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〜 Remember my heart 〜
if ending ヴィヴィオ


――――――機動六課が解散してから10年。


六課のみんなは、それぞれの所で活躍しています。


スバルさんはレスキュー、ティアナさんは執務官になって、時々無限書庫に、資料を請求しに来ています。


ノーヴェ達、戦闘機人のみんなも、それぞれの所で働いていて、わたしも時々会ったりしています。
特にノーヴェには、ストライクアーツのことでよくお世話になっています。


わたし自身は、今は、なのはママと一緒に暮らしています。
実は、なのはママ、六課が解散して一年後にユーノさんと結婚しました。


でも、あの二人をくっつけるのに苦労したんだ。
その裏には、フィルさんが一生懸命、ユーノさんとなのはママに言ってくれたから、二人が結婚することになったんだ。


でも、あの二人は未だに、それぞれの部署で現役なもんだから、一緒になるのは一ヶ月に数回なんだけど……。


そしてわたしは、St.ヒルデ魔法学院の初等科に入って、その後、パパの影響で、司書の資格を取って、今は、時々無限書庫で仕事をしたりしてるんだ。

なんで、司書になったかというと……。


わたしは、フィルさんの事が大好きで、執務官のフィルさんを手助けが出来たらいいなって思って取ったんだ。フィルさんに意識してもらいたくて、髪型もなのはママと同じ、サイドポニーにしたりしてるんだけどね。


もうすぐ高等科に入るんだから、もう少し意識してくれてもいいかなって思うんだけど……。
わたしが六課にいたころは、パパの代わりだと思っていて、初等科時代は、かっこいいお兄さんだな……。

