「そうだったんですね……」

「黙って入ったのは本当にごめん。だけど……」



どうしてもこれだけは聞かなくてはいけない。
フィンアクセレイターのことだけは……。



「どうして、フィルがこれを知っているの……」

「!!」



フィルはパソコンに出したままだったことに気づき、一瞬だけど、表情を変えた。



「これは……実は、マリーさんと一緒に考案中の……」

「嘘!! これは、昭人が考え出したデバイスよ。いくらフィルが知識があると言っても、これは考えることが出来ない!!」

「……」

「お願い……本当のことを話して……フィル、お願いだから話してよ……」



私は泣きながら、フィルの胸を何度もトントン叩いていた。
そんな私の様子を見て、ついにフィルは……。



「分かった……本当のこと……話すよ……」

「ヒヨリさん……いや、ヒヨリ。何となく分かっていると思うけど、俺は、5年前四宝院事件で一緒に戦った、あのフィル・グリードなんだよ」



そう言って、フィルはプリムを起動させると……。
いつもの漆黒ではなく、青に変化していた。



「………やっぱり、そうだったんだね。その青に輝くデバイスは、間違いなくフィンアクセレイターだから……」

「黙っていてごめん。でも、こんなことを言っても信じられないと思ったから……」

「私も、それを見るまでは信じられなかったよ。だけど、フィンアクセレイターは昭人が残した唯一のものだったから……」



あのデバイスは、昭人が残した唯一の完成品。
そして、それを知っているのは私と、それを渡した彼だけ……。



「そっか……」

「あと、それだと色々合わないことがあるよね。年齢だってそうだし……」

「それも、話すよ。実は、俺は……3年後の未来から来たんだ……」

「未来から……? いったい、どういう事なの?」

「俺がいた未来では、六課のみんなは、クアットロに殺されてしまい、世界は絶望しかない物になってしまった……」

「まず、四宝院事件で君が、ゆりかご決戦でティアと俺、スバル、ギンガさん以外のみんなが死んでしまった……」

「そ、そんな……」



私があの時、本当は死んでいたなんて……。
しかも、なのは達もゆりかごの時に死んでしまったなんて……。



「生き残った俺たちは、何とか戦闘機人達と戦い、ゆりかご決戦から3年後、色んな犠牲を払い、最後の戦いを挑んだんだ。そこで俺とティアはクアットロと戦い、勝つことは出来たんだけど……」

「……どうしたの?」

「……いや……何でもない」



そんな風には見えない。
そんな悲しい目をしていて、何でもないってことないよ。



「……もしかして……フィル、あなたも大切な人を……」

「……」

「そう……なんだね」



おそらくフィルの大切な人ってのは、ティアナのことね。

そっか……。

フィルは、私と同じなんだ。



「一つだけ……聞いて良いかな」

「……ああ」

「何で……何で、フィルは私と似た過去を持っているのに、どうしてそんな風にいられるの……?」

「そうだな……確かに、俺はティアを失ってから、人を好きになることがなかった。でも……」

「でも……?」

「過去に戻ってきて、ヒヨリと一緒にいて、スカリエッティを倒して、そして……何より……」

「四宝院事件で見せた、あの笑顔が忘れられなかったんだ。笑顔だったけど、その中にあった、あの悲しい目が……」

「な、何言ってるの……そんなわけ……」



すると、フィルが……。



「ごめん……女神から全て聞いているんだ。昭人さんのことも、転生したことも、そして……」

「………美月さんのことも……」

「そう……だったんだね」



フィルは、全て知っていたんだ。
だから、あの時グラスを助けようとして、突っ込もうとしたときに、必死で止めてくれたんだ。

そして、泣きながら頬を叩いたときも……。



「ヒヨリ……」

「俺では……昭人さんと美月さんみたいに、お前の心を支えられないか」

「フィル……」

「……ありがとう。フィルの言葉、すごく嬉しいよ。だけど……だけど……もう、これ以上大切な人を失いたくないの。怖いの!!」



もう、あんな想いをするのは嫌だ。
私が好きになった人が、次々と死んで行ってしまうのは……。


すると、フィルは黙って私を自分の方へ抱き寄せ……。



「あっ……」

「……分かるか……俺はここにいる……絶対ヒヨリのそばから消えないから……」

「……信じて……いいの……?」

「信じてほしい……俺は、ヒヨリのことが……」

「大好きだから……」



もう、涙をおさえなれなかった。
今まで、パパやママや、そして、なのは達が優しくしてくれた。


でも、昭人を失った悲しみを埋めることは出来なかった。

だけど……。


この人は、私の最も欲しかった温かさをくれた。




「フィル……フィル!!」


私が泣きながら、フィルにギュッと抱きつくと、フィルはそっと包み込むように抱きしめてくれた。
そして私もフィルのぬくもりを、もっと感じたくてさらにギュッとしていた。


