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〜 Remember my heart 〜
Christmas Memories 〜featuring NANOHA〜
六課が解散して4年、わたしとフィルは管理局を引退して喫茶店を開いていた。
最初のころは、お客さんもまばらだったけど、今では連日大盛況の状態が続いている。

フィルのケーキは地球の翠屋の味を受け継いでいて、その味はミッドでもとても受けていた。
ヴィヴィオも休みの日は手伝ってくれて、その可愛らしい姿は一部のお客さんでファンが出来ているくらいです。

こうして、わたし達親子3人、本当に幸せな日々を過ごしています。
そして、今日も喫茶店『Amour eternel』は満員御礼です。

そんなある日、はやてちゃんから一つの話を持ちかけられました。



『なのはちゃん、フィル、久しぶりやな。元気にしとった?』

「はやてちゃん、本当に久しぶりだね。そっちも相変わらずだね」

「そうですね。八神家のみなさんもお変わりないようで何よりですよ」


実際通信の向こう側では、リインとアギトが食べ物の取り合いをしていて、その声がこちらにも聞こえてきていた。



『あのな……。実は、お店の予約をお願いしたいんやけど……』

「別に構わないけど、いつなの?」

『えっとな……。2ヶ月後の12月24日なんやけど……』

「ちょっと待っててね。今調べてみるから……フィルお願い」



早速フィルは、店のパソコンを見て、予約状況を調べていた。
この一年、お店の方も軌道が乗り、いろんなパーティ客の予約が沢山入っている。

ピーク時だと、一月先まで埋まっていることもあるくらいだ。


「えっと……大丈夫ですよ。夕方でしたら空いてますよ」

『ほんまか!! よかった……』

「でも、八神家の人数くらいでしたら、そんなに慌てなくても……」


確かに満員御礼だけど、時間帯によっては空いていることがある。
その時間に合わせれば、こんなに前から言わなくても……。


『実はな……。この日に久しぶりに旧六課メンバーを集めて、クリスマスパーティをやりたいと思っているんや』

「ええっ!? それ本当なの、はやてちゃん!!」

『本当や。幸いミッドにはクリスマスという風習はないから、この日に合わせるのは苦労しなかったんや。みんなに声をかけてみたら、7割くらいは来てくれることになったよ』

「そうですか……。みんなが……」


考えてみたら、わたしとフィルが管理局を引退してから、六課のみんなには久しく会っていない。
ティアナとか、フェイトちゃん達はよくお店に来てくれているけどね。


『というわけで、フィル、なのはちゃん。お店の貸し切りお願いできるかな?』

「任せてください。最高のおもてなしをさせて貰いますよ!!」


フィルが右腕の袖をまくって、自分の腕をパンと叩いてアピールしていた。
わたしもフィルに負けないように頑張らなきゃね。


『みんなを集めるのは任せておいてや。ほなら、またな……』


はやてちゃんから通信が切れると、わたしとフィルは早速スタッフを集めて、はやてちゃんからの話を話した。
ここのスタッフは、六課食堂のスタッフからスカウトしてきた人たちなので、管理局関係の話をしてもさほど問題はなかった。

たった一つだけ問題なのは、男性スタッフが殆どいないことくらいかな。
そんなことを考えていたら、フィルが話を始めていた。



「みんな、さっき、はやてさんから店の予約が入った。みんなに話しておきたいことは、その日、旧六課メンバーを集めてパーティをすることになったからだ」

『おおっ!!』


スタッフから、「本当なの!?」とか様々な声が飛び交っていたが、フィルが一喝すると、静かになり、またフィルの方を注目する。


「何でも、地球の風習で12月24日はクリスマスという物があって、それで今回の企画になったらしい。クリスマスの詳しいことは、なのはに聞いてくれ。そこでだ、この日は早めに店をお終いにして、パーティの準備にはいるから、みんなもそのつもりでいてくれ」