そのくらいに思っていたんだけど……。

ある時、ティアナさんから、フィルさんのことを聞いて、すごいなって思ったと同時に、悲しいなって思ったんだ……。



だって……。



自分のせいで、みんなが死んだ。



今もフィルさんは、そう思っている。



その証拠に……。



「フィルさん、このくらいの資料でしたら、私達が持ってきます!!」

「そうですよ!!」

「いいんですよ。俺も司書の資格はありますし、それに、皆さんは他の方のことで大変でしょう。だから、自分で出来ることはやりますから……」



フィルさんも司書の資格を持っているので、この無限書庫で調べることが出来る。
だから、みんな最初は負担が減って良かったと思っていたんだけど……。



「フィル、お願いだから、君の場合はもう少し誰かに頼ってよ……」

「あっ、どうも、こんにちは。ユーノさん」

「どうもじゃないよ。フィル、君の場合は、任務の難易度がどっかのクロノと同じくらいの物が多いんだから、少しは人を頼りなよ……」

「結構、皆さんにお願いしまくって、申し訳ないくらいなんですけど……」

「……その台詞、クロノに聞かせてやりたいよ。あいつの請求量は半端じゃないのに、いつもキツキツのスケジュールで請求してくるからね」

「あ、あははは……」

「その点、君は、請求量は少ないし、殆ど、自分で調べてしまうからね。だから、もう少しはみんなに言って良いから……。でないと倒れるよ……」



実際、フィルさんは殆ど自分でしてしまう。
こうやって、パパかわたしが直接言わないと、人に頼ることはしない。


このままじゃ、本当に倒れちゃう……。




*    *    *




「ただいま〜」

「おかえり、ヴィヴィオ」

「えへへ♪ ママ、ただいま」



わたしが家に戻ると、ママが家に戻っていた。
今日は、ママが出張から戻ってきていて、久しぶりに家族三人がそろうのだ。



「そういえば、ユーノ君は?」

「パパなら、もうすぐ帰ってくると思うよ。フィルさんの手伝いをしてから戻るって」

「そうなんだ」

「本当は、フィルさん、家族三人がそろう日は、少ないんだから帰ってください、って言ってたんだけど、パパがフィルさんの無茶ぶりに手伝うことにしたんだ」

「……ねぇ、ヴィヴィオ。フィルって……まだ……」

「……うん」



フィルさんが、あんなに無茶するのには訳がある。
それは……。



「……ママ。なんで、フィルさんはあんなに、自分を大切にしないの? いくら何でも無茶すぎるよ!!」

「……わたしだって、止めたいよ……。だけど、フィルの時間は、あの時から止まったままなんだよ……」



フィルさんは、未来でティアナさんの事が好きだった。
そのティアナさんを、自分のために死なせてしまった。

その事をずっと……後悔している。



「結局、わたし達じゃ、フィルのことを救ってあげられなかった……。それどころか、未だにフィルに助けてもらってばかり……。ユーノ君とのことだって……」



なのはママとユーノパパは、最初はお互いに異性としては全く意識していなかった。
正確に言えば、なのはママの方だけだったんだけどね。


だけど、フィルさんが、未来でのことを話し……。



『自分の気持ちに後悔することだけは……しないでください』



その事を言われてから、なのはママは改めてユーノさんのことを考えて……。

そして、お互いに気持ちを伝えあったんだ。
フィルさんがいなかったら、二人とも良い友達で終わっていたって、よく言っている。

そんなことを話していたら、パパから通信が入ってきた。



『なのは……ヴィヴィオ……』

「どうしたの? そんな顔をして……」



今のパパの表情は、いつもと違い悲壮感が漂っていた。
なに……?

何か……嫌な予感がする……。



『……よく、聞いてくれ……。フィルが……フィルが……』


パパから言われた一言は…・…。


『……車にはねられて……意識不明の重体だ……』

「「えっ………」」



そ、そんなのうそ……だよ、ね。
さっきまで、わたしはフィルさんと楽しく会話をしていたのに……。



「ユーノ君!! フィルの容態はどうなの!?」

『正直、芳しくない……。詳しいことはこっちで話すよ。それで、二人にはフィルの家に行って、着替えとかを取りに行って欲しいんだ……』

「……わかった。ヴィヴィオ、非常時のために、フィルの家の鍵を預かっていたから、それでフィルの家の中に入って取りに行ってきて!!」

「うん!!」



わたしは、急いでフィルさんの家に荷物を取りに行く。
だけど、そこで信じられない物を見ることになった――――。




*    *    *




「なに……これ……?」



そこで目にしたのは、何もない部屋。


正確に言えば、寝るためのベッドと、机しかなかったのだ。
服とかは、備え付けのクローゼットに入っていた。



ここは、生活をする空間じゃない……。




――――ただ、寝るための仮眠室。



「……こんな……こんなところで……たった一人で……」



わたしは、あふれてくる涙を抑えられなかった。
わたしは、なのはママやユーノパパと一緒に暮らしていて、三人がそろうのは少ないけど、それでも家族としての温かみにあふれていた。