そして……。


私は顔を見あげ、瞳を閉じ……。


フィルは私の頬をそっと触れ……。


私とフィルは……。


月明かりが差し込む部屋で……。


優しいキスを交わした……。



「キス……しちゃったね」

「……ああ、そうだな……」

「フィル……私、すごく寂しがり屋だから……その……」

「分かってるよ……ずっと、一緒にいような。ヒヨリ」

「……うん、もう、撤回はきかないからね」

「しないし、するつもりもないさ……」

「フィル……」

「ヒヨリ……」



フィルはそんな私の気持ちを察し、またギュッと抱きしめてくれた。


フィル、私、本当に寂しがり屋だし、甘えん坊だからね。


だから、ずっと一緒にいてね……。



*    *    *




一週間後



「はい、フィル。あーん♪」

「やっぱ……しなきゃ駄目?」

「だーめ」

「だけど……みんな見てるし……」



そう、今はお昼時真っ最中。
六課食堂は、満員御礼だ。

ここでこんなシチュエーションをするのは、自殺行為だ。



「それこそ、今更よ。私達が付き合っているのは、告白してくれた次の日に、みんなの前で言ったんだし……」



そう、実は次の日、俺たちはみんなの前で、交際宣言をしたのだ。
これはヒヨリの提案で、どうせ隠してたってすぐにバレるんだから、それだったら先手を打って、先に言おうってことになった。