『はい!!』

「パーティの準備はわたしとフィルでするから、みんなは午前出勤で……」



これは、わたしとフィルが個人的に受けた物だから、スタッフのみんなに負担をかけるわけにはいかない。
わたしが当日の旨を言おうとしたとき……。


「ちょっとまった!!」

「「えっ?」」


突然、スタッフの一人から待ったをかけられてしまった。


「フィル店長、なのはチーフ、水くさいことはいいっこなしですよ。お二人だけで50人近くの用意は厳しいですよ」

「だけど、せっかくのパーティなんだから、みんなもそれなりの準備があるだろうし……」

「それは、お二人も同じでしょう。むしろ、お二人の方が色々やらなければならないと思いますよ」

「それに、お二人だけでこんな面白いことをするなんてずるいですよ。私達も参加させてください」


スタッフのみんなが、うんうんと頷いて今の言葉に同意していた。


「みんな……」

「……それじゃ、みんなお願いするね」

『おおっ!!』



こうして、当日は午前中でお店を閉めて、午後はみんなの協力で店全体の飾り付けと、50人前の料理を用意することになった。

特に料理の方は、フィルが気合いを入れている物だから、スタッフもその熱気に当てられて、みんないつも以上の気合いが出ていた。

デザートはわたしと女性スタッフが中心となって、何とか50人前を作ることができた。
最初はこれを二人でやろうと思っていたんだから、無茶にもほどがあったよね。

あとはみんながやってくるのは待つだけになった。
まず、お店にやってきたのは……。


「おう、なのは、フィル。元気にやってたか」

「久しぶりだな。なのは、フィル」

「お久しぶりです、なのはちゃん、フィル」


はやてちゃんを筆頭に八神家のみんなだった。


「ひさしぶりやな。なのはちゃん、フィル。こうして直接会ったのは、1年ぶりくらいやな」

「そうですね。はやてさんは仕事柄中々時間が取れませんからね……」

「そうなんよ。フェイトちゃんやティアナからの通信で、なのはちゃん達のお店で美味しいケーキを食べたよって話を聞く度羨ましくてな。やっと、久しぶりにフィル達の料理を食べられるで」