だけど、フィルさんはたった一人で、この部屋で暮らしていたんだ……。


というよりも、ここはただ、寝にきている。


それだけの部屋――――。



でも、今は、ここでグズグズしているわけにはいかない。
わたしは着替えをまとめて、フィルさんの所に急いだ。



*    *    *




「ヴィヴィオ……」

「あっ……」




聖王医療院に着いたわたしを待っていたのは、ティアナさんだった。
ティアナさんも、パパからこの事を聞いて急いで駆けつけてくれた。




「ヴィヴィオ……あんた、フィルの部屋に行ったわよね。あれを見て……どう思った?」

「……」



正直、ティアナさんの質問に答えられなかった。
それくらい、衝撃的なことだったから……。



「その反応が当たり前だと思うわ。あたしも最初見たときは、同じ事を思ったから……」

「えっ?」

「あいつ……この10年……ずっと、一人で生きてきた。あんな部屋で10年もよ……。あたしだったら、たぶん……無理ね……」



ティアナさんが言うのはもっともだ。
わたしだって、さっきそう思っていたんだから……。



「あたしの場合は、スバルと押しかけて、あいつと一緒に、お酒を飲もうとしようとした時に入ったの。でも、あの部屋を見て、あたし達は愕然としたわ……」

「フィルは……ずっと未来でのことを、後悔し続けている……。それは今でも続いている……」

「あたしとスバルは、この数年、何とかフィルを助けてあげたかった。でも、逆にフィルに助けられていた……。でもね……」



そう言って、ティアナさんはわたしのことを見つめて……。



「ヴィヴィオ、フィルはね、あんたのことをすごく大切に思っていた。六課にいるときからずっとね……」

「ティアナさん……」

「もしかしたら……ヴィヴィオなら、あいつの事、救ってあげられるかもね……」




そう言って、ティアナさんは病院を出て行った。
仕事の忙しい合間を縫って、やっと来てくれたので、これがギリギリだったのだ。


本当はここにいたかったのだけど、明日から、ティアナさんは別世界に出張があるとのことだった。
ティアナさんが帰った後、わたしはフィルさんのいる病室に入っていった。



*    *    *



フィルさんの病室にはいると、ママ達が座ってフィルさんのそばにいた。
パパの話によると、フィルさんは家に戻ろうとしたとき、女の子が風船を取ろうとして、道路に飛び出してしまい、そこに車がやってきて女の子が轢かれそうになったところを、フィルさんが身代わりになって女の子を助けたのだ。



「……どこまで……どこまで自分を大切にしないのよ」


いつも……いつだってそうだ。
フィルさんは、自分のことを顧みない。

身も心もボロボロになっても……。



「なのは……」

「ママ……パパ……」

「どうしたの?」

「わたし……今日……ここに泊まる……」

「ヴィヴィオ!! 駄目だよ、ヴィヴィオだって明日学校が……」

「そんなの行ってられないよ!! 大好きな人が死ぬかもしれないのに!!」



わたしはフィルさんのそばから離れたくなかった。
本当に、死んでしまうかもしれないのに、勉強なんて集中できるわけ無いよ!!



「……分かった。フィルのことはヴィヴィオにお願いするね……」

「ありがとう……パパ……」

「ヴィヴィオ……」

「ママ……」

「フィルのこと……お願いね……。本当は、わたしがしてあげなきゃいけないのに……」

「二人とも、明日も忙しいんだから、フィルさんのことは私に任せて……」



なにがあっても………後悔だけはしたくない。


例え、フィルさんが死んでしまったとしても、何もしないのは嫌だ!! 
いま、わたしが出来ることをするんだ!!