「それも……そうだな……」

「そういうこと。あーん♪」



ヒヨリは、俺にピラフを食べさせてくれ……。



「モグモグ……なんか、こうやってしてもらうのって……いいかも」

「フィル、今度は私にもしてくれるかな」

「んっ? それもそうだね。じゃ、あーん」



お返しに、俺もヒヨリにしてあげた。



「あーん。……モグモグ……なんか、同じ料理でも、違うね。好きな人とこうやって食べるとね」

「ヒヨリ……」



バアアアアン



突然、テーブルを思いっきり叩いた音が食堂中に響き渡る。



「ああっ!! もう、二人ともいい加減にして!!」

「フィル!!」

「は、はい」

「ヒヨリお姉ちゃん!!」

「なぁに?」

「二人が付き合っているのは分かってるよ。だけど、お願いだから、そういうのは二人きりの時だけにして!!」

「「ごめんなさい……」」



確かに俺もヒヨリも、少しやり過ぎたかも……。



*    *    *



「やりすぎちゃったね」

「ちょっとね……」



訓練が終わり、俺はヒヨリの部屋にお邪魔している。
告白したあの日から、俺たちは訓練が終わると、どちらかの部屋で深夜まで過ごすことが日課になってきている。

今も、俺たちはヒヨリのベッドに座って会話をしている。
ヒヨリはすごく寂しがり屋だ。
訓練以外の時は、出来るだけこうやって一緒にいる事にしている。

それに俺も好きな人とは、出来るだけ一緒にいたいしな。



「確かに、食堂でするのは、やり過ぎだったわ。でも……」



ヒヨリは俺の肩に、自分の頭をコトンと預けてきて……。



「二人きりの時は……いいよね。思い切り甘えても……」

「……ああ、思いっきり甘えてくれ。その方が……俺もうれしいから……」

「……うん」



俺は反射的にヒヨリの頭を撫でていた。
こうやって、ヒヨリのゆるくウェーブのかかったロングヘアを撫でていると、ヒヨリも嫌ではなく、目を細めて俺に甘えてくる。


その後、俺たちはしばらくの間、無言で寄り添って、何もないけど、こうやってまったりと時間を過ごした。

そして、時間も深夜0時を回り……。



「さてと、そろそろ失礼するね」

「えっ……?」

「さすがにこれ以上いるのは、ヒヨリに悪いしね」



そう言って立ち上がろうとしたとき……。


ギュッ……。


ヒヨリが俺の服の裾を掴み……。


「……いや」

「ヒヨリ?」

「今日は……帰らないで」

「……その言葉の意味、分かっているのか」



恋人同士が一晩中そばにいるって事は、お互いを求めるって事だ。
俺だって男なんだ。ちゃんと性欲だってある。

まして、好きな人なら、求めたいってのは当たり前の感情だ。



「……分かってるよ。だからこそ……フィルに……して……欲しい」

「ヒヨリ……良いんだな?」

「うん……」


ヒヨリのエメラルドグリーンの瞳が、潤み……。


そんなヒヨリの瞳に吸い込まれるように……。


俺はヒヨリにキスをした。


ヒヨリも最初は、おずおずとしていたが、次第にお互いを求めるキスになり、息が続く限り、お互いを求め合った。


唇が離れたときは、お互いの間に銀色の糸がつながっているほどの情熱的なキスだった。



「あっ……」



俺はヒヨリをベッドに押し倒し、上着を脱がし、ブラの上から、ヒヨリの大きな胸に触れると……。



「柔らかい……女の子の胸って、こんなに柔らかいんだ」

「そうだよ……女の子って、デリケートなんだからね。優しく……してよ」

「ああ……優しくするよ」



俺は、ヒヨリの残りの服を一枚ずつ脱がしていき、全ての衣類を脱がすと……。



「……恥ずかしいから、あんまりじろじろ見ないで」

「綺麗だよ……ヒヨリ」

「……ば、ばかぁ……でも……ありがとう。フィル……私、その……初めてだから」


ヒヨリは顔を真っ赤にして、横に向いてしまい……。



「さっきも言ったけど、優しく……するから」

「……でも、いっぱいフィルのこと感じさせてね。フィルがここにいるって、私のそばにいるって……感じたいから」

「……愛してる……ヒヨリ」


俺はヒヨリの頬にそっと触れ……。


「私も……愛してる。フィル」


ヒヨリも、その俺の手に自分の手を、そっと重ねてた。




その夜……。


月明かりが照らす部屋で……。


俺とヒヨリは、初めて結ばれ……。


その後も、お互いの体温を、何度も感じ合い……。


その度にベッドは何度もきしみ……。


その行為は、数時間にわたっていた。



*    *    *



「う……うーん……あれ、ここは?」

「おはよう……フィル」

「おはよう……ヒヨリ」

「結局、朝までお邪魔しちゃったね……」



あの後、何度もヒヨリを求めてしまい、俺はそのままヒヨリのベッドで眠ってしまったのだ。



「いいよ……フィルだったら、いつでも……良いんだからね」

「ヒヨリ……」

「……今度は、フィルの部屋に泊まりに行くからね」

「ああ……いつでもいいよ」

「うん……そんなこと言ったら、今日泊まりに行くからね」

「……また、理性との戦いになりそうだな」

「我慢……しなくていいよ。私もフィルにギュッと抱きしめてもらうの、大好きだから……」



俺は、そんなヒヨリが愛おしくなり、またギュッと抱きしめてしまった。



「……やっぱり、温かいね。フィルのぬくもりって」

「ヒヨリの温もりも、すごく心が安らぐよ。こうしているだけで、優しい気持ちになれるから……」



好きな人と一緒にいるときは、人は優しい気持ちになれる。
本当にヒヨリといると、そういった気持ちでいっぱいになる。

結局俺たちは、訓練開始時間ギリギリまで、こうして一緒にいた。
二人で一緒に来たときは、なのはさんとフェイトさんに滅茶苦茶睨まれたけど……。



*    *    *




3日後


今、俺とヒヨリは、サンダーに乗って、ツーリングをしている。
実は、はやてさんから俺たちに一週間の臨時休暇を言い渡されて、せっかくだから、近くで良いから温泉でも入りに行こうって事になった。

色々調べてみたら、結構近場でもあることが分かり、俺たちは、さっそく宿を取り、そこに向かうことにした。




「それにしても、いきなりはやてさんから、休日を言い渡されたときはびっくりしたね」

「そうね。でも、理由が『あんたらが毎日毎日六課内でいちゃいちゃしてるから、私らみんな、砂糖吐きまくってるんや。ヴァイス君に至っては血の涙流してるんやで!!』だもの」


あの時のはやてさんの顔は、かなりの物だった。
そんなに、俺たちいちゃついていたのか……?