「ふふっ、それじゃ今日はいっぱい食べていってね。はやてちゃん」

「今日は腕によりをかけて作りましたからね。例えスバルが3人いても大丈夫なくらいに……」


実際、今日の料理はいっぱい食べる人が多いから、かなりの量を作ってある。
予算も事前に参加者から受け取っているから、赤字になることもないし……。


「それなら安心やな。ヴィータなんか昨日から楽しみにしていて、大好きなアイスも食べないできてるし」

「は、はやて!! それは言わなくて良いだろ」

「「あはは!!」」


ヴィータちゃんはふくれっ面になって、そっぽ向いてしまった。
でも、本当にみんな変わっていないな。


「ったく……でもよ、フィル。久しぶりにうめぇ料理食わしてくれるんだろうな」

「それは任せてください。腕によりをかけて作りましたから」

「おう!! そんじゃ、あたし達はそんまでみんなを待つとするか」

「そうやね。それじゃフィル、なのはちゃん。私は入り口で受付をしてるから、なんかあったら声をかけてや」


そう言って、はやてちゃん達は受付に行って、みんなを出迎える準備を始めた。



*    *    *



「なのは、これから忙しくなるぞ。フェイトさんやティア達ももうすぐ来るからな」

「そうだね。フィル、これからが本番だね」


はやてさん達が来ただけで、この賑わいだ。
フォワードのみんなやフェイトさん達が来たら、もっと忙しくなる。

そんなことを考えていたら、また来客がやってきた。


「やっほー、フィル!!」

「あんたね……。もう少し静かに入りなさいよ」

「お久しぶりです。なのはさん、フィルさん」

「お元気でしたか」

「ご無沙汰しています」



今度の来客はスターズとライトニングのフォワードのみんなだった。
エリオは、相変わらずキャロとルーテシアに主導権をとられてるな。



「おう、みんな久しぶりだな。といっても、スバルとティアは、よくうちの店を使ってくれてるから、そんなでもないか」

「確かにね。つい一月前にもコーヒーを飲みに来たしね」

「ええっ、ティア。ずるい自分だけ!!」

「ずるいって……あんたね。あたしだってたまの休暇で来ただけなんだから……」

「だけど、あたし本当に来る機会がないんだよ。いつも夜勤ばっかりだから、終わった後はいつもバタンキューだし……」


スバルの仕事、レスキューは夜間だろうと出動はかかる物だ。
しかもスバルは防災士長だから、部下も引き連れる責任もあるからなおさらだ。


「まあまあ、スバル。それだったら今日は、わたしとフィルの料理をいっぱい食べていってね」

「はい!! ありがとうございます。なのはさん」

「あんまり食べ過ぎて腹壊すなよ。スバル」

「ぶぅ……。フィル、酷いよ」

「酷くないと思うわ。フィルの言っていることは的確だし」

「ティアまで……もう、いいもん!! みんなの分まで全部食べてやる!!」



まったくスバルも相変わらずだよ。
でも、こうしてみんなが笑いあえるんだ。

本当に平和になったって、改めて思うよ。
俺がしてきたことは、決して無駄ではなかった。



*    *    *


パーティが始まり、色んな所で盛り上がっていた。
ヴィータさんとスバルがデザートのアイスを取り合ったり……。

ティアとフェイトさんが執務官の仕事のことで話し合ったり……。

はやてさんはなのはと昔のことで懐かしんだり……。

エリオはキャロとルーテシアに迫られて、タジタジになっているし……。
というか、ルーテシアの場合はからかいが混じってるな。


本当、みんな変わっていないな。
少しだけ寂しい気持ちもあるけどな……。


――――もう、みんなと一緒には戦えないから。


でも、その代わり今の俺は、こうしてみんなの安らぎの場所を作ることが大切な仕事なんだ。
みんなが笑って、楽しんでくれればそれが何よりの幸せだから……。


そして……。


パーティも終盤になり……。


はやてさんが壇上に上がって……。



「さてと、みなさんパーティも終盤となりましたので、ここでプレゼント交換をしてみたいと思います。事前に各自に伝えてありましたので、プレゼントの方は用意していただいたと思います……」