二人が帰った後、わたしはフィルさんの手を取り、フィルさんの手を握りしめながら、祈り続けていた。




「……フィルさん……お願い……戻ってきてよ。フィルさんのこと好きなのは、死んでしまったティアナさんだけじゃないんだよ……」



わたしも……フィルさんのことが大好きなんだよ……。
誰よりも……。



「フィルさんが助かるなら、わたしの命をあげても良い……だから……お願い。ティアナさん、フィルさんを連れて行かないで……」




『――――大丈夫よ』



「えっ?」



謎の声が聞こえたと思った次の瞬間……。



「う……ん……」

「フィルさん!!」




さっきまで意識不明だったフィルさんが、意識を取り戻す。
わたしは急いで、看護師さんとママ達に知らせに行く。




『ヴィヴィオ。あのばかのこと……お願いね……』



またさっきの声が聞こえた。
やっと分かった――――。


あの声は未来でのティアナさん――――。


もしかして、ティアナさんがフィルさんのことを……。


――――ありがとう。




*    *    *



「はい、フィルさん。あーん♪」

「あ、あの……ヴィヴィオ……」

「なんですか♪」

「一人で……食べれる、から……」

「だめです!! 一週間前まで生死の境をさまよっていたんですから!!」

「……それとも……わたしがやるのは……嫌ですか」



俺はヴィヴィオの悲しそうな目を見てしまい、もう断ることは出来なかった。



「……じゃ、お願いできるかな……」

「はい♪」



ヴィヴィオは、一生懸命おかゆをフーフーしてくれて、それを俺に食べさせてくれた。
なんか……心が温かくなる……。


――――いつぶりだろうな。


こんな気持ちになるのは……。



*    *    *



「……今日は本当にありがとうな」

「えっ? どうしたんですか」

「……俺が、未来から来たことは……知ってるよな」

「はい……ティアナさんから、全部聞いてます……」



ティアナさんから未来のことは全て聞いている。
フィルさんの後悔のことも……。



「……俺は、かつて……大切な人を失った。いや……俺の力不足のせいで、死なせてしまったといった方が良いな」



それは違うよ……。



「だから……もう二度と、そんな思いはしたくなかったし、相手にもさせたくなかった。だから、俺は、一人で生きていこうと思った……」



そんなの駄目だよ……。
一人で生きてくなんて、どうして悲しいことを言うの――――。



「でもさ、今日ヴィヴィオが一生懸命……俺の世話をしてくれたとき、やっぱり……寂しくなってしまったんだ。一人でいる辛さが思い出して来ちゃったんだ……。駄目だよな……そんなこと言ったら……」



その乾いた悲しい笑みは、もう見てられない――――。
たまらずわたしは、フィルさんに抱きつく。



「ヴィ、ヴィヴィオ?」

「………どうして……どうして、そんなこと言うんですか!! どうして、自分の幸せを願わないんですか!!」

「ちゃんと願っているよ……。みんなが……ヴィヴィオ達が幸せになってくれれば、それで良いんだ」

「そんなの嫌です!! わたしの幸せはフィルさんが笑顔になってくれることなんです!! フィルさんがそんなボロボロになって、それで、わたしが幸せなんて思えるわけ無いよ!!」