「でも、そのおかげでこうやって、ヒヨリと旅行が出来るんだから、感謝しなきゃね」

「確かにね。はやて達にはおみやげでも渡してあげないとね」



そうでもしないと、申し訳がない。
みんなが訓練してるとき、俺たちだけ休日をもらったんだから……。



「それはそうと……その……もう少し……離れてくれないかな」

「……そんなことしたら、落ちるわよ」

「その……何だ。あんまりギュッと抱きつかれると、その……胸が……」



さっきから、ヒヨリの大きな胸が背中に当たって色々な意味で辛い。
そこまでギュッとしなくても……。

でも、ヒヨリはそんな俺の意志とは逆に……。


ギュッ……。


さらに密着してきたのだ。



「あの……ヒヨリ……さん?」

「……こうしないと落ちちゃうわよ。それに……」

「こうしてると、フィルのことを感じられるから……」

「ヒヨリ……」



言った後、ヒヨリは恥ずかしくなったのか、俺の背中に顔を埋めていた。
なんか……俺まで照れてしまう。



《あの……マスター、ヒヨリさん。何、一昔前のラブコメなんてしてるんですか……》

《見ているこっちが恥ずかしいですよ。相棒……》

「あ、その……」

「……良いでしょう。好きな人の温もりを感じたいってのは、普通でしょう」

《……本当に、マスターのことが好きなんですね。ヒヨリさん》

《ああ……でも、それは相棒も同じですけどね》



プリムとサンダーの突っ込みに、俺たちは二人して顔を真っ赤になっていた。



《でも、さっきからマスターの心拍数は、上昇しっぱなしですよ。これは、理性の陥落も時間の問題ですね♪》

《これは、着いたら夜は激しい物になりそうです♪》

「「プリム!! サンダー!!」」


ったく、こいつら、まるで、はやてさんみたいなことを言いやがる。
勘弁してくれよな……。



*    *    *



「お風呂……気持ちよかったね」

「ああ……そうだな。だけど、一緒に入る必要あったのか。こっちはドキドキしっぱなしだったぞ」

「えへへ、せっかく家族風呂があったんだから、使わない手はないでしょう。それに、こんな時でもないとフィル、一緒に入ってくれないでしょう」



実は、ここは家族風呂があって、予約すれば誰でも使える物だ。
しかもいつの間にか、ヒヨリが旅館の予約をするときに取っていたらしい。



「当たり前だ。お前は俺の理性を飛ばしたいのか……」

「……それも……いいかな」

「おいおい……」



全く、何を言ってくれるんですか。
こっちの気も知らないで……。





*    *    *




「……フィルの……けだもの……」

「お前がずっと、俺の理性を吹っ飛ばすことしてるからだろうが……こっちだって限界だったんだぞ」



ここに来るときから、胸を背中に押しつけられたり、温泉に一緒に入ったりして、ヒヨリのプロポーションの良い身体を見続けてきたんだぞ。

限界にもなるっての……。



「今日は……本当に激しかったね……」

「……すまん」

「……激しいのもたまには良いけど、やっぱり優しくギュッとされるのが、一番良いかな」

「こんな……感じか?」



俺はヒヨリをそっと抱きしめて……。



「……うん。こうやって、フィルの胸の中にいると安心するんだ」

「そっか……」

「今日は……このまま眠りたい」

「俺も……同じさ。ヒヨリの温もりを感じながら眠りたい」



俺とヒヨリは、お互いの温もりを感じながら眠りについた。



*    *    *



「ここ……すごく綺麗ね」

「そうだな……」



旅行の最終日、私たちは六課に帰る途中、少し遠回りをしてあるところに来ていた。
ここは昔、フィルが何かあったときに来ていた海岸らしい。

オフシーズンと言うこともあり、人は誰もいなかった。



「……どうしたの?」

「俺は、六課が解散してしまえば、ヒヨリとは別の道を歩むことになる」

「……そうだね」



フィルは、六課解散後フェイトの元で執務官補佐をすることになっている。
私も教導隊に戻って、また教導官をしなくてはならない。



「例え、離れていても、なんて言葉は嫌だから……」



そう言ってフィルは、私の左手の薬指に……。



「これ……まさか……?」



薬指に輝くのは、エメラルドグリーンの宝石を彩った指輪。
まるで、私の瞳を表しているかのような……。



「ああ……ヒヨリ、六課が解散したら、俺と……」

「俺と……一緒になって欲しい」

「あっ……」



私は、嬉しさで涙があふれ出してきた。
昭人とお母さんを失って、私は愛する人を作らない。

そう、決めていた。

だけど、フィルがそんな私の心を溶かしてくれた。
同じ悲しみを持ち、そして、それを乗り越えたフィルだからこそ、その言葉は私の心に響いた。



「私こそ……私こそ、よろしくね。フィル……」

「ヒヨリ……」


私は、フィルの胸に飛び込み……。



「幸せに……してね」

「ああ……幸せになろう。ヒヨリ」



同じ悲しみを持った同士の二人……。


だけど、私は未来から来た青年によって、心を救われた。


その青年の真っ直ぐな心に……。


昭人、美月お母さん……。


私、幸せになるから、二人とも私達のこと見守ってね……。


フィルと……。


愛する人と共に……。


幸せになるからね……。




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