事前にはやてさんから話を聞いていたので、みんなそれぞれプレゼントを持ち寄っている。


「それでは入り口で渡しました交換用のカード番号を見て、各自プレゼントを受け取ってください」


そして、俺が受け取ったプレゼントは……。


「クッキーだな……」

「そうだね。誰のだろう? 手作りっぽいよね」


なのはの言うとおり、買ってきたという感じはない。
包み紙も可愛らしい物を使っているし、リボンもピンク色だ。


「あっ、それわたしが作ったやつですね」

「キャロ、これ、キャロが作った物だったんだ」

「はい、まさかフィルさんに当たるとは思ってませんでした。本職の方にはかないませんけど、一生懸命作ったんですよ」


キャロの言うとおり、このクッキーを見れば分かる。
早速一ついただいてみる。


「うん、甘さもほどよくて、とっても旨い」

「よかった。フィルさんに喜んでもらえて」

「キャロ、ありがとうな。んっ? キャロが持っているその包み。もしかして?」

「はい!! フィルさんのプレゼントですよ」


キャロが持っていたのは、俺が選んだケーキ用のヘラだった。
これは俺が普段から使っている物と同じで、とても使いやすい物だ。

クリームを塗るのに最適な長さをしていて、初心者でも扱いやすい。


「そっか……。キャロ、それで美味しいケーキを作ってくれよ」

「はい!! その時は是非フィルさん達に食べて貰いたいです!!」

「その時を楽しみにしてるよ。キャロ」

「それでは、エリオ君達が待っているので、この辺で失礼します」



キャロはエリオ達が待つテーブルに戻っていった。
ふと時計を見ると、午後9時を回っている。

そんなとき、フェイトさんが……。


「なのは、フィル。そろそろヴィヴィオの所に行ってあげて……」

「フェイトちゃん……でも……」


フェイトさんの言うとおり、確かにこのパーティが終わったら、ヴィヴィオと3人でする約束をしている。
だけど、店をほったらかしていくわけには……。


「大丈夫ですよ。お店の戸締まりとかは、私達スタッフがしておきますから、お二人はヴィヴィオちゃんの所に行ってあげてください!!」

「そうですよ。後のことは任せて、お二人はさっさと行ってください!!」

「「さあ、さあ!!」」

「ちょ、ちょっと!?」


俺たちが抵抗しようとすると、マネージャーとフェイトさんが二人がかりで、俺となのはを外に追いやってしまった。

中に入ろうとしたら、フェイトさんがにっこりとゴーホームのサインをして、家に帰れと何度も合図をしている。


「ふぅ……これじゃ、今日は店には戻れないな」

「そうだね。マネージャーも最初からこのつもりだったから、きっと頑として中に入れてくれそうにないよ」

「……まったく、うちのスタッフは揃いもそろってお人好しばかりだよ」


普通なら、店長とチーフが抜けたらとってもまずいのだがな。


「フィル、せっかくのみんなの好意だし、家に戻って3人でクリスマスパーティの続きしよう」

「そうだな、なのは」

「うん♪」


すると、なのはが俺の右腕をとり、自分の腕を絡めてきて……。


「なのは……」

「せっかくのイブだから……ね」

「だな……」


俺となのはは、家に帰り着くまでずっとこのまま歩き続けた。



*    *    *



「おかえりーーーーー!!」

「ただいまヴィヴィオ。ごめんね遅くなってしまって……」

「本当ならもっと早く帰りたかったんだけど……」


さすがにお店の責任者が、二人とも抜けてしまうのはかなりまずいんだけどね……。


「大丈夫だよ。ちゃんとはやてさんから連絡は貰っているし、今日のことは前から知っていたんだもん。それに……」

「ママ達が遅く帰ってきてくれたから、お料理の方も間に合ったし」


そう言ってヴィヴィオの後ろを見てみると、テーブルには色んな料理が並んでいた。
コーンスープに、鶏のもも肉の照り焼き、あとはサラダまである。


「えへへ♪ パパ達にはかなわないけど、わたしもちゃんとお料理はできるんだよ。今日は二人に食べて欲しくて頑張ったんだからね」


ヴィヴィオの指を見てみると、絆創膏が何枚も貼られていて、それがヴィヴィオの頑張りをすごく表していた。


「それじゃ、せっかくの料理が冷めないうちに一緒に食べようか」

「うん!!」

「そうだね」

「あとはこいつも……」



そう言ってフィルは、自分が持っていた箱から何かを取り出す。
フィルが持っていた箱から出したのは、イチゴのクリスマスケーキだった。



「うわぁ……すごいね」

「美味しそう!!」


そのケーキは、色とりどりのフルーツが飾られていて、上には飴細工で作られた糸で作られた木とマジパンで作られた家と、後は……。


「これ……もしかしてわたしとヴィヴィオとフィル?」


そう……。


ケーキの上に乗っていた人形は、わたし達3人を表していた。



「ああ、俺たち3人を表してみたんだ。これがなのはとヴィヴィオに贈るクリスマスプレゼントになるかな……」

「パパ……ありがとう。素敵なクリスマスプレゼントだよ!!」

「じゃ、わたしからもフィルとヴィヴィオにだね」


わたしも持っていたバックから、二人に贈るクリスマスプレゼントを取り出した。
わたしから贈るクリスマスプレゼントは―――。



「うわぁ、おそろいの手袋だ!!」

「なのは、これ……」

「うん、前からこっそり編んでいたんだ。二人にばれないように作るのに苦労したんだからね」



色は水色で統一してあるけど、それぞれの手袋には、手の甲に当たるところにミッド文字で名前を刺繍してある。


「ママ、本当にありがとう!! これ大切にするね!!」

「うん、ヴィヴィオ。それで手を冷やさないようにしてね」

「なのは、本当にありがとう……。最高のクリスマスプレゼントだよ」

「わたしこそありがとう。このケーキ、あの忙しい中でよくこれだけの物を……」


正直言って、パーティ用の料理だけでも大変だったのに、その合間を縫って作ってくれたんだ。


「俺は……これくらいしか二人にしてあげられないからね」


――――そんなことないよ。
フィルのその優しさに、ヴィヴィオもわたしもどれだけ救われたか。

本当にありがとう、フィル。




「「「いたたきま〜す!!」」」


わたし達は、ヴィヴィオが作ってくれた料理とフィルが作ってくれたケーキを食べながら、親子3人のクリスマスをいっぱい楽しんだ。

ヴィヴィオもフィルのケーキを食べるとき、口に入りきらない程にケーキを頬張り、口の周りにクリームをつけながら嬉しそうに笑っている。


「ほらヴィヴィオ、クリームが口の周りについてるよ」


そう言ってフィルがハンカチで口の周りを拭いてあげていた。


「えへへ、パパのケーキが美味しくてつい……」

「ったく……。そんなに慌てなくても大丈夫だよ」

「はーい」


こうして、親子3人が一緒にいて笑いあえる一時が一番大好きだ。
わたしにとって、ヴィヴィオもフィルも大切な宝物なのだから―――。





*    *    *




「すぅ……すぅ……」

「ふふっ、ヴィヴィオ眠っちゃったね」


さっきまであんなにはしゃいでいたのに、今はこうして無垢な寝顔で眠っている。


「そういえば、さっきフィルから手紙を受け取っていたんだった」


夕食の時フィルから手紙を貰っていたんだけど、読む暇が無くてずっとポケットにしまったままだった。

今フィルは、ベランダで外の空気を吸っているから丁度良いかも……。
早速わたしはフィルからの手紙を読んでみることにした。



『なのはへ……。いつも上手く言えないけど、なのはの笑顔に俺は本当に救われた。今だから言うけど、俺は誰も好きにならないようにしていたんだ……』


えっ……?