わたしが小さかったときは、ゆりかごの中からブラスターを使ってまで、わたしを助けてくれた。
そして、今も、自分を蔑ろにしている……。


こんな優しい人が、ボロボロになるの見るのなんて、もう嫌だよ。


わたしは……わたしは……。



「わたしは……フィル・グリードさんのことが大好きです………。心から……愛して、いるんです」



*    *    *



「ヴィヴィオ……」



ヴィヴィオの告白に、俺はとまどいを隠せなかった。
あの小さかったヴィヴィオが、こんな風に俺のことを思ってくれていたなんて……。



「フィルさん……ごめんなさい。こんなことを言って………」



ヴィヴィオは、告白をし終わった後、下を向いてしまい、涙をポロポロ流していた。
この告白は、勇気を振り絞って言ってくれたんだよな。



いつも、無限書庫で俺の手伝いをしてくれたり……。


時間があるときは、俺の話し相手になってくれたり……。


そして……。


今回だって、重傷の俺の世話を必死でしてくれたり……。



「本当に良いのか……。俺で……」

「フィルさんじゃなきゃ……いやだよ……」

「ヴィヴィオ……」



俺は、ヴィヴィオの頬にそっと触れ……。

ヴィヴィオも、意味を理解し、瞳を閉じ……。



二人は……。


――――病室の窓から夕日が差し込む中。


優しい……キスをした。


そして、それは俺の孤独が、ぬぐい去った瞬間でもあった。




*    *    *



二週間後



「それにしても、この部屋も大分変わったよな……」

「えへへ♪」



なんで、こんな事になっているかというと、一週間前退院した後、俺はなのはさん達にヴィヴィオと付き合うことを正式に話しに行ったのだ。
その時に、二人が……。



「よくやったね、ヴィヴィオ!! フィルも、これで無茶しなくなるね」

「これで僕も安心だよ。フィルには返しきれない恩があるしね」



ヴィヴィオと付き合うことに、二人は諸手を挙げて喜んでくれた。
しかも、ヴィヴィオを俺の部屋に引っ越させることを提案したのも、この二人だったのだ。

ヴィヴィオが俺のそばにいることで、体調管理もしやすくなるし、なによりヴィヴィオがそれを望んだから……。

しかも、なのはさん達に……。



『今度から、わたし達のことはお義父さん、お義母さんって呼んでね♪』



などと、言われてしまうほどだった。
これは、結婚を前提で認められたということなのかな……。



「正直、俺は、反対されるかと思ってたんだ……」

「そんなこと無いよ。二人ともわたし達が付き合うことに、大賛成してくれたよ♪ それとも、フィルさんはやっぱり……こういうのはいや?」

「そんなことないよ……俺も、嬉しいよ。こうして、ヴィヴィオと一緒にいられるんだから……」

「えへへ♪ よかった。これから、ずっと……一緒なんだからね♪ 待っててね。今、夕食作っちゃうから」



ヴィヴィオの作るご飯は、かなりの物だ。
母親のなのはさんに、かなりたたき込まれたらしい……。



「はい、どうぞ。めしあがれ♪」



テーブルに出てきたのは、所謂お総菜料理だった。
レストランみたいな料理ではないが、俺はこういうお袋の味的な物の方が大好きだ。

俺はヴィヴィオの料理を、腹一杯になるまで堪能した。



*    *    *



「なんか……恥ずかしいね……」

「じゃ……やめるかい?」

「いやだ……。だって、フィルさんと初めて結ばれるんだよ……。やめたくなんかないよ……」

「ヴィヴィオ……」

「フィルさん……」



俺たちは、最初は唇が触れあうキスを繰り返していたけど、次第に気持ちの方も高まり、互いを求め合うような深いキスになり、終わった後は互いの間で、銀色の糸が出来るほど、求め合っていた。



「あっ……」



俺は、服の中に手を入れ、ヴィヴィオの形の良い胸に、そっと触れ……。



「やわらかいな……」

「えへへ……。他の男の人に触れられるのは嫌だけど、フィルさんなら……いっぱい……いっぱい……触って欲しいな……」

「そんなこと言われたら……理性押さえられないぞ……」

「押さえないでほしいな……だから、わたしのことを思いっきり愛してください……」

「もう……止まれないからな……」

「はい……きて……ください……」



その夜……。


俺とヴィヴィオは……。


何度もお互いを求め合い……。


そして、身も心も解け合う……。




*    *    *



「おはよう……ヴィヴィオ……」

「おはようございます……フィルさん……」



結局俺たちは、朝までお互いを求め合っていて、寝たのは二時間くらいだった。



「……夢じゃ……ないんだよな」

「そうですよ……フィルさん、昨日は、その……激しかったです。わたし……初めてだったのに……」

「す……すまん……」

「いいんです……。それだけ、わたしのことを愛してくれたんですから……」

「大切にするよ……ヴィヴィオ。だから、俺のそばに……いて欲しい」

「はい……もちろんですよ」



ヴィヴィオの笑顔は、本当に俺に安らぎをくれる。
こんな事、今まで考えなかったのにな……。



*    *    *





「気持ちいい♪」

「こら、そんなにはしゃぐと落ちるぞ」

「大丈夫、こうやってギュッと抱きついているから♪」



俺たちは、サンダーでクラナガンに買い物に向かっていた。
これからの生活用品を買いそろえるのもあるけど、恋人同士になって初めてのデートをしたかったというのが本音かな。

それにしても――――。



「ヴィヴィオ……お前、絶対わざとだろ……」

「何のことですか♪」



そんな笑顔で誤魔化しても、わかるっての!!
自分の胸を、俺の背中に押しつけて、俺の理性をガリガリ削っているし……。



「ったく……勘弁しろよな」

「そんなこと言って、本当は気持ちいいんでしょう♪」

「ば、ばか……」

「えへへ♪」

《あ、あの……相棒、どうでも良いんですけど、事故だけはしないでくださいね。ラブコメ中に事故りましたなんて、あんまりにも間抜けですので……》

《マスター、サンダーの言うとおりですよ。少なくても、安全運転だけはしてくださいね》

「「うっ」」



確かにサンダーとプリムの言うとおりだ。
こんな事で事故ったら、あんまりにも間抜けだ……。




*    *    *



クラナガンに着いた俺たちは、デパートで買い物をしたり、クラナガンで有名なケーキショップに入って、ヴィヴィオが自分のケーキを、俺に食べさせてくれたりした。

それだけなら良かったのだけど、その後ポッキーゲームをやらせられたときは、さすがに勘弁して欲しかった。


そんなこんなで町中で楽しんだ後、海が見える公園に来ていた。



「うーん、楽しかった♪」

「俺は、恥ずかしかったぞ……」

「さすがに、ポッキーゲームはやり過ぎちゃったかな♪」

「……まぁ、俺も……楽しかったしな……」

「フィルさん……ありがとう……」



俺とヴィヴィオは、互いに顔が真っ赤になってしまった。
そんなとき、ふと目に付いた露店があった。



「あれ、何だろうね?」

「行ってみるか?」



俺たちがそこに行ってみると、露店では指輪が売っていた。
ヴィヴィオは、その指輪が何なのかを知っているみたいだった。

そしてヴィヴィオは、迷わずにその指輪を買っていた。



「すみませ〜ん。フォーチュンリングをください♪」



その瞬間、露店の主人は口笛を吹き、周囲の人たちからはちょっとしたどよめきが起こった。



(……なんだ? 何かおかしいことでもあったのか?)



こういう事に疎い俺には、ヴィヴィオが言った『フォーチュンリング』の意味すらも分からないでいた。
ヴィヴィオは嬉しそうに露店の主人と話していた。



「お嬢ちゃん、そっちの兄ちゃんにかい?」

「えへへ♪」



ヴィヴィオは照れ笑いをしていたりして、俺はまったくついていけなかった。
しばらくして、ヴィヴィオが主人から一つの白い指輪を受け取り、そしてすぐに俺の方を向いた。



「あ、あのね……。このフォーチュンリングは……お互いの愛の証を表す物なんだ……」

「フィルさん……。本当にわたしのこと……愛してくれますか」



そう言って、ヴィヴィオは買ったばかりの『フォーチュンリング』を俺に差し出した。



「……ああ……誰よりも……愛してる。俺に、人を愛することを、もう一度思い出させてくれたヴィヴィオを……心から……愛しているよ」



周囲に見物人がいるのが気にはなったが、それでも俺は返事をして、ヴィヴィオから指輪を受け取った。
その瞬間、周囲の見物人達が、大いに盛り上がり、祝福の言葉を掛けられた。



(……ん? この指輪?)



受け取った指輪を見て、俺は首を傾げた。
ヴィヴィオからのプレゼントと思われたその指輪は、明らかに女性用のものだった。



(これを……俺はどうすれば?)



そんなことを考えていると、露店の主人が声を掛けてきた。



「なにしてんだ、あんた。その子の告白を……受けたんだろう?」

「え……あ、はい」

「だったら、こっちにリングを渡しな」

「えっ?」



俺が訳分からなくなっていると、ヴィヴィオが助け船を出してくれた。



「フィルさん、その指輪を露店の人に渡してください」

「あ、ああ……わかった」



とりあえず、俺はヴィヴィオの言うとおり、指輪を店の人に渡した。



「もしかして……あんた知らないのか?」

「はい……実は……」

「この指輪はな。女性からその指輪と一緒に愛の告白をされて、それを受け取ったとき、告白を受けたということになるんだ」

「それでヴィヴィオは……」

「そういうことだ。そして、告白を受けた男性は、今度はこの指輪に互いの名前を彫り、愛の証にするんだ……」

「彼女のこと大事にしてやれよ……兄ちゃん」

「……はい」



そして俺は、店の人から、フォーチュンリングを受け取り、それをヴィヴィオの左薬指にはめた。
それを受け取ったヴィヴィオは、ふにゃっとした笑顔になった。



「フィルさん……幸せにしてくださいね……」




俺たちは、人前だったが、ここで誓いのキスをする。




孤独だった俺に、もう一度愛することを教えてくれたヴィヴィオ……。



そんな彼女を、俺は一生かけて護りたい……。



それが、今の俺の幸せなのだから……。


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あきゅろす。
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