どういう……ことなの?


『正直に言うと、誰かを好きになってしまうと、また俺のせいで失うんじゃないかってそればかりを考えていたんだ。実際ティアは俺のせいで死んでしまったんだから……』


――――それは違うよ。

プリムから聞いたけど、ティアナはそんなことは絶対思っていないよ。


『そして、こっちに戻ってきてみんなと一緒に戦って、なのはと一緒にヴィヴィオを助けて、全てが終わったとき、同時に俺の役目も終わったと思ってた。だからあの時、死んでも良かったと思ってた。でも……』

『あの日……なのはが俺に告白をしてくれたとき、そんな俺の殻を全部壊してくれた。【全部一人で抱え込まないで、わたしと一緒に幸せを見つけていこう】 なのはと初めて結ばれたときに言ってくれた言葉は今でも俺の心の支えになってる』


そうだよ……。
フィルは一人で全部抱え込んじゃうから、だから少しでも良いから分けて欲しかった。

大好きな人が、いつも心から笑っていて欲しかったから……。


『俺は……そんななのはに何かしてあげられましたか?』



充分すぎるほどしてもらったよ。
フィルがいなかったら、わたしもヴィヴィオもこんなに幸せな日々は過ごせなかったんだから……。


『なのはがいなかったら、俺はきっと……今でも一人だったから。だから……』

『ありがとう。そして、これからも俺の心の支えになってくれると嬉しいです。 俺の大切ななのはへ   フィル・グリード』



わたしはもう涙を抑えられなかった。
この手紙はフィルの本当の気持ちが書かれている。

わたしも同じだよ。
フィルがいたからこそ、こんな風に温かい気持ちでいられるんだからね。

気付いたらわたしはベランダに向かって走っていた。



*    *    *



「ふぅ……少し冷えるけど風が気持ちいいな」


少しお酒を飲み過ぎてしまったから、火照った身体をさますのには丁度良い。
今日は大分飲んでしまったからな。

そんなことを思っていたら、階段をパタパタと上がる音が聞こえてきた。


「はぁ……はぁ……」

「なのは? どうしたんだい、そんなに息を切らせて……」

「フィル!!」


突然なのはが、俺の背中からぎゅっと抱きしめてきて……。


「……フィル、わたしも……わたしも同じだよ。フィルがいたからこそ、こんなに温かい気持ちになれたんだからね」

「なのは……そっか。手紙読んでくれたんだね」

「うん……。フィルの気持ちがいっぱい伝わってきたよ。本当にたくさんね……」

「俺は、普段口下手だからあんな形にしかできなくて……ごめんね」


本当なら、ちゃんと言葉で伝えなきゃいけないんだけど、どうにも俺はこの手のことを伝えるのに緊張してしまう。
だから、少しでもなのはに伝えたくて手紙にしてみたんだ。



「いいよ。不器用でも、本音で言ってくれる方がずっと嬉しいから……」


なのはは、俺の肩にコトンと自分の身体を預けてくる。
俺もなのはの温もりをもっと感じたくて、そっと自分の方へ抱き寄せた。



『ふふっ、どうやら二人とも幸せなようだね』

『心配して見に来たんだけど、大丈夫なようね。フィル』

「「えっ……?」」


ま、まさか、この声は……。
そんなはずはない。二人はあの時に……。


――――だけど、聞き間違えるわけがない。


この声は……。


俺となのはが後ろを振り向いてみると……。


「お久しぶりだねフィル、そして……なのは」

「元気にしてたって、その様子だと大丈夫そうね」

「フェイトちゃん……」

「ティア……」


俺が、かつて愛したティアとフェイトさんがそこに立っていた。


「ティア……本当にティアなんだな」

「当たり前でしょう。まっ、確かにあたしやフェイトさんがここにいることは奇跡に近いんだけどね」

「クリスマスの奇跡とでも言うのかな。ほんの一時だけだけど、私達は二人に会いに来ることができたんだよ」

「そっか……」


理由なんかどうでも良い。
今ここに二人がいて、もう一度だけでも話をすることができる。

それだけで充分なんだ。


「なのは、フィル。私達はずっと向こうの世界で二人のことを見守っていたよ。特にフィルは未来から戻ってきて、ずっと一人きりだったから……」

「正直言って、一緒にいられなかったことがどれだけ苦しかったか。本当なら一緒にいて支えてあげたかったんだけど……」

「ティアナ、あなた……」

「私もティアナと同じだよ。フィルに魔力は託したけど、最後まで一緒にはいてあげられなかったからね」

「フェイトさん……」



そんなことはない。
二人が色々支えてくれたからこそ、俺はこっちの世界で頑張って来られたんだ。

確かに、今はなのはがいてくれる。
でも、二人が命までかけて託してくれた物があったからこそ、俺となのははこうしていられるんだ。


「なのは、フィルのこと絶対に離しちゃ駄目だからね。なのはのことをそこまで分かってくれるのって、フィルくらいなんだからね」

「にゃはは、大丈夫だよ。フィルが離れたいと言ったって、絶対に離れてあげないんだから!!」

「ふふっ、それを聞いて安心した。なのは、フィルといつまでも幸せにね」

「うん、ありがとうフェイトちゃん」


なのはとフェイトさんがあっちで二人だけの話をしている。
俺もティアと二人きりで話したかったから……。


「ティア。こうしてもう一度会えるなんて夢にも思わなかった……」

「あたしもそうよ、フィル。でも、本当によかった。あんたちゃんと自分の幸せを掴んだのね」

「本当は……もう二度と好きな人を作らないつもりだったんだけどな……」

「フィル……」

「でも……俺は、なのはの優しさと心の強さに救われたんだ……」


きっとなのはに言われなかったら、今でも俺はティアのことを思い続けて、生涯独り身だったと思う。


「もし、あたしのことで自分の幸せを犠牲にしてたら、引っぱたいてやるつもりだったけど、その心配はないみたいね」

「あはは……相変わらずだな、ティア」

「フィル、ちゃんと幸せになりなさいね。あたしやフェイトさんのことは気にしないで、あんたはなのはさんのことを愛しなさいよ」

「……ありがとうな。ティア」


俺は、涙が出そうなのを必死でこらえる。


今は泣くときではない。
笑顔で二人に応えなきゃいけないんだ。


俺となのはは幸せに暮らしてますよって、伝えるためにも……。


「フェイトちゃん……ティアナ!! 足が!!」


二人の全身が光り出し、両足が消えていき、それは上半身の方へ回っていた。


「……そろそろ、時間みたいね」

「そう……ですね」


二人は分かっていたみたいで、慌てる様子は全くなかった。
むしろ安心しきった表情で、俺たちのことを見ていた。


「ティア、フェイトさん……」

「フィル、なのは……いつか二人の子どもができたら、また見に来るからね」

「そんときはあたしも一緒に来るからね」

「ああ……楽しみにしてる」


もう、二人に会うことはきっと無いと思う。
だけど、また奇跡が起こったら会えるかも知れないから……



「それじゃ、二人とも……」

「「あっ……」」


そして……。


「「またね……」」


ティアとフェイトさんは、光と共に消えていった。


「……行っちゃったね」

「ああ……でも、また会えるさ。そんな気がする」

「そうだね……」


そうさ―――。
俺たちが心で願えば二人は俺たちの傍にいる。


「あっ……」


なのはがふと空を見上げると……。


「雪だ……」


空から雪が降ってきて……。



「ホワイトクリスマスだね。きっと……二人からの贈り物かな」

「だな。フェイトさんとティアからの……な……」


地球では、クリスマスに雪が降るとホワイトクリスマスと言う。
そして、そこで一緒に過ごせた男女は、永遠に幸せになれるということを、なのはから聞いたことがあった。



「フィル……」

「んっ?」


なのはは、そっと俺の方に身体を預けて……。


「ずっと……ずっと一緒だからね」

「ああ……なのはが嫌だと言っても離れないからな」

「そんなこと言わないよ。だって、フィルのことを世界で誰よりも愛してるんだもん♪」



純真無垢ななのは――。


そんななのはに、俺は何度も救われた――。


そして、最愛の愛娘ヴィヴィオも―――。


これからも俺たち3人には色んな困難が待っていると思う。


だけど、一人じゃない―――。


3人でなら、きっと幸せになれるから―――。




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